【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ ~音楽家 大友良英さん~」

23/12/29まで

高橋源一郎の飛ぶ教室

放送日:2023/12/22

#文学#読書#音楽

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23/12/29まで

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23/12/29まで

2023年最後の「飛ぶ教室」は、年末恒例! 音楽家の大友良英さんが登場。大友さんと源一郎さんが、この1年を振り返るスペシャルな授業となりました。大友さんが語ったのは、3月に亡くなった、坂本龍一さんとのエピソード。そして、源一郎さんが語ったのは、ことし取り上げたかったけどかなわなかった、あるジャズ歌手について。
それでは、今年2023年最後の授業をどうぞ!

【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
大友:大友良英さん(音楽家)


礒野:
源一郎さん、1コマ目です。

高橋:
はい。この時間はいつも「ヒミツの本棚」をやってる時間なんですが、今日は、今年2023年を振り返りながらゆっくりたっぷり話したい! ということで、年末恒例のセンセイに登場していただきましょう!

大友:
あははははは(笑)。

高橋:
音楽家のこの方です。

大友:
大友良英です。

高橋:
わ~い(拍手)。

大友:
ご無沙汰しております。1年ぶりですね。

礒野:
1年ぶり!

高橋:
机、叩いちゃう(笑)。

♪ドンドンドン

大友:
あははっ(笑)。

礒野・高橋:
よろしくお願いしま~す(拍手)。

大友:
よろしくお願いします!

高橋:
じゃあ、とりあえずプロフィールなどを…。

礒野:
そうですね。
大友良英さんは1959年、神奈川県のお生まれです。9歳まで神奈川で過ごし、10代を福島県で過ごします。音楽家・ギタリスト・ターンテーブル奏者として、ノイズや即興音楽をホームとしつつ、連続テレビ小説『あまちゃん』、大河ドラマ『いだてん』など、多くの音楽をご担当されています。
また、美術作品とのコラボやプロデュースのほか、ふるさとの福島では『プロジェクトFUKUSHIMA!』や夏祭り『わらじまつり』の改革と、全国各地、そしてヨーロッパ、アジアで幅広くご活躍です。

高橋:
一昨年から3年連続で『飛ぶ教室』の大トリを務めている…、

大友:
あははは(笑)。

高橋:
福山雅治?

大友:
いや、いや、いや(笑)。

高橋:
ということで、『飛ぶ教室』の恒例になっちゃって!

大友:
そうですね。

高橋:
大友さんにスタッフが連絡したら、「もうスケジュール空けてるよ」って言われたっていうんで。

大友:
そう! だってねぇ、去年かなぁ? 放送中に源一郎さんに「来年もよろしく!」って言われたんで、その時点で手帳に書いてある。

礒野:
ありがとうございます~!

大友:
だからもし(オファーが)来なかったら、ちょっと寂しいなぁと思ってました(笑)。

高橋:
ということで、本当に大友さんが来て、え~、1年が終わって…、

大友:
はい(笑)。

高橋:
よい年を迎えられる、ということで…、

大友:
ありがとうございます。

高橋:
門松みたいなもんですね(笑)。

礒野:
うふふふふふ(笑)。

大友:
あはははは(笑)。ホントですね。

大友さんの記憶に残った、今年の○○ ~その1~

高橋:
ということで、今日は今年を振り返って、2人で話をしようということなんですが、今年はどんな1年でしたか? 今年はだいぶ活動的になったんですよね?

大友:
なりましたね~。業界的にはコロナ禍が明けて、海外へ行ったりとか、いろいろ普通に戻った感じではありますね。その部分はね。

高橋:
なるほどね。

大友:
なんだけど、やっぱりいちばんショックだったのは坂本龍一さんが亡くなったことで…、

高橋:
僕もね、ショックでしたね~。

大友:
源一郎さんも、この番組で坂本さんのお話をされたのは僕も聞きました。

高橋:
やりましたね。

大友:
ちょっとショック…。亡くなる前に、闘病されたんで、やっぱり遠慮しちゃって、僕は割と水くさい人間なんで遠慮するんですけど、連絡しなかったら、亡くなったあとに出た本で、僕のことをけっこう書いててくれて…、

高橋:
うん、うん。そうだよね~。

大友:
う~ん。あっ、俺が勝手に一方的に友達と思ってただけだって思ってたんですけど、坂本さんも、なんかそう思っててくれたみたいで。あんまり後悔とかしない人間なんですけど、「あっ、もっと…、邪魔になってもいいから連絡すればよかった」って、本を読みながらちょっと思っちゃったんですけどね~。

高橋:
あのね~、坂本さんの話は、ときどきね、大友さんからも聞いてたんで…、

大友:
うん、うん。

高橋:
僕はまぁ、ほぼ同世代。

大友:
ですよね。

高橋:
この番組でもちょっとお話したことがあるんですけど…、

大友:
うん、うん。

高橋:
え~、いろんなところの現場ですれ違ったりもしてて、でも結局あんまり話すことがなくて…、1回、うちの大学に、別の先生が坂本さんを呼んだときに、20分ぐらい話して…、

大友:
うん、うん。

高橋:
そのとき坂本さんと話したのが、「どうして僕たちってさ、話す機会がなかったんだろうね」って。

大友:
あははっ(笑)。

高橋:
同じようなことを考えて、同じようなところにいて、それぞれまぁ頑張って仕事をしてたのに、なんか機会がなかったよね。「今度、絶対、機会つくろうね」って言ってるうちにね、こうなっちゃったもんね。

大友:
う~ん。

高橋:
大友さんの場合はどういう付き合いを…?

大友:
僕は2010年に、それこそNHKの坂本さんの番組に呼ばれたのが、最初に会うきっかけだったんです。

高橋:
そうなんだ!

礒野:
へぇ~!

高橋:
じゃあ、けっこう後のほうだ。

大友:
後です。それまでは申し訳ないけど、ほとんど坂本さんの音楽はサントラ盤くらいしか聞いてなくて、「YMO」も通ってないので…。

高橋:
あぁ~~! 大友さんはジャスだもんね。

大友:
あぁ、なんか、全然通ってなかった…、ですね。

高橋:
それも不思議だよね。

大友:
だから逆に、たぶん坂本さんの周りには、坂本さんのファンすぎる後輩がいっぱいいるんで、あんまり坂本さんに関係を持ってない僕が登場したのは新鮮だったかもしれないっていうのと…、たぶん、さっき源一郎さんが言った意味でいうと、僕と坂本さんはけっこう違うんですよね、経験が…。

高橋:
そうですよね。坂本さんは藝大出身だしね。「正しい」音楽教育を受けてきた(笑)。

大友:
そう(笑)。
僕は全然そういう教育を受けずにきたんで、坂本さんから見たら「なんで僕がこういうのやってるのか?」という興味があったみたいで、だから最初はその辺がきっかけで話しだして…、けっこう坂本さんはメールの返事が早い人なんで…、

高橋:
へぇ、そうなんだ。

大友:
早い!
「この人、仕事してるの?」っていうぐらい早いんですよ(笑)。

礒野:
あははははは(笑)。

高橋:
ずっとスマホ見てるんじゃないかって感じ(笑)。

大友:
うん。まぁ、たぶん、仕事でコンピューターを開いてやってるからだと思うんだけど。

高橋:
あぁ、そうか。なるほどね。

大友:
まず間違いなく、即、返事がくるんですよね~。

礒野:
へぇ~!

高橋:
どんな時間帯でも?

大友:
どんな時間帯でも! まぁでも、時差があるので…、

高橋:
あぁそうか、そうか。アメリカだもんね。

大友:
僕は大体、メールにアクセスするのが日本の真夜中なんで…、

高橋:
むこうは朝とか?

大友:
そう、そう、そう。だから、ちょうど12時間ひっくり返ってるから、僕が真夜中の3時、4時に連絡すると、むこうは昼で…、

高橋:
なるほどね。ちょうどいいのかも…。

大友:
かもしれない。そんなんでメールのやり取りを随分したり、あとやっぱり、東日本大震災が大きかったですかね。

高橋:
あ~、そうだね。

大友:
それで、いろいろ福島での活動を、僕のほうから相談したりとかっていうのもあって、闘病生活になるまでは、けっこう行き来していましたね。

礒野:
へぇ~。

高橋:
あの~、音楽の活動と、それから音楽以外の活動があるじゃないですか。

大友:
うん、うん。そうですね。

高橋:
その関係とか割合は、坂本さんのときは、どうなってたの?

大友:
やっぱり圧倒的に音楽。

高橋:
あっ、結局そうなっちゃうんだ~。

大友:
やっぱり音楽家ですよ。坂本さんも僕も。

高橋:
そうだよね。

大友:
うん。だから福島を一緒に、原発の辺りとか行ったりもしたんだけど、結局ずっと話してるのが音楽の話…、

高橋:
そうなんだ~。

大友:
なんですよね。で、ガイガーカウンターが鳴り出すと、「あっ、このビートは…」とかって(笑)。

礒野:
えぇ~(笑)。

高橋:
あははは(笑)。ミュージシャンだね!

大友:
そう! で、「今のガイガーカウンターの音はつまんないんだけど、昔のやつはいい音するんですよ」みたいな…。「なんの話してんだろう、僕らは」って…(笑)。

礒野:
音楽家が集まると、そうなんですね~。すご~い!

高橋:
へぇ~。

大友:
だからやっぱり音楽の話は多かったけど、ただ福島で活動するにあたって、坂本さんに相談は結構しましたね。「これ、どうだろうな。こういうの、やって大丈夫かな」とかみたいな。

高橋:
で、結構その2010年以降に、割と深く付き合う、音楽的に付き合うようになったのは、なぜなんでしょうかね~?

大友:
おそらくですけど、坂本さんは、それまであまり表立ってやってこなかった即興演奏に強い興味を…、

高橋:
あ~~! なるほど。

大友:
持ち出して…、正確に言うと、最初のころ、すごいやってたんですよね。「YMO」とかやる前くらい。

高橋:
なるほどね。

大友:
で、一時はやってなかったんだけど、たぶんやっぱり戻ったんでしょうね。

高橋:
ふ~ん。

大友:
そのときに、僕がそこの現場にいた、っていうことだと思うんですよね。

高橋:
即興の神様だからね~。

大友:
いや、神様じゃないですよ(笑)。
神様じゃないけど…、たぶん話してて「ツーカー」なんですよ。音楽的な知識がお互いにけっこう…、僕はどっちかって言うとジャズからきて…、坂本さんはクラシックからきてるんだけど、かぶる部分も結構あって、現代音楽の話とか…。

高橋:
共演してますよね?

大友:
共演も結構やりましたね。ほぼ即興だけだけど。

高橋:
どういう感じで、どういうふうにやるの? 坂本さんのときは…。

大友:
いやいや、何も決めずに、即興演奏なので。だいたい本番の時間は決まってるんですよ、40分演奏とか。

高橋:
あ~、うん、うん。

大友:
それしか決めないですね。

礒野:
えっ!?

高橋:
「せ~の!」で始まる?

大友:
「せ~の!」ですね。

礒野:
「こんな感じ」とか、「イメージ」とかは?

大友:
いや、お互いに一切言わないです。

高橋:
黙ってやるの?

大友:
うん。いちばん最初にNHKでやったときだけは、「オーネット・コールマンってフリージャズの人の、ある曲をモチーフにしようか」って、坂本さんに持ちかけられて、それはたぶん、坂本さんが僕に気を使ったんだと思います。

高橋:
あ~、そういうところが好きだからね。

大友:
うん、好きだし、あの~、お互いに初めてなんで…、

高橋:
わかんないもんね。

大友:
うん。うまくいくかどうか、わかんないんで。でもそれ以降は、一切そういうの…。

高橋:
つまり最初のときにうまくいったんだ!?

大友:
いったんです!
そう、それがうまくいったんで、お互いに…、

礒野:
へぇ~。

大友:
いや僕もね、坂本さんと即興やって、うまくいくかどうか正直わかんなくて。まぁでも、せっかく呼ばれたしって思ったら、面白かったんですよね。

高橋:
音楽家は、そうやって音楽で会話できるじゃない?

大友:
うん、うん。

高橋:
坂本さんって、どういう音楽家だったの? 会話してみた感じは…。

大友:
え~と、なんだろうな、僕が出してる音は、ほぼ理解されてるんだなっていうのは、演奏しててわかる感じ…。

高橋:
あぁ~!

大友:
理解しなくても共演はできるんですよ。十分面白いし、誤解して共演してる人とかも面白いし、好きなんですけど、坂本さんはたぶん全部わかってるなっていう。今なんでこの音を出したかもわかってるなっていう…。

礒野:
へぇ~!

大友:
ちょっと怖いくらい。

高橋:
それってすごいことだよね?

大友:
そんな人いないです。あんまり。

高橋:
へぇ~!

大友:
あんまりいない。

高橋:
う~ん。

大友:
すごいですね~。

高橋:
あ~、でもね、それは僕らもわかるなぁ。よく読める人は、作家当人より、よくわかるんです。その人の文章をね。

大友:
あ~、はい、はい。そういうのに近いのかもしれない。

高橋:
「ここをこうやって、ここで迷ったでしょ」とかさ。

大友:
はい、はい、はい。

礒野:
へぇ~!

高橋:
わかるもん。「これ、本当は違う文章を書く予定だったでしょ」って、わかるもん。

大友:
そう、そう、そう。そのたぐいです。

高橋:
ね!

大友:
ただ音楽の場合は、すぐその場で起こる出来事だから…、

高橋:
あっ、その場でやらなきゃいけない!

大友:
相手の反応でわかるんですよね。「あっ、見抜かれちゃったな」とか…。

礒野:
え~っ、すご~い!

高橋:
すごいね~、面白いね~。でも、そういうこと、できなくなっちゃったね。

大友:
できない。だから本当に会って即興演奏するだけで楽しかったし、坂本さんも、ご遺族に聞くと、そう言ってたみたい。

高橋:
あ~。

大友:
だから作品を作んなかったんですよね。それが悔やまれちゃうかな。

高橋:
そっか! ぜんぶ即興だったから、残ってないんだ!?

大友:
即興の録音は残ってるにしろ、「なんか一緒に作ろう」って話してもよかったな、とは…。

礒野:
あ~~。

大友:
でも即興やるだけで楽しかったんで。ときどき、年に何回か、やるくらいで十分。

高橋:
そういうふうに考えると、音楽って、ぜいたくだよね。

大友:
ぜいたくです。
本当にぜいたくで…、そういう意味で、友達って言ったら僭越(せんえつ)かもしれないけど、音楽的にこんなに一緒にやってて楽しい友達ができたな、とちょっと思ってた、ですね~。

高橋:
あの~、うちの業界にはそういう友達はできないね、なかなか。

大友:
小説はまぁ1人…、

高橋:
1人。
1人だからね~。

大友:
1人で書きますもんね。

高橋:
コミュニケーションができるって、すごいよね~。

大友:
音楽はまぁ1人でも作れるけど、基本的にはアンサンブルで作るもののような気が僕はしてるので、やっぱり自分の音に対して返ってくる音っていうのが、お互いにある中で進む感じですかね。

高橋:
あのさ~、坂本さんは亡くなっちゃったんだけど、

大友:
う~ん。

高橋:
亡くなっちゃった坂本さんとの付き合い方って、どうなのかねぇ?

大友:
いや~、なんか…、コロナ禍だったこともあって、お葬式とかセレモニーがないって、意外ときついもんだなっていうか…。

高橋:
うん、うん、うん。

大友:
自分の中で、どう解釈していいかわからなかったんですけど…。
ただ坂本さんが最後に僕と小山田圭吾さんに送ってくれた音源があって、それで3人で演奏したんです。坂本さんは残された音源で、僕と小山田さんの3人で即興したときが、ちょっと即興演奏…、みたいになって。
それが僕にとってはちょっとセレモニーみたいな…、だったかな。

礒野:
追悼というか…。

大友:
そうですね。なんかやっぱり、そういう機会がないと、なかなか難しいものだなっていう。

礒野:
気持ちの…、整理というか…。

大友:
はい。

高橋:
いや~でもね、本当に、そういうことって、めったにないことで…、

大友:
う~ん。

高橋:
大友さんにとっても大切なことになっちゃってて…、

大友:
う~ん。死なれるまで、そこまでと思ってなかったから、いなくなってみて、「あ~…」って思いましたね。

源一郎さんの記憶に残った、今年の○○ ~その1~

高橋:
じゃあ、今度は僕からの…、

礒野:
源一郎さんの今年の!

高橋:
いろいろあったんですけど、坂本さんが亡くなったということで…、

大友:
うん。

高橋:
音楽家が亡くなるエピソードについて、ちょっとお話したいと思っています。

大友:
はい。

高橋:
安田南さんというジャズ・シンガーがいて、よくご存じですよね?

大友:
はい。面識はもちろんないですけど…。

高橋:
1943年生まれで、生きてれば、今年80歳。

高橋:
しかもすごいのは 今、ウェブの百科事典には…没年が4つ書いてある!

大友:
ん、ん?

高橋:
亡くなった年が…。

大友:
説がいろいろあるってことですか?

高橋:
説がいろいろあるっていうことで…。
もうこうなってくると、僕、実は何度か「安田南さんは亡くなった」っていう話を聞いたんですけど、でもその後、またしばらくたって別の死亡説が…。

大友:
それって、生きてる…、かもしれない…。

高橋:
本当にそう思います! で、あの~、安田南さんという人は、生きていれば80歳ぐらいになるということで、山下洋輔さん(ジャズ・ピアニスト)とか…、

大友:
そうですね。洋輔さんと同世代ですよね。

高橋:
日野皓正さん(ジャズ・トランペッター)と同世代で、

大友:
はい、はい。

高橋:
日本の、戦後のジャズを生んだ1人みたいな。

大友:
はい、はい。

高橋:
日本のビリー・ホリデイと言う人もいて。
ただ彼女はですね、主に活動していたのは70年代。

大友:
うん…
ですね。

高橋:
大友さんは、その当時、知ってた?

大友:
もちろんもちろん。高校生でジャズに染まりだしたころで、すっごい大人に見えました!

高橋:
そ~!

大友:
高校生が触れちゃいけないくらいの大人の雰囲気を…。

礒野:
なんかカッコいい感じのお写真がありますよね。

大友:
残っているジャケット、有名なジャケットが、タバコをふかして、腰を下ろしている、アレとかもね…、本当に大人の女の人に憧れるけど、決して手が届かないという人の代表格みたいに見ていました。

高橋:
そう、そう。で、まぁこの人は歌もすばらしい。ただ、レコードは2、3枚しかない。

大友:
うん、うん。

高橋:
それから本も『みなみの三十歳宣言 』という本が晶文社というところから出ていて、もはや絶版になっていますが…、

大友:
うん、うん。

高橋:
あの~、歌手としても超一流。

大友:
うん、うん。

高橋:
それから文章家としても超一流。
僕ホントいろんな本を読むんですけど、この人は60年代以降の文化人で、文章がいちばんうまいと思います。

礒野:
へぇ~!

大友:
読んだことなかったです。知らなかったです。

高橋:
圧倒的に! だからぜひ読んで…。

礒野:
『みなみの三十歳宣言 』。

高橋:
今日はね、晶文社の方が聞いてたらね、ぜひ再刊してください。お願いします、復刊!

大友:
ホントですよね~。

高橋:
それで、彼女はけっこう数奇な運命をたどっています。
高校…、ほとんど学校に行かず、ジャズ喫茶に通い…、高校も卒業したかしないかで、すぐ男性と同棲。さまざまな恋愛を繰り返しつつ、ジャズを歌う!

大友:
うん、うん。

高橋:
で、俳優も…、え~と、「黒テント」だったかな。
アングラの女王といわれて。で、有名なのは「中津川フォークジャンボリー」っていう、いわゆるフォークの祭典で、安田南のライブがですね、占拠されてぶち壊しになったのが…、

大友:
おぉ!

高橋:
そのときにマイクで文句を言った、っていう。まぁすごく、当時激しく生きて…。僕ね、文章も大好きだったんです。

大友:
うん、うん、うん。

高橋:
それで実はその後、ラジオのDJというか…、『気まぐれ飛行船』という番組を片岡義男さんと一緒に…、

大友:
あぁ!

高橋:
79年にかけて…、

大友:
やってた~!

高橋:
やってたでしょ!

大友:
やってました!

礒野:
おぉ!

高橋:
伝説の…、

大友:
はい、はい、はい。突然思い出した。

高橋:
名番組があって…。で、彼女は実はそれまでも何度か失踪したんですけど、1979年に最後の失踪をしてから、ようとして行方は知れず。こうやって今も何度も、死亡説が…。

大友:
そうですよね。そのあと歌ったって話もあんまり聞いてない…、ですよね。

高橋:
そう。だから、もう40年以上前ですね、姿を見たことが…。
ところが実はね、僕ね、失踪のあとに会ってるんです。

大友:
え~~!

高橋:
これがね、この話をするために(笑)。
で、彼女が失踪したのは79年で、僕が作家デビューしたのが82年なんですよね。その間…、だから80年か81年に、えっと、僕のいちばん仲がよかった友達が「高橋、安田南に会いたくない?」って言うから、「会いたい!…っていうか行方不明じゃん!」って言ったらね、「ちょっと今ね、知ってるんだよ」って。そしたら彼の友達っていうか、お世話になっている人が、安田南と今一緒に住んでるから…。

大友:
おぉ!

礒野:
え~っ!

高橋:
彼女が安田南で…。
で、「会わせてくれ、会わせてくれ!」って言ったら、「金がないって言ってるから、ごはんおごれよ」って。

大友:
あっはははははっ(笑)。

礒野:
そういう条件だったんですね(笑)。

高橋:
そう。とりあえず会ってもいいけど、ごはんおごれよっていう…。

大友:
いいですね~、その話(笑)。

高橋:
で、僕、横浜のジャズバーへ行って、南さんと会って…、

大友:
へぇ~!

高橋:
ちょっとお話したんですぅ! それで、僕はファンだから…、

大友:
うん、うん、うん。

高橋:
ってか、「生きてたのか~!」と思って…、

大友:
うん、うん。

高橋:
それで、そのとき、今でも覚えてるんですけど、「南さん、1曲歌ってもらえたりするかな?」って言ったら、「いいよ」って言って…、

大友:
うん。

高橋:
そのときそこにあった、その~、クラブのピアノ。

大友:
うん。

高橋:
あれ…、あれは誰が弾いたんだ? 南さんは弾いてないから、誰か弾く人がいたんだよね、たぶん。

大友:
うん、うん。

高橋:
それで、タバコを吸いながら、例の…、

大友:
イメージ通りですね(笑)。

高橋:
水割りをピアノの上に置いて…、よくないんだよ、本当はね(笑)。

礒野:
うふふふふ(笑)。

高橋:
それで、「お定のモリタート」。

大友:
あ~、はい、はい。え~!

高橋:
歌ってもらって、そのときに僕、5,000円貸したんだよね(笑)。

礒野:
へぇ~!

大友:
それ、返ってきましたか(笑)。

高橋:
返ってきてないですよ(笑)。いや~でも…、

大友:
勲章ですよね!

高橋:
そう! もう~!
それからまぁ、結局そのあと彼女に会ったっていう人は、いろいろ調べたけど出てこない。

大友:
ふぅ~ん。

高橋:
なので本当に、この本をもし再刊するとしたら、著作権継承者とか、そういうのもわからないんで、もし、安田南の…、

大友:
そうですよね。

高橋:
その後を知っている人がいたら、

礒野:
ご存じの方がいたら、

高橋:
番組まで…。

礒野:
今回も関係先を当たったんですけど、やっぱり行方がわからなかったんですよね。

大友:
ご本人が聞いている可能性だって、ないとは言えないですよね~。

高橋:
ないとは言えない。

礒野:
そう思いたいですね~。

高橋:
で、『みなみの三十歳宣言』の文章は…。
もともと瀬戸内寂聴さんの妹分とかって言われてたんです。

大友:
あっ、つながりがあったんですか?

高橋:
うん。寂聴さんが書くように勧めて、書くようになった。

大友:
そうなんだ~!

高橋:
この文章ね、僕、思ったんですけど、彼女の歌い方と、激しい生き方と、文章が、全部ね、シンクロしているの。いつか、機会があったら、

礒野:
ぜひね~、ご紹介したいですね、この番組で。

高橋:
ということで、今日はね、何がやりたいって、その安田南さんの曲で、いつも長すぎるんでかけられなかった曲をかけたいと思います。タイトルがね「赤とんぼ/Fly Me To The Moon」なんですけど、なぜかは、聞けばわかります。どうぞ!

(※ 安田南さんの楽曲「赤とんぼ/ Fly Me To The Moon」をフルコーラス聞いた後…)

大友:
当時、僕がジャズを聞きだす前の話ですけど、日本のジャズボーカリストって英語の歌を歌うのが…、

高橋:
あ~、そう、そう、そう。普通だったんだよね。

大友:
普通で、それをいかにアメリカ人のように歌うかがいちばん重要だったんだけど、南さんが最初じゃないかもしれないけど、本当に日本語でね、英語も日本語も同等に扱いながら、堂々と日本語で、別に無理してジャズ風にするでもなく歌うっていう先駆けだと思いますね。

高橋:
先駆けですね。
そのあとフォークやロックも日本語が出るようになったんだけど、でもその前にジャズでは、ね!

大友:
ジャズでは南さんはかなり早かったと思いますね。

礒野:
まさに「赤とんぼ」のような童謡をジャズで?

大友:
堂々とそれを普通に歌うっていうのは、当時はなかった…。今でこそね、そういう人もいますけれども、はい。

大友さんの記憶に残った、今年の○○ ~その2~

高橋:
じゃあ、え~と次の、大友さんの今年の記憶に残ったこと!

大友:
今年はあの~、毎年ずっと震災以降、福島で夏にイベントをやってて、2013年以降は盆踊りとかやってたんですけど、コロナでやっぱり1回、止まるんですよね。

高橋:
う~ん。

大友:
どこの祭りもそうだけど1回止まると、やり方をやや忘れちゃうというか、お金も尽きちゃうし。あれ、毎年やってるからいいんですよね、お祭りって。それで今年、久々に復活する際に、もうお金も尽きたし、どうしよう…っていうときに思いついたのが、「楽器持ってきて演奏したい人、集まって、この盆踊りを一緒にやりませんか」って、譜面も公開して、やったんです。

高橋:
うん。

礒野:
へぇ~。

大友:
「お金も出ません。自腹で来てください。なん月なん日、どこどこです。リハーサルは前日とかにやります」みたいな。

礒野:
うん、うん。

大友:
そしたら70人くらい来てくれて!

高橋:
すごいね。

礒野:
あぁ~! すごい!

大友:
誰が来るかも全くわからないまま…、

礒野:
そうですよね(笑)。

大友:
知ってる人ももちろん混ざってたけど、基本的には知らない人たちで。でも70人で演奏するって、普通じゃないですから(笑)。
ギタリストだけで10人とかいるんですよ!

高橋:
あっはっはっ(笑)。

大友:
ベーシスト4人、ドラマー4人とかね。

高橋:
指揮者が大変だね、いても(笑)。

礒野:
まとまるんですか?

大友:
で、そうなんですよ。みんなうまい人だけでもないし、アマチュアの人がほとんどですから。でも不思議なもんで、なんとかなったんですよね。

礒野:
うふふっ(笑)。

大友:
で! これけっこう、僕の中では画期的な出来事で、今まではやっぱり素人の人がいっぱい集まってやるときもコントロールしながら、うまくプロの人を入れたりしながらやったりとか、やっぱりプロフェッショナルは当然コントロールできるので、互いにね、

高橋:
確かに。

大友:
コントロールしながら演奏するんですけど、それをやんなくて、ただ集まりたい人だけで、ここまでいけるんだ!

高橋:
新しい発見みたいな?

大友:
僕にとっては、もうずっと散々、障害のある人とか、非音楽家の人とやってきたけど、それは、そのときに出た音楽をすべて受け入れるって気持ちでやってたんだけど、今回はある程度、盆踊りで人を踊らせなきゃいけないんで…、

礒野:
あははははは(笑)。

高橋:
ハードルが(笑)。

大友:
目標値があるわけですよ! 今までは目標値がない音楽をやってたから出来たけど、ちゃんと踊らせなきゃいけないっていうのが…、できなかったら、もうシャレで「すみません」って言えば…、

高橋:
あっはははは(笑)。

大友:
別にね「盆踊りだから!」くらいに思ってたら、できちゃって!

高橋:
できちゃったんだ~。

大友:
だから「このやり方で、他の音楽もできるんじゃないか?」って思い出して。
だから福島での活動が、単に福島で活動してるってことじゃなくて、僕にとっての音楽的な大きな意味を、10年もやっていくと…、

高橋:
「音楽的発見もある!」っていう感じですね~。

大友:
そう!
もちろん今までもいっぱいあったんだけど、今年のはもう「コロンブスの卵」的な大発見で、「これでいける!」と思って。「だったら、10月に郡山の駅前で、人を集めて、誰が来るかわかんない状態で、大即興コンサートやろう」と思ったんです。「いける!」と思って。

高橋:
うん。

大友:
そしたらその日、台風が来ちゃって、中止になった(苦笑)。
だから来年に持ち越しになりましたけども~。

礒野:
そうですか~、残念。来年が楽しみですね。

大友:
来年また暖かい時期にならないと、外だと、さすがに寒いときは嫌なので。盆踊りもまた来年も継続して。これだったら予算かかんないんですよね。

高橋:
だからもう、福島から離れられないよね。

大友:
もう、8月は他に仕事が入っても「福島の仕事があるので」って断るのが恒例になってるんですけど。

高橋:
うん。

大友:
なんかそんな形で、次のシフトに、福島での長い活動が…。源一郎さんも最初のころから僕の活動を見てて下さったんでわかると思いますけど、意外と長く続くもんですね。

高橋:
でもさ、やっぱり「次の段階」とか、「この前と同じことはやってられないよ」とかは、あるよね?

大友:
あるある! なんでも「これで駄目だったら終わろう」くらいに思ったんだけど、次の段階が見えてきちゃうと…、

高橋:
できちゃった(笑)。

大友:
まずいですよね。面白くなっちゃって!

高橋:
またできるんだよね。

大友:
う~ん。

礒野:
たくさんの人が、これをね、今日聞いて集まって下さるかもしれませんね~!

大友:
そう。なんかね、やっぱり音楽って1人でやるって結構ハードル高いというか…。ただ下手だと下手なだけになっちゃうんだけど、人数が集まると、すっごい下手な人も、いても気になんないっていうか、むしろ面白いというかね。

高橋:
そうなんだよね~。
あのさ、多様性って、そういうことだよね。

大友:
そうだと思う。

高橋:
つまり、いろんな人が集まっちゃった結果、何か変なものが…、

大友:
生まれる。

高橋:
生まれるんだよ。

礒野:
新しく…。

大友:
で、それが、たぶん面白くないと終わっちゃうんだけど、面白いと、なんか続いていくんですよね~。

高橋:
そのときは、できない人が必要なんだよね!

大友:
必要です。みんなできる人たちでやっても、たぶん発見にならないというか…。

高橋:
ならないんだよね~!

高橋源一郎の飛ぶ教室

ラジオ第1
毎週金曜 午後9時05分

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【放送】
2023/12/22 「高橋源一郎の飛ぶ教室」

放送を聴く
23/12/29まで

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