【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ」文筆家・清田隆之さん

24/03/22まで

高橋源一郎の飛ぶ教室

放送日:2024/03/15

#文学#読書

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作家・高橋源一郎さんをセンセイに、あなたの好奇心を呼び覚ます夜の学校「高橋源一郎の飛ぶ教室」。2コマ目(番組後半)は、さまざまな分野のスペシャリストを「きょうのセンセイ」としてお迎えし、源一郎さんが心の赴くままに語り合います。今回は、1コマ目の課題図書の著者でもある、文筆家で恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表の清田隆之さんです。

【出演者】
清田:清田隆之さん(文筆家、恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表)
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー

恋バナ収集から見えてきたジェンダーの存在

高橋:
きょうは、1コマ目の「ヒミツの本棚」で、清田さんの『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』を、まず紹介しましたけども、“単著”としては最初っていうことではないのか…。

清田:
いや、単著としては初めてで、2019年の夏に出して、去年、文庫本になりました。

高橋:
でも、いま読んでみると、けっこう「清田さんの集大成っぽい」ところもありますよね!?

清田:
あははははっ(笑)。もともと『桃山商事』という、友達とやっている、まぁいろんな人の恋愛の話とかを聞いて、それについて考える、みたいなポッドキャストとか、そういうのをやってるんですけど…。
そこで見聞きしてきた話の中で「なんかこのエピソード、よく聞くな~」とか「前にも同じこと言ってた人がいるぞ」っていう(笑)。そしてまぁ「自分自身も昔の恋人に同じことしちゃったわ」みたいな話が多くて、それが「なんなんだろう?」というのは、ずっと気になってて。ある人は「彼氏が高校生」だ。ある人は「何十年も連れ添った50代の夫です」みたいな。都会の高校生と、50代の男性が「全く同じ発言をしているのは、なんでなんだろう?」と、ずっと思ってて…。
それで「あっ、こういうの、ジェンダーっていうんだ」みたいな、社会の側に、なんて言うんですかね、鋳型(いがた)みたいなのがあって…(笑)。

礒野:
ええ、ええ。

清田:
ガッチャンガッチャンガッチャンみたいに、量産されているから、こんなにそっくりな言動があちこちで生まれている。そして自分自身もその一部であるっていう…。だからその現象と、その背景にある問題、あるいは、そこに働いてるメカニズムみたいなのを、真面目に考えてみたいな~、と。

清田さん自身の「結婚問題」から考える

高橋:
ここに出てくるたくさんの例があるんですけど、結構な割合で、清田さんの自分自身のいわばネガティブな経験を取り上げているところがあって、これはもう途中から、ある意味「自分を解剖するっていう必要もある」と思ったからでしょ?

清田:
う~ん、そうですね。そこがないとなんか、先に進めない感じがあって、とても真面目に書かざるをえないというか…。我々がユニットでやっている「ポッドキャスト」とかだと、もっとバカバカしい話とかやってるんですけど、こういう問題に関してはどうしても真面目に、やっぱり「解剖していく」って感じですね~。

高橋:
え~っとね、ちょっと今日はいろいろお聞きしたいことがあるんですが…。

清田:
あはっ(笑)。はい。

高橋:
清田さんに爆弾質問を!

清田:
爆弾質問を、いきなり(笑)。

高橋:
あの~、どの本にもたぶん出てくるんですが、5年間付き合った彼女、と…。

清田:
あ~、30代前半でお別れした…。

高橋:
要するに「結婚問題」で、お別れしたっていうのがあって。
最初の方では「決断しない男」…の例として、出されてた。

清田:
はい。

高橋:
ですよね?

清田:
そうですね。

高橋:
要するに、結婚をいつまでも引き延ばして、まぁ引き延ばしたほうが自分にとって得というか…。

清田:
都合がよかったっていう。

高橋:
まぁ、あるな、僕もな~と思ったんですけど。ところがですね、別の本にもその話が出てきてですね、実はその先の話になってるんだよね!

清田:
はい。

高橋:
それはどういうのかっていうと「彼女との価値観の違い」か!

清田:
あ~、そうですね。うん、うん、うん、うん。

高橋:
で、彼女は、清田さんに普通の家庭を持って、就職して、家を守ってほしいと。彼女の家族も…。
清田さんの中では、もっと自由に、書いたり…リベラルに生きたいっていう感じでしょ。

清田:
はい。

高橋:
「その価値観が、“違い”だったんじゃないか?」という。

清田:
そうですね。だから繰り返し語ることで、発見が、より進んでいくというか…。
最初はもちろん、ホントに高校生の時から、ちょっと片思いしてたような感じの女友達と、20代中盤で、なんか偶然付き合うことになり…。

高橋:
いい話だよね~。

清田:
恋愛的に言えば。

礒野:
ゴールしますよね~。

清田:
ハッピーな感じで、本当に大好きだったし、スマホの待ち受けとかにしてたんですよ。

高橋:
うん(笑)。あははっ(笑)。

清田:
で、5年ぐらいは楽しく付き合ってたんですけど、彼女も同い年で、アラサーみたいな世代にさしかかってきて、もしかしたら妊娠のリミットのこととか、あと彼女も家族から「どうすんの、どうすんの?」って言われてたみたいで…。

礒野:
そうでしょうね~。

清田:
そのころ僕は「いつか文筆で身を立てられたらいいな~」ぐらいの、貧乏。

高橋:
ライター?

清田:
貧乏ライターみたいな感じだったんで、あくせく働いてみたいな。だからぜんぜん、自分の夢の途上ぐらいな感じだったんですよ。
一方で、彼女はリアルにそれを考え始め、そのギャップで、自分が決断できない中で、煮え切らない態度で、しびれを切らして、フラれたんだという理解は、最初の方は…。

高橋:
最初はそうだったんだよね。

清田:
そういうふうでした。

礒野:
あっ、別れた当時は。

清田:
当時。そのあとを振り返った時に…。

礒野:
うん、うん。

清田:
でも、なんでじゃあ、あんなに踏み出せなかったのか…。あんなに好きだった人と…。

高橋:
ねぇ!

清田:
結婚できたら最高じゃんみたいな話なのに、なんであんなに踏み出せなかったのかっていうことを考える機会が増えていくにつれて、「彼女の家族」っていうんですかね…。が、なんか提示していた、その…。

高橋:
条件みたいな?

清田:
「性別役割意識」みたいな。まぁまぁ、簡単に言うと「文筆の仕事を辞めて、就職できないの?」って言われましたし。

礒野:
ええ、ええ。

清田:
向こうの親族から(苦笑)。

礒野:
けっこうツメられましたね(笑)。

清田:
そのやばい会議に呼ばれて…。

高橋:
あははっ(笑)。ツメられた!?

清田:
激ヅメされたんですよ(笑)。

一同:
あははははははっ(大笑)。

高橋:
笑いごとじゃないよね(笑)。

清田:
「早稲田大学なんかね、いいとこ出てんだから、今から就職できるんじゃないの!」みたいに言われて(笑)。

礒野:
説得にかかったんですね~。

清田:
「そうですよね~」みたいな。年収とか、もう全部調べられたんですよ。

高橋:
すごいね!

清田:
結構、ちょっと「ふざけんな!」みたいな気持ちになってきて。
よく考えたら、いわゆる伝統的な「男が働いて、女は家を守る」みたいな家族観を、向こうは割と提示してきていて、自分は商店街の電気屋育ちで、両親が普通に働いてて、そういうのが無かったというのもあって…。

高橋:
へぇ~~。

清田:
「そういうのヤダ! 絶対ヤダ!」みたいになっちゃって…。っていうのが結構デカかったんだな。

高橋:
価値観の違いだよね。

清田:
それはつまり「思想信条」と「価値観の問題」だったんだって、だいぶ後に気づいたって感じですね~。

源一郎先生も自身の経験からさらに考えた

高橋:
あのね~、その先がまだあると思うんだよ!

清田:
あっ(笑)。その先、ありますかね(笑)。

高橋:
っていうのは、そこまで僕、全く一緒なの。

清田:
へぇ~!

礒野:
源一郎さんの経験も!?

高橋:
そう、僕、ライターじゃなくて、30歳まで肉体労働やってたから。

清田:
あ~、僕は「競馬の人」として、知ってましたよ(笑)。そういう話、してましたよね!?

礒野:
そうですよね、私たち世代は。

清田:
そうです、そうです(笑)。

高橋:
それで、どうしてそこまで、ず~っと、やってたかっていうと「普通に就職したら、書かなくなっちゃう」からね。

清田:
あぁ~。あぁ、あぁ。

高橋:
まだ「書く可能性を残しておきたかった」。だから決断しない、そこんところは…。

清田:
すごい分かります、はい。

高橋:
そう。それで、30歳になったらね、ツメられたんだよ、僕も。

清田:
あ~(笑)、ツメられたんですかっ(笑)。

高橋:
「就職しないの?」って言われるわけ。

清田:
はぁ、はぁ、はぁ。

高橋:
一応まぁ、国立大学…、卒業してないんですけどね(笑)。国立いって、それで、僕「就職する」って言ったの!

清田:
言った…。あっ、僕も言っちゃいました、その時。

高橋:
言っちゃうよね(笑)。

清田:
あはははははっ(笑)。

高橋:
ほら、口からつい…(笑)。

礒野:
言っちゃうんだ、その場は…。

高橋:
いや、その気になったんだよ。やっぱりね…。

清田:
なりますよね。

高橋:
いつまでもこんなこと…。言われたとおり、もっとも、と思って、それで就職しそうになったんだけど、結局そこで、なんか面接でキレて、やめちゃったんだよね(笑)。

清田:
あ~、そこまで行ったんですね(笑)。

高橋:
それで最終的に、もう「書くのは止めるでしょ?」って言われて、やっぱり止められないなっていうことで、結局、別れることに…。

清田:
は~い。

高橋:
なっちゃって、まぁ、そういう彼女。ちゃんとした、就職してっていう価値観と、どうしても一緒になれないなと思った。そこまでは一緒なの!
でもね、今から考えたら、そうではないかも!?

清田:
あっ(笑)、もうひと…?

高橋:
もうひとひねり(笑)。

清田:
やるんだ。あっはっはっはっ(笑)。

高橋:
って言うのは、彼女自身も付き合うってことはさ、ある意味、リベラルな考えを持ってたんだよ。

清田:
ふん、ふん、ふん、ふん。

高橋:
つまり、男の方はいつまでもリベラルな価値観を持っててOKだけど…。子どもも生まれたしね。そんなことも言ってられないんで、彼女の方が、その価値観を封印したわけなの。

清田:
そっか、現実に対応して…。

高橋:
現実に。つまり、男がダメだからさ、そうするしかなかったでしょ。

清田:
あぁ、つらい話ですね。

高橋:
ねぇ(笑)。

清田:
あははっ(笑)。

礒野:
女性は、就職してない男性と付き合ってる時点で…。

高橋:
そう、そう! 自分が持っている夢を、ある意味、あきらめなきゃいけないっていう事態に、すでに前からなってる。

礒野:
なってるわけですね。

清田:
そっか、そっか~。

礒野:
付き合ってる時点でね。

高橋:
そう。それをいまだに、夢みたいなことを言ってると!

清田:
あははっ(笑)。

高橋:
価値観の違いとか、ふざけんじゃないよって!

清田:
ヤダっ(笑)。

高橋:
ほら(笑)。どう? 「かもしれない」と、思わない?

女性側が“現実”を抱え込まされるという構造

清田:
結局そうですね。いつまでも、30代とかになっても、夢とか言っていられるのって、たぶん、いわゆる男性特権みたいな問題が…。

高橋:
そう、そう、そう、そう。

清田:
絶対あると思うので…。

高橋:
だから、その家族と彼氏の間に、挟まれてんだよね。

清田:
そう、それ! だから、う~ん。

礒野:
彼女さんもね!

高橋:
彼女さんの価値観ではなくて。

清田:
そうですよね。

高橋:
つまり仲介役だからさ。

清田:
そうですよね~。

高橋:
それなのに、なんか夢みたいなことしか言わないからさ。

清田:
いや、家族会議の時、その彼女、下向いて、こう…。

高橋:
でしょう!

清田:
黙ってましたもんね~。

礒野:
ある意味、女性も、ジェンダーの鋳型にハマっちゃってますよね!? ハメられてるんだと思います。

高橋:
そっから出たいのかもしれないでしょ?

礒野:
うん。

清田:
だからそこはね、当時はホント、ジェンダーの「ジェの字」も、そのころは全く知らなかったんで!
彼女が、そういう社会圧とか、いろんなものを受けながら生きてるっていう…。

礒野:
苦しかったんでしょうね。

清田:
発想すらしてなかったので…。

礒野:
う~ん。

清田:
「なんでこんな焦ってんだろう?」「俺は毎日好きだって言ってんじゃん!」「絶対いつか結婚するから大丈夫だ!」ぐらいの、のほほ~んと…(笑)。

高橋:
甘いね~(笑)。

清田:
あははっ(笑)。超あまあまな…。

高橋:
それはね~、やっぱり女性の方が現実を、たぶん、抱え込んで…。だからその分、男性のほうは抱え込んでいないので、相手に抱え込ませてんだよな。

清田:
そう…、そう、なんか…、あははははっ(笑)。

礒野:
モゴモゴしてます(笑)。

清田:
ホント、そうだ。

高橋:
実は僕、清田さんの本を読むまで、そう考えてなかったんだよ。

清田:
あっ~!

高橋:
僕も「価値観の違いかな」って思ったけど…。

清田:
うん、うん、うん。

高橋:
読んでるうちに、まだこの先がありそうな気がしてきて…。

清田:
やっぱ、そうですよね。ある過去の出来事も…。

高橋:
そう、そう、そう。

礒野:
根深い…。

高橋:
だから、過去は終わってなくて、そういう意味で、だんだん違って見えてくるっていうのは、まぁ僕たちが進歩してると思うしか…(笑)。

清田:
思いたい!

高橋:
思いたいよね~(笑)。

清田:
思い…、たい! うふふっ(笑)。

次回の課題図書とセンセイは…

次回、3月22日(金)放送の「飛ぶ教室」の内容です。
1コマ目「ヒミツの本棚」は、小山さんノートワークショップ編『小山さんノート』を取り上げます。
2コマ目「きょうのセンセイ」は、音楽ジャーナリストの鹿野淳さんをお迎えします。

番組では、リスナーの皆さまからのメッセージを募集しています。番組のご感想、源一郎さんやゲストへのメッセージ、月イチ恒例の「比呂美庵」で相談したいことなど、ぜひお送りください。

高橋源一郎の飛ぶ教室

ラジオ第1
毎週金曜 午後9時05分

メッセージはこちら


【放送】
2024/03/15 「高橋源一郎の飛ぶ教室」

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