【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ~映画配給会社 山中陽子さん~」

23/04/28まで

高橋源一郎の飛ぶ教室

放送日:2023/04/21

#文学#読書#映画・ドラマ

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2コマ目「きょうのセンセイ」は映画配給会社の山中陽子さん。山中さんが買い付け、いま公開中のフランス映画「最高の花婿ファイナル」のお話や、そもそもなぜこの世界に入ったのか、そして配給会社のお仕事についてうかがいました。邦題のタイトルはこんなふうに付けていたんですね!詳しくは、この「読むらじる。」で・・・。

【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
山中:山中陽子さん(映画配給会社代表)

礒野: 源一郎さん、2コマ目です。
高橋: はい。今日のセンセイは、映画配給会社代表の、この方です!
山中: 山中陽子です。こんばんは。
礒野: よろしくお願いします。
山中: お招き、ありがとうございます。
高橋: よろしくお願いします。きょうは、よくいらっしゃいました。実はですね、さっきDVDをもらっちゃった(笑)。
礒野: 山中さんから?!
高橋: 山中さんから!
礒野: なにをいただいたんですか? フランス映画の?
高橋: え~とね、4枚は山中さんのところで配給したやつ?
山中: 全部!
高橋: あっ、これも! そうか、あとで配給したんだ!
山中: 全部、全部です。私が配給した、うちの会社で配給して、その中できょうは源一郎さんに、ぜひ観ていただきたいなと思って。
高橋: あ~! 古い映画も配給して…。名作ですもんね。
山中: 古い映画を最近4Kとかデジタルリマスター化されたもの。
高橋: あ~、そういうことか。なんで古い映画も…、あっ、そうか~!
山中: そういうのをまた配給しているんです。
高橋: ちなみにですね、『ハンナ・アーレント』『ふたりのヌーヴェルヴァーグ』『コーヒーをめぐる冒険』『シンプルな情熱』、クロード・オータン・ララ監督の『赤と黒』、ルネ・クレール監督の『自由を我等に』『リラの門』なんですけど、7枚中6枚は観てます(笑)。
礒野: うふふふ(笑)。さすがですね!
山中: あははは(笑)。すごい!
高橋: でも逆に、山中さんのところで配給してるって、知らなかった。配給会社はそんなにね。
山中: 普通ね、そうですよね。
高橋: いやだから、ごめんなさい。いい趣味してますね(笑)。
礒野: あははは(笑)。
山中: ありがとうございます。でも観てくださっていて、うれしいです。やっぱり。
高橋: だから、ちょっと若干、貢献してますよね(笑)。
山中: すごく(笑)。
礒野: ファンとして。
山中: うふふ(笑)。
高橋: あの~僕は、試写会じゃなくて、全部お金払って行きます。
山中: あ~、そうですよね~。ありがとうございます。
高橋: ね~、お金払ってね。
山中: 映画館で観てくださったんですよね。
高橋: ちょっとね、『ハンナ・アーレント』の時はヤバかったですよ。タバコを吸いたくなっちゃって。すみません、こういう私語をしちゃいけないんだ(笑)。
礒野: プロフィールをご紹介させていただきますね。34年前、ミニシアター系配給会社「セテラ」を立ち上げられました。コロナで映画館が閉鎖する中、旧作品がオンラインで観られる配信サービス「Help! The 映画配給会社プロジェクト」の発起人のお1人です。これまでの活動が認められ、先月、フランスで100年以上続く名誉ある賞『ルネサンス・フランセーズ賞(文化の交流を通して平和を築いていくことが目的)』を受賞され、フランス大使館で表彰されました。
高橋・
礒野:
おめでとうございます~!
山中: ありがとうございます!

現在公開中『最高の花婿 ファイナル』について

高橋: ということで、まず最初に、山中さんが買い付けた映画のお話も、もちろんなんですが…。
“現在公開中”の、ですよね?!
山中: はい。
高橋: 映画があるということで、それが『最高の花婿 ファイナル』ということで!
山中: これはシリーズなんですよね。
高橋: ですよね。それで3部作になっちゃって、3本あるんですけど。
山中: そうですね。
高橋: え~と僕ですね、きのう3本観ました(笑)。
山中: あっ!
礒野: すご~い! “一気見(いっきみ)”ですか!
高橋: 一気見!
山中: いま、“一気見”は、映画館でもやってるんです。
高橋: あっ、観られるようになってるんだ!
山中: やってるんです(笑)。
高橋: あのねぇ、僕いつもこういうときに言うんですけど、「もし面白くなかったら、どうしよう」っていう。
山中: うふふ(笑)。
礒野: うふふふ(笑)。
高橋: だって前の日でしょ。やっぱりね、もちろん、けなしはしませんけど、“楽しくなさそう”になっちゃうじゃない。
礒野: あぁ、やっぱり隠せないですよね、それは。
高橋: 「いい映画でしたね(棒読み)」みたいな(笑)。
山中・
礒野:
あははは(笑)。
礒野: 顔がそう言ってないです(笑)。
高橋: でもね、これはマジな話、面白かったです! めっちゃ!!
山中: ありがとうございます(笑)。ホント面白いんです! 面白いから観てほしいと思うんです。
高橋: あのね、こういうエンターテインメントですよね。
山中: エンターテインメントですね。
高橋: コメディなんですけど、日本映画も、こういうのあるといいね~!
山中: うふふ(笑)。
高橋: 僕ちょっと、『フーテンの寅』みたいな?!
山中: 寅さん、思い出しますよね。
礒野: 寅さん!
高橋: 寅さんなんだよ。「フランス版・寅さん」なんだよね。
山中: そうなんですよ。「家族の話」ですし、あとやっぱり「人情喜劇」ですよね。
高橋: そう、そう、そう。
礒野: 改めて内容を、ネタバレなしで、ちょっと教えていただけますか?
高橋: せっかくだから「1」「2」は簡単で、「3」ですかね。
山中: そうですね。え~、とにかくまずフランス人のですね、保守的な夫婦に4人の娘がいるんですよね。
高橋: お父さんがいい感じですよね。
山中: お父さんがすごくいい! お母さんもすごく…。
高橋: すてきですよね。
山中: そうなんです。その4人の娘がアラブ人、ユダヤ人、中国人と結婚して、それで親としてはやっぱり全員「移民の外国人」と結婚してしまって、最後の娘だけは、やっぱりフランス人のほうがいいなっていう。なぜかっていうと、やっぱりフランス人だったら教会で結婚式ができる。
高橋: そう、だから、宗教問題があって、教会で出来なかったんだよね。これは「1」の話ですね。
山中: そうなんですよ。今までは全部、市役所で結婚式をしてたんです。
礒野: へぇ~!
山中: そうなんです。でも最後その、末娘が今度はコートジボワール人を連れてきたんですね。
高橋: でもフランス人だから。(コートジボワールは1893年にフランス植民地となり、1960年に独立)
山中: キリスト教徒ではあるんですよ。
高橋: そう、そう。教会では出来るけど…。
山中: 教会では出来るんですよ。
礒野: 出来るけれど~!
山中: コートジボワール…。でもやっぱり娘の幸せを思って、親がやっぱり渋々受け入れるんですけれども、それでみんなやっぱりハッピーになる。それがまず1話なんですよね。
高橋: ここで話としては1回終わってるんですよね。
山中: そうですね、そうなんです。もともと「1」で終わるはずだったんです。
高橋: ですよね~! あの話はアレで僕…。だからね、終わりがすごい感動的で。
山中: そうなんですよ。これがものすごくヒットしたんですね。フランスでも、世界的に大ヒットしちゃったので、それでやっぱり「続編を!」っていうことが。
高橋: 作ったんだね。
山中: そうなんですよね。で、続編はその、無事に結婚した4人の娘たちの婿たちが、やっぱりみんな全員「移民」なんですよね、フランスにいる移民。やっぱり移民っていうのが、暮らしにくい。フランスで、パリで、暮らしにくいっていうことで、みんなも自分たちの国に帰るって言いだしたんですね。そしたらやっぱり孫たちにも会えないし、自分のかわいい娘にも会えないっていうお父さんとお母さんたちが、今度は婿たちを引き留める作戦をする。
高橋: 謀略を図る(笑)。
山中: そうなんです。それで無事、それがうまく成功したんで、それで大団円になったのが「2」なんですね。
それでみんなこう街に住んで。
高橋: そう。シノン?
山中: そうです。シノンですね。ロワール地方の、そうなんです。パリの郊外の、ロワール地方っていう、お城がたくさんある、ホントにきれいな、あそこのシノンのところに、今度はみんないるんだけれども…。
高橋: いよいよ、第3部。
山中: 第3部は…。
高橋: どうなるんですか?!
山中: お父さんとお母さんが結婚40周年を迎える。で、娘たちがですね、婿たちと一緒に、婿たちのお父さんお母さんもみんな呼んで。
高橋: 招待する!
山中: そうなんです。招待して。
礒野: 全員集合ですね!
山中: そうなんです。「家族みんなで40周年を祝う会をしたらどうか?」っていうことになって、それでけっこう一癖も二癖もあるお父さんやお母さんたちが、全世界から集まってくるわけですね。
高橋: そもそもね…。
山中: それがおかしいんです(笑)。
高橋: イスラエルの人、アラブの人、中国の人、コートジボワール。それぞれの国でも特に際立つキャラが!
山中: そうですね、そうなんですよね。
高橋: もうね~(笑)。
礒野: 大変なことになりそう。
山中: でもけっこう「あるある!」っていうか、いそうな人なんです、けっこう。このコメディの面白いところって、やっぱりあの上手に、なんて言うんでしょうね…。キャラクターがみんなすごく生き生きしてるんですよね。お父さんもお母さんも、とても。
高橋: あとやっぱり僕も思ったんですけれども、おそらくフランス人にとっては「フランスあるある」なんでしょうね。
山中: そうなんですよ。
礒野: あ~!
高橋: みんな「移民」で。
山中: そうですね。
高橋: だから僕らやっぱり、日本人には「移民」がけっこう中心というか、ものすごくたくさんいる社会のことは想像できない、じゃないですか。
山中: そうですね。ただ「1」から「3」に来るまでで、8年ぐらいたってるわけですけど、日本もかなり増えてきましたよね、いま。コンビニに行ったら、もうみんないるし。
高橋: ホント!
山中: いま電車に乗っても、必ずもう外国人を見ますよね。だからやっぱり、けっこう映画の世界に日本も追いついて来てるんじゃないかとは思うんですけども。
高橋: 面白いところは、けっこうたくさんあってですね。とにかく、まぁ、イスラエル人とアラブ人がいるから、ここでは必ず闘争が起こる。
山中: そうなんですよね。
高橋: ホントに世界史の、そのまま繰り返しみたいになって。実はしょっちゅうケンカしてるよね?
山中: けんかしてるんですよ。
高橋: これのいいところは、ぶつかりますよね?! 真正面から、各人が全員!
山中: みんなやっぱり譲らないところがあって(笑)。
高橋: 第3部はもう1人、え~っと…。
山中: あぁ、そうですね!
高橋: これはね、ネタバレになるから。
山中: そうですね。ちょっと面白い人が出てくるんですよね。
高橋: また更に複雑に、なっていく!
山中: そうですね。
高橋: あと、思ったんですけど、やっぱりその、「これはフランスだな~!」と思ったのは、皆それぞれ国が違う。で、宗教も違うし、考えかたも違う。だいたいお父さんは、ずっと怒ってるんですよね。
山中: そうですね(笑)。
高橋: 「お前たちは、なんだ~!」って、ずっと言ってるんだけど。あの~、サッカーの話かなんかになって、「どうせ、お前は、“ラ・マルセイエーズ”(フランス国歌)は歌えないだろう?!」とか思うと、全員歌えて!
山中: 全員ちゃんと歌えるんですよね~。
高橋: で、全員で合唱する。
山中: そうです。
高橋: あそこ、泣けますよね(笑)。
山中: そうですね~!
礒野: 心が通う?
山中: っていうか、やっぱり彼らは移民だけれども、フランスで生まれたフランス人、自分はやっぱりフランス人っていうつもりなんですよね。“つもり”っていうよりも、フランスの社会っていうのは、そうやって成り立っているところがありますよね。
高橋: う~ん。そういうので、コメディなんだけど、フランスのことが、よくわかってくる…、ような気がする。
山中: そうですね。
礒野: ぎゅっと詰まってるんですね!
山中: ええ。
高橋: 途中でお父さんが、ドゴール帽をかぶって。
礒野: ドゴール帽?
高橋: ドゴール大統領。
山中: つまり、あの~、保守派なので、お父さんは。ドゴールを、ドゴールが好きなんですよね。ドゴールを敬愛しているんです。
礒野: シャルル・ドゴール空港の、ドゴールですね~!
高橋: 普通は知らないよね。僕、知ってますからね。あの、ああいう変な帽子ね。学生帽みたいなのかぶってたんで。それをかぶると、“シャンとする”とかね。なんかあの「フランス社会あるある」。
山中: そうですね。
高橋: フランスでも、めっちゃヒットしたんでしょ?!
山中: すごくヒットしたんです。5人に1人が観たんです。
礒野: え~!
山中: 5人に1人が観たぐらいヒットしたんです。
高橋: それは結局ね、フランス人にとっては「いや、もう、そう描くのか~!」「そうだよね!」っていうふうに。
山中: でも、日本人の私たちが観ても充分面白いところが、いっぱいありますよね。やっぱりこれ「家族の話」だし、あの~「人情の話」っていうのが根底にあるから、世界的にフランスだけじゃなくて、世界中でヒットしたんですよ。
高橋: 「結婚問題」でしょ?!
山中: そうです! 結婚問題なんですよ。私たちのやっぱり兄弟が、もし黒人とかアラブ人とか、やっぱりちょっと…。
高橋: もめそうだよね。嫁しゅうとめの問題から、親子問題だったりね。
山中: そうですね。やっぱり日本人同士のほうが、親としては…。
高橋: いいよね~とか、絶対言いますよね。
礒野: 保守派のおうちは…。
山中: そうなんですよね。やっぱり自分の身になってみると、通じるところがあるっていうか、すごくわかりやすく…。わかりますよね。
高橋: だからさっきも言ったけど、「寅さん」って言ったのは、たぶんあの、寅次郎の映画をフランスへ持って行っても、わかる!
山中: そうですね。
高橋: 家族はそういうとこで、もめるんだよねって。
礒野: そういう意味での寅さんだったんですね。
高橋: そこがね~、すごく面白い。あと、でも、最後はいつも、だいたい音楽で終わるじゃないですか?!
山中: はい。音楽で終わりますね。
高橋: それがね~、泣けるんだよ(笑)。
山中: そうなんですよね。この映画のいいところは、笑って、やっぱりこう、ちょっとホロッとするところですよね。
高橋: 詳しく言いたいんですけどね、ネタバレになるから。
礒野: そうですね。公開中なので「ぜひ皆さん、映画館で!」って感じですね。
山中: 全国でやってます!
高橋: なので、ぜひ、この映画を観ていただきたいということで。

配給会社のお仕事って?

高橋: えっと、あの~、きょうはですね、配給会社の代表としてのお話を聞きたいと思うんですけど。まぁ、さっきいただいたDVDですけど、あの~、よく考えてみたら、どの配給会社って見ないで観てますよね。
山中: そうですよね。普通、別に見ないですよね。
高橋: いつから、配給をされたんですか? 山中さんの会社は「ミニシアター系」の配給会社の“草分け”と言われていると思うんですけども。
山中: 1989年に会社を作ったので、それから配給しています。34年目です。
礒野: へぇ~~!
高橋: あの~、大変ですよね(笑)。
礒野: そもそも「きっかけ」って、なんだったんですか?
山中: きっかけ…。う~んと、まぁあの「英語を使ったお仕事」をしたくて、この業界には入ったんです。それが「映像を使う」「映像を輸入する」っていうのは、やっぱり面白い仕事があるなっていう。それまで知らなかったんですけれども。
高橋: あの~僕さっき、1コマ目のヒミツの本棚で、モンテレッジォの本の行商人たちの話をして、モンテレッジォの人たちは、特に読書好きじゃないんだよね!
山中: う~ん。
礒野: 必要に迫られてやって、ということですよね?
高橋: 読むと、実はこれね「読ませるとよくわかる」。僕、1番面白いエピソード、あの本の中であったのは、奥さんが読んで「こういう話だよ!」って言って。「わかった!」って言って、“説明するときには、自分より、よくわかってる”。
礒野: うふふふ(笑)。
高橋: “その本がなにか、よく知ってる”。「だから売れるんだ」っていう。だから読書好きが本を売ってるんじゃなくて、その本を売ることに特化した結果、「本がわかるようになっちゃった」みたいな感じがあると思うんです。山中さんは?
山中: 私も別に映画の勉強したわけでもないし、そんな映画の虫みたいな、シネフィルではないんですけれども、でもやっぱり、見つけた映画がとっても面白かったら、それをやっぱり「みんなに観てほしい」し、「みんなに紹介したい」って思う。“それが1番”です。それが“原動力”になっています。
高橋: どうやって見つけるんですか?
山中: 見つける…。外国の映画祭とか、映画のマーケットとかに行って、そこで試写をするんですね。
高橋: これは、どういうんですかね、これ…。さっきの話にも続くんですが「売れるから、だけじゃない」ですよね? あるいは「これはどうしても観てもらいたい」とか。
山中: あの~、もちろん… 。
高橋: 売れたらいいですけどね。
山中: わからないんですよね。本当に、なにを皆さんが観たいと思うかっていうのが、本当にわからないので、やっぱり私が観てとても面白いと思うもので、そこに「こういうことにきっと、皆さんが興味を持ってもらえるんじゃないか」ってことを見つけるんですね。見つける、見つけられたものを、やっぱり紹介したい。紹介しますね。もちろん私が大好きで観てほしいと思っても、誰も興味を持ちそうもないことを、1人でやってても、やっぱりしょうがないですし。そういう映画も昔はいっぱい配給したんですけれども(苦笑)。
高橋: それはなかなか、うまくいかなかった?
山中: なかなかやっぱり、うまくいかなかったですね。
高橋: 逆にうまくいったのは、どんなの?
山中: うまくいったのは、やっぱり「いい邦題」をつけて、映画のタイトルってやっぱり、海外での映画のタイトルを日本に持ってきたときに、それを、より日本の人にわかりやすく伝えるのに、「邦題」をやっぱりつけるんですよ。
高橋: あの~、タイトルをつけるのは山中さんなんですか?
山中: 私と社員たちとみんなで。
礒野: すご~い。そうなんですか!
高橋: 「どうやってつける」っていう、決まりはないんですよね?
礒野: いつも、それを疑問に思ってたんです。全然違ってたりしますよね。
高橋: 全然違ってますよね。
山中: 全然違ってたりします。もちろんそうです。やっぱりなにか「この言葉に、きっと興味を持ってもらえるんではないか」っていうようなものを見つけて、それをタイトルにして。で、そのやっぱり覚えやすい。覚えやすいもので、長くって覚えにくいものではなくて。
礒野: 先ほどの『最高の花婿 ファイナル』は、「原題」を教えていただけますか?!
山中: これはですね。「私たちが神様に、なにをしたというのでしょう」という、つまり…。
高橋: このタイトルだとね(笑)。
山中: そうなんです。つまり「なんで私たちがこんな目にあうんでしょう、神様」。そういうことです。
高橋: 嘆きですね。
山中: そうなんです! つまりあの夫婦の、あのお父さんとお母さんが、私たちはいい娘をちゃんと育てたと思ったのに、娘たちが1人ずつ、こうやって、私たちの思惑とは違う人と…。
高橋: 結婚してって!
山中: 結婚してしまって、「私たちはどうしたらいいんでしょう。神様、私たちが、いったいなにをしたというのでしょう」。それが原題の意味なんですね。もちろんそれは、とても面白いと思うんです。それで観た人は、それがすごくよくわかると思うんですけれども、やはりその私たちは、そのよく「花嫁」さんとかっていうのはありますけれども、言葉としてあるけど。「花婿」っていうのは、あんまりないので。
高橋: あんまりタイトルに出てこないですね。
山中: そうなんです。「“花婿”っていう言葉を、じゃあ使おう!」っていうふうにして、で、この婿たちがみんな集まり、「婿たち」ですから、ここのフランス人と結婚する。その婿が親にとっては最低と思ってたのが、でもやっぱり娘たちにとっては最高だし、やっぱり最終的に結婚してみたら、いい婿たちだったから「最高の花婿」っていうふうにしたんです。
高橋: なんかこれ、アンサーですね?!
山中: そうですね。
高橋: いや、なんかね~、4人で歩いてくるシーンなんか観ると『アベンジャーズ』とか、思っちゃいますよね(笑)。
山中: そうですよね(笑)。
高橋: かっこいいもんね!
山中: そうですね!
高橋: あのけっこう、だから「意訳」をされてると思うんですけども、これ『あしたのパスタはアルデンテ』?
山中: あははは(笑)。これはイタリア映画ですね。
高橋: イタリア映画もね!
山中: イタリア映画もやってます。
高橋: これ、原題はなんなんですか?
山中: これは、原題はね「Mine vaganti」っていうイタリア語で、これはあの、なんていうんでしょう…。時限爆弾みたいな、こうちょっと意味の…。実は、いつ爆発するかわからない危険性を抱えている、おばあさんの話なんですね。ただやっぱりそれだと、ちょっとわかりにくいので、“パスタ工場を営んでいるファミリーの話”だったんです。だから「パスタ」っていう言葉と、パスタの1番いい茹でかたはアルデンテですよね。そのアルデンテとパスタを使ったタイトルにしたりとかしました。
礒野: へぇ~、すてき! 前向きに聞こえますね。
山中: そうなんです。「あしたの」っていうことで、「前向きな」っていう。
高橋: なるほどね~。
山中: そういう意味をいろいろ考えながら。
礒野: へぇ~!
高橋: これ『最高の花婿』だしね。
山中: そうなんです!
高橋: そうか~! 原題は平気でネガティブな言葉を使ってるけど。
山中: そうなんですよね。
高橋: だいたい「ポジティブなものに変えていく」っていう感じですね。
山中: そうなんです。今までで1番面白いタイトルとして、やっぱり変えたのは『クロワッサンで朝食を』っていう、そういう。
高橋: あれ?! 『ティファニーで朝食を』をですね。
山中: …を、もじってはいるんですけども。
高橋: 原題は?
山中: 原題は『パリのエストニア人』というタイトルです。
礒野: 全然違いますよね(笑)。
高橋: 全然、違う(笑)。
山中: それだと全然、誰も観に行かないだろうなと思って、そうなんです。ホントにクロワッサンを食べるシーンがちゃんと出てきて、おいしいクロワッサンを食べるっていうのが「キーになる」お話があったので、それで「クロワッサン」という言葉を使いました。
高橋: あの~、現在『最高の花婿 ファイナル』が上映中なんですけども、これからまだ、もちろん、どんどん予定もあると思うんですが、どんなのを準備されているんでしょうか?
山中: そうですね。来月まず5月に「イタリア映画」で。
高橋: イタリア映画をやる!
山中: イタリア映画もやるんです。それこそ「山の映画」なんですけど。
高橋: あっ、なんか面白そうですね!
山中: そうなんです。これはあの~、原作本がやっぱり世界的な、国際的なベストセラーになった『帰れない山』っていう。(イタリアの作家パオロ・コニェッティ著)
高橋: はい。
山中: その映画です。その原作を映画化したもので、カンヌの審査員賞をとった映画なんです。
礒野: 楽しみですね。
高橋: タイトルが!
山中: す~ごく、きれいです。すごいすばらしい映像と、あと音楽もすばらしくて。お話がやっぱりグッときて、ぜひぜひ観ていただきたい映画です。
高橋: あの~、ね。「映画の見方」も変わってきて、「配信」とかもあって、その配給会社も大変だと思いますけど、今1番考えてることは? 配給会社として。
山中: やっぱりどうやったら「みんなが映画館にまた来たい」と思ってくれるか。みんなが映画館に来たいと思うものがないから、来ない。来ないっていうのはあると思うんですよね、やっぱり。読みたいものがあったら、みんな買って読むし、観たいものがあったら、やっぱりそこまで出かけていって観てもらえる。それぐらいやっぱりいいものを、きっと提供したら、いいんじゃないか…。いいものを提供しないと、やっぱり皆さん…。
高橋: そうですね。いや僕ホント、そう思いますよ。ちょうど「紙の本」って、「映画館で観る映画」みたいなもんですよね。
山中: そうです。
礒野: あ~! 配信もいいですけどね。
高橋: “電子書籍”もいいけど、ただ「そこに行った体験」とか。
山中: そうなんですよね。出かけていって、やっぱり観る。
高橋: そう、そう。
山中: 出かけていって観るっていう「行為」。
高橋: そこに自分の行為が加わると、違って観えるので、ぜひ『最高の花婿 ファイナル』を(笑)。いや、ホントにね~、「1」「2」観てなくても、ラストシーン、泣けますから!
礒野: 「ファイナルだけでも!」っていうことですね。そろそろお別れの時間が近づいてまいりました。
2コマ目のセンセイは、映画配給会社代表の山中陽子さんでした。ありがとうございました。
高橋: きょうは、ありがとうございました~!
山中: ありがとうございました~!

【放送】
2023/04/21 高橋源一郎の飛ぶ教室 「きょうのセンセイ」

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