たじまりおさん(小学6年生・富山県)からの質問に、「植物」の多田多恵子先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)
【出演者】
多田先生:多田多恵子先生(植物生態学者/立教大学・国際基督教大学 兼任講師)
りおさん:質問者
――お名前を教えてください。
りおさん:
りおです。
――どんな質問ですか?
りおさん:
植物は大きければ大きいほどいいんですか?
――りおさんがそう思った、きっかけはあるのですか?
りおさん:
小学校とかでアサガオや野菜を育てているときに、他のみんなのより私が育てているのが小さくて、同じように育てているのにどうして大きさが違うのかなと思ったのと、野菜を育てていて、大きく育った野菜や実のほうがおいしいのかなとか、花だと、大きいほうがきれいな花が咲いたり、たくさん咲いたりするのかなと思って、この質問を応募しました。
――なるほど。大きい・小さいで、いろいろな疑問が湧いてきたんですねぇ。これは多田先生、お願いします。
多田先生:
はい。りおさん、こんにちは。
りおさん:
こんにちは。
多田先生:
お友達のよりも小さかったから、ちょっと「悔しい」とか思った? 「悲しい。寂しいよ」とか、思っちゃった?
りおさん:
なんで小さいのかなって思った。
多田先生:
うん、そうだよね。昔、私も学校で芋掘りに行ったとき、隣の人のほうが「大きい! 悔しい……」とか思ったこと、あったけど(笑)。そうだよね、同じに育てているのに大きさが違っちゃうこと、あるよね。
りおさん:
はい。
多田先生:
それは植木鉢とかを、学校で同じところに並べて置いてたの? それとも、おうちに持って帰って育てたの?
りおさん:
学校で1列に並べて育てていました。
多田先生:
じゃあ、光の条件とかは変わらないのに、ということだね。
りおさん:
はい。
多田先生:
どうして大きさが違ってくるかということなんだけど、植物が成長するときに必要なものは何かなっていうと、何が必要かな?
りおさん:
肥料とか日光とか水。
多田先生:
そうだね。水と水の中に溶けている栄養と光が、十分だったのかなということだよね。十分というか、それに差があったのかなということだよね。みんなで同じように水をやっていても、もしかしたらそこでちょっと水やりの差があったという可能性がなきにしもあらずだけれど、りおさん、ちゃんとやってたんだよね。
りおさん:
はい。
多田先生:
もう1つ可能性としてあるのは、植物のタネ自体の性質が、本当にみんな同じだったのかなということもあるよね。
りおさん:
あぁ。
多田先生:
学校なんかで育てる野菜やアサガオ、お花だとかは、たぶんどこかのタネ屋さんから購入したのかなと思うし、タネ屋さんで売っている野菜のタネとかアサガオのタネというのは、ばらつきがないように、みんな同じ成長をするようにタネ屋さんで作っているから、あまり差がないかもしれないです。でも例えば去年育てたアサガオとか、どこかのおうちからもらいましたというアサガオだと、タネ自体の性質がそれぞれ違っている可能性があります。もしかすると、りおさんが育てたアサガオは、もともとあまり成長がよくない性質を持っているタネ、花も小さいとかね。そういうタネだったかもしれない。
りおさん:
あぁ。
多田先生:
その可能性はあります。育てるときに、もしかするとそういうのに当たったのかもしれないよね。
りおさん:
はい。
多田先生:
でもね、野菜なんかも「大きく育ったほうがおいしいの?」ということなんだけれども、今、お話しているアサガオや野菜というのは、人間が作って人間が楽しむためとか、人間が食べるために作っている植物だよね?
りおさん:
はい。
多田先生:
もともとそういう植物は、タネからより大きく育って野菜がいっぱい食べられるようにとか、きれいなお花が咲いて人間の目を楽しませてくれるようにとか、「品種改良」という、いろいろな人間が自然の中から大きい花を選び出したりよく育って成長が早いものを選び出したり、あるいは「交配」といって、違う種類どうしを掛け合わせたり、そういうことによって作っているタネなんです。確かに野菜だったら大きく育って栄養もいっぱいあったほうがいいから、そのほうが「いい」と言える。アサガオなんかも花を楽しむんだったら、なるべく色もきれいで花もいっぱい咲いたほうが、「いい」とは思うよ。
だけどさ、「植物は大きければ大きいほどいいですか?」と言ったときに、それが人間のためじゃなくて、もし植物がこれから先もずっと生きていくためだとしたら、どうだろう? 植物は、大きければ大きいほど、よりよく生きていけるんでしょうか。どうでしょう。どう思う?
りおさん:
大きければ……大きかったら、折れてしまったりするのかなぁ。
多田先生:
そうだよね、そうそう、そうなのよ。野生の植物は実はみんなが全部大きいわけではなくて、小さい植物もあるし大きい木もある。同じ種類の中でも、小さいものがあったり大きいものがあったりする。あるいは場所によって、例えば海岸なんかでびゅうびゅう風が吹くところだと、背がすごく低くなって風よけみたいに縮こまっていたり、草がみんな伸び伸びと育っている野原みたいな場所だったら、同じ種類のものでも大きくなったりするよね。だから野生の植物について言えば、大きいほうがいいことと大きいと困ることと、両方あるわけ。
りおさん:
はい。
多田先生:
例えばりおさんが言ったように、背が高くなると折れやすくなるという問題があるよね。折れやすくなっちゃうから、背を大きくするにはどうしたらいいかというと、体を支えるために茎を太くするとか、根っこをうんと張って倒れないようにするとか、そういうことが必要になるよね。
りおさん:
はい。
多田先生:
大きな体を維持していく、保っていくためには、たくさんの水が必要になるよね。もし1回、日照りなんかがあって水が少なくなると、大きい体だとたちまち水が足りなくなる可能性があるよね。
りおさん:
はい。
多田先生:
だから、大きければ大きいほどたくましく生きていけるかというと、そうでもないわけね。それから、すごく大きいとなると、育つまでに年数がかかっちゃう、時間がかかっちゃうよね。それがだからずっと生きていける平和な場所だったらいいけれど、例えば河原みたいに、いつ洪水が来て流されるかわからないような場所で大きくなっていたら、大きく育つために茎もどっしりして……とかいっているうちに洪水が来ちゃったら、おしまいじゃない?
りおさん:
はい。
多田先生:
そういうところなんかでは、早く育って早く花を咲かせて、とにかくタネを作るほうがお得だよね。お得というか、安全だよね。
りおさん:
はい。
多田先生:
だから大きいと困ること、小さいほうが有利になることもある。逆に、大きいと有利になること・いいことって、どんなことがあるだろう? どういうときだったら、大きいほうがいい?
りおさん:
大きいのは、えっと……。
多田先生:
背が大きいとか背が高くなることを考えてみようか。どういうことが、背が高いほうが有利だと思う? たくさん花を咲かせて、たくさんタネを作れそう?
りおさん:
はい。
多田先生:
そうだね。大きいほうがたくさん花を咲かせてタネを作れるんだけど、あと、他の植物、ライバルがいたときを考えてみて。野原とかで他の草がいっぱい生えていると、小さかったら日陰になっちゃうじゃない?
りおさん:
うん。
多田先生:
でも他の植物よりもうんと背を高くして、他の植物の上に葉っぱを広げたら、光を独り占めできるじゃない?
りおさん:
あぁ!
多田先生:
そういうときは、大きいことが有利になる、大きいほうがいい、ということになるわけ。どういう場所に生えているか、どういう場所で生きているか、特に植物は移動することができないじゃない? だからその種類の植物が生きている環境で、大きいほうが有利なことと大きいと不利になることとかいろいろあるから、その時々の環境によって、何が有利になるのかとか、大きいだけが有利ではなくなるわけです。
りおさん:
はい。
多田先生:
だからさっき、タネ屋さんで買ってきたアサガオのタネは揃っているけれど、集めてきたタネだとちょっと違うこともあると言ったんだけれども、野生の植物のときには特にタネのばらつきというか、大きくなるやつとか小さいままとか、その中にいろいろなものが混じっているわけ。たまたま落ちた場所が少しずつみんな違うから、そこで大きくなるとか、小さく育つけどすぐに花を咲かせるとか、いろいろな性質の違いがある。周りの環境はいろいろ変わるじゃない? 変わっていくじゃない?
りおさん:
はい。
多田先生:
河原なんかも変わっていったりするよね。変わっていく中でも、タネを残して次の世代に子孫を残していく、そういう植物の性質が、また次の世代に受け継がれていくわけ。だから今、「大きいほうがいいんですか?」ということだったんだけれども、条件によっては、必ずしも大きいことがいいこととは限らなくて、大きいほうがいいこと、小さいほうが有利なこと、大きい・小さいだけじゃなくて、それぞれいろいろなことに少しずつ差があって、植物の中の「多様性」というんだけれども、野生の植物には特に多様性が保たれていて、それが、植物が少しずつ環境によって変化していくということにつながっていくんだけど、どうかな?
りおさん:
すごいと思います。
――ねぇ、すごいよね。人から見た場合と植物側からの目線との違いも、先生に教えていただきましたね。どうでしょう、わかりましたか?
りおさん:
はい。詳しくわかることができました。
多田先生:
よかった……。
――よかったです。質問をしてくれて、ありがとうございました。
りおさん:
ありがとうございました。
――これからも植物を大事に育ててくださいね。さようなら。
りおさん:
さよなら~。
多田先生:
さよなら~。
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2024/01/14 「子ども科学電話相談」