【国語辞典サーフィン】1年間でいちばん忙しい季節

23/12/23まで

国語辞典サーフィン

放送日:2023/12/16

#学び#勉強#お笑い

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突然ですが、あなたはふだんどんなカバンを使っていますか? 買い物に行くならエコバッグ? 自転車に乗る日はリュックサック? 国内旅行はボストンバッグ? 海外だったらスーツケース? ライフスタイルや用途によって選ぶバッグは変わってきますよね。
では、国語辞典はどうでしょう? 同じ辞書をずっと使っていませんか?  国語辞典なんてどれも同じ! と思ってはいないでしょうか?
実は国語辞典には、それぞれ編者のこだわり、編集方針があって、一つ一つ違うんです。また、言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。
さあ、国語辞典を開いて、広くて深~い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう!

【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
柘植:柘植恵水アナウンサー


タツオ:
ごきげんよう、日本語学者で芸人のサンキュータツオです。

柘植:
アナウンサーの柘植恵水です。

タツオ:
本日も国語辞典を開いて言葉の波を楽しみましょう。15分間、マニアックな国語辞典トークにおつきあいください。
恒例の街頭インタビューからスタートです。街行く人たちにこんな質問を投げかけてみました。もしもあなたが国語辞典ならこの言葉、何と説明しますか? 想像しながらお聴きください。

  • その年の最後。クリスマス過ぎたあたりから31日まで。
  • 12月の30、31日あたり。
  • 年の瀬。12月の最終週。
  • 1年の末の頃。12月15日以降。
  • その年のおしまい。12月1日から31日まで。
  • 1年間でいちばん忙しい季節。

タツオ:
何だと思います?

柘植:
「師走」か「年末」ですか?

タツオ:
街行く人たちが説明してくれた言葉は「年末」でした。「年末」は人によって感じ方が違うようで、時期がバラバラでした。柘植さんはいつからが「年末」だと思いますか?

柘植:
12月20日過ぎくらい、大そうじとかおせちを意識し始める頃かしら?

タツオ:
僕の場合、連載原稿の締め切りが12月1日までなんですよ。そうなると11月から忙しいんですよ。一般の人って12月の最終週は休むでしょ。そこに合わせて12月の3週目ぐらいまでに、仕事しなきゃいけないわけですよね。そういった意味で12月は、翌年の準備もしなきゃいけないので、“11月までが今年!”という考え方でいかないと動けないんです。

柘植:
タツオさんの場合、11月までが今年なんですね。

タツオ:
では、国語辞典さんたちは「年末」をどう説明しているのでしょうか。

集英社国語辞典 第三版では、一年の終わりの時期。歳末。年の暮れ。以上なんです。

明鏡国語辞典 第三版では、一年の終わりの時期。年の暮れ。歳末。「年末大売り出し」という用例がありますが、集英社も明鏡も時期が書いていないんです。

柘植:
何日からとは書いてないですね。

タツオ:
三省堂国語辞典 第八版は、一年の終わり〔=十二月〕。「年末まで〔=十二月三十一日まで〕と書いてあります。

新明解国語辞典 第八版では、一年の終りの時期。〔普通、十二月を指す〕。つまり12月1日から31日までが年末ということなんですね。

岩波国語辞典 第八版では、その年が終わりとなる時期。と説明していますが、注釈がポイントで、「年末までに」の形は、十二月三十一日とかその年最後の営業日とかまでを意味することがある。
年末って12月31日までが当たり前だと思うかもしれませんが、会社で働いてる人にとっての年末って最後の営業日を指すこともあるんですよ。人によって年末の感覚が全然違うので、12月が実際ないことになるわけですよ。

柘植:
ないことになっちゃうの(笑)。

タツオ:
あと、年末感が出るイベントや1年を振り返るニュース、新語・流行語などが発表されるのって大体12月1週目なんですよ。だから「M-1グランプリ」で優勝する芸人は流行語大賞に入らないんですよ。実質“11月中までを1年”としちゃってるから、12月がないことになるんです。だから短く感じるようにされちゃっているんです。
矛盾をいろいろ感じますけれども、やっぱり国語辞典たちも混乱しているということなんですね。
ただ、「年末」ってどういう言葉とくっつくかと考えると「年末年始」って言うじゃないですか。「年末年始」の「年末」って、12月ひと月じゃないよね。もっと短くなりますよね。そして、「年始」も1月全部じゃないでしょ?

柘植:
たしかに印象が変わってきますね。

タツオ:
街頭インタビューでは「年の瀬」って答えた人もいましたが、「年の瀬」を調べてみると、

岩波国語辞典の第八版では、あわただしい年の暮れ。▷年越しをするのを川の瀬に見立てて言う。と書いてありました。この「川の瀬」とは、流れが早くて浅い川の表面部分で、時の流れの速さ、慌ただしさを表しているんです。

新明解国語辞典第八版の「年の瀬」は、〔それをうまく越せるかどうかが問題である〕清算期としての年末。と書いてあります。
昔は、掛け売り(ツケ払い)が定着してたので、盆暮れに半年分まとめて払っていたんです。年末にお金がないと、借金の払いができないので、年を越せないというひっ迫した事情があったわけなんです。落語にも『掛取万歳(かけとりまんざい)』という演目がありますし、俳句でも「掛乞(かけごい)」というのは12月(冬)の季語なんです。新明解の用例には、「年の瀬も押しつまる(迫る)」と書いてあるので、12月初旬よりもっと後半で使ったほうがいいのがこの「年の瀬」ということらしいんですよ。

柘植:
「押し迫る」は聞きますが、「押しつまる」って何か大変そうですね。

タツオ:
年の瀬も押しつまるって、「あ~っ、流される! 流される!」って息苦しそうですね。

柘植:
年を越せるかどうか、昔ながらの切実さもあるんですね。

タツオ:
年末、あまり押しつまりたくはないですが、無事乗り切って、いい正月をみんなでいっしょに迎えましょう!

おたより紹介

先日、ニュースで「おわび」と「謝罪」という言葉が出てきて、何が違うのかと気になり、3冊の国語辞典を引き、さらに、漢字辞典、類語辞典も引いてみましたが、違いがわかりませんでした。「謝罪の和語」と「わび」の説明に書いてあったものもあり、言葉の生まれの違いかな? と理解したのですが、どうなのでしょうか?(岩手県・てきせん さん)

柘植:
この「おわび」と「謝罪」について、他にもいただきました。

いま、日本では「謝罪」と「おわび」が違うようです。私には違いがわからず、国語辞典を調べましたがまだわかりません、本当に違いがあるなら知りたいです。(東京都・リンゴのタルトさん)

柘植:
謝罪の方が「罪」の漢字が入っているので重い感じがしますね。

タツオ:
この番組で常に言っているように、どういう言葉と接続するかということに注目しましょう。例えば、「おわびの言葉もない」とか「おわびを入れる」って言うじゃないですか? 最近ギリ言いますが「謝罪の言葉もない」や「謝罪を入れる」って重いですよね。あと、工事現場の注意書きに「おわび・騒がしくして申し訳ございません」ってヘルメットかぶってるおじさんがニコッとしてるけど、あの(イラストの)顔ってぜったい謝っていないよね(笑)。

柘植:
ごめんなさい、ぺこっ。って感じですよね(笑)。

タツオ:
事前に言えるのも「おわび」のいいところなんです。

柘植:
あらかじめ(おわびを)入れておくんですね。

タツオ:
でも「謝罪」は、しっかりとスーツを着て謝るみたいな感じだから、「罪」がある場合は、相手があってこその謝罪なんですよ。もちろん和語と漢語の違いというのは、使える場面が限られてくるので、結構大きい違いなんです。例えば同じ意味でも、和語だと「はばかり」、漢語だと「便所」、カタカナで「トイレ」、「化粧室」とも言いますよね。同じものを指しているけど、言い方を変えるだけで、使える文脈(ニュアンス)がまったく変わってくるんですよ。なので、同じ言葉でも、どの言葉と接続するのか、どういう動詞とくっつくかで、使われる範囲が違ってくるんです。今回の「おわび」であれば、“事前に言うことができる”ということが大きいのかなと思いますね。僕が決めたわけじゃないけど、実際に使われている例を見るとそういう感じですね。

柘植:
この1年の「おわび」や「謝罪」をいっぱいして、すっきりした年を迎えたいですね。

タツオ:
年内に全部済ませておいたほうがいいと思います。

柘植:
番組では国語辞典にまつわるエピソード、タツオさんへの質問、また、お遊び企画のお悩み相談もお待ちしております。NHKラジオ第1の国語辞典サーフィンのホームページから送ってください。また #国語辞典サーフィン をつけてSNSに感想なども投稿してください。


タツオ:
きょうは「年末」「年の瀬」とサーフィンしてきましたが、いかがでしたでしょうか?

柘植:
本当に早いですね。

タツオ:
12月の1か月が、丸々なかったことになるのを何とかしてもらいたいですね。3月とかも、ないことになっているときあるじゃないですか?

柘植:
年度末ですもんね。

タツオ:
1月から3月ってなきものにされてない?(笑)。この3か月も大きいですけど、年々、1年が早く感じられるというのは、1月スタートと4月スタートの気持ちがあるから、4月に“よーいドン!”みたいな感じがもう1回くるじゃない? じゃあ、この3か月って何だったの? だから4月から11月ぐらいまでの間隔しか1年の実感がないんですよ。

柘植:
そうですね~。

タツオ:
それではまた国語辞典を開いて言葉の波をいっしょに楽しんでいきましょう。

柘植:
お相手は、年の瀬が怖い二人、アナウンサーの柘植恵水と、

タツオ:
サンキュータツオでした。ごきげんよう。

国語辞典サーフィン

ラジオ第1
毎週土曜 午後0時45分

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【放送】
2023/12/16 「国語辞典サーフィン」

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