突然ですが、もしも車に乗るなら、あなたはどんな車を選びますか? 街乗りが中心なら、コンパクトカー。アウトドアやレジャーを楽しむならワゴンやS U V。子育て世代はファミリーカー。ライフスタイルや用途によって選ぶ車は変わってきますよね。
では、国語辞典はどうでしょう? 同じ辞書をずっと使っていませんか? 国語辞典なんてどれも同じ! と思ってはいないでしょうか?
実は国語辞典には、それぞれ編者のこだわり、編集方針があって、一つ一つ違うんです。また、言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。さあ、国語辞典を開いて、広くて深―い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう!
【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
柘植:柘植恵水アナウンサー
タツオ:
ごきげんよう、サンキュータツオです。
柘植:
アナウンサーの柘植恵水です。
タツオ:
本日も国語辞典を開いて言葉の波を楽しみましょう。15分間マニアックな国語辞典トークにおつきあいください。
恒例の街頭インタビューからスタートです。街行く人たちにこんな質問を投げかけてみました。もしもあなたが国語辞典ならこの言葉、何と説明しますか?
みなさんが何について説明しているのか、想像しながらお聴きください。
- ぜいたくが嫌いな人。
- 必要以上に人を不快にさせるほど節約する人。
- 相手の事を考えずに自分の意思でお金を値切ること。
- 金を使うべき場面でも使わない人。
- 細かいことに貧乏性。
- まわりに対してやさしくする余裕がない人。
タツオ:
柘植さん、なんだと思います?
柘植:
お金に細かい人みたいな感じなんですね。
タツオ:
正解は「けち」でございました。柘植さんは自分のことを言われたような気がしますか?
柘植:
愛知県人はわりとけちな人たちと言われますが、堅実と言ってください(笑)。
タツオ:
街頭インタビューではお金の話が多めでしたが、ほかにどんな言葉があるのか国語辞典を見てみましょう。
新選国語辞典 第十版、①やたらにおしむこと。また、そういう人。しみったれ。②つまらないこと。貧弱。そまつ。「けちな服装」。③自分をけんそんするのにいう語。「野村というけちな人間です」。
柘植:
全国の野村さん、ごめんなさい(笑)。
タツオ:
僕の指導教授だった野村雅昭先生が書いているから「野村」って入れたんだと思います。自分で謙遜したんでしょうね。でも「けち」な人間には違いないかな?(笑)
柘植:
野村先生に失礼ですよ(笑)。
タツオ:
④の意味では、卑劣。心がせまいこと。「けちなふるまいをするな」「けちな根性」と書いてあります。そして、⑤の意味で、不吉。縁起がわるいこと。けちが付くという用例が書いてあります。
柘植:
お金のことだけじゃないんですね。
タツオ:
結果としてお金を惜しむことになっていますが、ネガティブな意味が多いですね。
集英社国語辞典 第三版は、三つの意味を載せています。🈩自分の物や金銭を惜しむこと。またその人。吝嗇(りんしょく)。🈔①心が狭くゆとりのないさま。「けちな了見」。②みすぼらしいさま。価値のないようす。貧弱。ちゃち。「けちな花しかない」。🈪縁起の悪さ。不吉。②難癖。と説明されています。
「けち」って結構いろいろな意味があるでしょ?
柘植:
そうですね。意外と使っているかもしれませんね。
タツオ:
岩波国語辞典 第八版の最初にも、しみったれ。㋐必要以上に物を惜しがること。そのような人。と書いてあります。
落語の世界での「けち」は、指を一回握ったら開きたくない人。買うべきときに買わないというよりは、自分の体からお金など、何かを出すことが嫌いな人と表現されています。必要以上に物を惜しがるっていうことなんです。
柘植:
なるほど~。
タツオ:
岩波国語辞典には、㋒心が狭いこと。「けちな根性」とも書いてあります。
三省堂国語辞典 第八版には、①出すべきものやお金を、おしむ<ようす/人>。②くだらない。つまらない。「けちな野郎〔自分でけんそんしても言う〕」と書いてあります。
ちなみに「けち」と同じ意味で「けちけち」という言葉がありますよね。
柘植:
「けちけちするなよ!」って言いますね。
タツオ:
「柘植さんってけちですよね」と言われるのと「柘植さんってけちけちしてますよね」は、どうですか?
柘植:
どちらもイヤですね(笑)。
タツオ:
新明解国語 第八版には、何事にもけちな様子。なので、オールウェイズけち! すべてにおいてけちということです。
柘植:
傷つきますね(笑)。
タツオ:
用例が「けちけちせずに払うものは払え」って、払わせる側の言葉ですね。
明鏡国語辞典 第三版の「けちけち」は、わずかな金品も出し惜しむさま。「けちけちしないで払うものは払え」。やはり取り立てる側の用例が載っています。
柘植:
「けちけち」は「けち」よりも、よりオールウェイズなんですね。
タツオ:
「けちけち」のように同じ単語を重ねて一語になっているものを畳語(じょうご)と言い、意味を強めたり、「人々」「山々」のように複数にしたりします。また、「延々」のように状態が継続されている意味にもなります。なので「けち」より「けちけち」のほうが強調して細かい感じがしますよね。
柘植:
“いつもあの人けち!”
タツオ:
けちな状態がずっと続いているオールウェイズけちけち!
柘植:
そんなうれしそうに私のこと見ないでください。そこまでじゃないですよ(笑)。