午後6時台を聴く
24/03/31まで

午後6時台を聴く
24/03/31まで

世界中に暮らす人と電話をつなぎ、現地の様子を伝えてもらう「ちきゅうメイト」。今回は、現在行われている「ラマダン」、イスラム教の断食月についての話題です。そのラマダン中の食品廃棄が、近年大きな問題になっているそうなんです。マレーシアにお住まいのライター森純さんにお話を伺いました。

【出演者】
森:森純さん(マレーシア・イポー長期滞在中/ライター)
TOBI:レ・ロマネスクTOBIさん(日曜担当MC)
中村:中村慶子アナウンサー


TOBI:
森さん、今日は、マレーシアの「ラマダン」についてですね?

森:
Selamat petang.スラマッ・プタン こんにちは、森です。
現在、イスラム教徒は「ラマダン」の真っ最中です。地域によって日程が変わる場合もありますが、マレーシアでは、3月12日から始まって、4月9日まで行われます。

TOBI:
ラマダンは世界中で行われていて、フランスにもイスラム教徒の方=ムスリムの方がいましたが、ラマダンの時期になると断食していました。断食といっても、1か月飲まず食わずの断食ではないんですよね?

森:
そうです。これはマレーシアだけでなく世界共通で、日没後から日の出前は、飲食ができます。イスラム寺院のモスクからは一日5回の礼拝の時間を知らせる「アザーン」という呼びかけの声が響き渡ります。5回の「アザーン」の1回目は夜明け前のお祈り。4回目は「日没後のお祈り」。断食の始まりと終わりの合図になっています。
日中に飲食を控えているムスリムは日没を待ちかねています。飲食店では、注文を済ませて料理がテーブルにある状態で日没の合図を待ち、スーパーマーケットの店員などもアザーンの直後にボトルの水を口にする姿を見かけます。

中村:
ラマダンはどういう目的で行われるんですか?

森:
イスラム教徒の「5つの義務」のひとつで、「断食」は世界のムスリムが、同じ時期に同じ試練を経験して、信仰をより深める行事といわれています。貧しさのために十分に食べることができない人びとの苦しみを体験することで思いやりをもつ、意思によって食欲という強い欲望に打ちかつ意味合いがあるようです。

中村:
その一方で、飲食を我慢する「断食」なのに「食品ロス」という問題が発生しているそうなんですが、どういうことですか?

森:
日中の空腹の反動で、日没後の飲食が過剰になりがちということなんです。マレーシア以外の国でも、ラマダン期間中の食品廃棄は問題になっています。ホテルなどでは「ラマダン・ビュッフェ」という食べ放題が行われます。また、ラマダン期間中の屋台「ラマダン・バザール」にもたくさんの飲食店が料理を並べます。持ち帰り用のポリ袋をいくつも手に下げたひとを大勢見かけます。

TOBI:
どうしても、ビュッフェスタイルだと、元を取ろうとあれもこれも! と取りすぎてしまいます。その意識が食品を余らせる原因かも・・・。でもそれは、ホテルやバザールだけですよね?

森:
実はマレーシアの食品廃棄は、企業よりも家庭の方が量が多いのです。各家庭でも家族や友人との会食では、食べきれないほどのごちそうを用意して歓待します。

TOBI:
マレーシアで、ムスリムの方が食べるごちそうってどんな料理ななんですか?

森:
ココナッツを加えた牛肉の煮込み料理「ビーフレンダン」や、タレにつけた魚を鉄板で焼いた「イカン・バカール」など、唐辛子やハーブを使った料理です。こういった必要以上の食べ物が用意されてしまうことが、食品廃棄が増加する原因です。今年の例でいうと3月の平均気温は33度と高いので、食品の腐敗も早いのです。

TOBI:
実際にどれくらいの食品が廃棄されているでしょう?

森:
通常は一日1万6,720トンの食品廃棄がありますが、ラマダン期間は一日およそ1万9,220トンに増加します。1日あたり、およそ2,500トンの食品ロスが増加していることになります。

TOBI:
それは大変ですね。こうした食品ロスに、国は何か対策をとったりはしているんですか?

森:
政府による「フードバンク・マレーシア・プログラム」が2018年からスタートしました。
スーパーマーケットやホテルなどから廃棄予定の食品を提供してもらい、低所得者などに配布するもので、マレーシアの場合はムスリムも食べられるように、イスラムの戒律で許されるハラールの食品であるのが特徴です。配布は、この問題に長く取り組んできた民間のNGOが担当しています。効率よく配布するため、2020年に、首都・クアラルンプールの郊外に大規模な配送センターを開設しました。また政府は、特に食品の廃棄が増えるラマダンに向けて、食品を買いすぎない、料理をつくりすぎないよう呼びかけています。

TOBI:
家庭の食品廃棄については、日本でも配慮しなければならない問題ですよね。「フードバンク・マレーシア・プログラム」という政府の対策により、食品ロスはどのくらい減ったんでしょう?

森:
2022年12月までの数値では、およそ4,400トンの食品を廃棄から救い、70万4,822世帯に配布しています。大学など教育機関でのプログラムでは、29の学校で2万人を超える学生が支援を受けました。食品を無駄にするのはよくない、とわかっていても、長年の習慣やもてなし文化を変えるのはなかなか難しいものです。
しかし、新型コロナウイルスの流行で失業したり、収入減になった人たちを支援しようという流れで、これまでのNGOの活動に加え、個人や小さなグループが、各家庭で余った食品の提供を呼びかけ、困っている人に手渡す動きも出ています。
今年は、4年ぶりにひとが集まることに制約がないラマダンですが、前年に比べて、全体にごみが減っているという報道がありました。人びとの意識も、これから少しずつ変わっていくのではないでしょうか。

TOBI:
世界中で行われている「ラマダン」ですが、多民族国家マレーシアならではの「ラマダン」について教えてください。

森:
はい! マレーシアは、マレー系、中国系、インド系などの人たちが暮らしている多民族国家です。宗教もイスラム教、仏教、ヒンドゥー教などさまざまです。断食は異教徒には強制されませんので、ムスリム以外の飲食店は通常通り営業しています。
しかし、飲食を控えているムスリムに対する「配慮」は求められます。会社や事務所がラマダン期間は営業時間を短縮したりすることがあるので、ムスリム以外への影響も当然あります。

TOBI:
ラマダンの期間、マレーシア国内はピリピリムードになるんですか?

森:
いらいらしている印象はありませんね。でも、30℃を超える気温のなか水も飲まずにいるので、のどは乾くと思います。ラマダン期間中、ムスリムの飲食店は日中閉まっています。また、食事の支度を担当している女性の場合は、夜明け前に料理をして家族に食べさせるため、非常に早く起きます。ムスリムの友だちと夜にチャットをしていて、「明日は早いからもう寝るね」と言われたことがあります。

TOBI:
多民族国家のマレーシアにおける「ラマダン」。他宗教を含む多くの人たちの理解も必要なんですね?

森:
全人口比では確かにムスリムが6割ですが、都市部では外国人を含む非ムスリムも多い国です。特に私が滞在中のイポーという都市は中国系の住民が多く、ムスリムは少数派です。いろいろな習慣の違いがあるなか、折り合いをつけながら多民族が暮らしている様子を感じます。

TOBI:
ラマダンの期間で森さんがムスリムの方に対して配慮されたことはあるんですか?

森:
断食中の友人と一緒に外出していて、我慢している人の前で水を飲むのがなんだか気がひけて、夕方まで水を飲まなかったことがあります。友だちには「気にしないでね」と言われていたのですが。

中村:
森さん、どうもありがとうございました!

森:
ありがとうございました。


【放送】
2024/03/24 「ちきゅうラジオ」

午後6時台を聴く
24/03/31まで

午後6時台を聴く
24/03/31まで