踏まれても、抜かれても、ちぎられても生きていく雑草には、現代を生き抜くヒントが満載だそうです。この雑草の生態や雑草的生き方について、稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)さんに教えていただきました。(聞き手:武内陶子パーソナリティー)
【出演者】
稲垣栄洋さん(静岡大学農学部教授)
<プロフィール>
1968年、静岡県出身。岡山大学大学院農学研究科修了後、農林水産省に入省。静岡県農林技術研究所などを経て、2013年から静岡大学教授。農業研究に携わるかたわら、雑草や昆虫など身近な生き物に関する著述や講演を行っている。著書多数。
――きょうもNHKに来る前に渋谷駅で雑草を探してきたそうですね。
稲垣:
ちょっと難易度高かったけど、12種類くらいありましたよ。なさそうなところで見つけるのがおもしろいんですよ。
――雑草の定義ってあるのですか?
稲垣:
アメリカの雑草学会では「望まれないところに生える植物のこと」と定義されています。例えば、お茶や薬草に使うとなれば、その草は雑草ではなくなりますよね。つまり人によって違ってくるということです。
――雑草に興味を持ったきっかけは?
稲垣:
大学で作物を栽培していたところ、その横に見慣れない雑草が生えてきたんです。指導教員の方に聞いたら「花が咲いたらわかるよ」と言われました。たいていの植物はどんな花が咲くかわかるのに、「花が咲いたらわかる」という正体不明な感じに興味を持ち、気がついたら雑草のとりこになっていたんです。
――雑草って花が咲くのですか?
稲垣:
必ず花を咲かすのが雑草の特徴なんです。“咲かす”という目標を見失わないんです。
――雑草の個性をリスペクトされていますね。
稲垣:
雑草魂というと、踏まれても踏まれても立ち上がるイメージだと思いますが、必ず花を咲かせることが雑草魂なんです。実は踏まれた雑草は意外と立ち上がらないんですよ。
――どういうことですか?
稲垣:
雑草にとって、立ち上がることはそれほど大切なことではないんです。大切なことは花を咲かせることなんです。立ち上がるのに必要なエネルギーは無駄になるので、踏まれながら花を咲かせるというのが雑草の戦略なんです。
――なんかわたし泣きそうです。
稲垣:
雑草にいいイメージを重ねているのは日本人くらいだと思います。「雑」は、雑誌、雑談、雑学みたいに、多様を表わすいい言葉だし、家紋にも雑草は多く使われてきました。西洋の紋章のモチーフというと、ユニコーンやライオンなど、いかにも強そうな生きものが多く、植物がモチーフになっているものは、高貴で華麗な植物ばかりなんです。
――そういえばそうですね。
稲垣:
しかし、日本の戦国武将の家紋には、道端の小さな雑草などが多く使われています。例えば酒井忠次の家紋は、抜いても抜いても種を残して繁茂していくカタバミですし、徳川家も地味で目立たないフタバアオイを家紋のモチーフにしています。ほかにも、ツタ、ナズナ、オモダカなども多く見られます。