突然ですが、あなたはふだんどんなカバンを使っていますか? 買い物に行くならエコバッグ? 自転車に乗る日はリュックサック? 国内旅行はボストンバッグ? 海外だったらスーツケース? ライフスタイルや用途によって選ぶバッグは変わってきますよね。
では、国語辞典はどうでしょう? 同じ辞書をずっと使っていませんか? 国語辞典なんてどれも同じ! と思ってはいないでしょうか? 実は国語辞典には、それぞれ編者のこだわり、編集方針があって、一つ一つ違うんです。また、言葉の意味以外にもたくさんの情報が詰め込まれていて、さまざまな楽しみ方があるのです。
さあ、国語辞典を開いて、広くて深~い言葉の海、言葉の波を乗りこなしましょう!
【出演者】
タツオ:サンキュータツオさん
柘植:柘植恵水アナウンサー
タツオ:
ごきげんよう。漫才師・米粒写経、そして、日本語学者のサンキュータツオです。
柘植:
アナウンサーの柘植恵水です。
タツオ:
きょうも国語辞典を開いて言葉の波を楽しみましょう。15分間おつきあいください。
恒例の街頭インタビューからスタートです。街行く人たちに、こんな質問を投げかけてみました。
もしもあなたが国語辞典ならこの言葉、何と説明しますか? 皆さんがどの言葉について説明しているのか想像しながらお聴きください。
- 好きなだけ、おなかいっぱいになるまで食べる。
- 無限に食べられるところ。
- メニュー内のものをいくらでも食べられる。
- 時間内でこのメニューの中から頼んで食べていいですよ。
- 定額の料金を支払い、一定の食事や飲み物のサービスが受けられること。
- 元が取れる。
タツオ:
元が取れるかどうかは、その人次第なんだけどね(笑)。正解は「食べ放題」です。
柘植さんは食べ放題に行きますか?
柘植:
年齢とともに行かなくなりました(笑)。
タツオ:
インタビューでは、「好きなだけ食べる」「無限に食べる」や、「定額」「時間内」「このメニューの中から」とか、限定付きで説明してくれた人もいましたね。「食べ放題」と言いつつ、90分と120分じゃ全然違うし、食べたい(飲みたい)ものがメニューに入っていないなど、けっこうルールがあることを我々は知っていますよね。
「食べ放題」は、国語辞典を開いてもなかなか見つけられません。こういうジャンルに国語辞典は弱いんですよ。
柘植:
一般的な言葉だけど載っていないんですか?
タツオ:
「食べ放題」には、「食べる」という言葉と「放題」が付いてますよね。基本的にこの2つの言葉がくっついた言葉は、両方知っていれば推測できるだろう、ということで辞典に載せないという“ルール”があるんです。「食べ放題」を調べたいときは、まず「放題」から当たります。
集英社国語辞典 第三版には、「食べ放題」でなく「食い放題」で出ています。柘植さんは、食い放題って言いますか?
柘植:
食い放題だと(語感的に)ちょっと品がない感じですね。
タツオ:
柘植さんは上品のかたまりですからね(笑)。
「食べ放題」は、「食べる」と「放題」で予測がつきますが、「食い放題」は1語で認定できるから入れている辞典も多いんです。
集英社国語辞典には、食べたいだけ食べること。また、そのように食べてもよいこと。食べ放題。と書いてあります。
新明解国語辞典 第八版にも「食べ放題」は載っていなくて、やはり「放題」で調べると、用例として「食い放題」が出てきます。
柘植:
「食い放題」は「食べ放題」に比べてわんぱくな感じがしますね。
タツオ:
ジェンダーでいえば男性がよく使う言葉ですよね。
柘植:
女性は「きょう、食い放題行く?」って使わないですね。
タツオ:
しかし、明鏡国語辞典 第三版には「食べ放題」で載っていました。好みの物を好きなだけ食べること。また、飲食店などで一定の料金で好きなだけ食べる仕組みのもの。食い放題。
それから大辞林のデジタル版にも「食べ放題」がありまして、飲食店の定額サービスの一。決められたメニューの中から、好きな料理を好きな量だけ食べられるようにするもの。時間制限を設ける場合もある。「食べ放題メニュー」「食べ放題プラン」。
柘植:
ないときは分けて「放題」で調べればつながることもあるのですね。
タツオ:
ただ、あの2つの意味を総合(合計)した意味だったら書く必要はないですけど、2つの意味を知っていても、「食べ放題」には、料金、時間、メニューなど、けっこう制限があるじゃないですか? それは、足し算では出てこない意味ですよね。なので「食べ放題」は、僕の感覚からすると、ぜったいに国語辞典に入れてなきゃダメな言葉だと思うんですよ。
柘植:
最近「食べ放題」に行ってないから、今度いっしょに行きましょう!