【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ ~作家 上田岳弘さん~」
23/12/15まで
高橋源一郎の飛ぶ教室
放送日:2023/12/08
#文学#読書
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23/12/15まで
12月8日の「高橋源一郎の飛ぶ教室」、2コマ目の「きょうのセンセイ」は、デビュー10周年となる作家の上田岳弘さんがゲスト。1コマ目の「ヒミツの本棚」では、上田さんのデビュー10周年記念作品と銘打たれた「最愛の」を紹介。上田さんにとって初の本格的恋愛小説でもあるこの作品を紹介したんですが、お伝えしたのは、さあどうなるの? というところまで。そこから先は、源一郎さんの言葉を借りると「袋とじ」。
ということで、作品の核心には触れずに、上田さんの創作の背景や、作品のモチーフとして登場するラブレターへの思い、そして、タイトルの「の」についてなどなど、どんどん話が深まっていったトークをたっぷりとどうぞ。
【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
上田:上田岳弘さん(作家)
礒野:
源一郎さん、2コマ目です。
高橋:
はい。今日のセンセイは、作家のこの方です!
上田:
作家の上田岳弘です。こんばんは~。
礒野:
こんばんは~。よろしくお願いしま~す(拍手)。
高橋:
いやもう、お久しぶりでございます。
上田:
お久しぶりでございます。
高橋:
前の番組の「すっぴん!」のときに来ていただいて…、
上田:
そうですね!
高橋:
何年たったんだ?
上田:
あれは…、
高橋:
台本に2019年て書いてあるから、4年…?
上田:
4年ちょい前ですね。
高橋:
4年前か。
礒野:
芥川賞を受賞された2019年に、「すっぴん!」に出演されてますね~。
高橋:
あ~~! 『ニムロッド』ですね~。
デビュー10周年記念作品『最愛の』
高橋:
もう10周年。
上田:
そうなんですよ。おかげさまで。
高橋:
記念作品で…。っていうかさ、いくつ書いてんだ? たぶん10個くらい書いてるよね、もっとか!?
上田:
たぶんこれ9作品目とかですかね。
高橋:
でしょう! ほぼ毎年出てるよね。
上田:
あっ、そうですね。
高橋:
書き過ぎだよ(笑)。
上田:
あははははっ(笑)。
高橋:
いや、そんなことないか(笑)。
上田:
そうですよね(笑)。
高橋:
いやでも、面白かったです!
上田:
ありがとうございます。すいません、なんか複雑なお話を解説いただいて、ありがとうございます。
高橋:
さっきも言ったんだけど、読むのに苦労は…、まっ、今までの上田さんの小説に比べると(笑)、そんな苦労はしないんだけど、説明が難しいよね。
上田:
そうですね~。
まぁ、やっぱり読みやすいように、あまり細かいことは気にせずに、面白く読めるように工夫はしたつもりなんですけど。
高橋:
そう、そう、そう。でも実際に、他人に説明するためには論理的に言わなきゃいけないんだよね。
上田:
そうですよね。
高橋:
なので、そうすると「これはアレで、何?」みたいに(笑)。
上田:
あははは(笑)。確かに!
高橋:
でもそれが逆に、説明しようと思うとさ、構造が見えて面白いよね。
上田:
あぁ、そうですよね~。
高橋:
僕の中での「構造表」を作ってきたよ(笑)。
こんなふうになってんのかって。
上田:
すいません、恐縮です。
高橋:
はい。ということで、え~と、『最愛の』という最新作で、もうこれはね、いろいろ聞きたいことがあるんで!
上田:
うれしいですね~。
『最愛の』はどのように書かれたのか?
高橋:
え~と、まず…、
上田:
はい!
高橋:
毎回なんか、作品で、こういうことを書こうと思って、決めて書くと思うんですけど、このときは、まず何から決まったんですか?
上田:
そうですね…、まずは「リアリズム」というか、「あまり突飛すぎることを出さない」。
高橋:
あ~! 自己否定だね!
上田・高橋:
あははははははっ(笑)。
高橋:
そう、だから、上田さんの話ってさ、もはや「トップ・オブ・突飛」みたいな!
上田:
そうですよね。
高橋:
ずっとね。
上田:
はい。
礒野:
これまでの作品が?
高橋・上田:
そう、そう、そう、そう。
高橋:
何? もう嫌になったの(笑)。
上田:
いやまぁ、やっぱりですね、そろそろ、シフトチェンジしたほうがいいのかなっていう。
高橋:
あぁ~。なんか内発的な感じ?
上田:
そうですね。内発的な感じですね。
高橋:
誰かに言われたからじゃなくて?
上田:
たぶん違ったと思いますね。そろそろ、飽きるわけじゃないですけど…、まぁなんか、「自分の作風に疲れてくる」みたいな。
高橋:
あ~、わかる、わかる。
礒野:
へぇ~!
高橋:
「また、あれかよ!」みたいなね。
上田:
そう、そう、そう(笑)。
礒野:
そういうものなんですね。
高橋:
別に、似てるわけじゃないんだよね。
上田さんはね、1個1個を、毎回まぁ、言ってみれば趣向を変えてるから。
上田:
はい、はい、はい。
高橋:
ただ、大枠で言うと、まぁ同じっていうかね。
上田:
そうですね。「材料が同じで、別の料理を作っている」みたいな…、感じですかね。
高橋:
そうだよね。なんか同じのが出てくるよね。
上田:
そうなんですよ。
高橋:
じゃあそろそろ、違う材料で!
上田:
そうですね。全く違うジャンルの料理に挑戦したい、っていうような感じでしたね。
高橋:
じゃあこれ、『最愛の』は、どういうジャンルなんですか?
礒野:
あぁ!
上田:
リアリズムですから、「日本風」というか。
高橋:
あ~、日本風の!
上田:
日本風なのかな。まぁ「和食」みたいな。
礒野:
うふふっ(笑)。
高橋:
洋食から…、
上田:
洋食から…、
高橋:
和食に…、
上田:
変わりました(笑)。
礒野:
例えが面白い。料理なのが…(笑)。
高橋:
フランス料理の濃い~ソースやめた!?
上田:
そうですね。
高橋:
あぁ~。
もうちょっと、じゃあ、あっさりめな?
上田:
あっさりめで、バクバクいけちゃう、みたいな。
高橋:
素材を生かした、みたいな。
上田:
そう、そう、そう、そう(笑)。
高橋:
あっさりしてないよ、別に(笑)。
上田:
そうですか(笑)。
初の本格的恋愛小説
礒野:
初の本格的恋愛小説、ということで…
高橋:
あとはやっぱり、恋愛小説だよね。
上田:
そうですね~。
高橋:
さっきもチラッとさ…、ラプンツェルさんが、まぁあれけっこう、ネタバレって言ったら変だけど、作者が一応、説明に入ってるね!
上田:
あっ、そうですね。「この作品は」っていう。
高橋:
「こういうふうに読んでください」っていう。
上田:
はい、はい、はい。
高橋:
あのね、「うるさい」っていう感じなんだけど(笑)。
上田:
あははははははは(大笑)。
礒野:
うふふふっ(笑)。
高橋:
いやいや、でもね~、それはちょっと、なんかさ、親切なんだよね。
上田:
そうですね。
高橋:
看板をちょっと出しておいて、ここは、「和食だよ」って書いてある。
上田:
そうですね。
高橋:
間違えてさ、ラーメン屋だと思って入っていかないように、っていう感じは…(笑)。
上田:
そうですね。
あそこって、僕の中でも、作品を作る際の肝といえば肝で、そのために文学部の大学院生を出してるっていうのは、ありますよね~。
高橋:
あの、ラプンツェルって、いいよね~。
上田:
いいですよね~。
高橋:
これって…、そうか、最後の話があるから言えないのか。ラプンツェル、最後にも出てくるもんね。
上田:
そう…、ですね。
高橋:
言っちゃいけないでしょ?
上田:
一応、はい(笑)。
高橋・礒野:
あはははっ(笑)。
上田:
袋とじなんで(笑)。
高橋:
そこがね~、面白いんです。それで、あの~あと、さっきも言いました、これって恋愛小説…。
上田:
はい、はい、はい。
高橋:
でもさ、恋愛小説は書いてるもんね!
上田:
まぁあれを、恋愛小説って言っていいのかっていう…。
高橋:
あははっ(笑)。だってさ、時空を超えてるから(笑)。
上田:
そうなんですよね~。「10万年前から好きでした」みたいな…、
話は書いたことがあるんですけど。
高橋:
でもこれもさ~、ある意味、恋愛小説って、直接性がないじゃん?
上田:
まぁそうですね~。
高橋:
10万年はいってないけど、20年はいってるでしょう?
上田:
いってます、いってます~。
高橋:
う~ん。
礒野:
書いて、いかがでした?
上田:
まぁそうですね~、まっ、もともとですね、「元ネタ」というか、過去パートが、20年ぐらい前にいちばん最初に僕が書いた小説から取ってきてるんですよね。
礒野:
あっ! え~!
高橋:
そんなのあった?
上田:
いや、それは発表してないです。
高橋:
発表してないやつなんだ。そうなんだ~!
礒野:
未発表の!
上田:
未発表で…、
礒野:
上田さんご自身が20年前に書いてた…?
上田:
そうです、そうです。
高橋:
あっ、じゃあ、もうデビュー10年前っていう…。
上田:
さらに10年前ですね。大学生、19、20歳ぐらいのとき…。
高橋:
ということはもう、ちょうどその頃…、
上田:
そうですね~。
高橋:
…の話。
えっ! じゃあ、これはある程度リアルな話なんですか?
上田:
いや、まぁ、そこまで、そういう意味ではリアルではないですけど。ホントにあの、習作というか、いわゆる作家のなり方もわかってないときに、本当に初期衝動的に「とりあえず書いてみよう!」って書いたものが塊としてあって…、
高橋:
それを、ずっと置いといた、っていう感じ?
上田:
そうです、そうです。
高橋:
あ~、凍結を解凍して。
上田:
そう。
高橋:
そうなんだ~!
礒野:
へぇ~!
上田:
リアリズムを書くにあたって、なんかそれを引っ張り出してきて、リメイクじゃないですけど、そういったものをやってみた、っていう。
高橋:
ごめん、聞いていいですか?
上田:
はい。
高橋:
それ、どんな話だったんですか? もともとのやつは。
上田:
もともとは、やっぱりその、離れ離れになって文通していて会いに行くっていう構図は…、
高橋:
あっ! あったんだ!
上田:
まんまなんですけど、ただこういう、現代パートとか、そういうのは全くなかったので。
高橋:
あの~、これさ、話にちょっと背景があるじゃないですか。
上田:
はい、はい。
高橋:
ちょっと、ネタバレになるんで言えない背景とか…。これはオリジナルからあるの?
上田:
あっ、それはないです。
高橋:
あ~! それは作ったやつね。
上田:
やっぱり10年…、
高橋:
そりゃそうだろう(笑)。
上田:
そうですね。さすがに(笑)。
高橋:
ということは、文通って…、小説家にこう聞いてもしょうがないんですけど、これは実体験とか、関係あるの?
上田:
これが僕、文通したことがなくて~。
礒野:
え~っ!
高橋:
マジで~!?
上田:
ないです、ないです、ないです。
礒野:
私、勝手に、もしかして実体験かなと思ってました。
上田:
そうですよね。そうありたかったんですけど、残念ながらないですね~。
礒野:
ある意味、憧れとか?
上田:
文通はしてみたいなと結構思ってましたけどね~。
高橋:
あの~、手紙は書くでしょ?
上田:
まぁ当時は、書いてましたけどね。
高橋:
あの~、すいません。ラブレターは書きました?
上田:
ラブレターは実のところないかもしれない(笑)。
高橋:
書いたことないかも?
上田:
ないかもしれないです。
高橋:
え~っ!?
上田:
すいません、なんか(笑)。
高橋:
いや、いや、いや、別に怒ってないよ(笑)。
礒野:
すいませんって(笑)。
高橋:
書かないもんなのかね、最近は?
上田:
いや~まぁ、メールとかは書きますけどね。
礒野:
そうですよね~!
高橋:
そうか、二十歳のころはメールがあったんだっけ?
上田:
メールはありましたね。
礒野:
上田さんと私、同じ学年ということがわかりました!
上田:
そうですか!
礒野:
はい!
高橋:
もうメールあった? 大学のとき。
礒野:
メールですよね?
上田:
ギリギリあったかな、くらいですよね~。
礒野:
うん。そうですよね。
高橋:
あ~、じゃあ、まぁ、ラブレターみたいなものを書く必要はなかったっていう…。
上田:
それのメールバージョンとかはあったかもしれないですけどね。
高橋:
あ~。どんなこと書いたか覚えてます?
上田:
いや(笑)。覚えてはいますけど…、まぁ、ちょっと、ねぇ…(笑)。
礒野:
あはははは(笑)。
高橋:
いや別に、教えろとは言ってないですけどね(笑)。
上田:
すいません(笑)。
高橋:
でもこれって、まぁ、ラブレターだよね。
上田:
そうですね、はい。
高橋:
創作上で、ラブレターを書いてみるっていうことになったんですけど、書いてみた感じ、どうでした? 結局、手紙が「主」だよね?
上田:
そうですね。
高橋:
手紙が、彼らっていうか、登場人物を動かしていく話ですけども。
上田:
そうですね。たぶんクライマックスも、おそらくは手紙が半分ぐらいはあるかなっていう感じですよね~。
高橋:
う~ん。それでさ、えっと~、僕は299ページまでで…、
上田:
はい、はい、はい。
高橋:
その先で話していいことって、なんですかね? 僕は言わないからちょっと、上田さん、続きで話していいことは話してもらえませんか?
礒野:
ぜひ、お願いします!
上田:
まぁ「塔あてゲーム」。ラプンツェルの塔あてゲームは、一応、最後は全うしようとします、っていうところがクライマックスっていうところと、最後は2人の手紙のやり取りっていうのを、僕はけっこう、作品の肝かなと思ってるところがあるので、そのまぁ、往復ですね。そこに関しては注目いただきたいなと。
高橋:
そうですね。手紙はまだあるよね?
上田:
手紙ですか?
高橋:
この後。
上田:
あります、あります。
高橋:
ありますよね。そこを読みたいけど、読めませんて、台本に書いてある。
上田:
あははは(笑)。そうですね。
高橋:
あれ読みたいよね、でもね!
上田:
あそこを、ぜひね、読んでいただきたいんですけどね~。
高橋:
あの~、どっかを読んでくれるっていう話だったんですけど…。
礒野:
上田さん、ぜひ!
高橋:
どこを読む? 何ページ?
礒野:
ご自分で読んでいただける箇所が…、
上田:
あ~そうですね~。301ページ。
僕がいちばんというか、作品の中でいちばん気に入っているというか…、そのシーンがあるんで、ちょっと軽く読ませていただいて…。
高橋:
重くでもいいです(笑)。
上田:
あぁ、重く(笑)。じゃあ読ませていただきます。
(主人公が回想しているシーンを、上田さんが朗読)
高橋:
そこが好きなんだ!
上田:
そうなんです。
礒野:
へぇ~!
高橋:
へぇ~~!!
礒野:
理由はどうしてですか?
上田:
いやまぁ、自己反省というか、僕もそういうところがあるので~。
高橋:
なるほどね。
上田:
まぁ、よくなかったのかなっていう(笑)。
登場人物たちの
高橋:
やっぱりさ、主人公がいるでしょ。そして向井さんっていう、謎のモテる…、
礒野:
モテ男…。
高橋:
で、司法試験は受かったよね?
上田:
受かりますね。
高橋:
で、オーバードーズで死んじゃった。
上田:
そうですね。
高橋:
つまりなんか、え~っと、激しく生きて、燃え尽きた、
上田:
う~ん。
高橋:
みたいな人たちが、ちょっとまぁ何人か…。
「先輩」っていう人がいてですね、この人もなぜか、近づいてきて…、
上田:
そうですね~。
高橋:
で、意味もなく、ずっとピアノを弾きまくって、それでまぁ、消えていくでしょ。
上田:
うん。
高橋:
なんか、そういう人たちに対する哀惜(あいせき)の念みたいなものが、恋愛とは別にあるんですけど…、
上田:
そうですね。
高橋:
これは、だって普通ならさ、恋愛のところ読むじゃない?
礒野:
ええ。望未のところかと思っていました。
高橋:
ぜんぜん違うの!
上田:
そうですよね。そこは望未に関しても、その後って、似たようなこと言うんですけど。やっぱりその、なんでしょうね…、青春時代って言ったらアレですけど、まぁ大学生ぐらいのときの、不安定な時代を過ごしていたっていうものを、思い出しながら書いたんで。
高橋:
あ~、なるほどね。
上田:
そこはなんと言うか、僕が作品を書くにあたっても、この作品においてはけっこう「肝」というか、その「不安定さみたいなもの」っていうのを、まぁ書いてみたかったということです。
高橋:
なるほどね~。なんかさ、これ自体は、大きいテーマとして「恋愛」、望未さんっていう謎の女性を巡る恋愛の話だけど、もう1つ、その「寂しい男たちの話」ですよね。ちょっと。
上田:
そう、そう、そう。
礒野:
久島のね…、
高橋:
主人公の久島を含めて、あの~、男がみんな、なんかさ、行き場がない感じだよね?
上田:
そうですね。
高橋:
それはやっぱり、う~ん、上田さんの実感みたいのがある?
上田:
そうですね~。まぁそのもののエピソードというわけでもないんですけど、やっぱり僕の友人関係とかで、まぁ似たようなことがあったりだとか、まぁいろいろ思うことがあって、ここは僕的にもすごく気持ちが入っている…。
高橋:
あ~。
礒野:
へぇ~。
二刀流の上田さん! 作家と会社役員
高橋:
僕ね、ちょっと、え~と、さっきプロフィールを紹介したときに、上田さんて、なんて言うの、専業作家じゃない…。
上田:
はい、はい、はい。
礒野:
そうなんですよね。プロフィールでは「法人向けソリューションメーカーの立ち上げに参加し、現在は役員をされている」という、二足のわらじってことですよね!?
上田:
はい、はい。そうです、そうです。
高橋:
何やってるんですか?
上田:
いわゆるパソコンのソフトウェアを販売しているっていう感じですね。開発して。
高橋:
もう20年くらい?
上田:
そうなんですよ。
高橋:
だから、作家より長いわけだよね?
上田:
そうですね(笑)。
礒野:
どういう生活リズムで、いつ書くんですか?
上田:
もともとは、コロナ禍が始まる前は、え~と、出社の前に書いてますけど、今は「ビジネスデー」と、「執筆デー」に別れていて…、
高橋:
別れて…。
礒野:
う~ん!
上田:
まぁ「執筆デー」は執筆に集中するし、「ビジネスデー」は仕事に集中するみたいな感じになってますね。
高橋:
そっちのビジネスの仕事って、面白いですか?
上田:
まぁ面白いですよ、はい。なんかまぁ、いろいろ起こるし、新しい出会いもあるし…。
高橋:
ここにも、要するに主人公が仕事をしてて、その仕事のところでけっこう生き生きっていうかさ!
上田:
あはははっ(笑)。
礒野:
そう! リアルですよね! 久島もサラリーマンですもんね。
高橋:
そう、そう、そう、そう。
上田:
まさに。
高橋:
で、出てくる人がみんな、「仕事をしてる人」。
上田:
そうですね。
高橋:
それは、上田さんは仕事を辞めるつもりはないんですか? ちなみに。
上田:
いやぁ、あんまりないですね。配分はやっぱり変わってきましたけど…、まぁゼロになることはなさそうだなとは思いますね。
高橋:
なんで?
上田:
いや、なんでしょうね。好きなんでしょうね。
高橋:
あっ! 面白い?
上田:
面白いですね。
高橋:
あぁそうなんだ~。小説を書くより?
上田:
いや、両方おもしろいですよ。
高橋:
あっ、なるほどね。
上田:
って答えると、めちゃくちゃ仕事好きみたいな感じですけど…。
高橋:
あっはっはっはっ(笑)。
礒野:
両立できるのは、すばらしいというか、すごいですよね~!
高橋:
だからそういう意味では、面白い仕事なんだね?
上田:
と、思います。
タイトル『最愛の』について
礒野:
源一郎さん、この本のタイトルについても、伺いたいんですけども…。
高橋:
それで、さっきもチラリと、控え室で話したんですが、手紙の冒頭ということで「最愛の」。
普通さ、「最愛の誰々へ」みたいなね。
上田:
うん、うん、うん。
高橋:
ところがこれは「最愛の」だけ、なんですね! それで、なんで僕が気になったかっていうと、ほぼ同じ時期に僕も小説を発表してっていうか、いま連載してるんですけど、それが『オオカミの』っていう。
礒野:
「の」、「の」で止まる!?
高橋:
うん。それで、しかも、各章のタイトルが全部…、「冒険の」とか、全部…、
上田:
はい、はい、はい。
高橋:
それは一応、意図はあるっちゃあるんですけど。
上田:
はい。
高橋:
これは上田さんは…、ちょっと2人で、意図を言いあおうか(笑)。
上田:
そうですね。「の」って言われると、「…の、なんなの?」って聞きたくなるじゃないですか。
高橋:
うん、うん、うん。
上田:
そういう、今、「最愛の」って言われたとき、「じゃあ、なんなの?」っていうふうなものを思いながら書きたかったし、思いながら読んでほしいなっていうふうに、思って書いた…、タイトルでしたね~。
高橋:
うん、同じですね(笑)。
上田:
あははははっ(笑)。
礒野:
同じですか!
上田:
同じだったんだ(笑)。
高橋:
あのね~、「オオカミの」って、「なんだ?」と思うでしょ。
上田:
うん。
高橋:
自分で書いてて「なんだろう?」って思ったんですよ。まぁオオカミは出てくるの!
オオカミが出てくるから、どういうタイトルにしようかと考えたら、思いつかなくて、いろんなことがあるから。
上田:
はい。
高橋:
じゃあ「オオカミの」にしておけば、全部入るな~と思って。
上田:
あ~、同じかもしれない!
高橋:
ね!
礒野:
あっ、なるほど。後でどうなっても…、みたいな?
上田:
そうですね。
高橋:
そう、そう。だからなんかさ、タイトルって、良し悪しで…、
上田:
はい。
高橋:
限定しちゃうじゃない。
上田:
そうなんですよね~。
高橋:
『太陽』『惑星』とかさ(笑)。
(注:『太陽』『惑星』ともに、上田さんのデビュー小説集に収録されている作品名)
上田:
あはははは(笑)。
高橋:
そうか! 「太陽」と「惑星」って言われるとさ…(笑)。それが読者の想像力に鍵かけちゃうっていうか、限定するのが…、
礒野:
ええ。
高橋:
かといってタイトルがないっていう訳にはいかないんで。
上田:
まぁ、そうなんですよ。
高橋:
だから半分だけ…、未完成の料理を出してさ(笑)。
上田:
あ~、そうですね。「あとは、よろしく!」みたいな。
高橋:
「あとは、よろしく!」みたいな。
礒野:
あとは、よろしく…、あははは(笑)。
上田:
だから、そう、「恋愛小説にしたいな~!」みたいなものはあって。おっしゃるとおりで、同じかもしれないですね。「恋愛小説です」というのだけ決めてて、みたいなことかもしれないですね。
礒野:
へぇ~!
高橋:
『最愛の』って、なんだろうね…、っていうことだよね。
上田:
そうです。そうです、そうです。
高橋:
僕らが考えるしかないんで。だからさ、あれだよ…、完成した料理を出すんじゃなくて、最後は自分で仕上げて下さい、みたいな。
上田:
そうですね。作りながら考える、みたいな。
礒野:
へぇ~~! 共通点がありましたね~!
高橋:
はい。ということで、『最愛の』は、10周年。
礒野:
デビュー10周年記念作品ということですね。
高橋:
で、10年やって、もうだいたい、なんかわかった感じ? あはははっ(笑)。
礒野:
うふふふっ(笑)。あっという間でしたか?
上田:
どうなんでしょうね。ず~っと小説を書いてるんで~。あんまり振り返ってる時間がなかったですね。
高橋:
上田さん、スランプないね~?
上田:
あっ、そう! 「7年スランプ説」が…。
高橋:
そう!
礒野:
7年スランプ?
高橋:
異常なんだよ。
普通の人はみんなね、だいたい7年平均でスランプが来るのに、こないの!
上田:
そう、「すっぴん!」のときに、「7年スランプ説」を教えていただいて、ちょうど僕、7年目って、コロナ禍が始まったときだったんです。
高橋:
あ~! コロナでね。
上田:
そう。そこで、ガッとこう、リアリズムに行ったりとか。書く材料とかが、リアルな方向が面白くなってたんで。
高橋:
あとね、やっぱり仕事してるでしょ。
上田:
はい、はい、はい。
高橋:
だからね、そのいわゆる、作家をず~っとやってると…、だからず~っとは、やってないよね?
上田:
あぁ、なるほど! そうですね、う~ん。半々ぐらいですね。
高橋:
半々だから~。
礒野:
専業じゃないことが、またいいってことでしょうか。
高橋:
専業じゃない分だけ、いい感じになってきてると思いますよね。
上田:
まぁ、切り替えにはなってる感じはしますよね。
高橋:
つまんないんだよね。スランプがないから(笑)。
礒野:
うふふふ(笑)。なんでそんな、いじわるなことを~(笑)。
高橋:
いや、いや、いや…。苦しむところは見たいじゃないですか(笑)。
礒野:
うふふふふ(笑)。
上田:
だけど7年目だから、そろそろちょっとやり方を変えようかな、とは思いました。
高橋:
そうだよね。そっからちょっと、まぁある種のリアリズムっぽく…、
上田:
そうです、そうです。
高橋:
…なってきたよね。
リアリズム、面白いでしょ!?
上田:
面白いですね~。
高橋:
そうなんだ~。あんまり、あちこち飛ぶのも疲れちゃうもんね。
上田:
そうなんですよね~。ただもう1回やろうと思ってますけどね。
高橋:
で、今度、新しく連載が始まるそうですね?
上田:
そうなんです、はい。
高橋:
これはどんな感じのやつですか?
上田:
えっと~、まぁ、リアリズム的なパートと、ちょっとSFというかファンタジー的なパートっていうのを並列させるような話をザックリ考えてますけど…。
高橋:
そんなに中身はまだはっきり決まってないの?
上田:
そうですね。そんなにはまだ決まってないですね~。
高橋:
タイトルは決まってる?
上田:
タイトルは今はね~…、
高橋:
言わなくてもいいけど。
上田:
一応、決めてますけど、もしかしたら変わるかもしれないぐらいの…。
高橋:
あ~。
上田:
感じですね。
礒野:
来年のことですね。
高橋:
『最愛の』みたいな感じ? あはっ(笑)。
上田:
『最悪の』よりも、もう少し『太陽』寄りの!
高橋:
あ~~!
そういうね、『塔と重力』とかさ、『ニムロッド』とか、よく訳のわかんないものを書いてたんですけど、もうちょっとそっちに寄ったんですね?
上田:
…に寄るかもしれないです、次はね~。
高橋:
でもさ、どの方向に行くっていう感じします? 10年でだいぶね、見当もついたと思うんで。
上田:
そうですね、まぁ、おそらく、両立させていきながら、ちょっとずつそうやってリアリズムの方向に、追いついていくんじゃないかなって、思ってますけど~。
高橋:
また恋愛小説もね、読みたいですけどね。
上田:
そうですかね。
高橋:
最後、泣けるところがあるんだよね。言えないけどね。
上田:
はい。
高橋:
袋とじだから(笑)。
礒野:
続きは読んでいただけたら、ですよね~。
2コマ目のセンセイは、作家の上田岳弘さんでした。どうも、ありがとうございました。
上田:
ありがとうございました~。
高橋:
ありがとうございました~!
高橋源一郎の飛ぶ教室
ラジオ第1
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