午後5時台を聴く
23/11/12まで

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日本ではおなじみの ”交番”。実は日本で出来たものなのですが、今や世界に広がりつつあります。ブラジルでは、重大犯罪を減らそうと、交番システムを取り入れました。そのプロジェクトに参加しているJICAブラジル事務所の木村信幸さんに伺いました。

【出演者】
木村:木村信幸さん(JICAブラジル事務所)
TOBI:レ・ロマネスクTOBIさん(日曜担当MC)
中村:中村慶子アナウンサー


TOBI:
木村さん、今日はよろしくお願いします。もうブラジルは長いんですか?

木村:
私は生まれも育ちもブラジルの日系ブラジル人です。よろしくお願いします。

TOBI:
では早速ですけれど、交番で重大犯罪が減るんですか?

木村:
はい、減少します!
私たちは交番のことを地域警察とも呼んでいて、それまでのブラジルにはなかった警察のスタイルとして取り入れたんです。実際、防犯上の大きな成果が出ていて、ブラジル以外の国にも広がっているんですよ!

中村:
どれだけ犯罪が減ったかについては後ほど詳しくお聞きしますが、そもそもどんなきっかけで日本の交番を取り入れることになったんでしょうか?

木村:
きっかけは90年代の後半にブラジルの警察官の職権濫用が疑われる事件が相次いだことです。不当な逮捕や発砲などですね。そのため警察制度そのものを変えなければいけない、という大きな流れが生まれたのです。

中村:
そうした状況になったというのは何か理由があったのでしょうか?

木村:
そもそもブラジルの警察は、もともと軍隊だったものです。
1988年の憲法改正で警察制度が大きく変わったのですが、もともとは軍事政権だったため、州を守る軍隊がそのまま警察になりました。軍隊の訓練を受けていたので、考え方が警察とは違ったと言えるかもしれません。

TOBI:
どのように考え方が違うのでしょうか?

木村:
軍隊は住民を敵のように見て、あまり近寄らなかったです。
ですが求められる警察官は逆ですね。地域住民に寄り添い、話を聞けるような警察官像が必要になりました。さまざまな国のシステムを調べた結果、日本の警察官と交番システムが目指す姿に近いということになり、ブラジルから日本に支援を要請したんです。

中村:
木村さんはその交番システムを作るプロジェクトにどのように参加しているんですか?

TOBI:
2000年にJICAがブラジルのサンパウロ州の警察を日本に受け入れて研修を始め、その後2005年にこのプロジェクトが本格的に立ち上がりました。私はその当初から担当しています。
私は日系ブラジル人として、ブラジルのことも日本のこともよく理解しています。ですので、両者のパイプ役をしています。

TOBI:
ブラジルでは、日本の交番のどんなところを取り入れていったんでしょうか?

木村:
さまざまな点がありますが、一番は地域の人たちとコミュニケーションをとって防犯につなげることです。犯罪を追いかけるのではなく、防犯するところがポイントです。
定期的に地域の人と触れ合って、どういう危険があるか聞き取ったり、必要なことを伝えたりしています。

中村:
なるほど、地域の人とつながって防犯につなげるんですね。

木村:
そのためブラジルの交番には、図書館などコミュニティスペースがあるところもありますし、柔道を教えたりしているところもあります。
子供たちが正しい道を歩んで行くよう警察官が親代わりのようにサポートしています。
交番の有効性を伝えるために成功事例を紹介するなど工夫していたので、その成果かと思いますね。

中村:
日本の交番をヒントにいろいろな交番が生まれているんですね。ここまでにはさまざまなご苦労があったのでは?

木村:
交番の考え方はこれまでの軍隊式の考え方とは全く違うため、最初は全然受け入れられず、「なんで変える必要があるんだ!」「意味があるのか!」と反発に遭いました。
根気よく意味を説明し、州の中で成功事例を共有するなどして理解を深めていったんです。

TOBI:
パイプ役はそんな時、大変そうですね。

木村:
当時、サンパウロ州警察上層部が、このプロジェクトの成果について懐疑的なスタンスを取っていたことが大きな課題でしたね。交番はサンパウロ州の治安改善に役に立つということを、日本人専門家と一緒になって、警察幹部の方々に根気強く説明し、納得してもらうことに大変苦労しました。

中村:
2005年から始まったということで、今はどういう状況ですか?

木村:
2018年に第3フェーズと呼ばれる段階が終了し、一区切りついています。各州から1人ずつは日本に研修に行って、最も多いサンパウロ州警察では70人が日本で研修を受けました。交番の数も増えて、一番多いサンパウロ州には120か所あります。
今後はサンパウロ市のような大都市において、現在は土地が足りなくて交番が建てられないため、「移動交番」と呼ばれる、必要な道具を積んだバン型車の配備を進めています。サンパウロ州には現在1,000台ほどあります。

TOBI:
そして気になる犯罪状況は??

木村:
犯罪全体の数は経済状況などがあるため一概に減ったとは言いにくいですが、東京大学と共同で実施した調査では、実際に犯罪件数の減少が確認されました。
また、私たちが気にするのは人間の命です。命に関わる犯罪を減らすことが最も大事だと考えています。

中村:
命に関わる犯罪の状況はどうでしょうか?

木村:
例えば以前サンパウロ市の南地区といえば世界で一番危険な地域と呼ばれたことがあります。殺人事件が非常に多い地域でした。2000年のJICAがサンパウロ州警察向けの研修を始めた時代には、サンパウロ州で一年間に殺人事件で亡くなる方がおよそ13,000人いました。
それが2022年の統計では1年間におよそ2,400人まで減少しました。

TOBI:
2,400人も多いですが、かなり減りましたね! 交番を取り入れてどんな変化があったからだと思いますか?

木村:
交番の導入により警察組織全体の意識が変わったことにより減少したと考えられています。
警察が地域の人との関係性を保つようになった結果、警察からの呼びかけや犯罪情報が住民に伝わるようになり、逆に住民からはこれまでは分からなかった情報が入ってくるようになりました。こうした変化が重大犯罪の減少につながっています。

中村:
今後はどうなっていきそうでしょうか?

木村:
こうした交番の取り組みは中米のグアテマラ、カリブのジャマイカなどにも発展しています。私はブラジルの経験をこうした国々に伝えていく活動をしています。成功させたいですし、そのためには引き続きこのパイプ役は不可欠であると思っていますので、頑張って参ります。

中村:
木村さん、どうもありがとうございました!

木村:
ありがとうございました。


【放送】
2023/11/05 「ちきゅうラジオ」

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