かわいさきさん(小学6年生・大阪府)からの質問に、「水中の生物」の林公義先生が答えます。(司会・柘植恵水アナウンサー)
【出演者】
林先生:林公義先生(北里大学海洋生命科学部講師)
さきさん:質問者
――お名前を教えてください。
さきさん: | さきです。 |
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――どんな質問ですか?
さきさん: | クラゲはなぜお盆を過ぎたころに出てくるのですか? |
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――さきさんは、クラゲ、見たことあるんですか?
さきさん: | はい。 |
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――いつごろかな?
さきさん: | 7月ぐらいに海に行ったときです。 |
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――では先生に聞いてみましょう。林先生、お願いします。
林先生: | はい。さきさん、こんにちは。 |
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さきさん: | こんにちは。 |
林先生: | おもしろい質問ですね。ところで、さきさんは、これからお話することを、例えばおうちの人とか年上の人から聞いたことがあるかどうかなんだけれども、「お盆を過ぎるとクラゲがたくさん出るので、海に行って泳いではいけませんよ」って、誰かに言われたこと、ありますか? |
さきさん: | よく言うのは知っています。 |
林先生: | ああ、よく言うのは知ってるけど、「泳いじゃいけないよ」と言われたことは、なかった? |
さきさん: | うん。 |
林先生: | 僕は小さいときにね、いろんな人にそう言われたんです。これは1つ理由があって、お盆のころというのはいつごろをさすが、さきさん、知ってるかな? |
さきさん: | えっと……8月ぐらい? |
林先生: | あぁ、そうですね。日本の暦でいくと、新盆と旧盆というのがあって、新盆は7月の中旬ぐらいの4日間、旧盆というのは8月中旬の4日間なんだよね。7月は農繁期といって、農業をやっている人はたいへん忙しいのでお盆どころではないということもあって、今はだいたい8月の旧盆に行事をやるところが多いらしいんです。ことしの旧盆は、8月13日の日曜日から16日の水曜日までの4日間になるようです。さて、このお盆のころというのは、さきさん、学校はどうなっていますか? |
さきさん: | 夏休みです。 |
林先生: | そうだよね。夏休みというのは、気温が高くて暑い時期ですよね。だからこのお盆の8月中旬のころというのは、かなり気温が高くなりますよね。実はこの時期は海水の温度も高くなっているんです。 |
さきさん: | へぇ~。 |
林先生: | さきさんの質問の、「お盆過ぎごろにクラゲがたくさん出るのはなぜか」だけれども、まずクラゲについて、どうしても知っておいてほしいことがあるので、お話しますね。 |
さきさん: | はい。 |
林先生: | まずね、クラゲは突然あんなにたくさん現れることはないんです。突然に大発生はしない、ということね。実はクラゲは夏だけではなくて、1年をとおして海にいるんです。地域によっては、1年中繁殖行動もしている。つまり、生まれているんです。そしてクラゲは、成長するときに体の形が変わるんですよね。水の中を、プラ~ンクトン、プラ~ンクトン……って、ふわふわ泳ぎながら、つまり“プランクトン生活”というのをしていて、さきさんの知っている親クラゲになるまでには、かなり時間がかかるんです。 |
さきさん: | そうなんですか……。 |
林先生: | そうなんです。小さいころのクラゲというのはたくさんいるんだけれども、透明であるということと、小さいということもあって、人の目につく機会があまりないんです。 |
さきさん: | ああ! |
林先生: | 問題は、7月か8月ごろになると、海水の表面の温度が日本だとだいたい20℃~30℃ぐらいになるわけだよね。それは、クラゲに一番都合のいい温度なんです。このころになると、今まで小さかったクラゲがどんどん餌を食べて成長して大きくなる。だからなんか突然に大きなクラゲがたくさん出てくるような感じになるんだけれども、実は小さいクラゲが1年中いるんです。 例えば海っていうのは、岸近くだと港があったり入り江があったり半島があったりして、湾の中が少し静かな内湾になっているところがあるじゃない? そういうところに風や潮の流れで親クラゲが押し寄せられると、そこにクラゲがたまってしまう。海水浴場はわりとそういう静かな内湾のところが多いでしょう? |
さきさん: | うんうん。 |
林先生: | だから海水浴場に行くと、このころにわりとクラゲがたくさん集まるということになるんだよね。だから、お盆を過ぎたころからどうして出てくるのかというのは、ちょうどそのころはクラゲが大きく成長して目につきやすい時期ということなんです。 |
さきさん: | ああ! |
林先生: | それともう1つは、フィリピンだとか東南アジアの西のほう、西部太平洋というところは熱帯とか亜熱帯の海で、1年中、水温が20℃以上あるので、絶えずクラゲが発生をしていて大人になっている。それが黒潮という潮の流れ、これはずっとフィリピンのほうから台湾のほうを通って、日本だと九州のほうから北上していきますよね。そういうクラゲも、実はこのころになると一緒に仲間になっちゃうので、よけいクラゲが多くなってくる感じもあると思います。 |
さきさん: | そういうことなんですか。 |
林先生: | そうなんだよね。ただし最近は、海の「富栄養化」って、わかるかな? 水温が上昇して栄養分が増え過ぎてプランクトンが大量発生して、そういうのはクラゲの餌になるので、クラゲが富栄養化した海の中で増えているということだとか、それからよく言われている地球温暖化で、この40年に蓄積された地球全体の熱エネルギーの90%以上が海に吸収されているんだって。吸収されるということは、海水温が上がってしまうということらしいんだよね。だからこの40年間に、通常の海水温が少しずつ上がっているのも事実らしい。そうするとクラゲの生活しやすい水温にも、かなり近づいているということになるのかな。 |
さきさん: | はい。 |
林先生: | それから、人間が生活する海岸の周りに、人工物がたくさん作られるようになったんですね。人工物というのは、だいたい平らな面が海の中に沈んでいる部分がたくさんあって、例えば港だとか岸壁だとか、そういうものがいっぱいあるでしょう? クラゲはそういうところにくっついて、それで子どものクラゲがたくさん増えていくんです。そういう付着場所が海の中にどんどん増えたので、クラゲが増えやすくなっているという研究データも出ています。 |
さきさん: | ああ……。 |
林先生: | そういう理由があるんだけれども、最大の理由は、お盆が過ぎたころは海水温が上がるので、親クラゲになったものがたくさん目につく、ということだと思います。わかりましたか? |
さきさん: | はい。 |
――環境の変化によっても、また増えていく可能性があるということですね。
林先生: | そうですね。 |
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――さきさん、ありがとうございました。
さきさん: | ありがとうございました。 |
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林先生: | はい、どうも! |
――さよなら~。
さきさん: | さよなら~。 |
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林先生: | さよなら~。 |
【放送】
2023/04/30 子ども科学電話相談「水中の生物」 林公義先生(北里大学海洋生命科学部講師)