【飛ぶ教室】「谷川さん家(ち)に初めてお邪魔しましたスペシャル」
23/11/10まで
高橋源一郎の飛ぶ教室
放送日:2023/11/03
#文学#読書
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23/11/10まで
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23/11/10まで
11月3日の「高橋源一郎の飛ぶ教室」は谷川さん家(ち)に初めてお邪魔しましたスペシャル。源一郎さんが、詩人の谷川俊太郎さんのご自宅にお邪魔してお話を伺いました。番組の後半は、「谷川さん家で座談会」! 谷川さん、源一郎さんに加えて、谷川さんと往復書簡を交わしてきたブレイディみかこさんが、イギリスからリモートで加わりました。なんと、谷川さんとブレイディさんが顔を合わせて話をするのは、このときが初めて! 源一郎さんがスタジオで、「なんだか知らないけど、そういう機会に立ち会わせていただきましたので、まぁせっかくですので、正真正銘、初めて会話を交わした、本番スタート前ということで(笑)、回線チェックシーンからお聞きください。どうぞ!」と前振りをした3人の座談会、どうぞお楽しみください!
【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
谷川:谷川俊太郎さん(詩人)
ブレイディ:ブレイディみかこさん(ライター)
礒野:礒野佑子アナウンサー
座談会の前に…
高橋:
聞こえます~?
ブレイディ:
は~い。聞こえてま~す。
谷川:
ブレイディさんの声、聞こえました。
高橋:
こっちの声は…?
ブレイディ:
あっ、谷川さん…、すごい、“生”谷川さんだ~!
高橋:
直接話すのは初めて? じゃないよね?
ブレイディ:
初めてですよ。
高橋:
えっ、マジで!?
谷川:
いや、これ(=オンライン)はあったんじゃなかった?
高橋:
オンラインでやった?
ブレイディ:
いや、オンラインもないですよ。私と源一郎さんがオンラインで話してるのを、谷川さんがご覧になったっていうのは聞いてますけど。
高橋:
あ~、見ただけですよ、ちょうど。
谷川:
あぁ。
ブレイディ:
初めてですよ。
谷川:
なんか初めての気がしないんですよね。
ブレイディ:
あはははは(笑)。ですよね。あれだけ往復書簡やってたんで(笑)。
高橋:
今はブレイディさんしゃべっちゃダメ(笑)。本番にとっといて!
ブレイディ:
わかりました(笑)。
スタッフ:
じゃあ、後半にまいりま~す。
谷川さん家で座談会:往復書簡、どうやって始まった?
谷川:
谷川俊太郎です。
高橋:
あっ、先生…、まだ、僕が言ってから(笑)。
谷川:
あっ、そうか。
高橋:
それでは「今日のセンセイ」は、番組前半に引き続き、詩人の、この方です。
谷川:
あの、先生じゃないんですけど…。
高橋:
いや、これは番組上ですから(笑)。
谷川:
番組上…、はい。じゃあ、谷川俊太郎です。
高橋:
はい。この時間もよろしくお願いします。そしてもう1人、ライターで作家の、この方です。
ブレイディ:
またもや、お邪魔しております。ブレイディみかこです。よろしくお願いします。
高橋:
よろしくお願いしま~す。
谷川:
よろしく~。
高橋:
ブレイディさんはいつものように、イギリス・ブライトンのご自宅からリモート出演ということで、いま谷川さんと一緒にパソコンの画面越しに顔が見えてる。見えます~? こっちの顔?
ブレイディ:
見えてます~。初めまして、谷川さん。よろしくお願いします。うふっ(笑)。
谷川:
こちらこそ~。
高橋:
実はですね~、谷川さんとブレイディさんは、雑誌で往復書簡スタイルの連載をしていました。もう連載は終わっています。それで不思議なことに、連載をずっとしてるのに、実際に生で会ったというか、お話をしたことはないんですよね?
ブレイディ:
そうなんですよ。
谷川:
そうでしたね~。はい。
ブレイディ:
今日これが初めてなんです。もう~、感無量です。
谷川:
あははっ(笑)。
高橋:
いやいや、本当に歴史的瞬間を(笑)。見させていただいて。
谷川・ブレイディ:
あははははは(笑)。
高橋:
あの~、往復書簡の話もこれからちょっと出てくるんですけども、会ったこともないのに、なんで往復書簡をするようになっちゃったんでしょう? じゃあ、ブレイディさんからお聞きしましょうかね。
ブレイディ:
これはね、私がある編集者の方と、ずっとまぁ以前からお仕事させていただいているんですが、その方が往復書簡の本を出されているんですよ。すごくきれいな本を作られて、「私もこういう本やりたいな~」って。だれかと「往復書簡したいな」みたいなことを、思いつきで言ったんですね(笑)。
高橋:
うん。
ブレイディ:
それで、じゃあ「お相手は?」ってなったときに、谷川さんが、私の本を読まれてたとか、読まれてるとかっていう噂をチラッと…、
高橋:
あっ、そうなんだ!
ブレイディ:
リトル・バードっていうかね、なんか噂で、編集者の噂で聞いたりしてたので、私は以前から、どうして谷川さんが私の本を読んでるんだろうと思ってたんですよ。なんか正反対じゃないですか?
高橋:
あ~、そうですね。
ブレイディ:
谷川さんはもちろん詩を書いていらっしゃるし、私はすごく現実的な、割と社会事情とか、そういうことを書いているし。だから接点が全然ないのに、どうしてなんだろうって。正反対なのに、と思ってる部分があって。なんとなく谷川さんって言ったんですが、まさか実現すると思わないじゃないですか(笑)。
そしたら本当に実現させてくれてしまったというか~。
高橋:
実現させちゃった! なるほど~。そしたら谷川さんは、依頼があったとき、じゃあブレイディさんの本は読んでらした?
谷川:
読んでました、もう。
高橋:
何を読まれたんですか? 覚えてます?
谷川:
本じゃなくて、雑誌かなんかで読んでたんじゃないかな。
高橋:
あ~。何かが引っかかったわけですね、谷川さんに。
谷川:
うん。とにかく自分から遠いところにいる人っていうのが、まずありましたよね。それから、やはり僕はあんまり日本から外へ出て仕事なんかしたことがないから、日本から離れたところでね、そこにほとんど根をおろすようにして、書いてらっしゃるというところにすごく興味があったわけね。
高橋:
うん。そうか、それで引き受けて、プロジェクトが動き出したと。
ブレイディ:
そうですね。
高橋:
しかもですね、『あの世とこの世』という…、
谷川:
はい。
高橋:
あっ、ごめん、『その世とこの世』ですね。『あの世とこの世』じゃ、間違ったことになっちゃう(笑)。『その世とこの世』というタイトルでお二人の往復書簡が本になるんですが、その連載がまだ始まっていない段階で、ちょうどブレイディさんに『飛ぶ教室』に出ていただいて、この連載の1回目に書かれてるんですけども、谷川さんがお話になったのをブレイディさんが聞いてて…、
ブレイディ:
そうなんです。
高橋:
まだ書いてないやって(笑)。まだ始まってなかったんだよね?
ブレイディ:
そうなんです。1回目の原稿をお正月明けにすぐ出せって言われてたんですよ。それでこの番組の新春スペシャルに、谷川さんが第1部でゲストで出ていらして、私が第2部の座談会に出たんですよ。で、なんか出番を待っていたら、谷川さんの声が聞こえてきて…、
高橋・谷川
あははははっ(笑)。
ブレイディ:
「え~!?」って思って、なんか、まるでこう、早く原稿を書けって編集者から急かされてるような気持ちになって(笑)。「これ終わったら書かなきゃ原稿、元日なのに…」と思いながら(笑)、座談会に出ていました。
高橋:
そうなんだよね。だからそんな企画があるって知らないで、偶然、谷川さんをお招きして、ブレイディさんをお招きしたら、なんと、連載が始まる直前だったというので、そこから始まったという。結構、縁もゆかりもある番組っていうことです。
ブレイディ:
本当にそうですよね。
谷川さん家で座談会:その世? この世? あの世?
高橋:
それで、え~っと、2人が往復書簡をされました。
谷川:
はい。
高橋:
谷川さんが「短いコラム+詩」。詩で返事をする。
谷川:
まぁそんな立派な意識はなくて…、
高橋:
あははは(笑)。
谷川:
まぁとにかく長く書くのが苦手で、なんか短く、どうやったらかっこよく書けるかみたいなことを考えると、やっぱり自分の専門である詩で書くのがいちばん楽だと思って、詩を混ぜたんですね。
高橋:
う~ん。ブレイディさん、どうでした? 返事が詩でくるっていうのは(笑)。
ブレイディ:
いや~。もう、なんて、これ本当にゴージャスですよね!
なんか私が書いたら、谷川さんが詩を書いてくれるなんて、これちょっとすごいことだなって思って、最初はもう本当にPCの前で固まってたっていうか、感動してたんですけど。さっきそれこそ、お母様の恋文?(番組の前半で、谷川さんの両親の恋文を谷川さんがまとめた『母の恋文~谷川徹三・多喜子の手紙』という本について紹介しました。)
高橋:
あ~、はい、はい。
ブレイディ:
お母様とお父様の手紙が噛み合っていないとか(笑)、おっしゃってましたけど…、
高橋:
往復書簡だよね、あれも。
ブレイディ:
全く違うというような性格の…。で、両方、やっぱり谷川さんは受け継がれてるなっていうか、両方、谷川さんに似ていらっしゃるなっていうのを、なんか私は、谷川さんと往復書簡をしてたそのお返事で、私が感じた感触は、お2人とも入ってらっしゃいますね。
高橋:
う~ん。
ブレイディ:
最初の短い文章のお返事を書いてくださってるときは、割とお父様なのかな。で、詩になったときにお母様が顔を出す、じゃないけど…、何かそういうのがあって。最初は割と平静に読んでるんですけど、お返事を。詩のところで、ちょっともう「あ~!」みたいな、すごいやっぱり、ちょっとゆり動かされる部分があったりとか、自分の何かを…。
高橋:
あれ、困りますよね? 詩を送ってこられて、何を返せばいいんだって(笑)。
ブレイディ:
そうなんですよ。
谷川:
そうだよね(笑)。
ブレイディ:
めっちゃそうなんですよ。
高橋:
谷川さんは逆に、ブレイディさんが現実、まぁ現実を送ってきますよね、割と。
谷川:
はい、はい。
高橋:
それについて、やっぱり詩なんですよね?
谷川:
だって自分はそんな現実を知らないんだもん。うふふ(笑)。
高橋:
谷川さんはずっとそうおっしゃってて、僕、すごくいい本になったと思います。
ブレイディ:
ありがとうございます。
高橋:
全部読んで。それで、まぁ、これから読まれる方…、本が出てから読まれると思うんですが、その中で、やっぱりすごく大切なことがいくつもあったと思うんですね。で、最初のほうに、谷川さんが『その世』っていう詩を…、
谷川:
はい。
高橋:
送っていらっしゃいます。
谷川:
うん。
高橋:
これが最初の大きいテーマなんですよね?
で、ブレイディさんが普通、「この世」「あの世」って言うんで、「その世」っていう言葉は、まぁ英語では無いと。まぁ強いて言うなら「somewhere in between」って言う。「どっか」。
これはこの対談の、ず~っと通じてのテーマになっていると思うんですよ。
ブレイディ:
う~ん。
高橋:
「この世」って、まぁ現実ですよね。
谷川:
はい。
高橋:
「あの世」は、まぁ死んじゃった人が行く来世で。じゃあ「その世」って、どこにあるのか?
ブレイディ:
う~ん。
高橋:
っていう話を2人で延々とやってるっていう…、
谷川:
あははははっ(笑)。
ブレイディ:
う~ん! そうかもしれないですね。うん、うん。
高橋:
それがね~、すごく、僕は面白かったです。
谷川さん家で座談会 スタジオ振り返り:その世? この世? ってどういうこと?
礒野:
初めての対面の場に立ち合われて…、なんかお2人とも、すごく楽しそうでしたね!
高橋:
いや~なんかね、やっぱりね、言葉の達人たちで、あの~、なんて言うかね、頭で考えているというより、言葉が出てくるんだね。僕なんか無理して出してますけども、やっぱりね、そういうのを見ると、とっても羨ましいと思いました。
で、そもそも、本のタイトルが『その世とこの世』になっているぐらいで、「どういうこと?」って思われる方も多いと思います。
礒野:
普通は「この世」と「あの世」だけかなと思いますけどね。
高橋:
(「その世」は)どこでしょう、と。
これ本当にね、「この世」は現実だよね、まぁ簡単に言うと。「あの世」は、まぁ死んじゃって行くところ。
礒野:
ええ。
高橋:
だから僕たちは普通、「この世」と「あの世」しか知らないんですよ。現実、それから、死んじゃって行くところ。でも「その中間に、何かがある」と。それを「その世」と呼んでみる、と。
でね、それは何、って、それは簡単に説明できたら、おしまいなんですよ。逆に言うと簡単に説明できないから、こうやって2人が長々とやっている。
例えばですよ、詩…、詩ってさ、現実じゃないでしょ。
礒野:
ええ。ちょっとファンタジーなイメージもあったりしますよね。
高橋:
別に死んだ人が行くところでもないでしょ。ポエムのほうです。だから「詩がいる場所」は、もしかすると「その世」かもしれませんね、と。
礒野:
あ~!
高橋:
現実にいるかって言うと、違うじゃない。書かれてある言葉…。
礒野:
うん、うん、うん。
高橋:
っていうようなことだと思うんですよ。例えばわかりやすく言うと。
それから、この後に「現場」という言葉が出てきます。それはまた、2人のお話を聞いて、詳しくお話をしていきたいと思います。
これもちょっと似ていることでね、現場って、だからさ、僕らの今の現場はこの…、
礒野:
スタジオですね~。
高橋:
スタジオです、ね! 会社員は会社が現場。それってなんかさ、現実ってことだよね。
でもそれが全部かっていうと、ちょっと違うでしょ。それ以外に大切な時間があって、現場と言われてないところに、でもそこに何かまた、いわゆる違う現場があるんじゃない? っていうような話を、この後したいと思います。
谷川さん家で座談会:言葉の「現場」とは?
高橋:
ちょっと個人的なことを言わせてもらうとですね、僕、近々、『歎異抄』の翻訳を出すんですけど、親鸞が「浄土って、どこ?」って言うんですよね。
谷川:
うん。
高橋:
普通、浄土は「あの世」じゃないですか。でね、「あの世」っていう使い方をするときと、「あの世じゃない」っていうときがあるんですよ。あのね、「この世でもあの世でもないところ」って言ってるんですよ、浄土のことを。
谷川:
うん、うん、うん。
高橋:
だから「その世」?
谷川:
僕が「その世」って言ったのは、やっぱりそのニュアンスはありますね。
高橋:
あ~、やっぱり。向こうへ、そのままその行ってしまう。
谷川:
うん。
高橋:
もうね、悟りきって。
谷川:
はい、はい。
高橋:
それから、現世にまみれて、もう他は考えられない。その中間に何かがあって、そこでまぁ僕らはいろんなことをしている…、ということなんだろうと思って、そういうふうに考えると、僕、いろいろなことがよくわかったなと思います。
で、それが2人のお話に出てくるのは「現場」の話…、
谷川:
う~ん、うん。
高橋:
出てきましたよね。で、あの~、谷川さんは「詩には現場がない」と(笑)。
谷川:
あははっ(笑)。
ブレイディ:
う~ん。
高橋:
要するに、抽象を許さないリアルな現場に対して、詩は言葉。で、ブレイディさんは、お父さんの建設現場とか…、
ブレイディ:
あははっ(笑)。あれが現場。私にとっては。そう、そう、そう、そう(笑)。
高橋:
あれが現場。生の現場…、に対して、じゃあ「詩の現場って、なんでしょうね?」と、思ったんですけど。
谷川:
う~ん。
高橋:
谷川さんは、そういう意味では自分は現場がないっていうふうに、ずっと思っていらっしゃいます?
谷川:
はい。どうにかして「言葉を現場にしたい」と思ってきてるんですよね。
高橋:
うん。でも、どうなんでしょうね、ブレイディさん。「詩には詩の現場があるんじゃないか?」と思うんだけど。
ブレイディ:
う~ん。やっぱり谷川さんが書いていらしたと思うんですけど、言葉が現場というか、言葉を現場にしようとしてらっしゃるというのが、「やっぱりすごい、書く人だな~!」っていうか、私とかはどっちかっていうと違うじゃないですか。文学とかっていうよりは、何かもっと、割とジャーナリスティックだったりとか、その場にある社会のこととか、そういうことをやったり、あるままに書くから、言葉を現場にするような気構えもないし、別に見たことをそのまま書いてる感じなんですけど(笑)。
高橋:
あはっ(笑)。
ブレイディ:
だから「言葉が現場ってすごいな~!」って、私は単純に打ちひしがれてたっていうか、「谷川さんだな」って、やっぱ思いましたけどね。
谷川:
まぁ、苦し紛れで、言葉が現場だと言ってるわけですけどね(笑)。
高橋:
あの~、谷川さん、夏目漱石とか、すごく現実的なことを書いてある小説とかエッセイとか評論もあるんですけど、例えば、哲学なんかは…、あははは(笑)。
谷川:
あはは(笑)。
高橋:
哲学の現場って「空(くう)」みたいなもんじゃないですか。ね? 存在についてとかね。
谷川:
はい、はい。
高橋:
詩もそうですし、僕、小説を書いてますけど、ほぼ言葉だけで宙吊りにしてる? みたいなものなので、なんて言ったらいいんでしょうね、だから「言葉の現場」っていう、それが「その世」じゃないかって思うんですけど、違うんですかね?(笑)。
ブレイディ:
おぉ~!
谷川:
僕はそうは取っていませんけどね。
高橋:
そうなんですね。
谷川:
「言葉の現場」っていうのは、我々にとってはなんか「ついたり消えたり」しているようなもんで…、
高橋:
う~ん。
谷川:
なんか「いい言葉が書けたらそれが現場になってる」みたいな。で、ほかの群小の詩なんていうのは、現場がないっていう感じですね。
高橋:
群小の詩?
谷川:
うん。群小…、群れ。
高橋:
群れ。つまんない詩ですね。あっははは(笑)。
谷川:
つまんない詩(笑)。
高橋:
そっか! 現場ができたと思えるような詩が、いい詩っていうか…、
谷川:
それがだから、一編全部が現場とかじゃなくて「現場がついたり消えたり」っていうふうなところが、詩にはあると思いますよね。
高橋:
う~ん。それは、でも僕は小説を書いてるんで、逆にね、僕なんか完全に現場監督ですよ。あはっ(笑)。
ブレイディ:
う~ん!
高橋:
まず荒れ地があるでしょ。そこになんか持ってって、掘っ立て小屋を建てるとか。
谷川:
あ~。
高橋:
だから、ブレイディさんが建設現場って言ってたじゃないですか。で、それと谷川さんの詩がものすごく…、言葉の現場って抽象的な言い方になったけど、僕ね、小説ってその中間ぐらいなんですよね。
ブレイディ:
う~ん、なるほど~。
高橋:
言葉をかついで行って「そこが現場だ!」っていうふうにして、ちょっと一応、設計図かなんかあって、建てていく…? ので。
ただ言葉の使い方は、やっぱり違うのかもしれないですね。
谷川:
ちょっと詩と散文の場合は違いますよね。
高橋:
ブレイディさんはどうなんですか? 逆に現実的なことを書いてるでしょ、結構。
ブレイディ:
そうですね。自分で言葉をかついで持って行って建設するっていうのは、私も最近、ちょっと小説というか、まね事をやってるので(笑)。
高橋:
あははは(笑)。まね事じゃない(笑)。
ブレイディ:
その感じはすごくわかります。その感じも、今スッと入ってきた気もします。私は両方やってますよね。現場をそのまま、あるままに書くっていうのと、自分で言葉を持って行って作ってるのと、私は本当にその「somewhere in between」にいるから、割と、私が何を書いてる人か、よくわかんないって言われるのは、そうだろうと思うんですよ(笑)。
高橋:
あはっ(笑)。
ブレイディ:
ノンフィクションの人みたいでもあるし、小説とかも書いてるし、そこかなと思いますね。
高橋:
そう、そう。だから、詩も確かに、その「somewhere in between」かもしれないけど…、ブレイディさんは、もはや存在自体が、もうなんか、ノンフィクションライターなのか、評論なのか、小説なのか、自分でもあまり区別がつかなくなってきてるんじゃない?
ブレイディ:
って言うか、最初からつけようと思ってないし、それでいいんじゃないかって。
だからいろいろ言われるんですよ。「どこのジャンルの人かよくわからない」「どうしてこれ、ノンフィクションにしなかったんですか?」とか「これは評論なんですか、エッセイなんですか?」とか。
でも「分けるの、意味あるのですかね?」ってよく言ってるんですけど、そこはアナキストが出てきちゃうっていうか、私は私、みたいな。別に箱に入れられたくないなって思いますけどね。
谷川さん家で座談会 スタジオ振り返り:言葉の「現場」とは?
高橋:
はい。箱に入れられたくないそうです。
礒野:
わ~、かっこいい。
高橋:
あのね~、実はあんまり難しい話じゃないんですよ。さっきも言ったように、まぁ、この世とあの世の話から始まってるでしょ。でも、この世は現実。で、僕たち、現場は全部、現実にあると思ってるじゃないですか。
礒野:
そう! 日ごろ過ごす場所とか、主にいる場所とかが、戦いの場っていうかね~。
高橋:
そこだけだよね? あるのは! それについて書いた言葉はあるけど、でも現実のほうが大事で、それは「それをただ言葉で書いたもの」っていう扱いなんですよ。だいたい。
礒野:
ええ。
高橋:
だから言葉ってね、だいたい、言えば2次的な!
で、あと死んじゃったら「あの世」でしょ。だから、2次的なもんだよねっていう扱いを、格別に大きくしたのが「その世」ですよね。
礒野:
格別に…(笑)。
高橋:
まぁまぁ、それは現実と同じぐらい現実的じゃないかって、考える。
礒野:
現実よりも…?
高橋:
ある意味、小説のほうが現実よりクッキリしてるとかさ。
礒野:
あぁ~。
高橋:
物事がはっきりわかるようになっているとか、現実ではよくわからないけど、言葉にするとよくわかるとか…、
礒野:
あっ、そういうことだよね~って。
高橋:
だから、比べたら、極端なことを言うと、物書きっていうのは、現実と作ったものの価値が逆転している人なんですよ。こっちのほうがはっきりしてるじゃん、現実はよくわかんないけど、っていうふうになると、「この世」より「その世」のほうがいいよね、と。
礒野:
ふん、ふん、ふん。
高橋:
「あの世」はないからね。っていうふうに考えていただくと、そんなに難しいことではないですね。
だからみんな、現実だけが現場だと思うかもしれないけども、そんなことはなくて。他にも現実がありますよ、ということではないかと思います。
【放送】
2023/11/03 「高橋源一郎の飛ぶ教室」
前編を聴く
23/11/10まで
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23/11/10まで