【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ ~詩人 伊藤比呂美さん~」

高橋源一郎の飛ぶ教室

放送日:2023/11/17

#文学#読書

11月17日の「高橋源一郎の飛ぶ教室」では、1コマ目から詩人の伊藤比呂美さんが登場。源一郎さんも比呂美さんも、ともに『歎異抄』を現代語訳している、という共通点があり、1コマ目の『ヒミツの本棚』では、『歎異抄』を比呂美さんも交えて読み解いていきました。そして2コマ目は月に一度の恒例企画、「比呂美庵」! リスナーから寄せられた質問、お悩みに答えていきました。

【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
伊藤:伊藤比呂美さん(詩人)


礒野:
さぁ源一郎さん、2コマ目です。

高橋:
はい。今日のセンセイは、引き続き、知ってますよね(笑)。

伊藤:
はいっ(笑)。

高橋:
詩人の、この方です。

伊藤:
伊藤比呂美です。

高橋:
よろしくお願いしま~す~。

礒野:
よろしくお願いしま~す!

高橋:
さっき、ドイツから帰ってきたんですよね。

伊藤:
はい!

高橋:
何しに行ったの?

伊藤:
えへっ(笑)。ちょっと朗読しに。あははははは。

礒野:
朗読しに?

伊藤:
イベントがあって。

高橋:
どうでしたか、今回は?

伊藤:
去年も行ってたから…、

高橋:
よく行ってる…、しょっちゅう行ってるよね?

伊藤:
そう! でもドイツ語ぜんぜんできないのに。「ダンケ(ありがとう)」しか言えない(笑)。

高橋:
あ~はっはっ(笑)。
それで、ドイツどうでした? 今、ヨーロッパはさ~、大変でしょう。

伊藤:
いや~、そりゃ毎日、毎日…、
特に私が行ってた11月9日は、ドイツが最初に民主主義の国になった日(議会制民主主義を掲げるドイツ共和国の樹立を宣言した日)。

高橋:
うん、うん。

伊藤:
そして「クリスタル・ナハト」
(「水晶の夜」とも呼ばれる。1938年11月9日から10日未明にかけてドイツの各地で発生した反ユダヤ主義暴動)

高橋:
あぁ。

伊藤:
それから、壁が壊れた記念日(1989年11月9日、ベルリンの壁崩壊)、全部あってね。すごかった。

礒野:
へぇ~。

高橋:
それで、でも、ウクライナの戦争があって、今回はパレスチナでしょ。

伊藤:
去年行ったときは、ウクライナ。で、今はね…。
そのときに、やっぱりドイツってね、聞いてると、ユダヤ人をあれだけホロコーストで殺したっていうところがやっぱり…、重いの。すごく重いのね。

高橋:
根本的な罪責感があるよね。

伊藤:
こうやってなんか、もうずっと贖罪(しょくざい)してるんだなと思った。

高橋:
あぁ。で、今けっこう、ドイツ国内ではもめてるっていうか…、

伊藤:
もめてますね~。だからすごいパレスチナを擁護するデモがあるし、で、またその反対のデモもあるし、なんかすごい…、

高橋:
移民の問題もあるでしょ。

伊藤:
移民の問題もありますよ。で、引き続きウクライナの、ロシアの、そしてエネルギーがない。

高橋:
あ~、そうか、そうか。

伊藤:
で、気候変動をすごい受けているところだから、それはすごい。

高橋:
ある意味、混沌の中?

伊藤:
ですね。でもね、森が多いの。それが面白かった。

毎月恒例「比呂美庵」のお時間です!

礒野:
では、そろそろ、源一郎さん、伊藤さん、恒例のコーナーに参りましょう。

高橋:
はい、え~、伊藤さん、ここは?

伊藤:
ええと、「比呂美庵」です!

高橋:
は~い。

伊藤:
なんかもう、さっきからいるから!

高橋:
あははっ(笑)。

礒野:
1コマ目から長いお付き合いでありがとうございます。今日も時間の限りお便りをご紹介していきます。
まずはラジオネーム「しるくん」。埼玉県にお住まいの50代の女性です。

11月3日の谷川さんのご両親のラブレターの話。
我が家にも今年13回忌の父と7回忌の母が結婚前にやり取りした手紙が大きめの紙袋1つ分、残されています。

高橋・伊藤:
ワァオ!

礒野:
昭和ひと桁の両親は80代で亡くなりましたが、50年以上大事に持っていた手紙を、おいそれとは捨てられず、かといって読むのも気恥ずかしく、とりあえず元のところに戻して「保留」にしています。
放送を聞いて、1度はちゃんと読まないといけないな、と思いました。その時代の父と母がいて、今の私がここにいるのですからね。

高橋:
いいですか、僕から?

伊藤:
はい、どうぞ!

高橋:
あの~、わかってるじゃないですか。「1度はちゃんと読まないといけないな」って言ってんだから。
1度はちゃんと読んでくださいよっていうことですね(笑)。
僕、そう思うんですよ。もちろん亡くなられたご両親は、第三者に読まれることはまったく想定してないと思うんですけど、僕もね、前にも言ったけど、親が書いたものは亡くなってから放っておいたんですね。まぁ手紙もあるし。
その前に祖母が残したノートとかあったの!

伊藤:
おぉ~!

礒野:
へぇ~!

高橋:
それもめちゃくちゃ読みにくいんで、結局ね、全部なくなっちゃったの。大学ノートが実は何十冊もあったの。書いてたの。

伊藤:
無くなっちゃったの?

高橋:
どさくさに紛れて…、

伊藤:
あら~。

高橋:
僕、いないから実家に。

伊藤:
はぁ、はぁ、はぁ。

高橋:
で、父親に聞いたら「どっかいっちゃった」とか言って。

伊藤:
もったいな~い!

高橋:
もったいないね。

伊藤:
それで小説が書けるでしょ!

高橋:
そう!

伊藤:
それしかないわよね。

礒野:
それしか(笑)。

高橋:
いま考えればね。
それで、やっぱりそこに、この方もおっしゃっているように、その時代の父と母…。自分がどっから来たか、っていうことがわかる資料ってね、ないんですよ。それをやっぱりあの~1回は、開けて読むっていうのはね、そのあとどうするかはともかく…、礼儀かな~と思います。

伊藤:
私だったら読まないけどね。

高橋:
読まないの?

伊藤:
小説は書かないから。

高橋:
あっはっははははっ(笑)。

伊藤:
だけど~!

礒野:
詩のヒントになるとかは…、ないんですか?

伊藤:
私、今回ドイツで仲良くなった作家が全く同じシチュエーションで小説書いて、すごい評価されてます(笑)。

高橋・礒野:
あははははっ(笑)。

伊藤:
だからね、そのつもりで読んだら面白いかもね。

高橋:
読む気しない?

伊藤:
私ね、もうね、バタンとふたして「もう、いいや~」みたいな…、

高橋:
えっ、なんで?

伊藤:
って言っときながら、今ほじくり返してる(笑)。

高橋:
なかったっけ? あるんでしょ?

伊藤:
いや、今ほじくり出してる(笑)。

一同:
あははははっ(笑)。

礒野:
この方も「気恥ずかしく」っていうふうにあるんですよね。読んでいいのかなっていう葛藤が…。

高橋:
つまりさ、自分が知ってるのは、父として母として、でしょ。

伊藤:
うん。

高橋:
例えば手紙の中だと恋人同士とかさ。知らないんだもん。

礒野:
知らない一面ですね。

高橋:
そう、そう、そう。自分が長くつきあってた親がどんな人間だったかって、実は親のこと知らないんだよね。僕はそうだった。

伊藤:
親ってさ、「お母さん」とか思ってるけど、実はさ、1人の若い女だったりさ…、若い女の子だったりさ。

高橋:
若い男の子だったりね。

伊藤:
そう、そう。それをね、介護前にやるとすごくいいですよ。

高橋:
あぁ…、読んでね。

伊藤:
するとね、全然違う母親像っていうのが出てくると思うけどね。

高橋:
あぁもう、親って固定してるじゃない?

伊藤:
うん。

高橋:
じゃないんだよ。だってもう、それこそ子どものころもあったんだもんね。

伊藤:
そう、そう、そう。泣いてたしね。

礒野:
1人の人生として、受け止めるという感じですね。親としてじゃなくて。

高橋:
それはたぶんね、違ったものに受け取ることができると思いますよ。そのあとね。

礒野:
では、続いてのお便りに参りましょう。
ラジオネーム「トマトオレガノ」さん。埼玉県にお住まいの40代の女性です。

高校2年生の息子について悩んでいます。進学校に入学後、不登校となり、今年4月から通信制高校に転校。ほぼ引きこもりですが、元気で私とは普通に話をしています。進路については、働きたくない、勉強もしたくない。どちらかと言えば進学かな、行けるところに行くと言っています。
しかし進学に向けて何かしているようには見えません。このまま放っておけばいいのか、大学進学に向けて手伝うべきか迷っています。2年前に離婚をしており、金銭的に余裕はありませんが、進学したいなら応援するつもりです。いつか自ら行動するかもと楽観的になるときと、不安になるときがあります。
親は何をすれば、またどんな声がけをすればいいのでしょうか。

高橋:
これね~、まず最初に言っておきます。正解はないと思うんですよ。もうこの子はどういう状況でどんな子で、どういう理由かが、わからないからね。

伊藤:
うん。

高橋:
その上で自分なりの答えっていうか、アドバイスはできるかもしれないですね。これはちょっと伊藤さんからですかね。

伊藤:
うちもね、娘が、特に真ん中の子が、2人向こうに…、12歳と10歳のときにアメリカに連れてったの。
で、下のほうね、10歳で連れて行ったほうが、3年間しゃべんなくて。しかもね、ずっとそのあと引きこもりみたいに。出なくなっちゃったんですよ。

高橋:
うん。

伊藤:
もうね、大変だったんでね。

高橋:
どうしたの?

伊藤:
いちばんいいのは、私にとってね、1週間おきぐらいに状況を変えるんですよね。
でね、普通ね、こういうときね、「見守ってあげなさい」みたいなこと言われるんだけど、見守ってると固まっちゃうから、連れてって、例えば、保健室の先生のところへ行けたと。

高橋:
うん。

伊藤:
そしたら、保健室登校を1週間ぐらいしたら、今度は場所変えて、違う先生のオフィスに行くようにして、みたいな。少しずつ変えてったんですね。

高橋:
うん。

伊藤:
それで、とにかくなんとかして固まらせないようにっていうのは、親がやったことだし。

高橋:
なるほどね。

伊藤:
あと、もう1つは、学校を変えたの。

高橋:
あぁ~。

伊藤:
学校そのものが、ものすごく理解のあるところで。そうしたらね、1日目からしゃべるようになった。

礒野:
へぇ~!

伊藤:
ということがあったんですよ。

高橋:
環境だったんだね。伊藤さんの場合はね。

伊藤:
そう、そう。
本当に結論はないんですよ。でも、こうやって見たときに、進学校っていうのがあるでしょ?

礒野:
いい子なんですね。

高橋:
頭がね。

伊藤:
いい子だったの。親の期待をちゃんとわかって。
で、こういう問題って親もすっごい悩むんだけど、それよりも必ず親がわかってなくちゃいけないのは、「子どもはいっぱいいっぱいで、子どもはすごい悩んでる」ってことね。

高橋:
悩んでるよね。そう思いますよ。

伊藤:
それをわかってやる。
それから2年前に離婚してるってことは、この子はいま高校2年生でしょ。中学3年生ぐらいのいちばん揺れ動いているときに…、

高橋:
親がもめてたんだよね。

伊藤:
それって、地球が壊れるようなものだから、それも加算してね、考えてやらなくちゃいけない。それでね、そのときにいちばんいいのは、とにかく子どもの話を聞くんですよ。ところがね、親ってね、自分の見たいものしか見てないから、子どものことを見てると思ってても、よ~く考えるとね、ちょっと見てなかった、期待してた、見たいもの見てたな、っていうのがわかってくるから。
こんなお手紙書いて下さる方だから、絶対そのへんの…、

高橋:
理解力はあるはずだからね。

伊藤:
そしたら、子どもの目線に自分を下げて、見る。聞く。

伊藤:
で、意見は言わない。

礒野:
意見は言わないんですね。

伊藤:
言わない。

礒野:
聞く。

伊藤:
うん。

高橋:
いいと思いますね。あのまぁ僕もちょっといろいろあるんですけど、根本的にはね、子どもと一緒について行ってあげるっていうかね。認めてあげる、と。今の状態を。

伊藤:
うん。

高橋:
「異常な状態だからなんとかしよう」というふうに焦ると…、

伊藤:
そう、そう、そう。

高橋:
「自分はそういう状態になって、親を困らせてるんだな」っていうふうに思われると、ダメなんだよね。

伊藤:
そう。

高橋:
親がゆったりと! だからそれこそ「いいや、別に。30歳までに大学行けば」とかさ。

伊藤:
それもね、私ね、30になったころ、ちょっと危うかったからね(笑)。
「生きてりゃ、いい」みたいな。でね、いま傷ついた子を、一時保護している野生動物研究所の所長と思って…、

高橋:
あははははは(笑)。

礒野:
例えが、うふふふふ(笑)。

伊藤:
そのうちに癒えたら、森へお帰り、ってね。

礒野:
あ~! 保護期間なんだ、と。

高橋:
傷の癒やし方はね…。

伊藤:
まぁ、しょうがないよ。所長なんだから、ここで癒やしていって、っていう感じかな~。

礒野:
幸い、この方もね、「私とは普通に話をしています」と。

伊藤:
すばらしい。

高橋:
すばらしいよね。

礒野:
話し合いはできているみたいですね。

高橋:
大丈夫だよ。仲良くしよう。

伊藤:
『歎異抄(たんにしょう)』読ませたらいいと思うのよ。

礒野:
あっ!

高橋:
いいですね~! 僕と伊藤さんの『歎異抄』をぜひ!

伊藤:
1冊ずつ。

高橋:
どっちがいいということになるんでしょうかね。

礒野:
感想も聞きたいですね。そろそろ比呂美庵の閉庵時間になってしまいました。比呂美さん、実は、次のご出演は、もう来年です。

高橋:
えっ、来年ですか!

礒野:
元日の2時間スペシャルでお持ちしておりま~す。

伊藤:
元日ですよ。

高橋:
元日! そのときはよろしくお願いします。

伊藤:
は~い。

礒野:
源一郎さん、この年末年始もやるんですよね? スペシャル!

高橋:
はい、はい!

礒野:
来年の元日。『飛ぶ教室~初夢スペシャル~』、2時間生放送です。

高橋:
2時間生放送です!

礒野:
ということで、比呂美さんは年内最後になります。

高橋:
そうですね。ありがとうございました。「良いお年を」ですね(笑)。

伊藤:
あはははっ(笑)。


【放送】
2023/11/17 「高橋源一郎の飛ぶ教室」

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