ひさとめあおとくん(中学3年生・埼玉県)からの質問に、「心と体」の篠原菊紀先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)
【出演者】
篠原先生:篠原菊紀先生(公立諏訪東京理科大学教授)
塚谷先生:塚谷裕一先生(東京大学大学院 理学系研究科教授)
国司先生:国司真先生(跡見学園女子大学兼任講師/板橋区立教育科学館プラネタリウム「わくわくキッズ宇宙星空教室」担当)
あおとくん:質問者
ひさとめあおとくん(中学3年生・埼玉県)からの質問に、「心と体」の篠原菊紀先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)
【出演者】
篠原先生:篠原菊紀先生(公立諏訪東京理科大学教授)
塚谷先生:塚谷裕一先生(東京大学大学院 理学系研究科教授)
国司先生:国司真先生(跡見学園女子大学兼任講師/板橋区立教育科学館プラネタリウム「わくわくキッズ宇宙星空教室」担当)
あおとくん:質問者
――「中学3年生、最後に聞いちゃおう」のコーナーです。「子ども科学電話相談」では、中学3年生までのお子さんの質問を受け付けています。この春卒業を迎える中学3年生に最後の質問をしてもらうとともに、番組の思い出をお聞きします。きょう電話でお話ししてくれるのは埼玉県のお友達です。こんにちは。
あおとくん:
こんにちは。ひさとめあおとです。
――よろしくお願いします。
あおとくん:
よろしくお願いします。
――あおとくん、受験も終わったという時期でしょうか。どんなふうに過ごしていますか?
あおとくん:
とにかく受験が終わって少し安心しています。最近は、特に数学は高校の内容を少し先取りしてやっているんですけど、とても難しくて圧倒されています。
――もう先取りしてる! すごいですね。スタジオで国司真先生が、「数学は大変」と言ってます(笑)。
あおとくん:
はい、大変です……。
――「子ども科学電話相談」はいつごろから聞いてくれているんですか?
あおとくん:
僕のおじいちゃんとおばあちゃんが福岡に住んでいるんですけど、結構一日中ラジオがついていて、特にNHKをずっと聞いてるんですけど、あるとき、おばあちゃんのほうから、この電話相談がおもしろいよというかたちですすめられて聞き始めました。
――おじいちゃんとおばあちゃんに、「いつもありがとうございます」と、どうぞよろしくお伝えください。そしてそれがきっかけで、質問も送ってみようかなと思ってくれたんですね。初めて送ってくれたときのこと、覚えていますか?
あおとくん:
おばあちゃんが昔から聞いていたのもあって、聞くのをすすめられたのと一緒に「送ってみれば?」という感じですすめられたので、それで送った最初の質問がいきなり採用されたので、とてもびっくりしました。
――そうでしたか。そのときだけじゃなくて、他にも質問とか送ってくれたんですか?
あおとくん:
はい。とにかく生活の中で何か不思議なことがあったらすぐに忘れないようにメモをして、機会があったらまとめて送ったりしていました。
――不思議に思うことがあったら、すぐにメモして?
あおとくん:
はい。
――じゃあ何か、質問力みたいなものがついたのかな?
あおとくん:
日常でも、不思議なこととかを見つけたらすぐに調べたりする力がついたかなと思います。
――あおとくんには、きょうも先生に質問していただきたいと思います。中学3年生、最後の質問は、「心と体」の質問ですね。お願いします。
あおとくん:
学年が上がるごとに難しい問題も理解できるようになるとは思うのですが、脳はどうやって成長するのですか?
――では篠原先生、お願いします。
篠原先生:
はい。ひさとめあおとくん、こんにちは。
あおとくん:
こんにちは。
篠原先生:
質問としては、「脳はどうやって成長するのか」という話と、「学年が上がるごとに難しい問題ができるようになっていくのはどうしてか」ということに、分けて答えていっていいかな?
あおとくん:
はい、大丈夫です。
篠原先生:
まず脳の成長からいきますね。あおとくんの脳もそうだったんだけど、お母さんのおなかの中、お母さんが妊娠して3~4週目ぐらいから脳はでき始めます。最初は神経管という管のようなものができて、これが脳と脊髄に分かれていきます。妊娠の5週目~20週目くらいで、脳が大脳・小脳・間脳・脳幹とかに分かれていきます。
そういう形の変化とは別に、妊娠の終わりぐらいから生後にかけて、脳というのは神経細胞が840億個ぐらいついているんだけど、神経細胞どうしのつながりが強化されて複雑になっていきます。それから出生後、生まれてすぐから数年ぐらいまでの間に、「髄鞘(ずいしょう)」という、ちょっとわかりにくい言葉だから聞き流してもらっていいけど、神経細胞から伸びて他の神経細胞につながっていくコードみたいな部分があるんだけどそこがミエリン(髄鞘)という膜に覆われていきます。ちょうど電気のコードみたいなもので、コード(のまわり)をまいておくと漏れが少なくなるので信号の伝達スピードが一気に上がるんです。そういうふうにして、脳は成長していくんです。
あおとくん:
はい。
篠原先生:
これを今度は重さという点から見ていくと、脳の重さは生まれたときは大体350グラム~400グラムぐらいで、大人になってくると1200グラム~1400グラムぐらいだから、1キロぐらいは重くなります。でもおもしろいことに、神経細胞の数は生まれてすぐくらいがピークなんです。
あおとくん:
へえ!
篠原先生:
大人になっても変わらないし、どちらかと言うとむしろちょっと減るぐらいの話になっていきます。神経細胞の数は変わらないのになぜ重くなるかというと、神経細胞が成長してコードをたくさん伸ばしていって、いろいろなつながりを作る。これがたくさんできていくことによって脳自体が重くなっていく。これがたくさんできると、新しい記憶ができたりいろいろなスキル・技術が身についたり、そういうことが起きてくるということですね。
あおとくん:
あぁ。
篠原先生:
ちょっと補足しておくと、脳の成長というのは、こうやってつながりをたくさん作ることかというとちょっと違う側面があって、ただ単につながりが増えていくだけではないのね。脳というのは、神経細胞というのは、最初に無駄なつながりをたくさん作るんです。よけいなつながりをいっぱい作って、それから……
あおとくん:
だんだん減らしていく?
篠原先生:
そうそう。必要なつながりを強化するというか、つながりをより強くして残していく。いらないつながりというのは、「刈り込み」というんだけどどんどん減らしていくということをします。効率的でエネルギーもあまり使わない省エネな、ちょっと比喩的な表現になっちゃうけど、洗練されたいいつながりが残っていく。ざっくり言うと、これが脳の成長。いいつながりを作っていくのが、脳の成長ということにはなるんです。わかりますかね。
あおとくん:
はい、わかりました。
篠原先生:
もう1つの、学年が上がるごとに難しい問題ができるようになるのはなぜかみたいな話は、答えはもう大体半分は言ってしまっていて、難しい問題ができるためには、その問題に関係する知識、例えば数学だとπ(パイ)とか√(ルート)とか、そういうことを知らないとできるわけがないですよね。
あおとくん:
そうですね。
篠原先生:
そういう記憶もつながりなんだけど、それが必要になります。それから問題の解き方、こんな順序でやっていけばこういうふうに解けるはずだという、スキル・技術の一種で「技の記憶」という言い方をしますけど必要です。これもつながりなんですね。こういう記憶というのは、先ほどから言っているように、脳の中でネットワーク、神経細胞どうしのつながりとしてできあがります。
勉強するとか生きるというのは、結局こういうふうに脳の中にいいつながりを作っていくことでもあるんです。ですから同じようなことを学習していくとそれに関連するいいつながりがたくさんできて、今度は新しいつながりができやすくなっていくんです。例えば、あおとくんが平安時代に詳しくなると、平安時代のことがよけいに覚えやすくなったりするんです。
あおとくん:
あぁ、そうですね。
篠原先生:
あまり覚えていなければなかなかつながらないけど、たくさん覚えるといっぱいつながるということがわりと簡単に起きるんです。
あおとくん:
興味を持つといいということですか?
篠原先生:
興味を持つというのもあるし、例えばあおとくんの脳の中にそのことに関係するつながりがいっぱいできていると、よけいなつながりをもう1個作ろうとするときに簡単に作れるんです。箱みたいなイメージで、その中にそれに関連する細胞の数が少ないと、なかなかつながらないみたいにイメージすると大体当たっているけど、そんなふうになってくるんです。生成AIもそうだけど、たくさん学習させるといきなりいろいろなことができるようになってくるというのは、脳の原理としても同じことが起きていると考えられています。
あおとくん:
あぁ……。
篠原先生:
今のは結局のところ、学習して知識が増えるといろいろなことが解けるようになります、それが、難しいことが解けるようになる理由です、という説明なんだけど、もう1つ、学校で勉強することとか生きているというだけで伸びる、考えたり判断するときの基礎となる力があるんです。「ワーキングメモリー」といわれているものがその力の代表で、記憶とか情報をちょっと頭にメモしておいてあれこれ判断したり考えたりする、これが伸びていくんです。
ワーキングメモリーといってもわかりにくいと思うので、ちょっとここで、あおとくんに問題にチャレンジしてもらいたいんだけど、「6、3、9」って、覚えてくれる? もう1度言うよ、「6、3、9」。
あおとくん:
はい。
篠原先生:
逆から言ってみて。
あおとくん:
9、3、6。
篠原先生:
すばらしい、正解だね。あおとくんだったら4桁とか5桁とか6桁でもいけると思うけど、今、あおとくんは「6、3、9」を覚えて、つまりメモリーして、逆から読みにいくという作業、ワーキングしたわけです。これがワーキングメモリーといわれるやつです。記憶して作業するこういう力が弱いと、難しい問題なんて解けないというのは直感的にわかるよね。
あおとくん:
あぁ、はい。
篠原先生:
そうなんです。実はこういう力が、それこそ生きていたり学習するだけで伸びるということがわかっています。2022年だから2年ぐらい前に、9歳~11歳の6567人のワーキングメモリーの力を調べた結果が報告されていて、この力は年をとることでもどうやら伸びているし、教育を受けることでも伸びる。学年が上がるごとに年もとるし教育期間も長くなるから、ワーキングメモリーの力は伸びていくということが起きていたらしいです。この働きには遺伝の影響とか親の社会経済的地位の影響もあるんだけど、人間みたいに学習するとどうやらそれを超えていくことがわかっているので、やっぱりなんだかんだ言って「学習は大事!」という話だと思ってもらえればいいかなと思います。
あおとくん:
はい、頑張っていきたいと思います。
――最終的には学習が大事、と。今までのようにいろいろ興味を持って学んでいくのがいいということですね。
――あおとくんは、「子ども科学電話相談」にこれまで3回も出てくださいましたけれども、他の皆さんの質問を聞いて感じることはありますか?
あおとくん:
聞いていて、そんな着眼点もあったのかとか、結構低学年の子でもすごく鋭い質問をしていたりしていつも驚かされているのと、分野によっては、例えば恐竜とかだったりするとすごく専門的な知識を持った子もたくさんいて、驚いています。
――この番組をずっと聞いてくれた先輩として、今聞いてくれているお友達にメッセージをいただけますか?
あおとくん:
僕も初めて(質問を)送ったときは、出られないんじゃないかみたいに思ったんですけど採用されたのもあって、これを聞いている人たちも送ってみたら意外と採用されたりとかあるかもしれないので、みんな積極的に質問を送るといいと思います。
――ありがとうございます。では最後に先生方から、あおとくんを含めて中学3年生でまもなく卒業する皆さんに向けて、メッセージをいただきたいと思います。篠原先生、お願いいたします。
篠原先生:
学習は大事ですけどとりあえず幸せが一番大事なので(笑)、幸せに生きてください。
あおとくん:
はい、ありがとうございます。
――塚谷先生、お願いします。
塚谷先生:
これからさらに世界が広がっていくので興味も広がっていくと思います。頑張って、ぜひ生物学者になってもらえたらいいなと(笑)、思います。
あおとくん:
はい。
――あおとくん、いろいろ育てたりしていましたものね。国司先生からもお願いします。
国司先生:
高校入っても学校生活を楽しんで、たくさん友達作ってください。それから数学、頑張ってね。結構大変だけど、学ぶことは楽しいと思って、ね。数学は音楽だから、ハーモニーだから、頑張ってください。
あおとくん:
はい、ありがとうございます。
――あおとくん、きょうはありがとうございました。
あおとくん:
ありがとうございました。
――そして卒業おめでとうございます。高校に行っても頑張って、放送も聞いてくださいね。
あおとくん:
はい。これからも聞いていきたいと思います。
――ありがとうございました。さようなら。
あおとくん:
ありがとうございました。さよなら~。
篠原先生:
さよなら~。
塚谷先生:
さよなら~。
国司先生:
さよなら~。
【放送】
2024/03/03 「子ども科学電話相談」
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