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23/12/01まで
11月24日の「高橋源一郎の飛ぶ教室」、2コマ目の「きょうのセンセイ」は、哲学者で武道家の内田樹さんが登場。教育や学び、成熟、大人といったテーマでさまざまな著作がある内田さん。去年には『複雑化の教育論』、今年は『街場の成熟論』を発表。源一郎さんは、「内田さんと教育について話したい」と意気込んでいました。
内田さんと源一郎さん。お二人が対談した本も多く出版されているという間柄なんですが、実際にお会いするのは数年ぶり、とのこと。積もる話もたっぷりあったようなんですが…。止まらないふたりのトークから、一部をご紹介します。
【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
内田:内田樹さん(哲学者・武道家)
礒野:
源一郎さん、2コマ目です。
高橋:
はい。今日のセンセイは、哲学者で武道家のこの方です!
内田:
はい、内田樹です。よろしくお願いしま~す。
高橋:
わ~い(拍手)。
どうも、どうも、どうも! 内田さんだ~!
内田:
あはははっ(笑)。
高橋:
まぁとりあえず、プロフィールなどを…、はい。
礒野:
そうですね。ご紹介させていただきます。
内田さんは1950年、東京都生まれ。現在73歳でいらっしゃいます。
フランス文学、哲学、武道論、教育論などを専門とされています。
高橋:
そうだったんだ(笑)。
礒野:
2011年には、哲学と武道研究のための私塾「凱風館」を神戸に開設。また神戸女学院大学名誉教授でもあります。著書『私家版・ユダヤ文化論』で小林秀雄賞、『日本辺境論』で新書大賞を受賞。また『沈む日本を愛せますか?』『ぼくたち日本の味方です』『嘘みたいな本当の話』など、源一郎さんとの共著もたくさんありますね~。
高橋:
タイトルだけ言うと、すごい愛国者ですね、我々(笑)。
内田:
ぜんぶ「愛」ばっかしだもんね!
高橋:
愛ね、愛。ホント~!
内田:
愛してるもんね、やっぱり日本を~。
高橋:
愛してるもんね、ホントに~。
礒野:
あははははは(笑)。
高橋:
なに笑ってんの(笑)。
礒野:
いや、うふふふふ(笑)。
高橋:
でも、お久しぶりですね。
内田:
5年ぶりぐらいなんですよ、本当に、たぶん。いや、メールのやり取りはしてたんだけども…、
高橋:
そう、そう、そう、そう。気がついたら5年ぐらいたってるよね。
内田:
対面するのはね。
高橋:
ていうことはさ、70代になって初めてだってことだ?
内田:
あっ、そうかもしれな~い。
礒野:
お2人は同学年ですよね?
高橋:
学年は一緒ですよね。
内田:
一緒です。1951年の1月1日でしょ?
高橋:
1月1日。
内田:
僕は1950年の9月30日なんで、はい。
高橋:
そう。それでまぁ、内田さんとはいろいろ縁がございましてですね、話せば長いんで、それだけで終わっちゃうから、すいませんけど…(笑)。
内田:
あははははっ(笑)。ものすごく長いから(笑)。
高橋:
ものすごく長い話なんですけど(笑)。
学ぶってどういうこと?
高橋:
今日は、鶴見さんの話を…。当然読んでると思いますが、どうでした? 鶴見さんの『教育再定義への試み』って、僕、好きな本なんです。
内田:
あぁ、とってもいい本ですね。すばらしいですね。
高橋:
実はこの前、内田さんが『複雑化の教育論』っていう本を出されています。それから今年、『街場の成熟論』という…、
内田:
ありがとうございます。
礒野:
9月ですね。
高橋:
その中に、真ん中のほうにですね、えっと~、教育の話が出ています。
内田:
はい、はい。
高橋:
これすごく…
「今、私たちが学ぶべきこと」という…、覚えてる?
内田:
覚えてない(小声)。
高橋:
これなんだよね~。
内田:
うふふふっ(笑)。
礒野:
どうしてですか? ご自身で書かれたものですよね(笑)。
高橋:
書いたら忘れちゃうんだよね。
内田:
あとで読んだときに「あっ、いかにも自分が書きそうだな」とは思いますけど…、
高橋:
いや、書いたんだよ(笑)。
礒野:
え~っ(笑)。
内田:
書いたことは、何を書いたかって言われても、とても思い出せませんよ。
高橋:
そうなの?
内田:
うん。
高橋:
う~ん…。まぁ、いいや。じゃあ、これ、いいこと書いてあるんで…、
内田:
あ~、よかったです。何が書いてありました?
高橋:
えっとね、まず「学ぶとは何か?」っていうことで、ひと言で言えば「別人になること」だ。
内田:
あっ! なるほど。
高橋:
これは、どういうことでしょうか、と。
内田:
うん。
高橋:
で、これけっこう、内田さんが好きな話で「士別れて3日、すなわちさらに刮目して相待すべし」という。
内田:
うんっ。
高橋:
士たるものは3日会わないでいると別人になっているぞ、という話だから、え~っとまぁ内田さんは、人間が知的に成長するというのは、別人になることだ、ということを主張されていますが…、これがちょっと失われたのかな、と。
内田:
そうですね。ある時期から、これはね日数もかかるんだけど、97年に中教審答申(中央教育審議会答申)の中に、「自分さがしの旅」を支援するっていうのが出てきたじゃないですか。
高橋:
うん。
内田:
あのころから、教育の目的は、本当の自分に出会うことだっていうふうな、アメリカからやって来たアイデンティティ・ポリティクスが表れてるんですね。
高橋:
しかもそれさ、なんか本当っぽいもんね。
内田:
なんかね(笑)。
高橋:
本当の自分…。
内田:
「本当の自分を発見すれば、爆発的にパフォーマンスが向上する」っていう。で、「本当の自分を発見すれば、全ての旅は終わる」っていうね。
礒野:
う~ん。
内田:
これね、非常に危険なイデオロギーなんですよね。
高橋:
あぁ~。
礒野:
へぇ~!
内田:
東洋的な修行の概念っていうのは連続的な自己刷新で、日ごとに別人になっていく、と。昨日まで信じていたことが、全部あれはもう駄目で、次ってね。また次へ行こうって、ずっと変わっていって、連続した、首尾一貫した自己同一性なんてことはもう、全く認めないのが、東アジアの伝統なわけですけれども、そこにやって来たのが「アイデンティティ・ポリティクス」で…、「本当の自分を見つけましょう」って。
高橋:
うん、うん。
内田:
今の教育は実はそっちなんですよね。
高橋:
あ~。
内田:
「本当の自分さがし教育」なんで、本当の自分を見つければ、全ては…、
高橋・内田:
解決する!
礒野:
ふぅ~ん。
内田:
で、あなたがまだいろいろ悩んでるのは「本当の自分に出会っていないから」だって。
高橋:
あ~。
内田:
そういう中でカウンセリングとかするやつも、いっぱいいるわけですよね。
高橋:
う~ん。本当の自分がいるっていうのが、別のところで内田さんが書いてたと思うんですけども、物語ですよね? 「本当の自分がどっかにいるので、それを探せば、君の旅は完結する」みたいな。
内田:
そうです。
高橋:
うん。だからそれって、実は誰も確かめたことがないんですよ。
内田:
あはは~っ(笑)。ホントにそうですよね。
高橋:
ホントにね、100人のうち30人は本当の自分を見つけて、うまくいきましたっていう、例が…、
内田:
あははははっ(笑)。
高橋:
あればいいんだけど、そういうものはない。
内田:
ないですね。
高橋:
ただそれを探しに出る旅をさせられてる、っていう感じなんだよね。
内田:
これはアメリカ発のモノだったと思うんですけど、アメリカの「スーパーヒーローもの」っていうのは、とにかくそのヒーローが本当の自分は誰かということを発見したところで「1」が終わっちゃうんですね。
礒野:
うん、うん。
内田:
で、あと、シリーズだから長く続かなきゃいけないんだけども、長く続くためには、いろいろとドラマがあるんだけど、ドラマって全部アイデンティティの危機なんですよね。
高橋:
うん、うん、うん。
内田:
本当の自分のアイデンティティが揺らいで、例えばスーパーマンだったら、子どもから「お前なんか悪者だ!」みたいなね、「正義の味方ヅラしやがって、街を壊しただろう」とか言って、そうするとグラグラ揺らいで…、
高橋:
うん。
内田:
また誰かに「あなたは本当のヒーローよ!」って言われて立ち直るっていう。そういう「アイデンティティを確立する」「アイデンティティが揺らぐ」「また再確立する」っていう、ただそれが繰り返されるだけなんですよ。アメリカのスーパーヒーローものって、シリーズ化すると。
礒野:
ええ、ええ、ええ。
内田:
「士別れて3日…」じゃないですけど(笑)。同じ人に、何度も何度も戻っていくっていうね。
高橋:
う~ん。そう、それでね、え~っと、「今、私たちが学ぶべきこと」で、教育の目的が「学び」から「補充」になった、と内田さんは書いていて、
内田:
うん。
高橋:
僕もね、そう思いますよね。あの~、知識を充填する。
内田:
うん。そうですね。
高橋:
それから、何かを充填してあげて、次に送っていってあげる、っていうものになって、あの~、じゃあ、「学ぶって何か?」っていうことになる。これが、鶴見さんの話に出てきましたけど、「学ぶ」って「まねぶ」ですよね?
内田:
そうですね。
高橋:
先生がやっていることを、なんかよくわからないけど、真似ているうちに「なんかこれって、よくない?」って思えてくる…、
内田:
あははは(笑)。
高橋:
っていうことだと思うんですが…。あの~、内田さんは、道場もされているので、教育について書かれるというよりも、ずっと、内田さんは先生ですよね!
内田:
うん。
高橋:
あの~、教育っていうと、教育の中身っていうふうに何を教えるか、それが結局、中身がよければいいということで充填することになるけど、中身よりも、誰が教えるか、どんなふうに教えるか。
だから先生の問題だっていうふうに、この間ずっと言われたと思うんですけど、どうでしょうか? 内田さん。
内田:
あのね、じゃあ先生の問題というのか、僕は学校の先生と同時に武道の道場で先生をやっていて、合気道っていう武道を中心にして教えてるんですけども、やり方は全然違うんですよね。
高橋:
うん。
内田:
例えばその1つは、今日入った人も30年やってる人も、みんな同じ道場で、同じ時間に、同じことをやる。同じことを教える。でも、ひとりひとり、そこで稽古してることのクオリティは全く違うわけですよ。
高橋:
うん、うん。
内田:
同じことを教えるんだけども、学ぶことは全員…、
高橋:
違うっていうね。
内田:
それでどんどん成長するんですよね。学校の場合って、同学年で集めて、習熟度別にクラスを分けていって、場合によっては、できる子だけ別クラスにして、できない子は…、っていうふうにやるけども、全くその逆で、武道って、そういうことは絶対しないんですよ。
高橋:
うん。
礒野:
へぇ~。
内田:
今日入った人も、30年やってる人も、「同じことを先生が教える。これをやりましょう」って。それはもちろん初心者の子はうまくできないんですけれども、でも関係ないんです。同じようにやって、まぁ遅かったりすると、ちょっと待っててあげる。
高橋:
う~ん。
内田:
初心者の子がうまくできないと、うまくできない子を置いていかないで、「一応ひと通りできました」。で、それをチェックして「できたな」と思ったら、じゃあ、次の技いきますっていうふうにですね、1人も取りこぼしがないようにやっていく、っていうことなんですよね。
高橋:
う~ん。なるほどね~。
内田:
でね、これはね、極めて効果的な教育方法で、僕が師匠から、道場を開くにあたって言われたことっていうのは、「とにかく絶対に、相対的な優劣を論じてはいけない」。
高橋:
う~ん。
礒野:
なるほど~。
内田:
「誰がうまい」「誰が下手」「誰が強い」「誰が弱い」。これは絶対言ってはいけないってことをね、言われて、「人の技を絶対批判してはいけませんよ」ってことを言われたの。これはね、学校教育と全然違うんですよね。
高橋:
違うね。
内田:
だって学校教育って今ね、輪切りにした上で査定して格付けして、リソースの分配をしていくってことだけども、それは絶対、道場はしないんですよ。
高橋:
う~ん。
内田:
で、このほうが、圧倒的に教育のアウトカムは質が高いし、あとさっきのその、補充の話じゃないですけども、武道の場合っていうのは、何ができるかっていうと「できないことを教えられる」んですよね(笑)。よくできてる。
武道のいいところっていうのは「できないことを教えられる」んですよ。つまり、できることだけ教えるんじゃなくて…、
高橋:
どういうことなの? 「できないことを教えられる」って。
内田:
師匠がこういうふうに言っていました、と。こういうことを先生はおできになったと…。
高橋:
うん。
内田:
僕はできませんけども師匠はできた、と。で「こういう稽古をしなさい」とおっしゃったので、これをしましょう、と。
高橋:
うん。
内田:
これってやっぱりね、自分がやってみせらんないことであっても、この稽古法が正しければ、いずれ先生とかね、さらにその先生みたいなことができるようになりますよっていうのって、教師の「教える人間の質とか器によって、伝えることが限定されない」っていうですね…、
高橋:
あ~、なるほどね。
内田:
つまり「自分ができないことをならしていく」。そうすると、もしかすると自分の弟子は正しい稽古法でやって…、
高橋:
自分より上になる(笑)。
内田:
実際に僕ができないことができるようになる人たちって、いっぱいいるわけですよ。
礒野:
ええ。
内田:
これってやっぱりね、「教育の拡大再生産」っていうね、これ、すてきだな~と思って。
礒野:
師を超えていくっていう…。
内田:
どんどん超えていくんですよ。あのね、学校教育の場合、生徒が先生を超えていくと不愉快な顔をしますけどね(笑)。
高橋・礒野:
あっははははっ(笑)。
内田:
武道の場合っていうのは、「みんな超えてって!」。
僕の場合なんかだったらね、生徒が200人がいますけどね、できることだったら200人全員、僕よりうまくなってくれたら、僕は武道の先生としてはもうパーフェクトな仕事をしたわけですよね。
礒野:
ええ。
高橋:
あのね、鶴見さんの本もそうですし、内田さんも先生をやってて、僕も先生をやってたのね。まぁ理想としては、何もしない先生がいいよね。
内田:
そうですね。
礒野:
よく、源一郎さんて「先生の言うことは聞くな」って、おっしゃいますよね(笑)。
高橋:
あ~、そう、そう。先生はもしかして間違ってるかもしれないし…、っていうか、「まねる」とは別だよ。まねるのはいいんだよ、別に。
内田:
うん。
高橋:
ただ、言うことを聞くと、ろくなことはない(笑)。
内田:
あはははは(笑)。
礒野:
内田さん、それについてはどうですか?
内田:
あ~、そうですよね。まぁ僕と高橋さんはね、大体、教育理念も教育方法も、ほとんどたぶん同じ。たぶん学校でやってることも同じような感じだと思う(笑)。
高橋:
ていうのは、知ってることは教えてもつまらないじゃない? こっちが。
内田:
まぁそうですね。僕はつまんない。知ってるもんね。
高橋:
そう、そう。だから教えるほうがつまんなかったら、やっても意味がないんで。
内田:
そうですね。
高橋:
つまり、教えるほうがいかに機嫌よく、楽しくできるかを考えるんですよ。とすると、知らないことを知るね。
内田:
そうですね。今思いついたこととかね。ちょうど今、星雲状態で出たばっかしのアイディアを…、でね、これね、学生はわかるんですよ。知ってることを再生してるのと、今思いついた話をしてるのって、はっきり、ライブだからわかるんですよ。
高橋:
そう、そう、そう、そう。
礒野:
ええ。
内田:
そうすると、眠ってる学生がね、目を覚ますんですよ~。
礒野:
あ~! 正直ですね。学生さんはやっぱり。
高橋:
あのね、要するにね、学生っていう、なんていうか、他人がいるでしょ。
内田:
うん。
高橋:
それで、テーマについ、今まで考えてきたことを言ってるじゃない。
で、思いつくでしょう。まぁ要するに「彼らがいるから発見できる」。
内田:
そうです。全くそうですね。
高橋:
すると、彼らも気がつくんですよ。「僕たちがいて、僕たちに向かって話してるから、先生もいま発見中!」、みたいな!
内田:
そうです、そうです。それはわかるね!
高橋:
わかるの!
内田:
それは向こうもわかってますよね。「今、僕らのおかげでこの人は新しいアイディアを思いついたな」と。
高橋:
そう、そう、そう。
礒野:
あ~!
高橋:
それが…、
内田:
共同制作なんですよ。コラボレーション!
高橋:
そう。ひと言でいうと、コラボですよ。
礒野:
ライブで生まれるコラボ。
高橋:
そのときに、どこに向かっていくかわからないワクワク感みたいなのがあって、これ前も言ったことがあると思うんですけど、実際にある小説の話をですね、作者も入れて、学校の授業でやったら、もうね作者も思いつかなかったようなことが、発見されていく!
内田:
あ~!
高橋:
それはやっぱりみんなが「勘」を、最大限発揮できるような環境。だから結局、環境だよね。そういう環境をどうやって作ってあげられるかっていうことになるんですけどね。
礒野:
あっという間にお時間です。
高橋:
あれっ、もう?
礒野:
「“生” 内田ボイス」、いかがでしたでしょうか? 2コマ目のセンセイは…、
内田:
でかい声出しちゃって、すみませんね(笑)。
高橋:
いやいや、声がでかいのは知ってるよ(笑)。
礒野:
哲学者で武道家の内田樹さんでした。ありがとうございました~!
内田:
ありがとうございました。
高橋源一郎の飛ぶ教室
ラジオ第1
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2023/11/24 「高橋源一郎の飛ぶ教室」
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