「祈り」を彫る 加藤巍山

23/11/22まで

ごごカフェ

放送日:2023/11/15

#インタビュー#カルチャー#歴史#アート

午後2時台を聴く
23/11/22まで

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芸術の秋、人々の祈りの対象である仏像や、彫刻作品に込める思いを、仏師の加藤巍山(かとう・ぎざん)さんにうかがいました。(聞き手:武内陶子パーソナリティー)

【出演者】
加藤巍山さん(仏師・彫刻家)


<プロフィール>
1968年、東京都出身。高村光雲の流れをくむ仏師・岩松拾文師に師事。2004年、『白髪~斎藤別当実盛』が日展に入選。13年の修行時代を経て2006年に独立。

仏師・加藤巍山

――仏師になろうと思ったきっかけは?

加藤:
もともとはギタリストになりたかったんです。中学からギターをはじめ、ジャズやロックなどを専門学校で勉強していました。スタジオミュージシャンとして活動しはじめた頃に、プレッシャーから突然、指が動かなくなってしまったんです。焦りからパニックになってギターを休むことになったんです。

――仏像に興味を持たれたのは?

加藤:
西洋音楽に傾倒していたので、日本の歴史や文化にはまったく興味がありませんでした。でも、気晴らしに鎌倉を訪ねるようになり、覚園寺(かくおんじ)というお寺で、阿弥陀如来像を見て「救われたい」と思うと同時に、「彫りたい」という気持ちが沸き起こってきたんです。

――加藤さんは仏師であり、彫刻家でもありますよね。仏像と彫刻作品の違いについて教えてください。

加藤:
私のようにプロの仏師と彫刻家を両立させているというのは珍しいと思います。彫刻家が作品として仏像を彫ることはあります。人々の祈りの対象となるという点では、仏像といえるかもしれませんが、仏師からすると、あくまでも彫刻作品なんです。

――仏像には決まりごとがあるのですか?

加藤:
仏像には1,000年以上前から受け継がれている様式があるんです。作り方だけでなく、作るときの考え方、アプローチがまったく違うんです。そのため、その様式に沿ったものでなければ、たとえ仏様を彫った作品であっても、仏像であって仏像ではないと思っています。受け継がれ、残ってきている様式には、残るだけの美しさがあると思っています。なので、仏像を彫る時は、自分を研ぎ澄まして透明にし、気配を消し、その中で様式にのっとり、仏に導かれるように仏像を彫っていくんです。仏像と彫刻作品の違いを簡単に説明すると「仏像は自分を無にして作り、彫刻作品は自我を投影する」ということだと思います。

仏像トリビア

【仏さまは10等身】

加藤:
仏像は全体の大きさに対して、頭の大きさなどの割合がきっちりと決まっています。まず仏像の寸法は、つま先から額の髪の生え際までの寸法を10等分にして、顔は1等分などの決まりごとがあるんです。

【仏像はタイムカプセル】

加藤:
平安中期の仏像のほとんどが、仏像の中をくり抜いて、空洞にしてあります。仏像によってはここに、作った人の思いを書いたお札や巻物が入っていることがあるんです。仏像は修復をしない限り、中を見る機会がないため、1000年経って、当時の思いを知ることができるタイムカプセルなんです。

仏像奉納プロジェクト

加藤:
東日本大震災のあと、亡くなった方の御霊や、悲しい思いを抱えている人を慰めるために仏像を彫り、仏師の三浦耀山(みうら・ようざん)さんなど、協力者を得て、被災された東北地方の寺院に仏像を納めるプロジェクト『<縁>仏像奉納プロジェクト』を立ち上げました。

――一般の方も仏像となる木にノミを入れたそうですね。

加藤:
一般的に仏像を彫る際は、奉納先となる寺院の僧侶などが完成の無事を祈り、仏像となる用材に合掌したあとノミを入れます。このプロジェクトでは、お寺がある地域の方々や、プロジェクトに賛同してくださった方々にも参加していただき、仏像とご縁を結ぶ「ノミ入れ式」を行いました。また、削り出した木片をお守り袋に入れて、仏像との縁を結んでいただきました。

――参加された方のご様子はいかがでしたか?

加藤:
中には遺影を持って参加されている方もいらっしゃいました。こうした活動は、今後も継続していきたいです。

彫刻家・加藤巍山

――彫刻作品をニューヨークのオークションハウスに出品されたきっかけは?

加藤:
関係者の方から声をかけていただいたのがきっかけです。オークションである以上、低い価格で落札されると、これまで築いてきた評価が揺らいでしまう怖さもありました。オークション当日は祈る思いでしたね。

――今後はどのような作品を作っていきますか?

加藤:
仏師に軸足を置きつつ、国や民族、宗教を超えた“祈り”“人間の尊厳” を像に込めて未来に伝えていくのが使命と考え、作品を作っていきます。


【放送】
2023/11/15 「ごごカフェ」

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