午後6時台を聴く
23/11/26まで

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環境への関心の高さからパリで人気が高まっている「ジャルダン・パルダジェ 共有の庭」。パリ市内に180か所もあり、好きな花や野菜を育てられるという「共有の庭」について、パリ在住20年の盛真理子(もり・まりこ)さんに伺いました。

【出演者】
盛:盛真理子さん(アートマネージャー)
TOBI:レ・ロマネスクTOBIさん(日曜担当MC)
中村:中村慶子アナウンサー


中村:
盛さん、早速ですが、その「共有の庭」っていうのはどういうものですか?

盛:
はい、言葉の通り自宅の庭ではなく、月額いくらかお金を払って借りられる、みんなでシェアするお庭のことです。

パリやパリ近郊では庭付きの住宅はほとんどなく、パリに住んでいるほとんどの方はお庭を持っていません。そんな事情もあってか、パリでは昔から「ジャルダン・パルダジェ 共有の庭」というものが街中いたるところにあります。

具体的にはパリ市の保有する土地の中で、建物をつくるには小さすぎたり、細長かったりする土地を、庭として貸し出すというサービスです。

中村:
お庭を貸してくれるんですか。どのくらいの広さなんでしょうか?

盛:
私の自宅のすぐ前にも「共有の庭」があるので、その例ですと、全体の大きさとしては500平方メートル、日本風にいうと150坪ぐらい。共有スペースとして道具が入っている小屋があって、他には個人や団体への貸し出しスペースとして1区画2m×2mぐらいが仕切られていて、それぞれがお庭として利用しています。

中村:
そして使い方が気になるんですが、いったいどのようにその「共有の庭」を皆さん使っているんですか?

盛:
皆さん自由なのですが、ハーブや野菜、花を育てる方が多いです。今の季節ですと、菊やバラの花が咲いています。ハーブだと、ラベンダーやローズマリーなど。夏はトマトやナス、バジルなどがたくさん採れるようです。

あとは、ガーデンパーティーをしたり、庭仕事ついでにご近所さんとおしゃべりしたりするのが目的のような方も結構います。私もハロウィーンパーティーでお呼ばれしたり、ハーブの採取をさせてもらったり子どもと一緒に遊ばせてもらったことがあります。

中村:
日本でも貸し農園はありますが、いろいろな用途に使えるお庭を貸し出してくれるのはあまり聞かないですね。人気の秘密はなんでしょうか?

盛:
環境への関心の高まりとともに、ここ数年「共有の庭」人気が高まっていたように思いますが、さらに“コロナ禍でバカンスに行けない人たちが庭を楽しむために使う人が増えて人気が出た”という報道がありました。

そして利用料も非常に安い! 例えば私の自宅の前のお庭は2m×2mの1区画が、1年わずか22ユーロで借りられるんです。

TOBI:
そんなにお安いんですか! 今で言うと大体3500円ぐらいで借りられるってことですね。なぜそんなにお安いんでしょうか?

盛:
ほとんどの「共有の庭」はパリ市から委託を受けたアソシエーションが管理を行っています。日本でいうとNPOに近いですね。ですので、利益優先のサービスではありません。

例えば自宅の前の「共有の庭」の利用規約を借りてきて手元にあるんですが、最初に太字で「この庭は地域の出会いの場所」であるということと「エコシステムについて知る、配慮する」場所であることが書かれています。

中村:
「出会いの場所」であることと、「エコシステムについて知ること」ですか。まず「出会いの場所」って、どういうこと?

盛:
ここは単なるレンタルスペースではなくて、パリ市に暮らす世代や文化が違う人が交流する場所として貸し出されているということです。

「全ての人に開かれている場所」というのが大前提なので、地域住民はもちろん、学校といったグループ単位で借りている所もあります。定期的にイベントなども開催され、利用者とそれ以外の人も一緒に楽しんでいる様子が見られます。

TOBI:
フランスの学校って、校庭がコンクリートのところが多いということもあって、こういう庭を借りるわけですね。

中村:
エコシステム、環境についてはいかがですか?

盛:
はい、環境について触れ合って、知っていくと言う方針が見られますね。例えば、小屋には自由に植えていい種や苗なんかがあって、これを選んで育てることができます。私の子どもたちも課外活動の一環で種まきをしたと言っていました。

そして「共有の庭」には大概、生ごみなどから堆肥を作るコンポストが置いてあって、これも大活躍しています。

TOBI:
そうそう! パリではコンポストが街中に結構置いてありますよね?

盛:
そうですね「共有の庭」以外にもコンポストいくつもあります。日本で言うゴミ集積所の隣にあるイメージで、街中のコンポストはこっちも年間20ユーロぐらいで使えます。

共有の庭にあるコンポストの様子

中村:
日本でも家庭用のコンポストなどを利用する方が増えてきていますが、買わなくても身近にあったら、気軽に利用できそうですね。ニオイとかはどうですか?

盛:
私も最初、大丈夫かな?と少し思っていたんですが、きちんと機能しているからなのか嫌なにおいは全くしません。このコンポストがあることで、生ごみが堆肥になって、それをまた「共有の庭」に戻して、再利用できるわけです。私たちの実生活がすでにエコシステムの一部であるということを実感できる、とても意味のある存在だと思います。

また、実際に利用していなくてもコンポストが目にとまる所にあるだけで、環境への意識というものも少なからず変わってくると思います。

TOBI:
パリ市民の関心への高さを感じさせますね。

盛:
そうですね、私からみても、非常に関心が高いと感じます。
特に来年1月1日からパリだけでなくフランス国内で一斉に、有機廃棄物(果物の皮、コーヒーの出がらし、卵の殻など)をコンポストに捨てることが義務化されることになっていますので、これから一層コンポストが身近になりそうです。

中村:
やっぱり環境への関心の高さが「共有の庭」の人気の理由なんですね! 盛さんの周りのパリジャンは「共有の庭」にどんな感想を持っていますか?

盛:
「完全無農薬なので、安心して食べられるオーガニックの野菜や果物を育てて収穫できるところがうれしい」、とか、「特別な計画をしなくても週末に家族や友人と楽しめるアクティビティになること」、また「土や植物に触れているとリラックスしたり、気分転換になったりする」などという感想があります。
ただ、とても人気で、我が家の最寄りの「共有の庭」は利用希望者のリストで2年待ちということです。

中村:
えー! 大人気ですね。盛さんも、お庭を借りたいと思いますか?

盛:
私も実際に利用しようとしたことがあるのですが、2年待ちと聞いて、残念ながらあきらめました。フランスは夏のバカンスがとても長いです。我が家も1ヶ月以上日本に一時帰国します。そういった理由もあって家で植物を育てることをためらってしまいます。
でも「共有の庭」だったら、しばらく不在でも大丈夫なので、そういった側面でも、すごく魅力的だなと思っています。

TOBI:
フランスではいろいろなところでご近所さんとのコミュニケーションが大切にされているなぁと思いますね。ところで盛さんはいつ頃フランスに?

盛:
もう20年前に来てからずっとパリですね。私は大学を卒業して、就職も決まっていたんですが、在学中に学んだフランス文化が忘れられなくて、内定を辞退して、急きょフランスに留学してしまいました! 総合大学の美術研究科で学んだのですが、作品を作る以外にもアートをサポートしていく職業がいろいろあることを知りました。そして現在は、美術作家である夫のアートマネジメントをしています。

中村:
ぜひ次回はその辺りの話も詳しく聞かせてください。

盛:
ぜひぜひ、アートの話はまたじっくりさせてください。

中村:
盛さん、どうもありがとうございました!

盛:
ありがとうございました。


【放送】
2023/11/19 「ちきゅうラジオ」

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