【飛ぶ教室】「きょうのセンセイ~日比野克彦さん~」

23/01/20まで

高橋源一郎の飛ぶ教室

放送日:2023/01/13

#文学#読書

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2コマ目「きょうのセンセイ」、今回は現代美術家、東京藝術大学長の日比野克彦さんでした。去年10月以来のご登場。
年末に会う予定だった大学時代の友人Tさんのこと(源一郎さんの「今夜のコトバ」で出てきたTさんとは別の方)、1コマ目でご紹介した藤原辰史著『植物考』を受けて“アサガオ”のプロジェクトのお話など、多岐に渡りました。日比野さんのトークにひきこまれ、気がつけば、またまた時間が足りなくなってしまいました(笑)。

【出演者】
高橋:高橋源一郎さん(作家)
礒野:礒野佑子アナウンサー
日比野:日比野克彦さん(現代美術家、東京藝術大学長)

礒野: 源一郎さん、2コマ目です。
高橋: はい! きょうのセンセイは昨年に引き続き、東京藝術大学、学長のこの方です。
日比野: こんばんは。日比野克彦です。よろしくお願いいたします。
礒野: よろしくお願いしま~す!(拍手)
高橋: どうもどうも。去年10月14日にスタジオ出演していただいて以来ということなんですけど。
日比野: はい。また呼んでいただきまして、どうもありがとうございます。
高橋: いやいや、ホントに…。すみません、あのね、ちょっとたいした質問じゃないんですけど、年末年始はどう過ごしていらっしゃいましたか?

年末は大学の同級生Tさんと…。

日比野: 年末年始ね。そうそう、僕も大学の同級生のTさんと年末に…。
高橋: え~!!!
日比野: 会う予定だったんだけども。
高橋: びっくりした(笑)。
日比野: 去年? その前は会ってて、「今年も会おうね」って言って、年に1回しか会わないような、けども大学の時に、なんだかんだいろいろ一緒に動いてた、でもね、ちょっと会えなかったんだけど。源一郎さんの話を聞いてて、すごくよく分かりましたね。
高橋: それは、どういう方なんですか?
日比野: それは同じ大学の同級生の1コ下の仲間なので、いまもクリエーターやってますけどね。
高橋: 会わないんだよね、普段はね。
日比野: 普段は会わないけども、本当に、会った瞬間に戻るね。
高橋: あ~!
日比野: すごくよく、さっきの話(冒頭の「今夜のコトバ」)がよく分かりましたけどね。
高橋: あれ不思議ですよね。
日比野: 不思議だね、ホントこう…。何年前だっけ? アレ!って言うと、びっくりするぐらい時が経ってて。もうホントに、え~! なんでこんなに変わらないんだって。
高橋: 僕が1番びっくりしたのはね、さっきも言ったようにね、もうだから二十歳ぐらいから知ってるわけじゃないですか。
日比野: そうそう。
高橋: 10代…。
日比野: 19のときから。
高橋: 19のときから知ってるから、当然もう僕なんか70代だから、年とってんだよ。でも、ふっと見ると、19の彼がいるんだよね、なんか。あれ不思議だよね。
日比野: ホント。声とか、しぐさとか、間合いとか、なんかちょっと会話のテンポとかっていうのは、なにひとつ変わんないね。
高橋: 人間、変わらないよね。50年前に、全く同じ姿勢で全く同じこと言ってたなぁ、みたいな。
日比野: あと、大学時代ってそんなに長くないじゃないですか。源一郎さんは8年いたけど。
高橋: あはっ(笑)。行ってないけど、行ってないから(笑)。
礒野: 普通はね、もうちょっと短いんですけど(笑)。
日比野: とはいえ、4年とか6年で。でも例えば40代になってからだとか、50代になってからの4年とか6年とか10年て、結構それなりの、まぁ長いって言うか、学生のときってあんなに短いのに、なんであんなに濃い仲間がいっぱいできるんだろう、みたいなのはありますね。
高橋: その頃の仲間と付き合いはあるんですか? 日比野さんは。
日比野: だから、あの~結構狭い世界なんですね、美術って。なので会う人もいるし、会わなくてもホントまぁ、あそこであいつ、ああいうことやってるな~というような情報は、まぁよく入ってきますね。
高橋: そうなんだ。なんかさ、会って特に話すことないんだよね。
日比野: ないね~。
礒野: ない?!(笑)
高橋: ないの。あえて、でも会うんだよ!
日比野: そうそう。で、会って、あっという間に3時間4時間経つんだよ。
高橋: 経ってるの。
礒野: え~! すてきな関係と時間。「何者にもなる前」の仲間っていうのがいいですよね。
高橋: そうそう。2人ともまだその頃は、なにになるかもまだ予定なくて。
日比野: なくって、時間を持て余してて。
高橋: そうそう。
日比野: もう「きょう学校行かないで、どっか行こうか」みたいなところで過ごした仲間っていうのは、まぁ年をとってからも、同じような付き合い方をしてるっていう感じはあるよね。
高橋: あの~、まぁまぁ、ある種のなんて言うか「豊かな無二の時間」だよね。
日比野: うんうん、そうね。
高橋: 何かしようとしてた時もあるけど、ただまぁ、一緒に時間を過ごしただけで。
日比野: そうそうそう。
高橋: あとは何もない。今はでも、そんな時間は過ごせないじゃない。
日比野: そうね。もう詰めて詰めてね。
高橋: やだね(笑)。
一同: あははは(笑)。
礒野: そういったお仲間からは、日比野さんが学長になられたことについて、なにかありましたか?
日比野: まぁこの間の源一郎さんの「あの日比野が?!」っていう、全てみんなそのリアクションで、統一してもいいかと思いますが。
礒野: みなさん! うふふふふ(笑)。
高橋: やっぱり意外は意外だったんだよね?「やっぱりね」は、なかったもんね(笑)
日比野: 「やっぱりね」は、ない。
礒野: 前回、日比野克彦さんがご出演いただいた時に、そういう話をされましたよね。「あの日比野が学長に?!」みたいな。

植物の話~明後日朝顔プロジェクト~

高橋: それと、ちょっとさっきチラっと言ったけど「植物の話」をね。
日比野: あぁ、そうね~! 植物の話もするんだ。
高橋: 藤原辰史さん!
日比野: すごい面白い本ですね~。「植物に進化していく」っていうね、人間がね。
高橋: 普通はね、逆だよね。
日比野: 本当、本当。でも僕も「植物中心なこと」が1個あって、自分のスケジュールって「植物で埋まっていく」んですよ。
礒野: え?!
高橋: ど、どういうこと?!
日比野: 僕、『明後日朝顔プロジェクト』というプロジェクトを、やっていて…。
高橋: あっ! そうかそうか、この前その話が出ましたね。
礒野: 「あさって、あさがお」プロジェクト?
高橋: 朝顔の種ね。
日比野: 朝顔の種ね。そのやっぱり朝顔の種をまく時期、そしてそれを収穫する時期のこの春と夏の2つの行事はまず、結構、水戸の美術館でやったりとか、いろんな地域でそれぞれの施設でやってるので。
いま全国で29地域やってるけど、全部はさすがに行けないんだけれども、主な4つ5つぐらいは必ず、じゃあ「日比野さん、今年の収穫祭はいつにしますか?」「今年の種まき、ロープ張りは、いつにしますか?」っていう予定から、もう決めていく。だから6月の土日とか10月末ぐらいの土日は結構そこでもう埋まってくる感じが(笑)。
礒野: 朝顔で週末が!
日比野: 朝顔で。
高橋: そもそも『朝顔プロジェクト』はどうしてできたんでしたっけ?
日比野: これはですね『大地の芸術祭』って、新潟でやっている、棚田とかね、廃校になった小学校とか古民家の土地の持っている力を表現のきっかけにして、そしてその地域に住んでいる人たちと共同作業をして作品を作っていく。それによって「地域の魅力を発信」していくっていう、そういう芸術祭がありまして。2000年から始まったんですけども、3年に1回のトリエンナーレで。僕が参加したのは2回目の2003年。で、そのときに新潟の、明後日いくんですけども、そこに。
高橋: そうなんだ。
日比野: あの~、「莇平(あざみひら)」って集落ありまして、そこの地域の人たちとコミュニケーションをとるきっかけとして、一緒に植物を育てましょうというので始まったのが、たまたま朝顔だったんですね。夏の。
高橋: これ自分でも意外なほど結果が出てるって感じあります?
日比野: そうだね。だから最初からこんなに続けようとか、あの別に全国展開しようという気もないんだけども、朝顔って1年草なので、種をまくと、当然、夏に花が咲いて秋に種が採れるんですよ。トリエンナーレなので…。
高橋: そうか、3年に1回だもんね。美術展自体はね。
日比野: そうそう。この話って前したっけ? してない?
礒野: してないですね。
日比野: 秋になったら種が採れたんですよ。
高橋: もちろん採れるよね(笑)。
日比野: 展覧会も同時に、廃校になった小学校でやったので、展覧会は9月の末に終わって、作品は搬出するけど、朝顔はまだけっこう咲いてて、9月の末。
高橋: 採るわけにはいかないもんね。
日比野: これまだ元気だしね~。じゃあ10月の、その集落の地域のお米の収穫祭があるので、米が採れる時期に朝顔も収穫しようかと。というので10月の末に種の収穫祭をやったら、すんごいホントに、お米のように種もたくさん採れて!
高橋: たくさん採れるんだ?! 朝顔の種って。
日比野: 採れる! 150本ぐらいロープを張って、2階まで、屋根の2階まであって。
礒野: すご~い! きれいでしょうね~!
高橋: すごい朝顔だね。
日比野: すごいいっぱい朝顔が咲いて、種も、本当にこう、米びつの米のようにザクザク採れたんですよ。そしたら誰かが「いや~、ねぇ、種が採れたから来年もやる?」「もう、やろうやろう!」って言ったわけ。
高橋: それはじゃあ予定になかったんだ?!
日比野: なかった。3年に1回のつもりだったから。
高橋: あっ、そうだよね。
日比野: でもそのときに、ちょっと“悪い予感”して…。「これ毎年、種は採れるよな」って思って。
礒野: あははは(笑)。
高橋: そうだよね(笑)。終わらない。
日比野: で、いまに続く(笑)。
礒野: それで決まっていくんですね(笑)。
高橋: それで、どんどんあっちこっちに。
日比野: そう。種はね、さっきの本の中でもあったけども、動きやすい、移動できるように種になるんですよ。気が付くとポケットに種が入ってたりすることってあるじゃないですか。
高橋: あるある! 勝手にね!
日比野: 勝手にね。そうすると、いろんな地域の人たちがちょっと家でもやりたいなって。その「莇平(あざみひら)」で採れた種を持って、移動してって、やってたりすると、なんかこう広がっていってね。
礒野: すごい!
高橋: だからさ、普通は人間がなんか計画を立てて、芸術祭やるけど、間に植物が入っちゃったんで。
日比野: そうそうそうそう。
高橋: 自分の都合ではできないよね。人間の都合では。
日比野: できないし、もう1個植物のすごいのは、朝顔を北から南までやってると、夏の時期ってやっぱり地域によって違うじゃないですか。
高橋: う~ん。
日比野: 新潟の夏はやっぱりちょっと短いんですよ。新潟で採れた種を、例えば九州で翌年植えると「九州で採れた種よりか、早く伸びる」。ス~っと!
高橋: え? なんで?
日比野: 夏に早く種にならなきゃいけないから!(笑)
高橋: あ~~~! そうなんだ~。
礒野: 適応して?!
日比野: 適応して! 去年の記憶を持ってるんだなと、すごく分かるんですよ。
高橋: あ~、なるほどね。
日比野: けれども、そこでまた採れた種は、翌年また九州でまくと、ちゃんと、そこの土地に順応したスピードで伸びていく。
高橋: バカじゃないってことですね!(笑)
日比野: バカじゃない。すごい記憶を持ってる、種は。
高橋: 人間より頭いいんじゃない?!(笑)
礒野: すばらしい! 適応能力が(笑)。
高橋: 面白いね。
日比野: 種ね。朝顔、面白いですよ。花の形とかね。ホント朝顔って、日本人の中の“たしなみ”として、熊本だと『肥後六花』って、6つの花って書いて、まぁ、武士が戦いが終わった時代になって、“たしなみ”として、朝顔などの花を育てるっていうのが、熊本はあったりとか。
高橋: へぇ~。
日比野: 朝顔ってやっぱりこう盆栽のように、鉢植えでね、『朝顔市』のように、浅草の。「どの位置に、どの大輪を咲かせるか」っていうのは、結構、1年草だけどもコントロール利くんですよ。で、そのバランスで“花を愛でる”…。
高橋: そういう文化もあるっていうことですね。
日比野: ありますね、朝顔は。
高橋: 僕が思ったのは、日比野さんはいろんなプロジェクトをね、やってね。いまの『朝顔プロジェクト』もそうなんだけど、それって、芸術家って、まぁ要するに「個人主義」でさ。
日比野: 個人主義だね。
高橋: 自己中心主義で。さっき言った「人間中心主義」の最もなものじゃない?!(笑)
礒野: うふふふ(笑)。
高橋: でもそれが、まぁ要するに「言うことを聞かない」植物とか。
日比野: う~ん。
高橋: プロジェクトやってると、だいたい言うこと聞かないものとやってますよね?! それをなんか最近、「そういう方向を目指してる」っていうか。そういうものと合うようになってきたんですか?
日比野: でもね、さっきのね「植物に進化する」っていうのは、すごく分かる。
高橋: 分かる?!
日比野: うん。なので「ルーツ(根)か先端か、先端か根源か」っていう話になると、アートってこう、アートのもう1個の魅力って、「根源的な人間の、まぁ植物を含めた命の、生きる力」っていうのがあって、かたやトップアーティストみたいなね、すごい最先端のテクニックとか技術とかっていう、すんごい技法とかね。すごい演奏とかっていうのはあるけどね。もう1個「誰しもが持っている、創造する力」とか。
高橋: うん。
日比野: あの~、「根源的な生きる力」っていうものが、アートの魅力にはあって、それで、そうそう、前回の話の終わりのところのね…。

前回ご出演された10月の「つづき」のお話 『福祉と芸術』

高橋: そうそう(笑)。
日比野: その、なぜ僕が植物とか、あとこの間、話が途中で終わったのは「福祉と芸術の話」をしかけて…。
高橋: そうね~。そういうプロジェクトをやってる…。
日比野: 声がだんだんフェードアウトしてった。
一同: わははは!(笑)
礒野: 失礼しました(笑)。
日比野: いいところで終わっちゃったね~、みたいな。「あれが『飛ぶ教室』のいいところなんですよ」って、結構リスナーの方に言われましたけど(笑)。で、福祉のね、なんでそういうことになったかと言うと、さっきの朝顔もそうだけども、“大好きな、すごいなこの絵!”って思うが絵があったわけ、1つね。
高橋: うんうん。
日比野: 「なんでこんな絵が描けるんだろう?!」僕も描きたいなと思って、それで作者に会うことができるっていうんで、その作者に会いに行ったんです。その作者の人は福祉施設にいて。そしたらこうねぇ、色鉛筆…。源一郎さんも持ってるでしょ?!
高橋: 持ってる。
礒野: 持ってます。
日比野: みなさん持ってますね。例えば24色とか。
高橋: 36色とかね。
日比野: 100色とかあると、グラデーションで、グワ~って並んでるじゃない。
高橋: あるある。楽しいよね~。
日比野: 開けた瞬間「わぁ~きれい!」ってね! 黄色からオレンジ色、赤色、みたいなね。そしてそれ、どうやって使う? 源一郎さん。
高橋: え~っと…。「自分の気にいった色」から?
日比野: なるほどね。なんか描こうと?
高橋: 描こうとするね!
日比野: それでじゃ目の前に、まぁいまここに「らじる(NHKラジオのイメージキャラクター)」くんがいますけど。
高橋: いますね。
礒野: ラジオのマスコットが、赤ですね。
日比野: 赤いね。「R」の白いワッペンが胸にあって(笑)。ってなったら、じゃあこの赤色に近い赤色を探して、「らじる」を描こうってなるじゃないですか。だから、なにかこう、自分の欲しい色をまずは探す。
高橋: うん、探すね!
日比野: でもその人は、「右から順番に使っていた」んです。
礒野: ふ~~~ん!!
高橋: 無視してんだ!
日比野: 右から順番に…。それで右から順番に「1番右の色が、無くなると、隣に行く」。
礒野: 無くなるまで!
高橋: 無くなるまで使ってんだ!
日比野: そう! だから「鉛筆削り」ね。「ガリガリガリガリガリ」って。で、鉛筆の芯を画面にこすって、「ガリガリガリ」って。どうもね、見てるとね、“鉛筆を削りたいみたい”なんだよ。
高橋: そっち!
日比野: そっちなの。鉛筆を削るところに顔を、頬を、ちょっと寄せてるんだよね。
高橋: それが楽しいんだ!
日比野: それが楽しいの。きっと振動と、音と…。
高橋: あっ、分かる! あれ、ちょっと楽しいよね!
日比野: 楽しいよね。分かるよね!
高橋: ガリガリガリガリって。
日比野: ガリガリガリガリ!
高橋: 分かる! 何か郷愁を誘うよね、あれって。
日比野: そうそう。なんかちょっとこう、ちょっと焦げくさい臭いも、ほのかにしたりするわけですよ(笑)。
礒野: あははははは(笑)。
日比野: それがやりたいが…。
日比野
・高橋:
ために…。
日比野: 芯を摩耗させる!
礒野: あえて?!
日比野: あえて!
高橋: それが絵になっちゃってる!
日比野: それが、結果的に、その痕跡が「絵のようなもの」になってるわけですよ。
高橋: あ~! それじゃあ、どんな絵なんですか? ちなみに。
日比野: すごい絵がカラフルだけれども、なにを描こうとしていたのか、なかなか抽象的なものにしようとか、具象的なものにしようっていう意図が見えなくて。
高橋: 謎だったんだ?
日比野: 謎だったのが、「そういうことか!」みたいな。
高橋: それは日比野さんが気づいたの?
日比野: 現場に行って、ケアの人たちもいて、「変わった描き方するんですよ~」みたいなことを後から言うんだけども、僕らが画材の使い方とか絵の描き方って、「あれ、なんか縛られてたな~」っていうことを…。
礒野: あ~!
高橋: だよね~。
日比野: 気付かせてくれるような出会いが、その福祉施設っていう類いのところにはたくさんあるんですよ。
高橋: う~ん。
日比野: それで、例えば福祉の人たちのことをもっとよく知ってほしいという福祉の立場の人たちとか、例えばアーティストたちは「新しい価値観に出会いたい」っていう(笑)。
高橋: もともとは、どういう経緯でその福祉との…、コラボが始まったんですか?
日比野: それはもう80年代の後半ですね。
高橋: 昔からあるんですよね。
日比野: 「会わせたい人がいる」っていう方がいて、そこに連れてってくれて、この絵を紹介してくれたんですけども。なので、いまでこそ、“アール・ブリュット”とか…。
高橋: そうね。“アウトサイダー・アート”とかね。
日比野: そういう言い方になってますけども。
高橋: 当時はそういう言葉は無かった?
日比野: 無かったですね。う~ん。
高橋: 普通はね、なんか口はばったい言い方だけど、助けてあげるとかっていうことで行ったのかもしれないけど、逆にアーティストの方が…。
日比野: 逆に、アーティストが、そういうところへ行くと、いわゆる福祉の立場だと「あたなの杖になります」、「フォローします」っていうのが、まぁ手を差し伸べるというのが福祉的な感じだけども、アーティストって、例えば目が不自由だと「一体どんな世界なのかなぁ?!」って。
高橋: 分からないもんね。
日比野: ちょっと「知りたい、それ!」っていうね。
礒野: う~ん。
日比野: そういう癖があるんですよ(笑)。まぁよくね、例えば「こんな古いところに誰が住むんだよ?! ボロいところ」「いや、これね面白いね、ちょっとここ俺は好きだ!」みたいな人が、「もうなんか、それって!」というところに対して、逆にググググって入っていきたいっていうね。

『多様性を目指す社会の基盤にアートの特性を活用』

高橋: さっきのね植物の話もそうなんですけど「普段どれぐらい常識」っていうか、「なにかの価値に縛られてる」感じがするんだよね。
日比野: ホントそう。だから集団で行動するときの協調性とか、人の気持ちをちゃんと思ってリアクションするとかっていうのは、いいことだっていうふうな見方もあるけれども、でもなんかこう、地球上に70数億人いたら70数億人の個性を、いわゆるハンディも個性ね。というふうなことが拒絶せずに、よくいま「誰ひとり取り残さない」って言い方するけども、それを目指す多様性のある社会を築くんだったら、もう、ひとりひとりの個性を、すごく認め合うことができるアートの特性を、意識の基盤にしたほうが早いんじゃないか? いいんじゃないか? アートの活用の仕方が、だからさっき言った根源的なところのね。
礒野: ええ。
日比野: トップ・アーティストの育成っていうだけじゃなくて、アートもひとりひとり違ってていいよね! 「違ってて当たり前だよね」っていうところの考え方こそが、アートのもう1個の、というか1つの特性なので、それをこう多様性を目指す社会の基盤に…。
高橋: 日比野さんが学長になったのはちょっと謎だったんだけど、話を聞いてると、全部つながってるよね。
日比野: そうね。
高橋: あの、もともとは個人で、個人でつくる、アーティストはみんな個人主義だったけども、なんかそれだとどっか壁みたいなのが、囲まれているところがあって、そこから出るっていうことと、その学長になったりプロジェクトをやったり、その「種のように飛んでいく?!」みたいになるっていうのは必然だったかもしれないね。
日比野: う~ん。源一郎さんは82年デビューでしょ。
高橋: そうそうそう。
日比野: その頃のね、なんか「多様なものがあっていい」っていうね。「どんどん出てこい、若者ども!」みたいな。「違うもの大歓迎!」みたいな、そういうの、ちょっとあったじゃない?!
高橋: あった、あった。若い人が歓迎されてたよね。
日比野: 歓迎されてた。
礒野: 時代の雰囲気的にですね。
高橋: そうそう。「なにをやってもOK」っていう雰囲気があったけど、いまはさ、なにやっても怒られそうじゃない?!(笑)
礒野: どうなんですか? アーティストを目指す学生さんにとっては、いまのこの時代って。
日比野: 僕が例えば「なにをやってもOK」みたいな、より違うものを出そうっていうときに、僕が段ボールを使い始めたきっかけも、その頃、それを意識してたかどうかは怪しいけど、いまから振り返ると、なんか画材屋に売ってる画材で、さっきの色鉛筆の使い方と同じで、「なんで、画材屋にあるもので絵を描くんだろう?」と、そこに対するクエスチョンで、画材屋に行かずに、横にあった廃材置き場に行って、段ボールを引っ張ってきたんだけれども。なんかちょっとこう、「同じ姿じゃないものに対しての価値を見つけたい」っていう、そんなところから、いまの自分が出来上がっているので、まぁ。
高橋: そっか。そういうことを、いまの若い学生たちにも、みんなにも味わってもらえるような場所! 必要だよね!
日比野: やっぱりね「共にいられる場所」「競争」。いま、またね、芸大でいま一生懸命やろうとしているのは「場」を。いわゆるね研究…こもって発表する作品、出来た作品だけを発表するんじゃなくて、「考えてる段階から共にいる」っていうね。「場づくり、競争の場」っていうところを、それを専門性の芸術だけじゃなくて、他領域も含めてね。なるだけ違う価値観の、遠い価値観の人たちと出会えるような場を作って、芸術がそれをつなげていくっていうことをやっていきたいなと思っています。
礒野: ありがとうございます。残り20秒になってしまいました!
高橋: あぁ、もう!
礒野: 東京藝術大学の学長、日比野克彦さんでした。
高橋: 日比野さん、いろいろやりたいことがあったんですが。
日比野: やりたいこと、打ち合わせで言ってたの1個もやってないじゃないですか!
礒野: 1個もできず!
高橋: ねぇ。じゃあね、次にやりましょうか。今度はね。いや、こんなことになるとは、いやはや…。

【放送】
2023/01/13 高橋源一郎の飛ぶ教室 「きょうのセンセイ」

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