午後2時台を聴く
23/12/20まで

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SFで描かれる人工冬眠の世界が少しずつ現実味を帯びてきています。人工冬眠の研究をしている理化学研究所の砂川玄志郎(すながわ・げんしろう)さんに、未来の睡眠について教えていただきました。(聞き手:武内陶子パーソナリティー)

【出演者】
砂川玄志郎さん


<プロフィール>
1976年、福岡県出身。京都大学医学部卒業後、大阪赤十字病院で小児科医として働いた後、東京都の国立成育医療研究センターに勤務。その後、京都大学大学院医学研究科博士課程を修了。2013年より理化学研究所の生命システム研究センターなどを経て、現在、冬眠生物学研究チームリーダー。


――もともとは小児科の医師をされていたんですね。人工冬眠の研究はどうして?

砂川:
国立成育医療センターで働いていたときに、大人なら助かる病気でも、幼い子どもには症状のピークを乗り越えるための十分な体力がなく救えない命があったことに悔しい思いをしていました。ある日、世界で初めて発表された冬眠するマダガスカル島のキツネザルの論文を見つけたんです。人間と同じ霊長類が冬眠できるのであれば、人間も冬眠できるのではないか? 人工的に冬眠に誘導できれば、本格的な治療が始まるまでの時間稼ぎができるのでは? と思ったんです。

――そもそも冬眠とはどういう状態?

砂川:
食べ物がなくなる冬に、食べなくても生きながらえるよう、自ら体温を下げて基礎代謝を下げ、必要なエネルギー量を少なくした、睡眠とは違う、死んでいるのに近い状態です。

――現在、人工冬眠の研究はどのような段階なのですか?

砂川:
2020年に、本来なら冬眠しないハツカネズミの脳の神経細胞群を興奮させると、まるで冬眠のように体温や代謝が低下することを発見しました。この神経細胞群をQ神経と呼び、これを刺激すると起こる“代謝が低くなる状態”を「QIH」と名づけました。このQ神経は、他の哺乳類にもあるので、いろいろな動物を冬眠のような状態にできる可能性が出てきました。

――人工的に代謝を低くすることができると、どんなメリットがあるのですか?

砂川:
冬眠は古くから多くの研究者の手によって分析されてきましたが、自然界で年に1回しか生じない現象なので、実験対象とすることは頭痛の種だったんです。しかし、冬眠しないマウスを任意のタイミングで冬眠状態に誘導できるようになり、冬眠と寿命の関係を実験的に検証することができるようになったんです。

――人工冬眠が実現したら、どんな未来が期待できますか?

砂川:
まずは安全な救急搬送が可能になることですね。かつて勤めていた病院には、全国から重症の子が送られてきますが、重症患者の搬送は非常に難しいため搬送できないケースに何度も遭遇しました。

――重症患者の搬送はどうして難しいのですか?

砂川:
重症すぎる患者は、体への酸素供給がギリギリの状態で保たれていることが多いので、搬送している最中にその供給が少しでも絶たれると患者が命を落とす可能性があるんです。ヘリコプターで運ぶ場合は機内が揺れ、チューブが抜けてしまう可能性もあります。また、搬送中は院内と違い騒々しいので、患者から発せられる呼吸音や心音がほとんど聞き取れなくなり、異変が生じたときに発見が遅れることになるんです。しかし、人工冬眠が可能になれば安全な救急搬送が可能になると考えています。

――医療の面では、さまざまなメリットが期待できそうですね。現在、砂川さんが進めているのはどのような研究ですか?

砂川:
例えば、季節性のうつ病の治療に人工冬眠を活用できるのではと考えています。冬季うつ病という冬の間にうつ病を発症する方がいますが、冬眠と「うつ」に共通のメカニズムがあることがわかれば、うつの症状が軽くなるかもしれないと思い、研究しています。

――冬眠をすれば老化を遅らせることができるでしょうか?

砂川:
人工冬眠は、さまざまな病気の治療に生かせる可能性があると考えています。美容も例外ではなく、アンチエイジングに結びつく応用研究もできるかもしれません。


【放送】
2023/12/13 「ごごカフェ」

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