突然ですが、あなたはふだんどんなカバンを使っていますか? 買い物に行くならエコバッグ? 自転車に乗る日はリュックサック? 国内旅行はボストンバッグ? 海外だったらスーツケース? ライフスタイルや用途によって選ぶバッグは変わってきますよね。
では、国語辞典はどうでしょう? 同じ辞書をずっと使っていませんか? 国語辞典なんてどれも同じ! と思ってはいないでしょうか? 実は国語辞典には、それぞれ編者のこだわり、編集方針があって、一つ一つ違うんです。また、言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。
さあ、国語辞典を開いて、広くて深~い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう!
【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
柘植:柘植恵水アナウンサー
タツオ:
ごきげんよう、国語辞典大好き芸人のサンキュータツオです。
柘植:
アナウンサーの柘植恵水です。
タツオ:
本日も国語辞典を開いて言葉の波を楽しみましょう。15分間、マニアックな国語辞典トークにおつきあいください。今回はメールから紹介しましょう。
最近聴き始めたばかりですが、国語辞典「沼」にハマっています。国語辞典様方に聞きたいことがあります。それはカフェと喫茶店の違いです。ふと気になったのですが、この違いをどのように説明しているか聞きたいです。(神奈川県・フクちゃん)
タツオ:
というわけで、きょうのテーマは「カフェと喫茶店の違い」です。柘植さんだったらどう説明しますか?
柘植:
喫茶店はゆったりする憩いの場で、カフェはもう少し簡易的な感じかな?
タツオ:
喫茶店だとマスターとか奥さんが、常連客としゃべっているイメージがありますね。
柘植:
ちょっと昭和ですね。
タツオ:
僕が落語ファンによく説明するのは、誰も分からないと思うんですけど、(柳家)小里ん師匠がいるのが喫茶店で、(柳家)小満ん師匠がいるのがカフェって言ってるんですけど(笑)。
柘植:
わからな~い。でも落語が好きな人にはわかるんですね(笑)。
タツオ:
では、このカフェと喫茶店の違いを街の人たちはどう説明するのか、お聴きください。
- カフェはモダン的な感じ。喫茶店はちょっとレトロな感じ。
- 喫茶店は昭和。カフェは今。
- カフェはいろいろな年齢の人がいる。喫茶店は大人っぽい人がいそう。
- カフェは硬い感じ。喫茶店はアンティークな雰囲気。
- カフェはコーヒー以外もおいてある比較的新しいところ。喫茶店はコーヒーを中心に展開しているお店。
- カフェはチェーン店のイメージ。喫茶店は個人店。
タツオ:
街の人たちの方が国語辞典より詳しいかもしれない。結構ハッとさせられるのがありましたよ。
国語辞典さんたちはどう説明していらっしゃるのか。ちょっと聞いてみたいと思います。
岩波国語辞典 第八版のカフェは、①コーヒー。②コーヒーなどを飲ませる店。喫茶店は「喫茶」の項目の中にあって、コーヒー・紅茶・菓子(あるいは軽食)を客に供する飲食店。たしかに喫茶店にはランチサービスとかもありますもんね。
柘植:
ナポリタンとかいいですよね。
タツオ:
この岩波国語辞典にはカフェーという項目もあって、洋酒などを供し女給が接待する飲食店。▷今のキャバレーの前身で、明治末に現れ1940年ごろまであった。以前はコーヒー店。「カッフェー」「キャッフェ」とも言った。と書いてあります。
柘植:
小さい「ッ」が入るんですね。
タツオ:
新明解国語辞典 第八版のカフェでは、①コーヒー等のお茶を飲ませる飲食店。喫茶店。「インターネットカフェ/オープンカフェ」という事例が載っています。
つまり、どのような言葉とつながるのかと考えたときに、一方にはついて一方にはつかないということは、言葉の意味の違いを判別するのにとても重要なことなんです。となると、インターネット喫茶店とあまり言わないところが、カフェのニュアンスにつながってくるのかもしれません。
三省堂国語辞典 第八版のカフェの②には、コーヒー店。喫茶店。〔今では多く、セルフサービス形式などの、気軽なふんいきの店を言う〕「カフェめし」〔カフェで出す軽食〕。
たしかに喫茶店は、座席に座ったら店員さんが注文を聞きに来て持ってきてくれますが、いまのチェーン店カフェは、ややセルフサービス形式ですよね。で、喫茶店の項目には、コーヒー・紅茶などの飲み物やケーキ、また、サンドイッチなどの軽食を出す店。喫茶。茶店(さてん)・きっちゃってん〔古風・俗〕と書いてあります。
柘植:
「サテン」って懐かしいですね。
タツオ:
岩波、新明解、三省堂とそれぞれ見てきましたが、だいぶ書かれていることに違いがあるのはおわかりですかね。喫茶店とカフェというのは、意味的にはほぼ同じとしながらも、実はカフェはセルフサービス形式が多く気軽な雰囲気で、インターネットカフェがあったり、オープンカフェになっていたりとか。喫茶店は、都会人の憩いの場みたいな、地方にもありますけど、やっぱり店員さんがテーブルまで持ってきてくれたりお話ししたりする、そういう雰囲気もありますよね。
今回、多くの辞書で、カフェの語釈より前に〔フcafé〕という表記が出てくるんですが、これはフランスから伝来してきたことを意味します。例えば、「コーヒー」だけを国語辞典で引くと〔オkoffie〕と書かれていて、これはオランダ由来なんです。〔ポ〕はポルトガルです。
柘植:
知らなかった~。こんなに親切なことが書いてあるんですね。
タツオ:
ポルトガルやオランダは、江戸時代に宣教師が入って来てるので、「天ぷら」とか「カボチャ」とか、日本語だと思って認識されている言葉ですが、結構日本の外来語としては歴史が古いということがわかるんですよ。ぜひ外来語、カタカナ、そういった言葉を引くときにチェックしてみてください。そして、こんなに盛り上がったテーマを提供してくれたフクちゃん、ありがとうございました。