おなまえの謎に迫る!~名字で地域を読み解く

22/12/06まで

ごごカフェ

放送日:2022/11/29

#ローカル#歴史

14時台を聴く
22/12/06まで

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日本人の名字を読み解くと、日本の歴史や地理がわかるそうです。名字研究家の森岡浩さんに、地域性という観点から名字の謎、おもしろさを教えていただきました。(聞き手:武内陶子パーソナリティー)

【出演者】
森岡浩さん(名字研究家)


<プロフィール>
1961年 高知県出身。学生時代から独学で名字の研究をはじめ、歴史学や地名学、民俗学などさまざまな分野から多角的なアプローチで追求、実証的研究を続けている。この春まで放送のNHK総合『日本人のおなまえ』にレギュラー出演。著書多数。

名字のおもしろさは地域性

森岡: 名字は、家と家とを区別するために生まれ、先祖代々受け継がれてきたものです。名づけの基本は地名と地形です。名字には地域ならではの特徴が表れやすく、各地に独特の名字があり、分布にも地域的な特徴が表れます。日本で一番多い名字は、圧倒的に「佐藤」さんですが、高知県では珍しい名字なんです。実は「佐藤」は東日本に多く、西日本には少ない名字で、私が初めて「佐藤」さんに出会ったのは高校生の時なんです。ちなみに「森岡」は、東日本にはほとんどいませんが、高知県だとメジャーな名字なんです。「武内」さんも、四国・九州には多い名字です。武内でも竹内でもルーツは同じだと思います。

名字についての基礎知識

森岡: 庶民の名字が一般的になるのは室町時代からです。そして、江戸時代になると名字が身分の象徴になりました。武士や一部の庶民を除いて、公の場で名字を名乗ることは禁じられていましたが、名乗らないだけで庶民も名字は持っていたんですよ。

――庶民はどうやって名字をつけたのですか?

森岡: 名字の種類を分類すると、地名、地形、方位、職業など、いくつかに分類できます。ただし、圧倒的に地名や地形に由来するものが多いんです。例えば「山田」さんは、山の中にある田んぼを所有していたのだろうと考えられる由来の名字です。また、親戚筋は近くに住むことが多いので、細かく家を区別するために小さな地名が名字のルーツになることもありました。大きな地名が名乗れるのは最初に住んだ偉い人だけだったので、そこから地形や方位方角で変化を出していくパターンもあります。例えば「岸」さんから「岸上」「岸本」「山岸」「岸田」という具合です。

――日本にはどのくらいの名字があるのですか?

森岡: 正確な数字は分かりませんが、10数万種はあると考えられます。ちなみにアメリカは世界の人が集まっているので100万種以上はあるでしょう。

――カナダに留学していたとき「ドリンクウォーター」さんっていう名字の人いました(笑)。

名字には地域性が現れる

  • 指原(さしはら)・・・大分県

「さし」は「まっすぐな地形」「細長い土地」を意味する言葉です。川に沿って細長く開けた谷間、原っぱを「さしはら」とよび、この地に住んだ一族が「指原」という漢字をあてたのが由来とされています。「佐志原」と書くこともあります。

  • 金持(かねもち/かなもち/かなじ/かねじ/かもち)・・・鳥取県

ルーツは、日野郡日野町の金持(かもち)という地区です。島根県東部から鳥取県西部は、かつて鉄の産地として知られていました。「金持」とは鉄を含んだ土地の意味で、鉄を背景に金持一族が誕生したといわれています。後醍醐天皇の挙兵に従いましたが、やがて一族は散り散りになり、現在、県内に「金持」さんはいません。

  • 越智(おち)、河野(こうの)・・・愛媛県

伊予国越智郡(現・今治市)を治めた豪族の越智氏です。越智氏の子孫といわれているのが、鎌倉室町時代を通じて瀬戸内海に大きな勢力をふるった、伊予最大の名家「河野(こうの)」氏。愛媛と広島では「こうの」、他県では「かわの」と読むこともあります。

――近畿地方はどうですか?

森岡: 「田中」「山本」「中村」が圧倒的に多いのが関西型です。江戸時代、大坂は天下の台所として発展し、西日本全域から多くの人が流入しました。そのため名字の種類が増えたようです。
  • 渡辺・・・大阪府

ルーツは摂津国西成郡渡辺。そこから全国に広がりました。渡辺氏の祖は、平安時代の武将、渡辺綱(わたなべのつな)です。

――北陸地方の特徴は?

森岡: 北陸地方は珍しい名字がたくさんある地域なんですよ。
  • 魚(うお)、菓子(かし)・・・富山県

現在の射水市。新湊地区特有の名字です。江戸時代に加賀藩が治めた港町。商人が多かったため、名字を名づけるとき「〇〇屋」の「屋」をとって、そのまま名字にしたと伝えられています。「釣」さんという名字も多いので、「魚」さんと「釣」さんの結婚式もあるかもしれませんね。

――関東・甲信越地方の特徴は?

森岡: 北関東は中世に有力武士団が多数割拠しており、多くの地名由来の名字が発生しました。甲信地方も、多くの武家の興亡があった地域なので、この地方をルーツとする名字も多く見られます。
  • 阿久津、圷(あくつ)・・・栃木県、茨城県

「あくつ」とは、低湿地帯を指す方言です。稲作が基本の時代。低湿地帯は田んぼにしやすいいい土地でした。つまり「阿久津」さんは、いい土地を持ってるという名字なんです。

  • 小林・・・長野県

文字通り「小さな林」という意味の地形由来の名字です。各地にルーツがありますが、特に、長野県には小林という地名もあり、圧倒的な最多名字なんです。人間が自然と共生している、手入れをしながら守っている「小さな林」がたくさんあったのかもしれませんね。

  • 草彅(くさなぎ)・・・秋田県

新しく土地を開墾する際に草を薙(な)ぎ払ったことに由来します。各地に「くさなぎ」という地名はありますが、秋田県のこの地方では、平安時代の後期、「前九年の役(ぜんくねんのえき)」の際に、弓で草を薙いで武将を案内したことから、弓編の「なぎ」を賜ったという伝説が残っています。

徳川家康が名づけた名字

  • 小粥(おかゆ/こがゆ/おかい)

静岡県浜松市を中心に多い「小粥(おかゆ/こがゆ/おかい)」という名字。「三方ヶ原の戦い」で、武田信玄に惨敗し、敗走中に立ち寄った家でお粥をふるまわれたことに感激し、家康が贈った名字と伝えられています。

  • 昼間(ひるま)

大宮や八潮など埼玉県南部に多い名字です。家康が陸奥への出陣中、近所の村人たちがこぞって松明(たいまつ)を掲げて川面を照らしてくれたおかげで、無事に川を渡ることができた。「昼間のように明るかった」と喜んだ家康が村人たちに贈った名字といわれています。

――NHKにも、昼間アナ、比留間アナがいますよ。ルーツはここでしょうか?

森岡: 漢字を後からあてたものも多いですが、読み方が「ひるま」さんであれば可能性は高いですね。

――偉い人から褒美として名字をもらうこともあったのですね。

森岡: 偉い人から名前を与えられることはとても名誉なことでした。薩摩藩主からもらった「日本(にっぽん)」さんもいます。

――森岡さんのお話を聞いて、自分の名字のルーツに関心を持った人も多いのではないでしょうか。

森岡: まずは、自分の名字がどこの地域に多いか調べるところから始めてみてください。

――森岡さんを夢中にさせる名字研究とは?

森岡: 調べれば調べるほどいろんなものが出てきます。名字を専門に研究している人がほとんどいないので、まだまだ調べたいこといっぱいですね。

【放送】
2022/11/29 「ごごカフェ」

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