【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ」ノンフィクション作家・高野秀行さん

24/03/15まで

高橋源一郎の飛ぶ教室

放送日:2024/03/08

#文学#読書#ノンフィクション#東日本大震災

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作家・高橋源一郎さんがオススメの本を教材に、あなたの好奇心を呼び覚ます夜の学校「高橋源一郎の飛ぶ教室」。後半(2コマ目)は、さまざまな分野のスペシャリストを「きょうのセンセイ」としてお迎えし、源一郎さんが心の赴くままに語り合います。今回は、ノンフィクション作家の高野秀行さんです。

【出演者】
高野:高野秀行さん(ノンフィクション作家)
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー

高野さん、あやうく遅刻!?

礒野:
源一郎さん、2コマ目です。

高橋:
はい。今日のセンセイは、遅刻してきたノンフィクション作家のこの方です。

高野:
はい、高野秀行です。

高橋・礒野:
(拍手)

礒野:
間に合ってますから(笑)。

高橋:
一応、そう言ったほうが気分が出るから(笑)。時間を間違えてたんでしょ?

高野:
1時間、間違えてましたね~。本当によく間違えるんですよ。

礒野:
よく間違えるんですか? 勘違いっていうか?

高野:
ええ。ありとあらゆる間違いをして、『間違う力』っていう本も出してるぐらいなんで(笑)。

礒野:
あははっ(笑)。

高橋:
自信持って間違えてますね(笑)。

高野:
いや~、なんか間違えちゃうんですよね。

礒野:
高野さんのプロフィールをご紹介いたします。
高野秀行(たかの・ひでゆき)さん。1966年(昭和41年)、東京都生まれ。早稲田大学探検部在籍時に書いたデビュー作『幻獣ムベンベを追え』をきっかけに文筆活動をスタート。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、誰も書かない本を書く」をモットーに、「辺境地」をテーマとしたノンフィクションや旅行記のほか、エッセイや小説も発表していらっしゃいます。

『移民の宴』から見えるいまの日本の姿

高橋:
きょうは3月8日。ということで、3.11からもうすぐ13年。
さきほども1コマ目(「ヒミツの本棚」のコーナー)で、いとうせいこうさんの『東北モノローグ』をご紹介しました。高野さんと東日本大震災というのはあまり関係がないかと思っていたら、実はそうではなくて、(高野さんの著書)『移民の宴』という本の中にはけっこう書かれています。知り合いの方が、ネパールの方でしたっけ?

高野:
そうですね。

高橋:
なので、行っていらしたんですよね、当時は。

高野:
そうですね。3回か4回ぐらい、南三陸町とか福島県のいわき市なんかでボランティア活動とかに行ってましたね。

高橋:
その当時の人たちとの連絡はとられているんでしょうか?

高野:
ときどきは行ってますね。2~3年に1回ぐらいは。遊びに行ったりとかはしてますね。

礒野:
ボランティアというのは、どういうボランティアで?

高野:
いろいろですね。南三陸では、支援物資があるじゃないですか。

高橋:
うん。

高野:
それを管理するっていう…。体育館に物資がものすごいたまってて、それを管理するボランティアをやってたんですけれども、あまりにも次から次へと物資が届くんで、配れないんですよね。

高橋:
ああ、そうですね。

高野:
要するに、支援するには、その支援する相手と普段から付き合いがないと難しいってことが、すごいよく分かりましたよね。

高橋:
『移民の宴』というのは、ちょうど東日本大震災と重なっているので。第3章の「震災下の在日外国人」で、アブディンさんですね、スーダン人の方との話。第4章では「南三陸町のフィリピン女性」の話…などが書かれていますが、すごく印象に残ったのは南三陸のフィリピンの方たち!

高野:
はい。

高橋:
ものすごくパワフルな!?

高野:
そうですね~。本当にパワフルで明るかったですね。強いですね~。

高橋:
うん。この人たちは、これはもう何年も前になるんですけれども、今はどうされているんですか?

高野:
今も変わらずに、多くの方は住んでいらっしゃると思います。

高橋:
高野さんにお聞きしたいことがあってですね。『移民の宴』は、“日本に移り住んだ外国人の不思議な食生活”ということで、彼らが何を食べて、日本人とどう違うかっていう話と、東日本大震災の話が交互に出てくる形になってるんですが、実はですね、一番驚いたのは「あとがき」。

高野:
はい。

高橋:
単行本の「あとがき」と、文庫本の「あとがき」で3年ぐらいしか間がないのに、全くおっしゃってることが違って!

高野:
そうなんですよね。

高橋:
つまり、どういうことかというと、単行本のほうでは、
この取材で私たちスタッフが感心したのは、外国人の人たちがおおむね日本の生活に満足し、幸せそうなことだった。「日本はダメだ」と聞き続け、思い続けている私たちには新鮮以上のものがあった。

日本って結構いいんじゃない? ダメだって言ってたけど…って。で、もう1つが、
この20年で日本人の外国人への差別や偏見は激減した。

高野:
うん。

高橋:
で、その3年後、これがですね、全く逆になりまして。
最近では、
「日本人はすごい」「日本はすばらしい」という礼賛の嵐になっている。
っていうことと、
同時に、在日コリアンの人たちに「死ね!」とか「日本から出て行け!」と罵声を浴びせる人々が登場している。

わずか3年ぐらいで、日本にいる外国人の形を巡る状況がものすごく変わっちゃったと、この本に書かれているんですけど…。それからさらにもう9年ぐらい経ってるんですけど、どうでしょうか?

高野:
そうですね。文庫本のあとがきの状態が続いている気がしますね。

礒野:
これは2015年時点の?

高野:
外国の人自体は激増してるんで、慣れてきたっていう部分では、まぁ違ってきてはいるのかもしれないですけども、やっぱりその、「どんどんどんどん内にこもるようになってきた」「日本人の中で固まるようになってきた」っていう印象は、やっぱりありますよね。

高橋:
高野さんは本当にしょっちゅう日本と外国っていうか、日本にいるより外国にいるほうが長い?

高野:
いや、そんなことないですよ(笑)。

高橋:
イメージとして(笑)。でもやっぱり、その特に「外」との比較ですね。もしかすると、そういう外国人嫌いっていうのは、日本だけじゃないのかもしれないですけども、こうやってずっと、出たり入ったり回遊している高野さんにとって、どう見えます? 日本の状況は今おっしゃったんですけども…。ほかの国でも、そういうような、なんか内側に閉じこもってるような感じになっているのか?

高野:
いや、そんなことはないですね。

高橋:
あぁそうなんだ。

高野:
内側に閉じこもってる人も、もちろんいるんですけれども、閉じこもってない人はどんどん増えている。

高橋:
あ~。

高野:
「二極化してる」とも言えますけども、日本の場合は全部が内側に閉じている感じがして、そういう国は僕はちょっと他に知らないですね~。

高橋:
あ~~。じゃあ、日本は結構やばいのかなっ(苦笑)。

高野:
う~ん。まぁ、やばいかどうか分からないですけども、ちょっと特殊になってきてますね。

『イラク水滸伝』で植村直己冒険賞!!

高橋:
この前、高野さんの『イラク水滸伝』という本を紹介させていただきました。本当に面白くてですね、イラクといえば砂漠かと思ったら、湿地帯があるっていうね(笑)。

高野:
あははははは(笑)。

高橋:
そもそもそこからびっくりしたんですけども、最終的にその湿地帯で、1回だけ乗るんですよ、船にね。

高野:
そうなんですよ~(笑)。

高橋:
船でその湿地帯を、航行するっていう旅のはずが、最後のところであわてて乗っただけっていう…(笑)。

高野:
いや~、ホントです(笑)。

礒野:
本の表紙がね、高野さんがうれしそうな顔で船に乗ってらっしゃる写真が載ってます。
どんな旅でしたか? ひと言でいうと難しいでしょうけど…。

高野:
まぁホント、湿地帯ってワケが分からないところで、本当にこう、昔から国家とか政府の権力の手が及ばないとこだったっていうのが、身にしみて分かりましたね。把握できない場所ですね。

高橋:
高野さんて、そういうところ、好きですよね!?

高野:
好きで行ってるんですけども、こんなにもつかみどころがない場所が「この世にあったのか!」と思いましたね。

礒野:
ええ~!

高橋:
特に日本のような島国にいると、国家がない状態の場所っていうのが、想像できないですもんね。

高野:
そうですね。

礒野:
この本で、ねっ!

高橋:
なんと! この旅で極めて印象深い同行者だった山田高司(たかし)さんという方と、実は2月16日に発表になった「第28回植村直己冒険賞」を受賞されました。

高橋・礒野:
おめでとうございます~(拍手)。

高野:
ありがとうございます。

礒野:
高野さんと山田さんが同時で!

高野:
そうです。

高橋:
レジェンド探検家の山田さんは、カヌーとか、いろんなものに乗る人ですよね?

高野:
まぁ「世界で一番、川を旅した人」じゃないかっていう人ですね。

礒野:
どうですか!? 受賞が決まって、どんなお気持ちですか?

高野:
いや~、もうびっくりして。なんで俺たちなんだっていう…、あははははっ(笑)。

高橋:
「植村直己さんの名前を冠した賞」ということなんですけれども、それについては何か思いを感じられるのか…。やっぱりどうなんですか? 高野さんは「冒険家」と…あっ、名乗ってないか!? 名乗ってましたっけ?

高野:
名乗ってなくてですね、ず~っと「違います、違います」って言い続けてきて。僕はあの、なんて言うんですかね、「謎とか未知を探索して解き明かしたい」っていう人間で、自然を相手に冒険するっていうことは全然やってきてないので…。

高橋:
あ~。

礒野:
ええ、ええ。

高野:
ちょっとジャンルが違う気がするんですが、まぁ今年はそれでいいらしくて…。えへへへへっ(笑)。

礒野:
あはははははは(笑)。

高野:
あとはその報告、『イラク水滸伝』という報告も含めて評価されたっていうので、そこはうれしいですね。

高橋:
おめでとうございます。いわゆる冒険家では、高野さんは、ない…、とおっしゃいましたが。

高野:
はい。

高橋:
植村さんの本は読まれてたんですか?

高野:
植村さんの本は、高校時代にすごくよく読んでまして、とても感銘を受けましたね。それは冒険自体よりも「世界中を舞台に、好きなこと、自分がやりたいことを思いっきりやってる」っていうとこに、とても心打たれて…。

高橋:
あ~~。

礒野:
それで!

高橋:
それですよ!

礒野:
それで今、高野さんが!

高野:
そういうことやりたいと思ってたんで、まぁそれは夢がかなってるかな、とは思いますね(笑)。

旅先の言語を学びつづけて気づいたこと

高橋:
高野さんの著書『語学の天才まで1億光年』、僕ね、この本がたぶん一番好きです(笑)。

高野:
あぁそうですか! それはうれしいですね。

高橋:
これは高野さんがどうやって、言語を習得していったかっていう、まぁ冒険談なんですけど…。

高野:
主に20代の時の話ですね。

高橋:
そう、そう。ものすごく面白かったんですが、高野さんが20代ということは、大学を卒業して、この本の最後のほうに書かれていますが、ちょうどその時に、高野さんが習っていらした中国語の先生から、「高野は何をやるんだ?」と聞かれて、すごくあわてるシーンがあったと思うんですが…?

高野:
そうですね。

高橋:
高野さんは20代、本はまだ出していない?

高野:
出してはいたんですよね。

高橋:
いたんですね。でもまぁ、今のように有名でもないし…。

高野:
全く無名ですね。

高橋:
で、考えたら「定職」っていうことではなくて、一種のフリーターですよね。

高野:
完全にそうですね。

高橋:
で、気がついたら30歳ぐらいになったんですが、あの~、今思うと高野さんは、20代っていうのは、どんなふうに過ごしてたと思います?

高野:
20代前半はホントに好きなことをやって、充実してたんですけども、25を過ぎてからは、もう完全に迷走してましたね。

高橋:
う~ん。

高野:
自分が何をやったらいいのか分かんないし、いま何やってるのかもよく分からないようなね(笑)。もがいていましたね。

礒野:
その当時から海外に行かれて、そのために「その国の言語を学ぶ」ということが書かれてるんですよね。

高野:
ええ。そうですね。それを繰り返してましたね。

高橋:
でも、自分では謙遜されてますけど、本当にたくさんの言葉を覚えて、使う。言葉を覚えるの、好きじゃないですか? ものすごく。

高野:
好きですね!

高橋:
ね!

高野:
ええ。

高橋:
今でも変わってないんですか?

高野:
そうですね。好きですね。変わってないですね。

礒野:
これまで学んだ言語はどれくらいになりますか?

高野:
学んで使ったっていうレベルはいろいろなんですけども、まぁ、たぶん25以上は、ありますね~。

礒野:
わぁ、すごいですね~。

高野:
まぁでも、忘れちゃいますしね(笑)。

高橋:
あはっ(笑)。

礒野:
(言語を学ぶのは)どうしてですか? その国へ行く礼儀というか、そういうことなんですか?

高野:
コミュニケーションが成り立たないと、話にならないというのが1つ。もう1つは、近くなるんですね、関係が。現地の言葉を話すと、急に親しくなれるんですよ。それに感動して、もうそれが病みつきになってますね。

礒野:
へぇ~!

高橋:
高野さん、この本の中で「語学はコミュニケーションをとるための言語と、仲良くなるための言語2つがある」と!

高野:
はい。

高橋:
どっちかっていうと仲良くなるための言語!?

高野:
ホント大事なんですよ! 今は「A I」が出てきて、自動翻訳、自動通訳でこと足りるって言われてますけど、それはコミュニケーションのための言語だけであって、それでは仲よくなれないわけですね。

高橋:
それは今でも変わってない?

高野:
変わってないですね。日本だって外国人が来て、英語で意思疎通がとれても、その外国人の人が、片言でもいいから「アッ、オイシイデスネ」とか「アリガトウ」とかって言うと、いい人かなって、思うじゃないですか!?

礒野:
はい。

高橋:
あはっ(笑)。

高野:
そういう感覚を世界中の人が、みんな持ってるんですよ。例外がないんですよね。

高橋:
『語学の天才まで1億光年』の中で、高野さん自身がちょっと壮大すぎると言ってましたけど、僕ここがすごく好きなんですよね。
どの言語でも原理的に言い表せないことがらはない。どの言語も似たような性質を共有している。そしてどの言語も美しい。
だから私は、つくづく思うのである。「人間はみな同じなんだな」と。
人間は平等であるべきだとか、人権の観点から言うのではない。語学を通してみると、そういう結論しか得られないのである。

…と。かっこいいですね!

礒野:
お~!

高野:
あははははっ(笑)。まぁ、ず~っと間抜けなエピソードばっかりなんで、最後ぐらいはちょっといいことを言ってみました。

高橋:
高野さんの本を読んでみると、「どの言語も美しい」「どの人種の人も変わらない」っていうのは、やっぱりこうやって何十年も行きつづけて、そういう結論になっちゃうものなんですか?

高野:
あぁ、そうですね。理念じゃなくて、そうとしか思えないですね。

次なる冒険はチグリス・ユーフラテス川

高橋:
最新作は『イラク水滸伝』ですが、高野さん、次のターゲットは?

高野:
『イラク水滸伝』のちょっとした続きみたいな感じなんですけれども、今度はチグリス・ユーフラテス川の上流域で、山田高司氏と一緒に、川下りをするっていうことを今やってまして…。

高橋:
ず~っと下っていくってこと?

高野:
いやまぁ、ずっとはね、長すぎるんで…。手こぎなんでね。

礒野:
手こぎボートで…。

高野:
あちこちの支流を選んで下っていくっていうことを、今年もやろうと思っています!

礒野:
今年はいつごろに出発のご予定ですか?

高野:
6月に行くつもりです。

高橋:
必要な言語はあるんですか? また。

高野:
クルド語ですね。

高橋:
これはまだ?

高野:
もうやってます。

高橋:
うふふふふっ(笑)。またいつもの、同じやり方ですね!

高野:
あぁ、そうですね。

高橋:
無事に帰ってこられるように祈っております。

礒野:
くれぐれも、お気をつけて!

次回の課題図書とセンセイは…

次回、3月15日(金)放送の「飛ぶ教室」の内容です。
1コマ目「ヒミツの本棚」は、清田隆之 著『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』を取り上げます。
2コマ目「きょうのセンセイ」は、その本の著者で、文筆家で恋バナ収集ユニット『桃山商事』代表の清田隆之さんをお迎えします。

番組では、リスナーの皆さまからのメッセージを募集しています。番組のご感想、源一郎さんやゲストへのメッセージ、月イチ恒例の「比呂美庵」で相談したいことなど、ぜひお送りください。

高橋源一郎の飛ぶ教室

ラジオ第1
毎週金曜 午後9時05分

メッセージはこちら


【放送】
2024/03/08 「高橋源一郎の飛ぶ教室」

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