さかもとはるくん(小学3年生・大阪府)からの質問に、「天文・宇宙」の本間希樹先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)
【出演者】
本間先生:本間希樹先生(国立天文台教授 水沢VLBI観測所 所長)
はるくん:質問者
――お名前を教えてください。
はるくん:
はるです。
――どんな質問ですか?
はるくん:
学校で、空気が音を伝えていると習いました。月には空気がありません。もし月でピアノを弾くと、どのように聞こえますか?
――はるくんはピアノを習っているんですか?
はるくん:
はい、習っています。
――月で弾いてみたいなと思ったりするの?
はるくん:
はい。
――あぁ、そうですか、いいですねぇ。では本間先生、お願いします。
本間先生:
はい。はるくん、おはようございます。
はるくん:
おはようございまーす。
本間先生:
月でピアノを弾いてみたいって、すばらしい夢ですね。はるくん、実際にやったらどうなると思う?
はるくん:
聞こえないと思います。
本間先生:
そうだよねぇ、はい。答えもばっちり、そのとおりです。月には空気がほとんどないので、音を伝えることができないんですね。音っていうのは空気の振動、それが耳に伝わって入ってきているので、残念ながら空気がないところでは音は聞こえないということになります。だから、はるくんが学校で習って予想したとおり、空気が音を伝えているので空気のないところでは聞こえないんじゃないかという、そのとおりだね。
はるくん:
はい。
本間先生:
せっかく質問をくれたから少しお話しをすると、ピアノの音は具体的にどう聞こえているかというと、ピアノの中って、見たことある?
はるくん:
うーん、そんなに見たことがありません。
本間先生:
うん。あのね、ピアノの中には「ピアノ線」という線が張ってあって、鍵盤を押すとハンマーというのがそれをたたいて、線が振動するんです。それが空気の振動として伝わって最後に耳の鼓膜に入って、それから脳がその振動を検知して音が聞こえているわけね。その音の振動を伝える空気がなくなっちゃうので月では聞こえないんですけど、月に行ってピアノを聞く方法があります。
はるくん:
……はいっ?
本間先生:
どうするかなんですけど、何か棒を用意してください。例えば割り箸みたいなもの。
はるくん:
もう1度言ってもらえますか。
本間先生:
棒。割り箸とか、ある?
はるくん:
はい。
本間先生:
それをね、口にくわえるんです。
はるくん:
……はい。
本間先生:
あ、今、やらなくてもいいですよ(笑)。自分の口にくわえて歯でかんでください。
――やるときは気をつけてやってくださいね。
本間先生:
そうですね。その歯でかんだ割り箸、棒の反対側の先を、ピアノの箱に接するように押しつけるんです。そうするとピアノの弦の振動がピアノの箱に伝わって、箱から棒に伝わって、歯から脳に振動が伝わって、聞こえるんです。
はるくん:
すごーい……え~?
本間先生:
空気の代わりに棒が伝えてくれるんです。
はるくん:
はぁ……えーっ? はい。
本間先生:
これを地上で実際にやった人がいるんです。
はるくん:
えっ?
本間先生:
月じゃないけどね。
はるくん:
はいはい。
本間先生:
その人は耳が聞こえない音楽家だったの。
はるくん:
ほうほう。
本間先生:
誰かわかるかな?
はるくん:
えっ、誰だ……ベートーベン?
本間先生:
そう、そのとおりです。
はるくん:
えーっ……
本間先生:
ベートーベンは年をとって耳が全く聞こえなくなったときに、そうやって棒をくわえて棒がピアノに接するようにして音を聞いていた。それで作曲していたんです。なので、これは非常にいい質問でしたね。月でピアノを弾いたら聞こえないはずなんだけど、そうやって棒をくわえてやると、ベートーベンの気持ちが体験できる、という話です。
はるくん:
わぁ……はい。
本間先生:
この方法は専門用語で「骨伝導(こつでんどう)」というんです。ちょっと難しい言葉ですけど、はるくん、あとで検索してもらうといいんだけど、骨伝導のイヤホンとか、音楽を聴くときに耳にイヤホンとかつけるじゃないですか。
――ヘッドホンとかイヤホンとかですね。
はるくん:
はい。
本間先生:
それを耳にかぶせちゃうと外の音が聞こえないから、歩きながら音楽を聴くと危ないよって言われるんだけど、それを耳にかぶせないで、だから耳をふさがないで、骨を振動させて聴けるようなものも出ていたりします。
はるくん:
はぁ~へぇ~。
本間先生:
だからそういう方法で、一応頑張れば空気のないところでも音楽を聴ける可能性があると、そういうことですね。
はるくん:
すごーい。
――ねぇ。もう1回確認しますと、割り箸などを口にくわえてピアノの箱、筐体(きょうたい)に接すると……
本間先生:
その振動を拾う、と。でも、普通われわれが地上でピアノが聞こえる状態でやっても、たぶんわからないと思います。耳から音が入ってくるので。
はるくん:
あぁ。
本間先生:
ただ、骨伝導というのは実は僕らは日頃体験しています。自分の声を録音して聞くと変に聞こえるって、わかるかな?
はるくん:
えっ?
本間先生:
はるくん、きょうの自分の声、音声を録音して再生すると、自分の声と違ったように聞こえるんですよ。このラジオを、あとで復習で「聴き逃し」で聴いてみてください。自分の声が、ふだん自分で思っているのと違うように聞こえるんですね。それはなぜかといったら、ふだん、はるくんがしゃべっているときに鼓膜から入ってくる、いわゆる空気の振動の音と、骨伝導で自分の体から実際に振動が入っちゃう音が混じっているので、それで違った声に聞こえるんです。そうして骨伝導を体験することができますので、やってみてください。
はるくん:
はい。
――はるくん、すごい質問で楽しかったです。わかりましたか?
はるくん:
わかりましたー。
――よかったです。質問をしてくれてありがとうございました。
はるくん:
ありがとうございました。
――さようなら。
はるくん:
さよなら~。
本間先生:
さよなら~。
【放送】
2023/12/30 「子ども科学電話相談」