大人のための美術の時間! 日常が楽しくなるアート思考とは?

22/12/01まで

ごごカフェ

放送日:2022/11/24

#アート

14時台を聴く
22/12/01まで

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22/12/01まで

美術を楽しめると、思考力が鍛えられるそうです。さぁ、“アート思考”を身につけてみませんか?(聞き手:武内陶子パーソナリティー)

【出演者】
末永幸歩さん(美術教師)


<プロフィール>
東京都出身。武蔵野美術大学卒業。東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。東京学芸大学個人研究員。中学・高校の美術教師の経験から、ものの見方を広げるアートの授業や講演会を行っている。

アート思考ってなんだ?

――著書の中で、13歳からのアート思考と表現されていますが、どうして13歳からなのですか?

末永: 小学校の図画工作の授業は人気が高いのに、中学校になると美術の人気は落ちてしまうんです。その境目が13歳なんです。美術史の知識などの比重が大きくなり、まるで、美術に正解があるかのように、捉えられてしまっていることが、美術に対する苦手意識にあるのではないかと思っています。

――アート思考は誰にでもあった方いいものなの?

末永: 「私はこう感じる」という思いを持つ力がアート思考だと考えているので、アートの分野に関わらず、誰にでも必要だと思っています。21世紀の世界は、答えが一つではない不透明な世界。これまで、学校教育や社会では「正解を見つけること」が最優先されてきましたが、答えのない問題に向き合って「自分だけの答えをつくること」が重要だと考えています。

――自分だけの答えをつくる力がアートにあるということですか?

末永: アート思考を養うのにうってつけなのが「アート鑑賞」です。アートを自由に楽しめるようになれば、私たちはより日常生活も生きやすくなると思っています。例えば、美術館での鑑賞ひとつとっても「見方の正解」を求めて、解説を読んでしまう方が多いのではないでしょうか。もちろん解説を読むのが間違っている訳ではないのですが、アートはもっと自由に鑑賞してもいいと思っています。

アート思考を鍛えよう

  • 20世紀以降の作品を鑑賞せよ
末永: アート思考を鍛えるのには、20世紀以降の作品がベストです。それは20世紀にカメラが登場したことにより、アートのあり方が一変したからです。20世紀までのアートの歴史をみてみると、ルネサンスの時代から、アートには暗黙の目標(ゴール)がありました。それは、いかに現実味のある絵を描けるかということです。宗教画や肖像画などを想像してもらえるとわかりやすいです。20世紀にカメラが普及すると「現実の再現」はアートだけの特権じゃなくなりました。その結果、アートのゴールがなくなってしまったんです。つまり、20世紀以降のアートは決まったゴールがない中で、多様で自由な考え方で作品がつくられているんです。これこそ答えが一つではないものに向き合う、アート思考をするのに向いていると考えます。
  • 感想をとにかく書き出してみよう
末永: いきなり感想を書くのは難しいと思います。まずは「気がついたこと」から書き始めてみましょう。例えば「色」「形」「筆の使い方」「輪郭」など、特徴的な部分の情報から始めてみましょう。「髪の毛が青だな」「背景は3色で構成されているな」などのシンプルなもので大丈夫です。そこから徐々に感想を導き出していきましょう。ポイントは、漠然と考えるだけでなく書き出すこと。そうすることで、じっくり作品を鑑賞するクセがついていきます。この一連の作業を私は「アウトプット鑑賞」と呼んでいます。
  • 作品と会話してみる
末永: 美術館に行くと、まず解説文を読み、音声ガイドを聞いて、作者の意図や歴史的背景の情報を頭に入れてから作品に接することがありませんか? 「これは印象派の作品」とか「これはキュビズムの特徴が見られます」などと言われると、その言葉だけで理解できたような気になってしまう。ただ、この方法だけで鑑賞をしてしまうと、その解釈が「唯一の正解」のように感じられてしまうことには問題があると思っています。ここで重要になってくるのが「作品と会話」をすることです。

――どうやって作品に話しかけるのですか?

末永: 作者がどんなことを考えて作ったかとは別次元で、鑑賞者が作品に対して「どう感じるか」を大切にする見方です。音楽で考えるとわかりやすいのですが、アーティストが恋愛について歌った楽曲でも、自分には家族愛の歌として響くことってありませんか? 例えば、ビートルズの「イン・マイ・ライフ」という曲は、「色々な場所に記憶があって、それは色あせない。でもそのどれよりも、今あなたを愛している」というような内容なんですが、以前、ニュージーランドに数か月の一人旅に出ていたことがあるのですが、長距離バスの中でこの曲を聴いたとき、旅で訪れた場所、出会った人たちのことが思い起こされて胸が一杯になったんです。ジョン・レノンと私が思い浮かべたこととは当然違いますが、私が感じたことが、音楽の味わい方として間違っているわけではないんです。作者の意図したことと関係ないところで、鑑賞者がやり取りをすることが、音楽では自然にできているんです。このようなことを美術鑑賞でもできれば視野が広がると私は考えています。
  • アートの常識を脱してみよう
末永: マルセル・デュシャンというアーティストによる「泉」という作品。その作品は、イギリスでおこなわれた専門家500人による投票で「アート界に最も影響を与えた20世紀のアート作品 1位」に選ばれた重要な作品として認知されています。

――トイレですよね。

末永: 一般的な男性の小便器の向きを変えて台の上に置いただけの作品です。デュシャンは、「アートは視覚で愛(め)でることができるもの」という人々が持っている前提に対して、強い疑問を抱いていたんです。なので、美しさからは程遠い便器を選んだんです。この作品によって、視覚ではなく「頭で鑑賞するアート」の可能性が開かれました。今まで考えもしなかったようなことに対して疑問を持ち、それについて考えることもアートなんです。
  • アートの枠組みについて考えよう
末永: アンディ・ウォーホルの「ブリロ・ボックス」という洗剤の箱のデザインも名前もそのままの作品があります。一般的なものを作品にしてしまったという意味では、デュシャンの「泉」に似ていますが、デュシャンは男性用の便器を「アートだ」と主張したのに対し、ウォーホルは「アートだ」とはっきりと答えずに煮え切らないような態度をとっているんです。私たちの認識には「これがアートだ」という枠組みが潜在的に存在しています。これを私は「アートの城」と呼んでいます。20世紀に入るまで、アートの城に入れるのは身分の高い芸術だけでした。デュシャンですらその城の存在は認めていました。しかし、ウォーホルの作品と態度はその城自体の存在を揺るがすものだったんです。彼はアートの城を壊してしまうとともに、アートの可能性を大きく広げたといえます。
  • アート思考を鍛えるポイント
末永: アート作品に限らずあらゆる物事を捉える時に、正解を探すのではなく、自分なりの見方や考え方を大切にする意識がアート思考を育むと私は考えています。アートには日常生活をより楽しく豊かに過ごすためのヒントがあるので、ぜひ積極的にアート思考を体験してください。

【放送】
2022/11/24 「ごごカフェ」

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