【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ」菊地成孔さん(音楽家・文筆家)

24/04/12まで

高橋源一郎の飛ぶ教室

放送日:2024/04/05

#文学#読書#音楽#ロボット・AI#コロナウイルス

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作家・高橋源一郎さんをセンセイに、あなたの好奇心を呼び覚ます夜の学校「高橋源一郎の飛ぶ教室」。後半(2コマ目)は、さまざまな分野のスペシャリストを「きょうのセンセイ」としてお迎えし、源一郎さんが心の赴くままに語り合います。今回は、音楽家・文筆家の菊地成孔(きくち・なるよし)さんです。

【出演者】
菊地:菊地成孔さん(音楽家・文筆家)
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー

初回以来、4年ぶりのご登場!

礒野:
源一郎さん、2コマ目です。

高橋:
はい。「きょうのセンセイ」は、この番組のテーマ曲などを作曲した、音楽家で文筆家のこの方です。

菊地:
はい、どうも。菊地成孔でございます~。どうも~。

高橋:
いやぁ、うれしいな。お久しぶりですね、ホントに!

菊地:
お久しぶりです、ホントに。

高橋:
前回の出演はね、2020年4月3日だそうです。

菊地:
お~~!

礒野:
ちょうど4年前。

高橋:
この番組の第1回で、しかも菊地さんが出た次からはリモートになっちゃったの。

菊地:
あ~、そうか、そうか、そうか。

礒野:
コロナで…。

高橋:
そう。いきなり、第1回が始まった時に、コロナが始まったばっかりで。

菊地:
そうですよね!

高橋:
それで、いろいろ宣言とか出て、とりあえず菊地さんの時だけは来ていただいたんだけど…。

菊地:
そうですよね。

高橋:
その後は、いきなりリモートになってしまったの。

菊地:
あぁ~、そうですか!

礒野:
リアルで会って、貴重な回ですね~。

高橋:
あれから、ちょうど4年に!

菊地:
そうですね~!

礒野:
では、菊地さんのプロフィールをご紹介します。
菊地成孔さんは、1963年、千葉県生まれ。1985年にサックス奏者としてプロデビュー後、ジャズを中心にたくさんのジャンルに渡ってバンドリーダー、プロデューサー、作曲家、プレーヤーとして活動されています。さらに文筆家、文化人など、さまざまな顔を持っていらっしゃいます。来月には「菊地成孔とぺぺ・トルメント・アスカラール」の結成20周年記念公演を控えています。

コロナ禍の日々をつづった『戒厳令下の新宿』とその後

高橋:
じゃあ、『戒厳令下の新宿』(の話へ)。

菊地:
あははははっ(笑)。

礒野:
菊地さんの本ですね。『戒厳令下の新宿 菊地成孔のコロナ日記2020.6-2023.1』。

菊地:
僕の本に、こんなにいっぱい付せんが貼ってあるの、生まれて初めて見ました!

高橋:
嘘だ~(笑)。

礒野:
去年9月に出版されたんですよね、本として。

高橋:
読んでて思ったのが、やっぱり菊地さんは、忙しくしてますよね。

菊地:
そうですね。

高橋:
本の終わりが2023年1月ということで、この後はどうしてたんですか?

菊地:
この後ですか…。え~と、還暦になって…。

高橋:
あっ、そうだ! おめでとう(拍手)。

礒野:
おめでとうございます! 60歳を迎えられて。

菊地:
僕、還暦が厄年って知らなくて、なんか適当に「めでたいのかな…」って思ってたんですけど。

高橋:
還暦って厄年なの?

菊地:
還暦って厄年ですね、男の。

高橋:
そうなんだ。

菊地:
で、死にかけました。1年間。

礒野:
えっ!

菊地:
ちょっといろいろあって。ケガと病気に恵まれまして。あはははは(笑)。

高橋:
あの~、(『戒厳令下の新宿』では)コロナにかかるじゃないですか、最後。

菊地:
このコロナは、たいしたことない。

高橋:
この後にあるんだ!?

菊地:
僕が「死にかけた」って言うと、コロナで死にかけたと思ってる方が多いんですけど、コロナはすぐ治って、その後ね、生まれて初めて交通事故。生まれて初めて骨折とかって。

高橋:
え~~~!

菊地:
あと僕、30代の時に、ちょっとした難病っていうか奇病で入院して…。

高橋:
あれはよく書かれているやつですよね。

菊地:
ええ。あれが再発したんですよ、去年。

礒野:
あぁ、そうですか…。

高橋:
リンパ性のなんとか…?

菊地:
「壊死性リンパ結節炎」っていう病気が、24年ぶりかな、再発しまして、今はリハビリ中です。

高橋:
結構ずっとヤバかった感じなんですか!?

菊地:
そうですね、はい。

高橋:
じゃあ、生き返った…。

菊地:
まぁ、まぁ、まぁなんとか。我ながら、しぶといといいましょうか。

高橋:
仕事にならなかったわけですか、あんまり?

菊地:
そうですね、やってなかったですね。

高橋:
復活はいつぐらいから?

菊地:
今年ですね。去年やろうと思ってたものが、全部、今年にこう…。あははっ(笑)。

高橋:
そうなんだ~!

菊地:
今リハビリ中にしては、ワーカホリックって大変な状態になってるんですけど(笑)。

高橋:
そうか。大変ですね~。

礒野:
大変なところ、ありがとうございます。

菊地:
いえ、いえ。

「老い」と「死」~引退に向けてのロングスパン~

高橋:
僕、この本の中ですごく気になったことがいくつかあって、番組の冒頭で『隆明だもの』(ハルノ宵子 著)のお話をして。まぁこれは、「老いて、どうしていくか」っていう話で、この菊地さんの日記でも…たぶん以前はそういうことは言わなかったと思うんですが、ようやくその「老い」とか「死」とかに視線を向けている感じ、みたいなのが出てきてですね。どっかで「引退に向けてのロングスパン」という言葉を…。この時にはまだ還暦になってないですが。

菊地:
なってないですね。

高橋:
「ようやくそういうことに目を向けるようになったのか?」っていうのと、この本の中では確か、多分ジャズミュージシャンだと思うんですけど、歳をとってくると「ソロ」になると!

菊地:
はい、はい、はい、はい。

高橋:
で、菊地さんは「なるべくソロはやらない」みたいな(笑)。

菊地:
あっははは(笑)。まぁまぁ…。

高橋:
いわゆるロングスパンのことは、今どう考えてるんですか? 僕なんかは73歳なので、実はそういうことばっかり考えてるんですけど。

菊地:
あぁ、そうなんですか! もう60過ぎて…。僕59まで、めちゃめちゃ元気で若かったんですよ。

高橋:
あっははは(笑)。いや、今も元気そうだよ(笑)。

菊地:
60になったらさすがに老いたなと思いましたね。あの~、急に来たんで、「ボーン!」って。

高橋:
うん、うん。

菊地:
なので、いろんな自分の好きなクリエーターが「60歳からどうしてるのか」っていうのを調べたんですよね。

礒野:
へぇ~!

高橋:
あははっ(笑)。

菊地:
ゴダールが60歳の時は『映画史』(およそ4時間半に及ぶ大作映画)だった、とかね。

高橋:
はい、はい。

菊地:
マイルス・デイヴィスは60の時こうだった、とか。なんとかかんとか…っていうのを調べて、まぁ結論として、「引退すべきかな」っていう。

礒野:
え~~~!

菊地:
あははははははっ(笑)。

礒野:
そういう結論ですか!

高橋:
いくつで?

菊地:
まぁ60…。要するにジャズだとか、よくジャズに類似してるというふうに簡単に言われちゃうことがある噺家(はなしか)さんだとか…。

高橋:
はい、はい、はい。

菊地:
ああいう個人芸っていうんですかね。ああいうのは80歳でも90歳でも…。

高橋:
やってますよね。

菊地:
「名人」になって、続けることはできるんですけど。

高橋:
うん、うん。

菊地:
ある程度「エッジ」にやりたいなと思ってる人たちもいるわけですよね。そういう人たち…。

高橋:
「名人」になりたくない(笑)。

菊地:
「名人」になりたくない、そう!
「名人」になりたくない人たちは、60になってもまだ、あがくんですよね。あがくんですけど、やっぱり60を過ぎると、自己模倣に走ったりしてて。やっぱり60過ぎて、また新しい境地に行って、70以降に全然違うスタイルの、すごいことをやったって人は、僕が好きなクリエーターではいなかったですね。

高橋:
あぁ~なるほどね。

礒野:
そうなんですね。

高橋:
じゃあどうするの? 菊地さん、例えばさ、ジャズだと、ウェイン・ショーターなんか80歳ぐらいでもソロやってたじゃん。

菊地:
やってました、やってました。

高橋:
ああいうのは嫌なんだよね?

菊地:
あれでもいいのかなって…。いま迷ってるところですね。

高橋:
う~ん。

菊地:
あっちでもいいのかなとも思いますし、あるいはもう背広組というか、プロデューサーとかですね。引退って、(すべての音楽活動を)止めちゃって隠とん生活を送るとかじゃなくて…。

高橋:
今までみたいな活動ではなくて、っていう?

菊地:
ほかにも音楽界でやれる仕事がありますから、「そういうことをするのかしら?」というような感じですかね。

「AI技術×音楽」の未来予想

礒野:
映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』のサウンドトラックの中には、AIを使った楽曲が収録されていましたよね。

菊地:
はい、はい。

高橋:
少し前に、(ネット配信番組で)菊地さん含めて4人の方が集まって、「音楽の未来」の話をして。特に、やっぱり今はAIが使われている、と。菊地さんは当然、全面肯定なんですけど…。

菊地:
そうですね。

高橋:
その中で聴いた音楽が「これがAIなんですか!?」みたいな音楽だったので、音楽家としてね、菊地さんはどういうふうに向かい合って、何をしてるかって、ぜひ伺いたかった。

菊地:
AIは今まさに、日進月歩とはよく言ったもんで、要するに単なるアップデートとかじゃなくて、全く新しい考え方のAIが、毎月のようにどんどんどんどん出てきているので。
僕はいま、ギルドを持ってるんですけど…。

高橋:
(ギルドとは)創作者グループですね、言ってみればね。

菊地:
そうですね。その中の、まぁなんて言うかな。別にそう名付けてるわけじゃないんですけど、要するに「AIを使える人」、先端技術の班みたいなのがあるんですよ。

高橋:
菊地さんはやってないのね? 直接は?

菊地:
僕はやってないです、直接は。なので、もともと自分の生徒だった人々と「新音楽制作工房」っていうギルド…言ってみれば、まぁチームですけどね。その中で、出てきたモノですよ。
AIもね、細かく話すとディープ・ラーニング型とかプロンプト型とか、いろんな型があるんですけど、今はまだ法整備とか倫理整備とかが、全くできてないですね。

礒野:
う~ん。

高橋:
あまりに技術が発達し過ぎて、追いついていかない感じだよね。

菊地:
まぁ、テクノロジーあるあるですけど(笑)。

高橋:
そうだよね(笑)。

菊地:
サンプラーですら最初はアメリカのギルドなんかは反対、ミュージシャンのユニオンが反対したりしたんですけど、やっぱり屈しましたよね。

高橋:
う~ん。

菊地:
まぁそれって、産業革命以来ずっとそうなんで(笑)。

高橋:
ただまぁ、僕がびっくりしたのは「これは人間しかできないっていうことが、もうほとんどなくなってきてる感じ」に聞こえる。

菊地:
もう、そうですね。テクノロジーって、徐々に進化する場合と、大ジャンプする時があるんですけど、AIはやっぱり、ちょっとした大ジャンプですね。音楽のテクノロジーは、リズムボックスだとかサンプラーだとかMIDI(ミディ)だとか、いろんなものが少しずつ出てくるわけですけれど、AIはちょっと飛び抜けたところがあるんですよね。

高橋:
せっかくだから、ちょっと聴かせてもらいましょうかね!

菊地:
はい。映画のほうですね、『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』で使用されている曲。AI使用の曲です。

(♪菊地成孔/新音楽制作工房「AI制作による二つの弦楽四重奏の同時演奏」を聴きながら…)

高橋:
どこにどうやってAIを使ってるの(笑)。

菊地:
これは「Max」っていう、すでに旧世代に属するAIの1つなんですけど、いわゆるディープ・ラーニング型で、子どもを塾に通わせるのと同じで、たくさんの教養・音源を与えて、それで長時間ディープ・ラーニングさせると「生成」するんですよ。

高橋:
「聞かせてる」っていう!

菊地:
そうですね。サンプリングじゃないです、これは!

高橋:
そうなんだ!

菊地:
「サンプリング」と「生成」は大きな違いで、サンプリングってもともとある音をサンプルするわけですよ。これはサンプルしてないんで、勉強させると…。

高橋:
勝手に作ってるの?

菊地:
はい、生成です、これ。

礒野:
バイオリンの音色とか?

菊地:
空間とか余韻とか弾き方も、全部生成なんで、サンプリングはしてないんですよ(笑)。

礒野:
へぇ~!

高橋:
人間は何を…マネージ(管理)してるわけ?

菊地:
ええと、ここのマネージは、まず何を「食わせる」って、業界用語ですけど、「何をディープ・ラーニングさせるか」という音源の選択と、それをどのくらいの時間(学習させるか)。まぁ、寝てる間も勉強させとくわけですけど(笑)。

高橋:
あははっ(笑)。

礒野:
うん、うん、うん。

菊地:
特にこれは、(2台のうち)片方の「Max」が演奏を自動生成したものに対して、反応しているんですよね。

高橋:
あ~!

菊地:
弦楽四重奏をいっぱい食わせて、それで生成させると、それに(もう1台が)対応するんですよ。で、スイッチを止めない限り、永遠にやってます。

高橋:
ず~っと、やってるの?

菊地:
やってます、永遠に。

礒野:
へぇ~!

菊地:
なのでAIって、これからたぶん、それが問題になると思うんですけど、倫理的な問題とか人間の手仕事・職業がね、雇用が減るとかなんとかっていうよりも、生成物が多すぎて、「決定権がどこにくるか」が、たぶん問題になると思いますよ。

高橋:
あ~~! どこで止めたらいいのか、とかね。

菊地:
そうですね。

礒野:
生み出すことはできるけれども!?

高橋:
いくらでも生んじゃうってことだよね。

菊地:
生み方がすごいんですよ。だから、ビジュアルにも僕は使うんですけど、もう一気に100枚とかあがってくるんで、「1個を選ぶってことを、誰が決定するのか」っていうこと。

礒野:
そこは人間なのかな…。

高橋:
菊地成孔の名前がどこに入るのか、とかね。作曲じゃないし、どういう関わりになるのかって。

菊地:
これは、いわゆる著作権の書類とかあるじゃないですか。書類上はオペレーションをしたギルドのメンバーになってます。

礒野:
ということで、あっという間に、お時間を迎えてしまいました~!

高橋:
あっ、もう終わり!?

礒野:
音楽家で文筆家の菊地成孔さんでした。ありがとうございました。

菊地:
ありがとうございました。

高橋:
ありがとうございました~。

次回の課題図書とセンセイは…

次回、4月12日(金)放送の「飛ぶ教室」の内容です。
1コマ目「ヒミツの本棚」は、釈徹宗著『不干斎ハビアン』を取り上げます。
2コマ目「きょうのセンセイ」は、政治学者で東京工業大学教授の中島岳志さんをお迎えします。

番組では、リスナーの皆さまからのメッセージを募集しています。番組のご感想、源一郎さんやゲストへのメッセージ、月イチ恒例の「比呂美庵」で相談したいことなど、ぜひお送りください。

高橋源一郎の飛ぶ教室

ラジオ第1
毎週金曜 午後9時05分

メッセージはこちら


【放送】
2024/04/05 「高橋源一郎の飛ぶ教室」

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