午後6時台を聴く
24/03/30まで

午後6時台を聴く
24/03/30まで

スペイン3大祭りのひとつ、バレンシアの「サン・ホセの火祭り」の話題について、スペインの地中海を臨む都市、バレンシアに暮らして22年、スペインと日本でオリーブオイルソムリエとしての活動のほか、ライターもしている田川敬子(たがわ・けいこ)さんにうかがいました。
聴き逃し配信ではサンホセの火祭りの音声も配信しています。ぜひお聴きください。

【出演者】
田川:田川敬子さん(ライター)
ローズ:當間ローズさん(土曜担当MC)
中村:中村慶子アナウンサー


ローズ:
サン・ホセの火祭りって、どんなお祭りなんですか?

田川:
サン・ホセの火祭りは春の訪れを告げるとも言われるお祭りで、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。毎年3月に開かれ、15日から19日までの本番が特に盛り上がります。19日の夜に、「ファヤ」というたくさんの人形からなるオブジェを焼き払うんです。サン・ホセとはキリストの育ての父、聖ヨセフのことで、カトリック教会では3月19日はサン・ホセの日です。

中村:
人形を燃やす? 人形の“おたきあげ”のようなものですか?

田川:
いえいえ。毎年、新しいオブジェが作られます。オブジェはバレンシア市内だけでも大小合わせると700以上飾られ、高さ20メートル以上というものもあります。オブジェはそれぞれの設置場所での組み立て作業を経て、3月15日~16日にかけて完成しますが、19日には燃やされてしまいます。たった4~5日間の命なんです。そのほかの見どころとしては、3月1日から毎日開かれる火祭り名物の爆竹ショーや、華やかな民族衣装を着た人たちがバレンシアの守護聖母に献花に向かうパレード、イルミネーションなどが挙げられます。

ローズ:
火を使って燃やす、というのはなにかルーツがあるのでしょうか?

田川:
サン・ホセは大工さんだったことから、昔から大工さんたちの守護聖人としてあがめられていました。大工さんたちはサン・ホセの日の前夜、工房でいらなくなった木くずや木片などを集めてたき火をおこし、その日を祝ったとされていて、それが形を変えて現在の火祭りになったとされています。いつから火祭りという形で祝われるようになったかははっきりわかっていませんが、火祭りについて書かれた1740年ごろの公的な書類が残っているそうです。

中村:
オブジェは毎年焼き払うということは、毎年作るってことですよね? トレンドなどはあるんですか?

田川:
飾られたすべてのオブジェが焼かれてしまうので、毎年作り替えられます。トレンドというか、それぞれのオブジェにはテーマがありタイトルがつけられています。世相を反映させたものもあり、今年は戦争や平和、気候変動がテーマのものを目にしました。オブジェのまわりに飾られる人形には、社会風刺として政治家や王室、また人気スポーツ選手の姿を見かけます。

ローズ:
燃やす時ってどんな状況なんですか?

田川:
オブジェにはあらかじめ燃料を少しかけて、爆竹がぶら下がったひもを巻き付けておきます。導火線に点火すると、次々と爆竹がさく裂してオブジェに火がつく、という仕組みです。

中村:
田川さんに今年のサン・ホセの火祭りの写真を送っていただきました。会場に飾られたオブジェのようですね。

田川:
今年「特別部門」という、もっとも製作費が高いオブジェの部門で優勝した作品です。気候変動がテーマになっています。製作費は日本円でおよそ2,800万円かかったそうです。

ローズ:
オブジェに2,800万円! そんなにお金がかかったものを燃やすなんてもったいないとは思わないのでしょうか?

田川:
もったいないという声はあまり聞かないですね。オブジェの制作費について、昨日SNSの話題になっていて、コメント欄を見たら「火祭りの経済効果を考えたら高くない」という意見もありました。

ローズ:
オブジェを作っているのは誰なんですか?

田川:
火祭りには、日本でたとえるとお祭りの「連」のようなグループがあり、バレンシア市内に400近く存在します。そのグループが毎年大きなオブジェとグループ内の子どもチームの小さなオブジェをひとつずつ飾ります。各グループがオブジェをつくる専門の火祭りアーティストと相談して、毎年のテーマを決めていきます。

中村:
もう1枚お写真をお送りいただきました。これは、オブジェが燃えているところですね?

田川:
近所に飾られた小さなオブジェなのですぐ近くで見ることができましたが、炎の熱さに思わず後ずさりしました。風下にいると煙にまかれます。点火直前に爆竹が鳴り響き、その場で打ち上げ花火があがって盛り上がりました。

ローズ:
19日夜に燃やされたあと、オブジェはどうなっていくんですか?

田川:
灰になってしまいます。夜中のうちに清掃があり、どこも朝までには普通の町角に戻ります。

中村:
町のいたるところでオブジェを燃やすことで、火事にはならないんですか?

田川:
消防車が来ないと燃やしてはいけないことになっているんです。燃やしている最中は、必要に応じて消防士さんが放水します。

中村:
爆竹は、どれくらい使われるんですか?

田川:
ひとつのオブジェを燃やすのに使う爆竹の量は大きさもさまざまですしわかりませんが、最終日の5分ほどの爆竹ショーでは330㎏の火薬が使用されたそうです。バレンシアの人は本当に爆竹や花火が好きなんです。火祭りでは爆竹ショーのほか15日から18日は連夜花火大会が開かれるほか、子どもにまじって大人まで路上で爆竹遊びをします。爆竹職人さんも火祭りを支える重要な仕事の1つです。

ローズ:
現地の人にとって、この火祭りの意味はどんなものでしょうか?

田川:
難しい質問です。もともとは宗教的意味合いも含むお祭りだったものの、今はフィエスタ(スペイン語で「祭り」「祝祭」)として楽しむものと捉える人がほとんどだと思います。オブジェを飾るグループには「火祭りが人生」「火祭りのために生きている」という熱心なメンバーもいます。ただ、あまりに騒々しいので火祭りが嫌いな人もいるのも事実で、そういう人はこの時期に別荘に逃げたり、旅行に出たります。

中村:
田川さんはこの「サン・ホセの火祭り」のどの辺に魅力を感じていますか?

田川:
私は火祭りが大好きで、2020年、2021年とコロナ禍で中止になった以外は、毎年楽しんでいます。オブジェを見てまわることや、バレンシアの町中がお祭り一色に染まって盛り上がるところが好きです。オブジェやパレード、イルミネーションの見物は、国籍や宗教を問わず訪れた人が誰でも楽しむことができます。ぜひ一度見に来てください。

中村:
田川さん、どうもありがとうございました!


【放送】
2024/03/23 「ちきゅうラジオ」

午後6時台を聴く
24/03/30まで

午後6時台を聴く
24/03/30まで