【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ」詩人・伊藤比呂美さん

24/04/05まで

高橋源一郎の飛ぶ教室

放送日:2024/03/29

#文学#読書

放送を聴く
24/04/05まで

放送を聴く
24/04/05まで

作家・高橋源一郎さんをセンセイに、あなたの好奇心を呼び覚ます夜の学校「高橋源一郎の飛ぶ教室」。後半(2コマ目)は、さまざまな分野のスペシャリストを「きょうのセンセイ」としてお迎えし、源一郎さんが心の赴くままに語り合います。今回は、前半(1コマ目)の課題図書『森林通信-鷗外とベルリンに行く』の作者で、詩人の伊藤比呂美さんをお招きして、毎月恒例の「比呂美庵」を開きました。

【出演者】
伊藤:伊藤比呂美さん(詩人)
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー

月イチ恒例! 「比呂美庵」開庵

礒野:
そろそろ恒例のコーナーにまいりましょう!

伊藤:
あっ、「ようこそ、比呂美庵へ!」

高橋:
あはははっ(笑)。

礒野:
忘れないでくださ~い(笑)。

伊藤:
はい(笑)。

高橋:
毎月同じことをやってるのに、覚えられないんだよね(笑)。

伊藤:
ひと月ってやっぱりさ、長いから忘れちゃうんですよね~。

礒野:
きょうも時間の限りお便りを紹介していきますよ~!
人生相談の前に、ちょっと変わったメッセージをいただきましたので、ご紹介しますね。
ラジオネーム・碇井桃子(イカリイ・モモコ)さん。兵庫県にお住まいの30代の女性です。

夫婦で「飛ぶ教室」の大ファンです。先日、旅行の帰りに博多駅のカフェに入り、私がトイレの列に並んでいると、夫から「高橋源一郎さんがカフェにいる!」と携帯電話に連絡があり、私は尿意も忘れ、走ってカフェに戻りました。

高橋:
あはははっ(笑)。

伊藤:
あははっ(笑)。あららら…。

礒野:
するとそこには、本物の源一郎先生が! 私たちは以前「会いたい有名人に会った時に、一番クールな対応は何か」を議論したことがあり、結論は「こっちを向いたらサムズアップする」ことでした。

高橋:
親指を立てるやつね。

礒野:
そこで源一郎さんがこちらを向かれた時に何度も親指を上げましたが、全く気づかれる気配はなく、新幹線の時間も迫り、だんだん焦ってきました。

伊藤:
あはははっ(笑)。

礒野:
そして、ついに意を決してごあいさつすることに。「いつもラジオを聴いています」と緊張気味に言うと、気さくに話してくださり、握手もしていただき、神対応でした。本当にうれしかったです。忘れられない九州旅行となりました。

高橋:
ありがとうございます! あのね~、見られてたんですよ、なんか。

礒野:
チラチラ視線は感じてたんですか?

伊藤:
それは分かってたの?

高橋:
分かった、分かった! なんだろうと思って。感じのいい、外国人男性と日本人女性のカップル。30代後半から40代ぐらいの。こっち見てるからさ。そしたら来られて、「ずっと聴いてます」って言われて。しかも、『すっぴん!』(以前に担当していた番組)の時から!

伊藤・礒野:
へぇ~~!

高橋:
それで、その外国人男性の方が「僕は日本語を勉強するために『すっぴん!』をずっと聴いてました!」って!

伊藤:
良かったですね。うれしいですよね、こういうの。

高橋:
うれしいです。それで「さよなら」って言って、あとでホームに行ったら、また会ったの(笑)。

伊藤:
あら~!

高橋:
同じ新幹線でしたね! 無事につきましたか? 僕は無事に着きましたよ(笑)。

憧れの人が目の前に…「一番クールな対応」とは?

礒野:
憧れの人とか、自分がファンの方に会った時って、どういう対応が一番クールだと思いますか?

伊藤:
いや~、サムズアップじゃない?

礒野:
うっふふふふふっ(笑)。

高橋:
僕、松田聖子が通り過ぎるのを見たことがある…。

礒野:
えっ! どこで!?

高橋:
ニューヨークのマンハッタンで本屋へ向かって歩いてたら、向こうから来てさ。夢を見てんのかなって思った。後ろからね、マネージャーみたいな人が歩いてきて。なんかね、松田聖子さんがプンプンしてんの! で、声をかけようと思ったけど、通り過ぎて…。

伊藤:
そうね。声はかけらんないわね。サムズアップもしなかったの?

高橋:
しない、しない(笑)。
後で調べたら、確かにね、松田聖子さんが来てたんだよ、ニューヨークに!

礒野:
すれ違ったんですね~!

高橋:
「すれ違った!」って、思わず日記に書こうと思いましたよ…。あ、日記に書いてある(笑)。

伊藤・礒野:
あはははははっ(笑)。

伊藤:
小説に書いた?

高橋:
小説には書いてないね~。

礒野:
サムズアップは気づかなかったんですか、博多駅では。

高橋:
見えなかった、目が悪いから(笑)。ごめん。なんか見てるな、っていう。はい、どうもすみません(笑)。ありがとうございま~す!

人生相談①~小さい子に言葉の意味を聞かれたら?~

礒野:
では、人生相談にまいりましょう!
ラジオネーム「つきとしずく」さん。静岡県にお住まいの40代の女性です。

私には4歳になったばかりの息子がいます。息子は自分の知らない言葉に出会うと、「○○ってどういう意味?」とすぐに聞いてきます。「黒糖」とか「軽トラック」など…。

高橋:
あははっ(笑)。いいね。

伊藤:
あはははっ(笑)。

礒野:
名詞を問われたら比較的答えやすいのですが、「ずるい」や「素直」「一生懸命」って何? とか、人の気持ち、概念的なものを聞かれると、答えるのにとても苦労します。自分なりに考えて答えたり、読んだことのある絵本の場面を例に出して、なんとか伝えようとしているのですが、なかなか難しいです。
お2人は子どもたちが小さい頃、言葉の意味を聞かれた時、どのようにしていましたか?

高橋:
じゃあ、僕からいきますか。

伊藤:
はい、どうぞ。

高橋:
えっとね、まずね「遊ぶ」っていうことですよ。

伊藤:
ああ、そうね!

礒野:
遊ぶ?

高橋:
遊ぶ! どういうふうに返答しようかとかさ、真面目に考えてるでしょ? まず4歳でしょ。「遊び」だよ。彼か彼女にとっての!

伊藤:
コミュニケーションになるの。

高橋:
そう、そう、そう、そう。もうなんでもいいの。「ずるい」って何か聞かれたら、「あんただよ」とかね。

礒野:
あははっ(笑)。

高橋:
なんでもいいの! そういう遊びの中で育っていくわけだから。

伊藤:
うん。

高橋:
その言葉は別に、お話を作ってもいいしね。自分にとっても楽しい何かを、2人で楽しくなるような!

伊藤:
全く同じ!

高橋:
ね! そうだよね。だからフリートークだよ、子どもと!

伊藤:
子どもは別に意味が知りたいんじゃないの。

高橋:
そう、そう、そう、そう。遊びたいんだもん。

伊藤:
そう、そう。
私1回ね、娘にね「“とどめ”って何?」って(聞かれた)。

高橋・礒野:
あははははははははっ(大笑)。

高橋:
「とどめを刺す」やつ?

礒野:
難しい~(笑)。

伊藤:
英語で育ってる子だから…。

高橋:
ああそうか、日本語が分かんないのか。

伊藤:
分かんない子で、それで7歳ぐらいかな。「なに読んでんの、あんた!?」って言ったら、『犬夜叉』(いぬやしゃ)っていうマンガだったの。

高橋・礒野:
あ~~!

高橋:
「とどめを刺す」ところね(笑)。

伊藤:
「完璧に殺すために、最後までやるんですよ」みたいな感じを説明したのは、最初で最後かもしれない。真面目に答えたのは(笑)。

高橋:
だから、なんかそういう機会ができたと思って。やっぱりね、ふだんから楽しんで、遊んでいるかどうかだよね?

伊藤:
うん、そう思う。

高橋:
ふだんできてないのに、いきなりさ、「やりましょう」と言われてもできないから、子どもとはどんな時でも遊ぶときは全力で!

伊藤:
でもね、この「つきとしずく」さんは、すごい真面目な方なんだと思うんですよね。

高橋:
そうだね。

伊藤:
でね、そういう人たちにあんまり外れろって言ったって無理だから…。

高橋:
じゃあ、どうしたらいいの?

伊藤:
そしたら、真面目にね、本当に真面目に考えて。

高橋:
それでもいいと思う! 大人を相手にするように答えてもいいよね。

伊藤:
そう、そう、そう。例えば「一生懸命」とか、「お母さんも分かんない。ちょっと勉強してきます!」って。そしたら、お母さんが一生懸命になって自分に向かい合ってくれてるなっていうふうに思うと思う。

礒野:
その態度を見せるということも…。

高橋:
それも大事! 「遊ぶ」っていうのと同じように「人として接する」と。

伊藤:
そう。

高橋:
だから一生懸命考えて、難しい答えを出してもいい。分かんなかったら説明するとかさ。

礒野:
なるほど。答えの内容はもちろんですけども、「態度」でしっかりと!

伊藤:
あなたの言ってることは、全面的に、私、真剣に受け止めるんだからね~っ!

高橋:
っていうふうにすれば、いいんですね!

伊藤:
そう、そう。そうだと思います。

高橋:
いい機会だと思いますよ。

人生相談②~小説家志望の息子について~

礒野:
続いてまいりましょう。ラジオネーム・四葉さん。東京都にお住まいの50代の女性です。

19歳の息子のことです。高校を卒業して1年。楽しい子ですが、子どもの頃からこだわりが強く難しい子です。高校は進学校でしたが、大学へ進学する気はなく、今年は勉強も受験もせず、努力・継続ができず、本人は小説家を目指し、今は教養を深める時と、映画もよく観ていますが、家でラジオを聴いている時間がほとんどで(もちろんこの番組も楽しみに!)…していらっしゃるそうです。

高橋:
聴いてるのか!?

礒野:
学生でもなければアルバイトもしていないので、ニートで、ほぼ引きこもりです。「自分がいいと思ったり尊敬する作家は、だいたいが大学に行っていないか中退しているから」自分も行かないそうです。

高橋:
あっ、まずい…(苦笑)。

礒野:
社会に出ることは必要と伝えていますが、聞く耳持たず。親はカウンセリングを受けたりなど、試行錯誤していますが、夢があるなら本人も変わらないと…。心配のメールですね。

伊藤:
センセイ、どうですか?

高橋:
はい! じゃあ僕から…。もし聴いていたらですね、あまり親に心配かけちゃいけませんね、と。

伊藤:
あら!

高橋:
僕はね、まぁ、大学へ行って除籍、中退なんですけども、大学に行く必要がないっていうふうには思わないほうがいいと思います。というのは、要するに、作家になる、作家にならなくてもいいですけど、この世界で生きていくためには成長していく必要がある。で、そのためには、例えばね、人と会ったほうがいい!

伊藤:
うん。

高橋:
人だけじゃないです。本、芸術と出会う。なんでもいい! 出会いの場所を探さなきゃいけない。
でね、家に1人で引きこもってると、狭い世界にどんどんなっていくから。もちろんそこで大成することも可能ですけれども、「超天才」だよ。そんなのは。

伊藤:
そうね~。

高橋:
本当の超天才は、多分たった1人でも何かできるんですけど、僕や伊藤さんのような普通の表現者は…。

伊藤:
できないわよね~。

高橋:
つまり、広い場所っていうのを探さなきゃいけない。で、例えば、大学はその可能性があるから。今だと、ただ狭い所で自分勝手にやってるだけで、どんどんダメになっていきますよ、と。

伊藤:
う~ん。これは、おっしゃる通りですね。で、どんどん書くとかね。書いて、それを投稿するとかね。そういう作業もしなくちゃいけないんじゃないかな、今のうちから。

高橋:
あのね、やっぱり、今の彼には他者・他人がいない。

伊藤:
他人が…。そうね。他人が一番大切だよね。

高橋:
自分の狭い世界の中で、全部完結してる。それは作家にとって、まずいです。他人とか社会とか、それと付き合って、でもダメ…と。そういう作業をする必要があるんで、最初から全部切っちゃったら、あのね、成長できない。

伊藤:
詩人にとっても、そうかも。

礒野:
閉じこもっていては、なかなか表現者としては難しいよ…っていう。

伊藤:
まあね。閉じこもっていたほうが書けるって時もあるんですけど、やっぱりいろんなことを知らないと。挫折の経験、悲しかった経験、うれしかった経験、人と会って喜びがあふれたときの経験…ですよね。

高橋:
ね! 人との喜びとか悲しみとか。

伊藤:
本当!

高橋:
そういうのを、閉じこもってしまうと…。

伊藤:
ネタが無くなるしね。

高橋:
そう、そう。何も経験しなくなっちゃうから。だからネタが無くても書けるのは「超天才」だけだから。

礒野:
あ~! 自分の中から、生み出す…。

伊藤:
じゃあ、こうしよう! ネタ探しに外へ出ろ!

高橋:
あっ! 賛成!

礒野:
小説家になりたいのならば…。

高橋:
そう、そう、そう。

伊藤:
ネタ探しなんですよ。

高橋:
例えば、大学なんかは結構いいよ、と。

伊藤:
そうね~。

高橋:
大学じゃなくてもいいけどね。

伊藤:
大学じゃなくてもいいと思うの、私。とりあえず、外に出る。

高橋:
「書を捨てて、外へ出よう!」

伊藤:
Exactly!(※その通り、まさに)

高橋:
寺山修司さんがおっしゃいましたけどね。(※1967年に著書『書を捨てよ、町へ出よう』を発表)

伊藤:
でも、「書」も読んでないから…え~と、「ラジオを捨てて、外へ出よう!」だ。

高橋:
ちょっとそれは、我々の自己否定になっちゃうんで…(笑)。

伊藤:
そうね、そうね(笑)。

礒野:
(ラジオは)聴いていただいて!

伊藤:
ラジオを聴きながら、外へ出よう!

高橋:
いいこと言うね~!

伊藤:
ほら、詩人だから!

高橋:
伊藤さんも結局ドイツへ行ったでしょ。(※1コマ目「ヒミツの本棚」の課題図書『森林通信-鷗外とベルリンに行く』は、ドイツでの3か月の研究生活を描いたもの)

礒野:
ええ、ええ。

高橋:
あれ、外なんだよね。

伊藤:
すっごい嫌々、行ってましたけどね(笑)。

高橋:
でも結局、良くなったわけじゃん!?

伊藤:
なんかいろんなものが見れるから。

高橋:
そう、そう。だから外で、伊藤さんが言ったように「挫折」ですよ。自分の思う通りにならないでしょ、全部。言葉が分かんないとかさ。1人でいるとさ、全部自分の言葉だけだから…。

伊藤:
そうですね。

高橋:
なので、もし小説家になりたいんだったら、逆に外に出た方がいいと…。

伊藤:
思います。

高橋:
思います!

礒野:
「四葉」さん、いかがでしょうか。19歳の息子さんご本人も聴いていらっしゃいますかね?
ということで、あっという間の「比呂美庵」でした。

伊藤:
えっ! もうおしまい?

礒野:
今年度最後の「比呂美庵」でしたね。このような相談だけではなく、お2人に聞いてほしいことなど、お便りもお持ちしています。また新年度も、ぜひお寄せください。

高橋:
よろしくお願いします。

伊藤:
新年度って、お正月…?

高橋:
何を言ってんだよ(笑)。大学でも3月終わりで、4月から…。

伊藤:
あっ、そういうことなのか!

礒野:
うふふふふっ(笑)。

高橋:
大学の先生してたでしょ!

伊藤:
してましたね。はい、はい、はい、「新年度」か。なるほど、なるほど。

高橋:
新しい年度が始まりますので、よろしくお願いいたします。

次回の課題図書とセンセイは…

次回、4月5日(金)放送の「飛ぶ教室」の内容です。
1コマ目「ヒミツの本棚」は、ハルノ宵子著『隆明だもの』を取り上げます。
2コマ目「きょうのセンセイ」は、音楽家・文筆家の菊地成孔さんをお迎えします。

番組では、リスナーの皆さまからのメッセージを募集しています。番組のご感想、源一郎さんやゲストへのメッセージ、月イチ恒例の「比呂美庵」で相談したいことなど、ぜひお送りください。

高橋源一郎の飛ぶ教室

ラジオ第1
毎週金曜 午後9時05分

メッセージはこちら


【放送】
2024/03/29 「高橋源一郎の飛ぶ教室」

放送を聴く
24/04/05まで

放送を聴く
24/04/05まで

この記事をシェアする

※別ウィンドウで開きます