【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ ~哲学研究者 永井玲衣さん~」

高橋源一郎の飛ぶ教室

放送日:2024/02/02

#文学#読書

きょうのセンセイは、哲学研究者の永井玲衣さん。以前「ヒミツの本棚」で、『水中の哲学者たち』という永井さんの著書を紹介しました。永井さんは、企業や学校などさまざまな場所で「哲学対話」を行ってこられました。そこで、この日の「飛ぶ教室」のスタジオでも哲学対話が行われることに! 源一郎さんと永井さん、そして礒野アナの哲学対話は、どんなところにたどりついたのでしょうか!?

【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
永井:永井玲衣さん(哲学研究者)


礒野:
源一郎さん、2コマ目です。

高橋:
はい。今日のセンセイは、哲学研究者の、この方です。

永井:
永井玲衣です。よろしくお願いしま~す。

高橋:
よろしくお願いしま~す。

礒野:
よろしくお願いしま~す(拍手)。

高橋:
お待ちしておりましたです~(拍手)。

礒野:
では、プロフィールをご紹介します。永井玲衣さんは1991年、東京都生まれ。専門である哲学研究と並行して、学校や企業・美術館など、さまざまな場所で哲学対話を幅広く行なっています。また、坂本龍一さん、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Gotch)さんが中心となって、東日本大震災から10年という節目に立ち上げた「D2021」などでもご活躍です。

高橋:
はい。え~っと、永井さんとはですね~、この『飛ぶ教室』出演の前に、Eテレのドキュメンタリー番組『ETV特集』で、すでに対談をしておりまして…、

永井:
はい。
お久しぶりです。

高橋:
2022年…、ですかね?!

礒野:
ね! おととしになりますね~。

高橋:
あっ、なんかメールきてるんだっけ?

礒野:
はい。早速いただいています。永井さんに質問です。

永井:
はい!

礒野:
ラジオネーム「ジャンバック」さん。奈良県にお住まいの方。

哲学者・哲学研究者・哲学教授に、女性が極めて少ないのはなぜでしょうか?

ということなんですが、そうなんですか?

永井:
そうですね。これってすごく丁寧に考えないといけないことで。
本当はいるんですよね。
でも着目されていることが少ないっていう、やっぱり「哲学」っていう1つの学問のジャンルってなると、男性が中心的になってしまうという、そういった不均衡さっていうのは、この業界も抱えていると思いますね。

礒野:
ええ、ええ。

高橋:
強いて言うと、ハンナ・アーレントとシモーヌ・ヴェイユぐらい?

永井:
そうですね。あるいは、ボーヴォワールであったりとか…。

高橋:
ボーヴォワール、あ~、そうですね。いることはいるんだけど…、

永井:
そうなんですよ~。

高橋:
やっぱり逆に言うと目立つよね。

永井:
うん、そうですね~!

高橋:
文学なんかも本当に半々というか、どっちかって言うと女性のほうが多かったりとか…。
そう! 僕は同業だと思ってるんだけど…、

永井:
うふふふふっ(笑)。

高橋:
不均衡だよね(笑)。

高橋・永井:
あはははははっ(笑)。

高橋:
そうなの! それはなぜなんですかね~?

永井:
う~ん、やっぱりその学問、まぁ、哲学を「学問」と考えるか、「営み」と考えるかは、また分かれて…、私は営みと考えますが。ただ研究っていう分野で見ると、どうしても男性のほうが生き残りやすいとか、注目されやすいっていうような不均衡さのもとにあるような、ここをちょっと是正していかなきゃいけないなとは思いますね~。

高橋:
その代表が永井玲衣さん!

永井:
あははは(笑)。

礒野:
ホント!

どうぶつ会議 ~子どものための哲学対話~

高橋:
それで、さっきも言いました『ETV特集』では、ケストナーの『動物会議』をもとにですね、えっと~、3日間やったのか!? 哲学対話を!

永井:
そうなんです。3日間、3時間…、1日3回なので、1日9時間以上を3日間やりました。

礒野:
えっ! みっちり!

高橋:
みっちりやりましたよね。

永井:
みっちりやりました~。

高橋:
あの~、えっと~、ゲストと、それから…、中学生?

永井:
中学生もいましたし、小学生もいましたし、小学生の親もいましたね。

高橋:
あぁ、そうですね!

永井:
はい。

高橋:
やっぱりテーマとしては『動物会議』なんで、戦争とか暴力っていう話だったんですけど、僕は途中参加で、途中で帰っちゃったんですけど…、永井さん、ずっとやられてどうでした、感想は?

永井:
いや、もう、あんなに対話をやったことがないので…(笑)。

高橋:
あはははっ(笑)。

永井:
もうヘロヘロになって(笑)。

高橋:
ずっと対話してたもんね(笑)。

永井:
しかも、戦争についての、いろんな問いを立てたんですけども。
そこに出てくる「そもそも、会議って必要なのか?」とか、あるいは「かしこい大人って、どんな大人なんだろう?」とか、いろんな問いが立ったのが印象的でしたね~。

礒野:
う~ん!

高橋:
かしこい大人ね。いるんでしょうか、って。

礒野:
考えちゃいますね~。
そのときの源一郎さんの印象って、いかがでしたか?

高橋:
なんだっけ? ぜんぜん覚えてない…。

永井:
うふふっ(笑)。覚えてない(笑)。
あれですよね、源一郎さんと、中学生…、福島県の子たちと一緒に合同で対話をして、その後、対談を一緒にさせていただいたっていう感じでしたね。

高橋:
あのね、楽しかったです。

礒野:
楽しかったですか?

高橋:
やっぱりね、中学生たちと話すほうが大人と話すより楽しいですね。

礒野:
あははは(笑)。源一郎さん、よくそうおっしゃいますよね。

高橋:
さっきも1コマ目で『子どものための哲学対話』(永井均著、内田かずひろ絵)っていうのを取り上げたんですが、なんかね、対話って根本的に子どもとやるほうがいいよね!

永井:
あははは(笑)。

礒野:
あ~~~。

高橋:
いや別に大人が駄目だってわけじゃないけど。
どちらかというと、それすら偏見なのかもしれないけど、子どもたちのほうが、まだその偏見にまみれていない…、のかもしれないという、希望をね。

礒野:
あっ、ピュア?

高橋:
ピュアっていうか、さっきと一緒じゃない?
要するに僕らは「生きるってことは洗脳される」ってことなんで…、社会に行けば行くほど洗脳の度合いは強くなってくるから、

礒野:
そうですね~。

高橋:
っていうことだと、思います。

永井:
そうですね。「疑うことを臆(おく)さない」ところは、子ども特有かもしれないですね。

礒野:
あ~~!

永井:
ただ、言うことは、やっぱり大人の言うことを言ったりもするので、社会性を引きずってるっていう意味でいうと大人と同じだなと感じることも多いですね~。

高橋:
そう、そう、そう、そう。
逆に言うと、その抵抗力が弱いんで…、

永井:
はい!

高橋:
大人だと一応まだ抵抗力があるけどさ、「これっ!」って言われるとすぐ信じちゃうっていう点では、ピュアなだけに、変なものを信じちゃったりね。

永井:
そうですね~。

高橋:
それがなかなか…、

礒野:
責任重大!

永井:
あはははははっ(笑)。

高橋:
そう、そう、そう、そう。

礒野:
そう思うと子どもとの対話って…。

永井:
確かに…。

1コマ目の続き ~他者と共に編む哲学~

高橋:
それで、え~っと、1コマ目。
いや僕、ホントに正直言って「永井玲衣さんて永井均さんの娘さんなんだろうな」と思ってたんですよ。
だってまぁ、こういうジャンルで、しかも「哲学対話」をやってて…、

永井:
う~ん!

高橋:
年齢もちょうど父と娘ぐらいだし。

永井:
そうなんです。

高橋:
言われるでしょ?

永井:
ものすごく言われて。で…、

高橋:
もしかして不快? あはっ(笑)。

永井:
いえ、そんなことはない(笑)。私、1回、エッセイで、エッセイのタイトルに『私の父は永井均ではない』っていうタイトルのエッセイを…、

高橋:
あはははは(笑)。書いてるの?

永井:
書こうとしたぐらい、よく聞かれますが、皆さんに。

礒野:
本当は違うんですよね?

永井:
お会いしたこともございません。

高橋:
親戚でもない?

永井:
全く。うふふっ(笑)。

礒野:
そうですか~。

高橋:
ということで、ただジャンルとしてはですね「哲学対話」。しかも「子どものため」っていうのは、もう永井玲衣さんもやってることなんで…、

永井:
確かに!

高橋:
え~っと今、ちょっとご紹介しましたが、すみません…、ちょっと感想を専門家に…。怒らないでね(笑)。

永井:
うふふふふっ(笑)。

高橋:
どうでした?

永井:
あの~、永井均さんと確かにすごい名前も似てますし、やってることも似てるんですけども、やることが全然違っていて、私は。あの~、今の永井均さんの考え方もあるとは思いますけれども、私はどうしても、こう、均さんのものに、「ちゃんと1人になっていく」というか、「孤独」っていうことがキーワードとして出てくると思うんですけど…。

高橋:
ありましたね。

礒野:
「友だちはいるのか、いらないのか」とかね。そういうところでしたね。

高橋:
そう、そう、そう、そう。

永井:
むしろ、研ぎ澄まされていくような哲学ですけども、私は「他者と共に編む哲学」っていうところが特徴なので、ちょっと対照的かもしれないですね。

高橋:
永井均さんの本の中では、要するに「友だちはいらないし、1人で生きていく」というのが根本になきゃだめだっていう…、

礒野:
ええ。ありましたね。

高橋:
そのへんは、割と永井均さんのほうの思想みたいなところがあって、そこはちょっと、違うかな、と思って。

永井:
うふふふふっ(笑)。

礒野:
「他者と共に編む」というのは、どういう?

永井:
私はその「1人で考えるということさえ、私1人ではできない」っていう立場に立つんですよね。

高橋:
うん。

永井:
で、「言葉が逃げていく」っていうお話を、1コマ目で源一郎さんがしてましたけども…、それはすごく思っていて。他者が語る言葉を「あっ! これは私の言葉だ」というふうに発見していくことを、私は「対話」と呼んでいて、その意味で言うと、「共同で編まれるものとして言葉を考える」というところですね。
まぁもしかしたら、そこはそんな遠くないのかもしれませんが…。

高橋:
ただ、「出方」は違うよね。

永井:
う~ん。

高橋:
均さんのほうは、どんどん孤独になっていくし、
玲衣さんのほうは、弱くなった人がフラフラしながらこっちに歩いてくるっていう…、

永井:
う~ん。そうですね(笑)。

高橋:
それはやっぱり、やり方としてあるんですよね?

永井:
う~ん。

『水中の哲学者たち』

高橋:
玲衣さんの本の『水中の哲学者たち』っていうのを2022年にご紹介しまして…、

礒野:
7月ですね。「ヒミツの本棚」で…。

高橋:
本当に面白かったんですが、これ、まさに哲学対話の記録ですね。どんなふうにしていたかっていうことが、まぁ、ある意味その「失敗の記録」みたいにもなってて…、

永井:
いや、それを言われたときに…、源一郎さんに、まさにそういうふうにおっしゃっていただいて、「これは対話がうまくいっていないお話ですよね?」って言われて…、

礒野:
ええ、ええ。そんなことおっしゃったんですね!

永井:
まさに本質を当てられてしまって…。

高橋:
だからね、うまくいってると、スーッと読んじゃうじゃない?
これは、途中でうまくいかなくて、玲衣さんが困惑するとかね。

永井:
あははっ(笑)。

高橋:
それはね~、実にカッコいい!

永井:
あ~、うれしい!

礒野:
リアルで…。

高橋:
あ~、もうだから、言い負かされるというか。1つの例でね、この本のメインなんですけど…、

永井:
はい。

高橋:
「おとなとこどもの違いは?」か、テーマが。そのときに、ある子に「本当は答えを知ってるんでしょ!」と。「いいんだよ、はやく言って。言っちゃいなよ、答え!」っていう。
これはすごい感動的なところだよね(笑)。

永井:
あははは~(笑)。

礒野:
対話の会の結論というか、それを知ってるんでしょう、と…?

高橋:
「知ってるんでしょう! はやく言ってよ」って言われてね、絶句する。

永井:
うん。

高橋:
それはこの本の最初のほうにあるんで…。あれ、実際にどういう感じだったんですか?

永井:
もう子どもは絶望しきってるんですよね。「答えがどうせあるんでしょ」ということなので、「自由にお話ししてね」と言っても、「どうせ答えるんでしょう」って、ニヤニヤしながら言う、と。
で、まぁ彼自身とても困っている子どもだったんですよね。それが痛切に感じられて、私は言葉を失うんですけれども、そのあとに「どうか一緒に考えて」って頼むんですが、私たちが置かれている場っていうのが、いかに表現できる場ではないか、ということを何度も思い起こすようなシーンですね。

礒野:
へぇ~。間違ったことがあって、それを言いたくない、とか?

永井:
そうですね。「どうせ大人が答えを持っているんだ」と。

礒野:
この話し合いの時間というのも「もういいから」「進めてくれよ」っていうことですかね~。

高橋:
そう、そう。これって授業でしたっけ?

永井:
授業ですね。

高橋:
だからさ、「無授業」だと思ってるんだよね。

永井:
うん。そうです!

高橋:
学校が設定して、授業なんだから、今までの授業は、全部に答えがあるからさ。
この人は答えを知らない素振りをしてるけど、「フリだ!」と。

永井:
うん。

高橋:
これはね~、でも、悲しいと同時に、ある意味、すごい本質的だよね。

永井:
う~ん。そうですね。自分もそういう子どもだったということを思い出すっていうシーンですね。

礒野:
そうだったんですか。

永井:
はい。深く、教育というもの、学校というものに絶望していたっていう…。

礒野:
う~ん。

哲学対話 ~福島県浪江町に通って感じたこと~

高橋:
それで、え~っと、それでも「哲学対話」をずっと続けていて、今どんな感じなんですか?
『ETV特集』のときには、福島の子たちのところに継続して行ってらして、今も?

永井:
今も行ってますね~。福島県の浪江町という場所にもよく行っていて、小学生・中学生と一緒に話すんですけど、そこの中学生の女の子が立てた問いが忘れられなくて。
「この町が大好きなのに、この町を出たいと思うのはなんでだろう?」っていう問いを立てたんですよね。

高橋:
う~ん。

永井:
こうやって私の場では「これについて考えてね」というよりも、「参加者の問いを聞き取ること」をすごく大事にしていて、そういった切実で、でも手のひらサイズのもの、「自由とは何か」っていかにもカッコいいものじゃなくて、その子の手のひらに収まるような、でも、とても人肌のあるような問いっていうのを聞き取るのをすごく大切にしてますね~。

礒野:
う~ん。

高橋:
今、5年ぐらいやってる…って?

永井:
はい、やってます。

高橋:
問い自体が変わってきたりとか、それから、逆に繰り返すことによって、彼らが変わってきたりとか、そういうのは感じますか?

永井:
そうですね。「考えるっていうことが、この世にあるんだ」って言われたことがあって。

高橋:
あははっ(笑)。

永井:
あははははっ(笑)。
高校生の子にも言われたことがあるんですけど。「考えるということがあることを教えてくれてありがとう」っていうのが。

礒野:
例えば授業で、一方的な知識を教わる、ではなくて、自発的に?

高橋:
そう、そう。それでね「考えるってことは、どういうことか」っていうのは、まぁ、書いてあるけどね。なんか。でも自分でやってみないと、分からないんですよ。アレ、経験だから!

永井:
そうですね。

高橋:
それをさせてあげるのが、まぁ。
ソクラテスもそうですよね?

永井:
そうですね~。

高橋:
もともと哲学を始めた人は、弟子って、ソクラテスの弟子ってさ「答え教えてよ!」じゃない(笑)。同じ! 「先生、知ってるんでしょ?」って言ったら、ソクラテスは「まぁまぁ、慌てないで」って、有名な話だけど、「まぁとりあえず散歩しようか」みたいな。

永井:
ふん、ふん、ふん。

高橋:
横道に…。それで、会話が始まっていく。だから「同じ」っていうことなんですかね?

永井:
そうですね。ただソクラテスよりも私はもう少し「場作り」に、興味があって…、あははははは(笑)。

高橋:
そうですよね(笑)。

永井:
ソクラテスはとても、ともすれば「論破」じゃないですけれども、けっこう鋭く追求していくんですけど、私はもっと「一緒に場を編んでいく」ってことに関心があって、なので学校だけじゃなくて、例えばこの間は厚生労働省でやったりとかも。

礒野:
えっ~!

高橋:
役人さん。

永井:
そうなんです! ただ一方で、大阪の西成区の釜ヶ崎と呼ばれる、日雇い労働者の方が多く集われる場所でやったりとか…。

高橋:
それって、どういう…、対話になるの?

永井:
あははっ(笑)。

礒野:
対話は。

永井:
もう「問い出し」から、最高でしたね~!

高橋:
面白い?

永井:
面白いですね~。いきなり宇宙の不思議から飛び出したり、あるいは、「なんかさっき女性に振り向かれたけど、おれってモテてるのかな~?」とか(笑)。

礒野:
あはははっ(笑)。

永井:
「どうですかね~?」っていうか「モテるって、そもそもなんでしょうね?」とか。

高橋:
あ~、そう、そう、そう。根源的な疑問だよね。なるほどね~。

永井:
楽しいです。

高橋:
じゃあホントに行ってみないと、何が起こるか分からない?

永井:
分からないです。「デモ」でもやったりしますね。

高橋:
えっ?

永井:
「デモ」でやったこともあります。

高橋:
デモで、どうやって?

永井:
神宮外苑の樹木伐採の…、

高橋:
あ~、はい、はい、はい。

永井:
「D2021」でやったときに、そういった、なんでしょうね、「私たちが望む社会って、なんだろう」とか「豊かさって、なんだろう」とかいうような問いで150人くらいとやりましたね。

高橋:
はぁ~!

高橋・礒野:
すごいね…。

永井:
路上で!

高橋:
あぁ、路上いいね~!

礒野:
伐採に反対している皆さんと、ですよね~?

永井:
そうですね。

高橋:
どこでも誰でも…。

哲学対話をスタジオでやってみよう!

高橋:
そこでですね、実は今回、実際に哲学対話を、やっていただこうということで…。

永井:
はい。うふふふっ(笑)。やっていただこう…(笑)。

高橋:
あの~、まぁ僕は文学者なんで、哲学者のまぁ友だちみたいなもんなんで…、一応、礒野さんを中心に!

礒野:
よろしくお願いいたします~。

高橋:
実際に、どんな感じか…、きっかけで…。

礒野:
初めてです。

永井:
源一郎さん、背もたれに寄っかかられて(笑)。

高橋:
僕も一応、必要があれば…。

永井:
「哲学対話」って、日々の「問い」をですね、テーブルの上に出しながら一緒に考えるんですが、「よく聞くこと」「自分の言葉で話すこと」「人それぞれでしょで終わらせないこと」を、お約束としてやるんですね。

礒野:
へぇ~!

永井:
はい。で、どうですか? なんか最近モヤモヤしたこととか、イラッとしたとか?

礒野:
あっ、毎日、ちょっとしたイライラはすごくありますけども…、

永井:
はい。

礒野:
もう、それを考えないようにし始めていました。

永井:
えっ、例えばどういうことですか?

礒野:
えっ、なんでしょう…。

永井:
ぜんぜん「手のひらサイズ」で、構わないんですが…。

礒野:
うふふふっ(笑)。あっ、今日モヤっと…、すみません…、あの~(笑)。

高橋:
どうぞ、どうぞ(笑)。

礒野:
コンプライアンスが頭ん中で、駆けめぐっちゃいますけど…、

高橋・永井:
あはははははっ(笑)。

礒野:
それに~、やっぱりモヤッとします。
その、今、いち人間としてきいてくださってるのに、NHKアナウンサーだという鎧(よろい)を被って、なかなか脱げないところにモヤモヤしたりとかぁ~。

高橋:
そうだよね、うん(笑)。

永井:
なるほど~。

礒野:
あと基本的には、週5日勤務、週休2日なんですけども…、

永井:
うふふふふ(笑)。

礒野:
あっ、土日のどっちかに、ちょっと仕事が…、出かけようかなと思ってた日に「入ってくれない?」とかって…、ついつい、今日言われたばっかりで、どうしようかなって思ったモヤモヤとか…。受けようかな、断ろうかな~と思ったりとか、そんな感じなんです。

永井:
最高ですね~。

礒野:
すいません…(小声)。

永井:
いや、私は哲学のハードルをすごく下げたくって、「こういうのって悩みでしょう」とかいうふうにして、個人化されちゃうんですけど、「問い」がありますよね? 「みんなの問い」にできると思ってて。
なんか例えば「NHKアナを被っていることのモヤモヤ」っていうのは(笑)、「私でありながらNHKアナウンサーであることはできるだろうか?」とか、という問いにすると、みんなが参加できるようになると思うんですよ。

礒野:
ええ、ええ。みんな抱えてると思います。

永井:
抱えてる。

礒野:
はい。アナの仲間は…。

永井:
「何かに所属していながら、私であること」っていうと、もっと広くなりますかね~。どうですか、両立すると思いますか?

礒野:
両立させたいですけど、やっぱりあの、もう20年ぐらい、この~(笑)、アナウンサーをやってると、どうしてもなかなか、塩梅(あんばい)が難しいなと思ってますし、ただ、この時代、まさにこの時代で、「個性を出していってもいいんだよ~」とか言われることもありますね。難しいですね~、そこが。

永井:
そのときに、その「アナウンサーである私」っていうのは、「私」なんですか?

礒野:
私になっちゃってます、半分ぐらい、

永井:
あぁ、なるほど。それはどうしてですか? あはははっ(笑)。笑ってる。

礒野:
(*困った顔で、隣の源一郎さんを見つめる礒野アナ)

高橋:
いいよ、前を向いて、僕のほうを見なくても…。

永井:
あははっ(笑)。

礒野:
なんかやっぱりそういう役割。1日の中で…、あの~、大半をその役割として過ごしているからかな~っていうふうに思います。

永井:
なるほど。どうですか、源一郎さんは?

高橋:
あ~、だから、本当は礒野さんがどういう人かっていうのは分からないところがあるんだよね。

永井:
うん、うん、うん、うん。

高橋:
でもじゃあ、本当にその人を分かったことがあるかって、自分に問い返しても分からないから、結局、NHKアナとしての磯野さんを、ひとりの人として見るしかない訳じゃない?

永井:
うん、うん。

高橋:
だから「どうですか?」って言われても「この磯野さん」を知るしかない。

永井:
うん、うん、うん。

高橋:
で、もしかすると、ほかの場所だったら、違った顔で違った言葉で言うかもしれないけど、でも僕だってそうだよね~。

礒野:
そうですね。

高橋:
僕だって、そうですね、18%ぐらいしか見せてないから(笑)。

永井・礒野:
あはははははははっ(笑)。

礒野:
素を!?

永井:
あははっ(笑)。

高橋:
それ言ったら家族にだって…、ね?
全部見せてるかっていうと、見せていないかもしれないしね。っていうか、そんな、「100%」ってあるの?、とかね思うので、その辺はちょっとあまり考えないようにしてるね、僕でも。

永井:
あっ、そうですか! 源一郎さんでも!

礒野:
考えると、ホントねぇ…。

高橋:
だから原稿を書くときだけ考えてる。

永井:
あはははははっ(笑)。

礒野:
あ~!

高橋:
だから、職業的!

永井:
あ~!

礒野:
ほら、一緒じゃないですか!?

高橋:
ホントだ!

永井:
職業的な!

礒野:
職業的に縛られて(笑)。

高橋:
やばい! あっ、でもさ、玲衣さんも普段、哲学者として考える?

永井:
いいえ~! 考えないですね。

高橋:
考えないよね。そういう「自分への問い」みたいなのは、あるんですか?

永井:
自分への問い?

高橋:
う~ん、だから、「君は、どの程度まで永井玲衣なんだ?」とか。

永井:
う~~~ん!

高橋:
「演じてるか?」とか。

永井:
う~~ん、そうですよね~。「私は私であることを演じているのだろうか?」っていう問いですよね、それは。

高橋:
うん。

永井:
ってなると、礒野さん自身は「私が私であることを演じている感覚がある」ということですか?

礒野:
もう、そこも分からなくなっちゃってて、もう考えるのをやめてるなって思っちゃいました。
「人それぞれで終わらせてはいけない」ということで、「ハッ!」と先ほど、最初に言われて思いました。

永井:
う~ん。

高橋:
あのね、僕はキャラ分けてるよ。

永井:
分けてます!?

高橋:
完全に!
普段、書くときは、「私」と「僕」と「俺」で3通りなんですね。

永井:
あぁ。

高橋:
全部違うから。

永井:
うん、うん。

高橋:
あと、「タカハシさん」っていうのもいるんですよ。

永井:
あぁ~、あっそうか~(笑)。

高橋:
で、そのときに、じゃあ「どれが自分」って言われても、わかんない。それを統合して自分がいるかどうか、分からないよね?

永井:
うん、うん、うん。

高橋:
つまり「分けないと、そもそもできないんじゃないのかな」っていうのが、まぁ自分っていうこの、分かんない…、「マシーン」と言うのかさ? 複合体?

礒野:
こういうことが哲学対話って言ってもいいんですか? すいません…、私のただの、おほほほほ(笑)。

永井:
そうですね。こうやって、モヤモヤの原因を急いで正解を出すんじゃなくって、遠回りしているように見ながら一緒に掘っていくのが、私は「哲学対話」と呼んでますね。

高橋:
面白いね~。だから、家でも子どもとやればいいんだよね。

永井:
う~ん。

高橋:
そういう話を…。

礒野:
ふぅ~ん。

高橋:
あっ、そう! 玲衣さんさ…、

永井:
はい!

高橋:
『水中の哲学者たち』の次の本が、何故でないんでしょう?

永井:
あはははっ(笑)。それは私の筆が遅いからです…。あははっ(笑)。早く出さないと…。

高橋:
たぶんね、たくさん、待ってる人が多いと思うので、僕が編集者に代わって、とりたてなきゃないの。
早く書いてください。

永井:
ありがとうございます。はい(笑)。

高橋:
書きたいことあるよね?

永井:
がんばります!

高橋:
今、特にテーマは?

永井:
テーマは、「暴力に抗するものとしての対話」ということになります。

高橋:
楽しみにしております。

礒野:
楽しみにしています。2コマ目のセンセイは、哲学研究者の永井玲衣さんでした。ありがとうございました!

永井:
ありがとうございました~!

高橋:
ありがとうございました~。

高橋源一郎の飛ぶ教室

ラジオ第1
毎週金曜 午後9時05分

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【放送】
2024/02/02 「高橋源一郎の飛ぶ教室」

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