【国語辞典サーフィン】赤くてめちゃめちゃムキムキマッチョで、地獄によくいるヤツ

24/02/10まで

国語辞典サーフィン

放送日:2024/02/03

#学び#勉強#お笑い

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突然ですが、もしも車に乗るなら、あなたはどんな車を選びますか? 街乗りが中心ならコンパクトカー。アウトドアやレジャーを楽しむならワゴンやSUV。子育て世代はファミリーカー。ライフスタイルや用途によって選ぶ車は変わってきますよね。
では、国語辞典はどうでしょう? 同じ辞書をずっと使っていませんか? 国語辞典なんてどれも同じ! と思ってはいないでしょうか? 実は国語辞典には、それぞれ編者のこだわり、編集方針があって、一つ一つ違うんです。また、言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。
さあ、国語辞典を開いて、広くて深い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう!

【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
柘植:柘植恵水アナウンサー


タツオ:
ごきげんよう、サンキュータツオです。

柘植:
アナウンサーの柘植恵水です。

タツオ:
きょうも国語辞典を開いて言葉の波を楽しみましょう。15分間マニアックな国語辞典トークにおつきあいください。
恒例の街頭インタビューからスタートです。街行く人たちにこんな質問を投げかけてみました。
もしもあなたが国語辞典ならこの言葉、何と説明しますか?
みなさんが何について説明しているのか、想像しながらお聴きください。

  • ツノが生えていて金棒を持った怖い妖怪みたいなヤツ。
  • 人がつくった空想上の怖い存在。
  • ツノが生えている、悪さをしたら現れるヤツ。
  • ツノがあって、節分のときに出てくるヤツ。
  • 赤くてめちゃめちゃムキムキマッチョで、地獄によくいるヤツ。
  • 人間じゃない、怖い、桃太郎の天敵。

タツオ:
街行く人たちが説明していた言葉はでした。

柘植:
2月3日が節分ということで、鬼ですね。

タツオ:
我々、もう自分の年齢の数の豆を食べきれないですね(笑)。

柘植:
お腹いっぱいになっちゃいますね。ところでタツオさんは節分をやりますか?

タツオ:
「鬼は外、福は内」はやりますよ。やらないですか?

柘植:
だんだんやらなくなってきましたね。

タツオ:
うちは豆まきすると、猫が逃げ回るんですよ。

柘植:
それで忘れたころに、こたつの中から豆がコロッと出てくるんですよね(笑)。

タツオ:
では、国語辞典では「鬼」をどう説明しているのでしょうか。鬼の説明にはけっこう文字数をさいていますよ。
集英社国語辞典 第三版は、5つの意味を載せています。
①想像上の生き物。人間に似た形をしていて、角や牙が生え、怪力・非情。顔も性格も恐ろしい怪物。また、祟(たた)り神の一つ。「桃太郎の鬼退治」。②無慈悲なこと。また、その人。「心を鬼にする」「あんたは鬼だ」。③物事に打ち込んでいる人。「仕事の鬼」。わりといい意味ですよね。④(子供の遊びで)鬼ごっこの、人をつかまえる役。「鬼になる」。⑤⦅造語⦆㋐(鬼のように)恐ろしい。厳しい。「鬼ばばあ」「鬼軍曹」。㋑鬼のような顔をしているさま。「鬼瓦」。㋒大型の。「鬼アザミ」「鬼ヤンマ」。また、動植物の名によく使われる。と書いてあります。

柘植:
身近なところに鬼はたくさんあるということですね。ほめ言葉にもなり、悪口(マイナスのイメージ)にもなるんですね。

タツオ:
柘植さんは「鬼」を使いますか?

柘植:
あまり使いませんが、“鬼ばばあ”って言われているかしら?

タツオ:
強調するときに「これ鬼うまいんだけど」とか「あの人、ビリヤードが鬼うまい」とか言いませんか?

柘植:
若い人は使うかな?

タツオ:
そこで、新語や新しい用法に敏感な三省堂国語辞典 第八版を見てみましょう。
大きい意味のには、①たたりをする、または、生きている人を守る。死んだ人のたましい。「護国の鬼となる」。つまり、鬼は守ってくれる存在なんです。②想像上の怪物。おそろしい顔をして頭につのを持ち、ちからが強い。「鬼退治」という用例が載っています。③残酷で人間の心がないことのたとえ。「鬼の所業だ」。④勇猛な人、無慈悲な人などのたとえ。「鬼の中村と言われる」と書いてありますが、中村さんは誰なんでしょう? ⑤執念に取りつかれて、夢中になっている人のたとえ。「仕事の鬼・復讐の鬼」。先の集英社国語辞典では、物事に打ち込んでいる人で「仕事の鬼」と説明していたのが、執念に取りつかれて、という、ちょっと病的なくらい頑張っている人、夢中になっている人のことを鬼と呼ぶと書いてありますね。また、⑥〔かくれんぼなどで〕人をつかまえる役。⑦程度が大きいようす。猛烈。「鬼のように勉強した・鬼のように古い」という用例がありますね。

柘植:
若い人の言葉と思っていたら、もう辞書に載っているんですね。

タツオ:
大きいの意味を紹介しましたが、大きいの意味では、①強くてたけだけしい。無慈悲な。「鬼検事」②大型の。「鬼あざみ」。③ひどい。むごい。「鬼ばば・鬼嫁」。なんで女性ばかりに使われるんでしょうか(笑)。④程度が強い。「鬼かわ」。
大きいの意味には、非常に。すごく。「鬼かっこいい・アラームが鬼鳴ってる」というように形容詞や動詞にまでかかると載っています。

柘植:
アラームが鬼鳴ってるってすごいですね。

タツオ:
“動詞も強調する”ということを載せているのはさすがですね。

柘植:
鬼幅広い辞書ですね~。

タツオ:
三省堂は言葉の鬼です。鬼の慣用句もいっぱいあるんですが、柘植さん、なにかありますか?

柘植:
心を鬼にして。鬼の目にも涙。鬼の居ぬ間に洗濯。

タツオ:
鬼が出るか蛇が出るか。鬼が笑う。鬼に金棒。

柘植:
いっぱいありますね。

タツオ:
鬼は歴史が古い分、慣用句もいっぱいあるし、意味も広がっているんです。現在は、わりと程度が大きいとか、非常に、すごく、という意味で鬼が使われているところまでフォローされているんです。「竜」のときにも話しましたが、「鬼」は誰も実態を見たことない名詞なんです。

柘植:
たしかに。

タツオ:
空想上の生き物だからこそ、いろいろな時代にいろいろな鬼がいて、いろいろな意味を付されてきているんです。なので、最初はすごく怖い・非情なという意味から、厳しいという意味があったり、巨大なイメージから大きいという意味だけで「鬼」が使われたりしたんです。
日本語は少ない語彙で豊富な意味を作り出すことができるクリエイティブな言語なんです。なので「鬼」という漢字一文字を名詞だけでなく、副詞的に使ってどんな言葉にも付くことができる、とても便利なユーティリティープレーヤーに成長したんです。なので「鬼かっこいい」とかの表現を聞いて眉間にしわを寄せる人もいるかもしれませんが、鬼は昔からずっと成長し続けている言葉なんです。
街行く人たちに聞いても「空想上の生き物」とか「ツノが出ている」とか、プロトタイプの鬼を最初に言うわけです。でも、日常的に使っている「鬼」って「仕事の鬼」とか「鬼のように勉強した」とか、使っている範囲が全然違うんです。それが、歴史があって、辞書の項目がたくさんある言葉の特徴で、それだけ人々になじみがある言葉だということなんです。「鬼は外、福は内」もありますが、きょうは「鬼は辞書、福は内」ということなんじゃないかなと思いますよ。辞書を開いてみると「鬼」って大きい項目だと見た目に分かりますよ。それほど日本人になじみがあるという一例でした。

おたより紹介

相談したいことがありメールしました。僕はどちらかというとあまり前に出るタイプではなく、寡黙な人間です。そんな僕には、とても明るくて元気すぎる彼女がいるのですが、「あんたは静かそうにしているけど、顔がうるさい」って言われます。顔ってうるさくないですよね? 何か言い返してやりたいと思うのですが、いい言葉が思いつきません。お知恵を貸してください。(山梨県・元陸上部さん)

タツオ:
三省堂国語辞典くんによれば「うるさい」の②の意味で、じゃまだと感じる状態だ。「けばけばしくてうるさい色・うるさい〔=しつこい〕さそい」と用例が書いてあります。顔だけじゃなく、動きもうるさい人もいますからね。つまり、情報が多いということなんです。求めている情報よりも多いから、元陸上部さんは表情が豊かなんじゃないですか? 前に出るタイプじゃないけど、びっくりしたら目を丸くしたり、うれしかったらニタ~ってしたり、不満があったらプクッってしているんじゃないですか? 言葉以外にも、いろいろな感情を伝える引き出しを顔に持ってるんですよ。だから、彼女には「情報が多い!」と言ってもらってください。

柘植:
お悩みのメッセージ、ありがとうございました。

タツオ:
あくまでもお遊び企画ですからね(笑)。


タツオ:
本日は「鬼」でお送りしました。いかがでしたでしょうか。

柘植:
すごく勉強になりました。

タツオ:
昔からある言葉って意味の広がり方がものすごくあって、成長してるんですよね。特に鬼は、誰も見たことがないがゆえに、その属性がいろいろ切り分けられて、この部分だけを使おう! と発展してきた言葉なんだという話でした。
それではまた国語辞典を開いて言葉の波を一緒に楽しんでいきましょう。

柘植:
お相手は柘植恵水と。

タツオ:
サンキュータツオでした。ごきげんよう。

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ラジオ第1
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2024/02/03 「国語辞典サーフィン」

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