ひさとめみずとくん(小学5年生・埼玉県)からの質問に、「昆虫」の小松貴先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)
【出演者】
小松先生:小松貴先生(昆虫学者)
みずとくん:質問者
――お名前を教えてください。
みずとくん:
みずとです。
――どんな質問ですか?
みずとくん:
バンペイユの植木鉢にアゲハチョウの幼虫がたくさんついています。最近、寒くなってきました。どんな条件ならチョウまで成長できますか? 大きくなった幼虫は保護して段ボールで作った飼育ケージで育てて、さなぎになっています。
――大きくなった幼虫は、もう段ボールの中に保護しているのね。
みずとくん:
はい。
――すごいですね。これは小松先生、お願いします。
小松先生:
ひさとめくん、こんにちは。
みずとくん:
こんにちは。
小松先生:
さなぎは今、外にある状態なのかな?
みずとくん:
はい。ベランダにいます。
小松先生:
部屋の中にはいないのね?
みずとくん:
はい。
小松先生:
結論から言うと、家の中には持ち込まずにベランダに置いたままのほうがいいです。
みずとくん:
おぉ。
小松先生:
そもそも、昆虫がどうやって冬が来たかを認識するか、ということを話さないといけないんですけど、人間は、冬が来たのは肌寒くなってきたとか気温で大体認識するじゃないですか。でもたとえ真冬でも、何か例外的に特別に1日だけ変に暑い日があったりするじゃないですか。だから生き物にとっては、野生に生きている生き物にとっては、気温だけとか暑いか寒いかだけで季節の移り変わりを判断するのは、冬眠を失敗する可能性があって結構危ないんです。
みずとくん:
へぇ〜そうなんだ。
小松先生:
なので昆虫をはじめ野生の生き物は、気温とは全く違うやり方で季節の移り変わりを察知しています。それは、1日における昼と夜の長さの違いを感知する、ということなんです。
みずとくん:
へぇ〜。
小松先生:
1日24時間のうちの大体半分の12時間が日が出ている明るい昼で、残りの半分が夜、光が当たっていない状態というふうに一般的には考えられているんだけれども、季節によって、それぞれの時間の長さが変わってくるんですよ。
みずとくん:
はい、知ってます。
小松先生:
夏になると昼の時間が長くて夜が短くなって、冬になると逆に昼が短くて夜が長くなりますね。昆虫は1日のうちの夜、すなわち光が全く当たっていない暗黒の時間が、昼の明るい時間よりも一定以上長くなったのを感知すると、自動的に、冬がまもなく来ると判断するんです。そして越冬の、冬眠する準備の体勢に入っちゃうんです。
みずとくん:
へぇ〜。
小松先生:
アゲハチョウの場合は、さなぎでしか冬眠できないんですけれども、秋にいる幼虫はそのあとさなぎになるんですけれど、「越冬蛹(えっとうよう)」と呼ばれる特別な性質を持ったさなぎになります。夜の時間が長くなったのを感知すると、自動的に越冬蛹っていうさなぎになっちゃうんです。
みずとくん:
ほう!
小松先生:
冬というのは、チョウチョの成虫の餌である花の蜜がないんですよね。なので冬にチョウになっちゃうと餌がなくて飢え死にしちゃうので、冬の間は成虫になるわけにはいかないわけです。秋から冬にかけての夜の時間のほうが長い時期にさなぎになったアゲハチョウというのは、ずっとさなぎの状態でい続けるための、発育が進んでチョウの体がさなぎの中で形づくられるのを防ぐための「ホルモン」という物質を作り続けるんです。この状態は、昼、要するに光が当たっている時間が暗黒の時間より一定以上長くなって、冬が終わったと判断できる状態になるまでずっと続きます。
みずとくん:
すごい!
小松先生:
そうなんです。ですから越冬蛹をあったかい部屋の中に置いちゃうと真冬に羽化しちゃうことがあって、飼うのが結構大変になるんです。チョウは花の蜜を毎日吸わないと死んじゃいますので、真冬に羽化させてしまったさなぎは蜂蜜とかで育てることもできますけど、基本的に長生きしないうえに、狭い所にチョウを置いておくと暴れて日に日に体がボロボロになっていって、結構みすぼらしい姿になっちゃうので……
みずとくん:
かわいそう……。
小松先生:
それを見たくないのであれば、さなぎは外に置いたままにしたほうがいいかなと思いますね。
みずとくん:
さなぎで冬を越すなら、こうしてあげたらいいとかありますか?
小松先生:
基本的になるべく自然なまま、昼はちゃんと明かりが当たって、夜は完全に光が遮断される状態に保ってあげたほうがいいです。部屋の中に入れちゃうと、われわれはどうしても蛍光灯とか明かりをつけちゃうじゃないですか。夜でも光を浴びせてしまう可能性があるので、そうすると、さなぎが春になったと勘違いして出てきやすくなっちゃいます。
みずとくん:
じゃあ、ベランダに出しっ放しのほうがいいですね。
小松先生:
なるべく人の出す光とかがあまり当たらない、影響がないところに置いたほうがいいです。
みずとくん:
ライトとかは当てないほうがいいということですね。
小松先生:
なるべく夜の間は当てないほうがいいかもしれません。
みずとくん:
当てないほうがいいんだ、へぇ〜。
――街灯とかお部屋の中の明かりも、なるべく当たらないように気をつけてあげたほうがいいですか?
小松先生:
そうですね。ちなみに、アゲハチョウのさなぎとかガもそうなのかもしれませんけど、冬眠している昆虫は、冬の間にある程度死ぬ寸前ぐらいのものすごい寒い状況に置かないと、次の春に冬眠から覚めたときにうまく繁殖できなかったりするというふうになったりします。冬の間にうんと寒くなるのが刺激になって、次の年、活動を始めたときにちゃんと動ける、活動できるということになっているらしいんです。なので寒いときに人間の感覚で、「寒いだろうから、かわいそうだから、暖かい所に置こう」とかは、あまりしないほうがいいと思います。
みずとくん:
はい。このまま置いてたら、何月ぐらいに羽化してチョウになりますか?
小松先生:
一般的にアゲハチョウの春型の成虫は、4月の上旬とかにはたぶん姿を現すんじゃないかなと思います。
みずとくん:
はい。
――みずとくん、光と寒さにも気をつけながら、もし羽化したらまた教えてください。
みずとくん:
はい。
――楽しみに待ってますね。質問は大丈夫でしたか?
みずとくん:
はい。ありがとうございます。
――頑張って育ててください。さようなら。
小松先生:
さようなら。
みずとくん:
さようなら。ありがとうございましたー。
【放送】
2023/10/29 「子ども科学電話相談」