【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ~詩人・作家 川上未映子さん~」

23/03/24まで

高橋源一郎の飛ぶ教室

放送日:2023/03/17

#文学#読書

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2コマ目「きょうのセンセイ」は詩人・作家の川上未映子さん。1コマ目「ヒミツの本棚」でご紹介した『黄色い家』の著者です。新聞連載されていたこの小説、毎朝楽しみに読まれた方も多かったかもしれませんね。川上さんご自身からこの作品に描いた世界、英語タイトルの「SISTERS IN YELLOW」についてなどお話をお聞きしました。これから書きたい作品についてのお話になったところでお時間となりました(笑)。源一郎さんが冒頭「今日はガチでやろう」と宣言されたとおり、ディープなお話になりました。

【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
川上:川上未映子さん(詩人・作家)

礒野: 源一郎さん、2コマ目です。
高橋: はい。今日のセンセイは、詩人で作家のこの方で~す!
川上: こんばんは、川上未映子です。よろしくお願いします。
高橋: わ~い(拍手)。
礒野: こんばんは~! よろしくお願いします。
川上: よろしくお願いします!
高橋: いや~、久しぶりやの~!
川上: ご無沙汰してます。
高橋: ご無沙汰してますね。前の番組ですけどね。
川上: あっという間。そうですね、かなり前になって。
礒野: 『すっぴん!』以来の、ご出演ということで!
高橋: そう! 『すっぴん!』以来の。あの時、妊娠してた?
川上: そう! おなか大きい時でしたね。もう10…、11年ぐらいですかね。
高橋: 10年以上前だね~。
礒野: そうですか~! でも、その間もお会いはしてたんですよね?
高橋: そうですね。まぁときどき…、選考会。
川上: そう! 「三島由紀夫賞」の文学賞で。
礒野: 選考員同士として!
川上: はい、そうです。
高橋: そう、そう。きょうは川上さんをお迎えしてですね…。「ガチ」でやろうと!
川上: はい!
礒野: ガチで?
高橋: ガチで! もうね、すいません。途中からリスナーをおいて、勝手に僕が話すかも(笑)。
礒野: あはははは(笑)。先に宣言してますね。
高橋: 宣言してますけど。まぁ、そうならないように気をつけます。

大江健三郎さんのおはなし

高橋: で、えっと、まずですね。大江さんの話をしていいかな?
川上: もちろんです。
高橋: あの~、僕がちょうど『黄色い家』を読んでいる時に、大江さんが亡くなられて、『黄色い家』の途中で、大江さんの本を読んで(笑)。
川上: 大江さんのところに行って…。
高橋: そう、ホント。本棚に行って『芽むしり仔撃ち(めむしりこうち)』とか読んでたんだよ。
川上: うん。
高橋: それで、大江さんのことを川上さんがどう思っていらっしゃるかわからないけど。僕、なんかね~「似てるな」っていうかね。なんか「同じ」。それは「孤独」な感じ。
川上: う~ん。
高橋: 大江さんということではなくて、ちょっと今回、聞きたかったのは、僕は川上さんの本はずっと読んできて、だんだん変わってきてるじゃない?
川上: 変わってきてる?
高橋: 変わってきてます! だんだん変わってきて、だんだんね「空気の薄いところに建物を建ててるな」っていう(笑)。
川上: あぁ…。
高橋: だんだん建てにくいところに建物を建てていって、「すげぇな!」と思って読んでたんですね。で、あの僕ちょっと聞きたいんですけど、なんか書いててさ、「孤独感」を感じない?
川上: 「書いてる時に孤独感」ですか?
高橋: う~ん。書いてる時っていうか、まぁ、そうね。書き終わったあとでもいいし、なんかさ、だんだん読まれるようになってんじゃん、いろいろな人に。で、評価も上がって。でもなんかさ、だから「逆に孤独感が増す」っていうことはないかなって?
川上: どうだろう…。書いてる時は、もうなんか、その“目撃する”。自分で書いてるんですけど、物語とか追っかけるのに必死じゃないですか。でも、これを終わらせられるのが、まぁ自分しかいないから。モノを書く人はね、基本的に孤独だと思うんですけど、作業自体が。でもなんか、やっぱり子どもの時から、なんかやっぱりみんなリミットがあって、みんなね「“いつかいなくなる”みたいな大きいルール」みたいな。誰かといると、それがなんか「ごまかせる」。なんかすごい「ごまかせる」ことって、たくさんあると思うんですけど。「寝る前とかの言いようのない恐怖」とかは、なんかやっぱりあるんですよね。「孤独」っていうキーワードで1番に思い出すのはその「逃げ場のない」こと…。
高橋: あっ、そっちね! 逃げ場のないことね~。
川上: そっちがあって。
高橋: なるほどね。
川上: けっこう大きくて、書いてる時は、たぶん、そういうモノともリンクしてるんでしょうね…。う~ん。
高橋: あ~なるほどね。

詩人と小説家の距離感

高橋: あの~僕、さっき「だんだん空気が薄いところ」って言ったのは、川上さんさ、最初に「詩人で作家のこの方です」って言ったじゃん。
川上: はい。
高橋: でね、なんか、川上さん「肩書き、どうします?」って言ったら、「作家でいいですか?」って言ったら、「詩人で作家」って。だよね(笑)。
川上: そう! やっぱりね「詩」でね、“仕事始めた”っていう気持ちがあるんですよね。
礒野: 思いがある詩へ、熱いものが…。
高橋: そうそう! それでね、僕が実は聞きたかったのは、詩と小説は違うじゃない?!
川上: うん、違う。
高橋: どこが違うかって、まぁいろいろ違うんですけど。詩と小説だと、あのね「カメラの焦点距離が違う」んですね。
川上: カメラの焦点距離?
高橋: あのね、要するに、えっと普通さ、遠くの焦点と近くの焦点があるじゃん。で、遠くの焦点って、だからさ、その~「お話」とか「物語」とかさ、まぁ“情報”だよね。それは遠くの。で、「言葉って近くにある」でしょ。だから、こっちだと「短い距離」。だから両方は難しいんだよね!
川上: 同時にね! 同時には焦点が合わせられない。
高橋: 同時にはね。合わせられないから、僕、実は、だから「どっちかっていうと、近い焦点」です。
伊藤比呂美さんがさ、小説書けないって言ったのは、あの人は詩人だから、完全に近い距離だから。
川上: ここの手前の、そのすごく近い焦点で世界を見ていらっしゃるんですね。
高橋: そう。どうしてかって言ったらさ、要するに「遠くの焦点は情報」って言ったでしょ。だから詩で1番いいのはさ「どこの国かわからず、誰かもわからない、関係もわからないし、全くわからないけど、この人がなんか言っている」というのがいいんだよね。情報があればあるほど。だから無いほうがいいっていうふうな、短距離だからさ。
川上: 「ただ見る」っていうだけで成立するっていうか、「聞く」っていうだけで「成立する距離の出来事」ですよね。遠くなるとやっぱり情報がたくさんあるから。
高橋: そう、そう、そう。
川上: なんだろう…。いい距離としても存在できるかもしれないけど、やっぱりなんか詩とね小説って、やっぱり…。
高橋: そう、だから川上さんさ、だんだんだんだん遠距離になってるよね(笑)。
川上: そうなんですよ。
礒野: 遠距離って、その遠くへ…。
高橋: そう、そう、そう。近くのことをあんまり、やらなくなってきたよね。
川上: 小説家みたいになってきてるよね(笑)。
高橋: あははは(笑)。
礒野: 小説家だと思っていました!
川上: 小説家みたいに、だんだんなってきたんですよ、もう。
高橋: でね、典型的なところに気がついたんだけど、前の前までは、大阪弁、関西弁でてたじゃない!
川上: しゃべってる時ですか?
高橋: しゃべってる時に!
川上: うん、うん。
高橋: 関西弁が消えてきて…。
川上: そうですね。じゃあ今から関西弁で(笑)。
高橋: 関西弁て、言葉でしょ。
礒野: はい。
高橋: だから、近いんですよ!
川上: うん、うん、うん、うん。
高橋: 必ずそれがあって、両方あったんだけど、もうとうとう近距離にいなくなっちゃって。
川上: そうですね。しゃべる時もそうだし、今回の小説『黄色い家』は関東圏の話ですね。
礒野: ええ、三軒茶屋とか出てきますよね。
川上: 三軒茶屋とか。
高橋: だから言葉に、言葉の美しさとかさ、言葉の衝撃とかには全く頼らなくなって、これ変な言い方だけどさ、「紋切り型」を増やしたでしょ?
川上: あぁ、だから、読めるスピードを上げたりとかするためにって、ことなのかな。
高橋: そう、そう、そう。なので、そういう言葉の入れ替えもあって、どんどん、ごめん、「小説家っぽく」なってるよね(笑)。それは、なんか必然的なの? 意図的にやってんのか、だんだんそうなっていったのか。それは自分ではどう思います?
川上: これはわからないんですよね。なんかその、詩…。
高橋: だって詩は書いてないじゃん。
川上: 詩、書いてないんですよね。
高橋: 書きなよ(笑)。
川上: そう、書く! 詩ってね、なんか昔、私が詩を書き始めて、源一郎さんとかに読んでいただいた最初の詩集とかって、やっぱりなんかすごくね「絶対再現できないものとか、伝達できないものが詩だ!」ぐらいに思ってたんですよ。
高橋: わかんなかったもんね。
川上: そう、そう。
高橋: みんな困ってたもん。
川上: 念写みたいなね。なんかそういうふうに「再現できないもの」であるべきだと思ってて、そういうなんかナンセンスであればあるほど、詩の純度が高まっていると思ってたんです。自分の思いとかね。でもなんか、最近こう、キャリアも長くなっていった時に、それで言うと「短歌と俳句」って、短歌って「7・7」のところに、自分の思いとか入るじゃないですか。自分のこと。でも俳句ってパッと「5・7・5」で終わって…。
高橋: 思いないもんね。
川上: 思いないですよね。「見たものを書く」っていう、そのなんて言うのかな。「自分がない」。で、なんか私にとっての詩っていうものも、なんか描写…。
高橋: あ~!
川上: 世界っていうか、感情じゃなくって。
高橋: あんまり思いはないよね(笑)。
川上: そう。なんかそうなってきて、詩っていうものの考え方がだいぶ変わってきたんですよね。で、いざ小説を書くって、別の方向でやる時に、なんかやっぱりこう、長い物語を書くために、こういう文体とか、リズムとかっていうのが出来上がっていったんですよね。
高橋: つらくないですか?
川上: それは、その、あれですか? 本来の、このなんだろう、体の…。
高橋: そう、筋肉とかさ…。
川上: 「詩だったら使える可動域を使ってない」とかって、そういう感じですか?
高橋: そう。それはずっと以前から…。
礒野: 読んでいるからこその…。
高橋: 前から言ってて、やっぱり「川上さんの詩が好きなんだよね」って、言って。
川上: うん、うん。
高橋: 「詩も書いて!」って、会う度に言ってたの。
礒野: あぁ、そうだったんですか。
高橋: でも、これはもう「小説家として覚悟を決めて、なんか、詩の部分は振り捨てて」っていうかさ。
川上: そうですね。だから、なんだろうな。こう、う~ん。でもなんか「詩というものの捉え方」みたいなものとか「表現の仕方」っていうものが、だんだん変わってきたのかもしれない。で、この花ちゃん(『黄色い家』の主人公)は、初登場15歳で、それでなんだろう、本も読まないし。
高橋: あぁ、そうだね。
川上: 使える語彙がね、やっぱり作品によって「一人称」だから決まってくる。
礒野: なるほど。
川上: だから、なんかものすごいバチバチの比喩とかを、花が使うのは…。
高橋: おかしいもんね(笑)。
礒野: 確かに設定がね。
川上: すごい、いきなり「ポエジー」になったら…。
高橋: 言うことけっこうダサいもん。それがイイと・・・。
川上: そう、そう。そういう、なんかちょっとこう、リアリティ。これがまた「三人称」だとね~、違ったのかもしれないですけど。「花ちゃん」っていう、この世界を書くのに、ちょっとその最後まで気が抜けなかったというのはあるんですよね。
礒野: なるほど~!

『黄色い家』のタイトルについて

高橋: それと、この質問はぜひしたいと思ってたんですよ。「タイトル」についてなんですけど。
川上: あっ、『黄色い家』。
高橋: これね、どこかで言ってるのかもしれませんけど、僕は読んでないんですけど。
『黄色い家』だけど『シスターズ・イン・イエロー』なんだよね。
川上: そうなんですよ。
礒野: 英語で書いてあるのは。
高橋: 英語で。違うよね?!
川上: うん。違うんですよ(笑)。
高橋: どう考えても『黄色い家』を訳したら『イエロー・ハウス』ですよ(笑)。
川上: 『イエロー・ハウス』なんですよ。
高橋: これは、あえて?
川上: そう! なんかこれって、あの~、刊行される前に、もう英語圏で翻訳が決まってて、その時にタイトルを一緒に翻訳者と決めてたんですけど、やっぱりその『ザ・イエロー・ハウス』って言うとね…。
高橋: わかんないよね。
川上: 普通の黄色い家なので。
礒野: うん、うん。
川上: ハウスと、日本の家っていろんなものの象徴なんですよね。それこそ、しがらみであり、愛情の象徴であり、小さいコミュニティで、だいたい事件てね、本当に家の中で起きるし。外から見えないでしょ。もしかしたら最大の喜びをくれるものかもしれないコミュニティ。でもやっぱりね、「家」って私たちが思う時に得られるものを、ひと言でね、英語でね…。
高橋: ないんだね~。
川上: ハウスなのか、ホームなのか。『イエロー・ホーム』だと、なんかちょっとね~。
礒野: 確かに。
高橋: 変だよね(笑)。
礒野: 建物を指しちゃう気がしますよね。
川上: ちょっとそれがアレだったんですよ。それでまぁ、いろいろ考えた結果『シスターズ・イン・イエロー』に。
高橋: いいタイトルだね。
川上: ね~、私もなかなか気に入ってて。
高橋: 「イン・イエロー」だと、家かどうかもわかんないもんね。
川上: そうなんですよ。
高橋: お金とかさ。
川上: いろんな意味があって。
高橋: 「黄色い状態にあるシシターズ」っていう。
川上: うん。おまけに「れもん」(レモン)っていうスナックの名前も英語ではすごく多義的で、いろんな「臆病な」とか「どうしようもない人たち」とかって意味もあって、すごくいい感じに、なんかね、意味がハマってきてて…。そういうタイトルだったんですよ。
高橋: あとこれ「読み方」なんで、さっきいろいろな読み方ができる小説で、それはもう「作者としては望むところ」だと思うんですよ。僕が1コマ目で言ったようにね、冒頭と最後のところがリンクしてるので。
あの、やっぱり12行なんだよね、記事は。だから「12行を600ページにした」というところが感動的だというふうに。
川上: う~ん。
高橋: これはちょっと、もしかすると作家的な見方かもしれないけど。もう1つは、まぁある意味わかりやすいんだけど「シスター」。いわゆる今「シスター・フッド」という言葉があって、女性たち、血縁関係のない女性たちの共同体が“負ける”話だよね?
川上: そうですね。いろいろ変容していって、その連帯ってすごく大事で、連帯の中から生まれてくるのもたくさんある。でも、その1つの連帯の可能性みたいなものとか、いいほうにも、もろいほうにも、やっぱり自分で検証したい。「書いて検証したい」って気持ちはあるんですよね。それってやっぱり小説にできる仕事の1つで、それでそのなんか、女の人たちが集まる中でも「家父長」的なね、構造が出来てしまう。
高橋: そうなんだよね。
川上: できてしまう…。私たち外から見てると、うまくいってるようなコミュニティでも、その支配関係。しかもなんだろう、割とシームレスに、それが行われていって、どうやって彼女たちがそこから抜け出して、「変容して抜け出していくのか」っていうところまで見届けられたらいいな~と思って。
高橋: あの~これ、ヤクザたちと付き合うことになって、そこで「しのぎ」というか、商売の「しのぎ」をしますよね。
川上: そうですね。しのぎまくって、もう(笑)。
高橋: しのぎまくって(笑)。
礒野: しのぎまくって…。
川上: しのぎまくるんですよ~。
高橋: で、思ったんですけど、ヤクザってさ、「ブラザー・フッド」じゃない!
川上: そうですよ。そうなんですよ!
高橋: ね!
川上: 「ブラザー・フッド」です!
高橋: だから「兄弟」とか言ってるでしょ。
川上: そう、そう。兄弟。
礒野: 男社会の兄弟。
川上: 親と子ね。
高橋: 親と子!
川上: 親と子もテーマで、「親と子」「家」。
高橋: さっきね「血縁関係じゃない共同体が希望」って言ったけど、ヤクザってそうなんだよ!
川上: そう、そう。そうなんですよ! バチバチにそうなんですよ。
高橋: でも「それがいい!」となると、アレは「希望なの?」っていうふうに…。
川上: でもなんか、登場人物も言うんですけど、それがどんなものであっても「家があるうち」は「誰が責任とるかが分かっていた」と。
高橋: あぁ~。
川上: でも、今はもう「横」になって、れい明期なんですよね。こういう匿名が出てくる。その時に、今、いろんな形を変えて、きょうのこの番組が始まる前のニュースとかでもありましたけど「若い人たちが単独に見える」ような。昔は「縦」だったんですよね。
礒野: ええ。
川上: それが横の、犯罪も横になって。
高橋: あっ、そうね。
川上: そうなっていて、匿名の時代になっていって「責任を取る親的な存在がもういない」んですよね。
高橋: いないんだよね~。
川上: これがいいのか悪いのかっていうのは、ちょっとそれぞれの考え方にもよるんですけど。でもなんかちょっと今の、その状況とね、リンクしちゃうんですよ。
高橋: 怖いと思ったんですよ。ここしばらく世界的にね、小説だけじゃなくて「血縁関係がない共同体で何か作る」っていうのは、まぁトレンドって言ったらおかしいけど、みんなが目指してるモノなんだけど。
どうも、それ「けっこうヤバイこと」も。
川上: そう。うまくいけば、本当にその、救うね、救いになるんだけれども。
礒野: ええ。
川上: やっぱりね、それもその方向というか、アレによっては。だからなんか今ホントに、若い人たちが顔を見せずに、名乗らずにね、つながれてしまうところで、どんどん格差が広がっていて、花ちゃんたちの時代っていうのは90年代なんですけど、でも今とやっぱりね、エッセンスとしては本当に置かれてる状況って串刺しですよね、同じなんですよね。
高橋: 同じだよね~。で、僕もう1つ。これ、はっきり書かれていないんですけども、やっぱり「母がテーマ」だよね。
川上: う~ん。
高橋: あのお母さんは、実は出てこない。出てこないで、いることはいる。で、その花ちゃんのお母さんでしょ。
それから黄美子さんの刑務所にいるお母さんでしょ。
川上: そうなんですよ。
高橋: それから桃ちゃんのお母さんはヤバイ頭なんだけど(笑)。お金持ちだけども…。
礒野: 面白かったです、あそこ(笑)。
川上: そう、そう、そう。割とエクストリームな、エクストリームなお母さんで。
高橋: そこで、その母親たちはみんな崩壊してるよね(笑)。
川上: みんなが(笑)。
高橋: まともな母親がいない。父親は存在さえしてないんだけど。その辺はどう考えて書いてたの?
川上: そうですね~。やっぱりなんかこう、なにかについて書こうとしても、普段考えていることとか、あるいは読んだものとかの、いろんなイメージとか問題がやっぱり召喚されていくじゃないですか。
高橋: う~ん。
川上: その中でやっぱり「お金」のことをまずしっかり書こうと。で、「家」のこと書く。それで「犯罪」。それが生み出すこの“カーニバルみたいな状況”が、やっぱり人間はどうしてもあってしまって。
そこを書きたいなっていう気持ちでいってたんですよね。そうなってくるとでも、母親、なんて言うのかな、親っていうものの中で、かなりの大きさを占めますよね、母親って。でもその母と子の問題っていうのは、私はけっこう過去にもやってきてるから。
高橋: やってきてるよね。
川上: 親としての、なんか母親。家としての母親みたいな。そういうところに今回は広げられたらなっていう気持ちがちょっとあったのかもしれない。
高橋: あのね、「毒親」ですらないんだよね。
川上: そうなんですよ。
高橋: みんな、もはや淡い状態になってる。もしかすると川上さんの中では、その母親像っていうのがちょっともう、いま出せない、感じ?
川上: そうですね。母親、でもね母親っていうのは本当にもう、あの~、大きなやっぱりアレですから。何歳になっても、捉え方が違うし、問題によってね、見え方が全然違うから。掘っても掘ってもっていうところはあると思いますけどね。
高橋: 面白いよね~。最後に1つだけ聞きたいんですけど、さっき言った、この小説は308ページで、そこでようやく伏線が回収され始めるんですけど、決めてたの? 最初から。
川上: そう! 真ん中あたりで…。
高橋: すごいね! なにが始まるのか、わかんないの、途中で。どうなってるんだコレはって(笑)。
川上: なんかイイ感じで、「頑張れ、花ちゃん!」みたいな感じなんだけど、ダークサイドにいくっていう。
礒野: あはははは(笑)。
川上: でも、よかったです。そう言ってもらえて。
高橋: 設計どおり?
川上: あのね~、中はあんまり考えてなかったですね。家だけに、やっぱりその坪数と間取りを、だいたいの間取りを決めたけど、内容は決めてなかったんですよね。
高橋: いいんだよ、それは。家もね、アドリブで作るもんだからさ。
川上: 中身はそういう感じになりましたね。

次回作のテーマは、もう決まってるの?

高橋: あのもう、こういうところで次の話をするというのが、いいのかどうか、わからないんだけど。
次はもう予定は決まってるの?
川上: そうですね、次はやっぱり「宗教」ですね。
礒野: あ~!
川上: 「宗教」はやっぱりやらないと。
高橋: ねぇねぇ、どんどん希薄なところにいくよね。
川上: そうなんですよ。
高橋: で、詩はどうすんの?
川上: そう、だから、詩も、ちょっと。詩なのか、小説なのかっていうのが、混然一体となった、なんかかそういう自分だけの方法を見つけないといけないですね。
高橋: いや~、僕はね、詩人としての川上未映子が大好きなので、最近、書いてもいないし、お見捨てになったのでしょうかって(笑)。
礒野: あはははは(笑)。待望のファンがここにいますね、詩の。
高橋: 「中原中也賞」の選考員としては、ちょっと次を読みたいなって。さっき言った、方向が違うじゃない。
川上: うん、違う。全然違いますね。
高橋: 違う筋肉を使うんで、それを求めるのはどうかと思うんだけど。詩も読みたいね。
川上: 混然一体となったようなね、文体をちょっと見つけられたらなって。
高橋: そういう可能性もあると思うんだよね。だから川上さんには、そういうものも見つけてもらいたいし。
宗教か…。困ったな、僕もそれをやろうと。
礒野: そうだったんですか!
川上: じゃあ「合作」で(笑)。
礒野: あはははは(笑)。
高橋: 合作だと…。僕がアイディアを出すから、書いてもらおう(笑)。それが1番いいかなと!
礒野: そろそろお時間になってしまいました。2コマ目の先生は、詩人で作家の川上未映子さんでした。
ありがとうございました!
高橋: ありがとうございました!
川上: ありがとうございます。

【放送】
2023/03/17 高橋源一郎の飛ぶ教室 「きょうのセンセイ」

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23/03/24まで

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