NHKラジオブログ
ラジオの魅力をお伝えします

ブログトップ > 【8月29日放送】ジャーナル地域発「和歌山"バイオセメント"がアマモを守る」

【8月29日放送】ジャーナル地域発「和歌山"バイオセメント"がアマモを守る」

番組スタッフ

投稿日時:9月 5日 (水) 午後 7時20分

NHKジャーナル

全国各地のさまざまな話題をお伝えする「ジャーナル地域発」
今回は和歌山からです。
地球温暖化などによって、浅瀬に生息する海藻が減少しています。
海草は小魚やエビなどのすみかとなっているため水産資源への影響も懸念されています。
そうした中、ユニークな方法で海草を増やそうという取り組みが始まりました。
(和歌山放送局・藤澤義貴アナウンサー)

注目されるバイオセメントを使ったアマモの再生
いっそうのカヌーが、和歌山県日高町の港を進みます。
穏やかな入り江にある方杭漁港。
ここで、8月上旬、岸からおよそ4メートルの浅瀬で実験が始まりました。
海に沈めたのは、6つの円筒形のブロックです。
水深3メートルほどの海底に設置します。
大きさは、大人の握りこぶしほど。
重さは、およそ300グラムです。
このブロックの中には、海藻の一種「アマモ」のタネが入っています。
ブロックごと海底に沈め、アマモの数を増やそうという実験です

背景にあるアマモの減少と和歌山の海
アマモの群生地は「海のゆりかご」とも呼ばれています。
小魚やエビなどの貴重な産卵場所になってきました。
しかし、海の水質の悪化や温暖化の影響で全国的に減少しています。
国などが瀬戸内海で行った調査では、1960年代からの30年で7割もの面積が消滅したとみられています。
和歌山県では、アマモを増やす取り組みが行われてきました。
これまでは、海流によって流されてしまうのを防ぐため、タネを植え付けた数メートルもあるマットを海に沈めていました。
こうした作業を行うためには、ダイバーなどの力を借りる必要もあります。
設置に人手がかかることなどが大きな課題でした。

微生物が岩を作るバイオセメント
そこで、いま注目されているのが種を植え付けたブロックです。
「バイオセメント」という特殊な素材でできています
バイオセメントは、微生物の働きを使って砂を固めたものです。
それを海に沈めることで、流される心配がありません。
しかもアマモが海底に定着するころには、セメントは海底で分解されます。
3ヶ月ほどすると、海水の中で、元の砂に戻るんです。
研究を行っているのは、和歌山県御坊市にある和歌山工業高等専門学校の准教授、楠部真崇さんです。
海に生息するバクテリアを活用する研究を行ってきました。
楠部さんは、海中にいる特定の微生物を使うことで、砂を固めることができることに注目しました。

楠部真崇さん:バイオセメントは、環境を守るために、その場所の土着の微生物を使ってそこの砂を固めるそういう技術なので海を守るという意味で非常に優れた技術であると考えて取り組みました。

研究室で、実際にバイオセメントを作ってもらいました。
まず、材料となる粉状のカルシウムなど成分を水に溶かします。
このままの状態だと、無色透明の液体です。
しかし、そこに海水から取り出した微生物を加えると、急速に反応が進みます
1時間ほどでサンゴや大理石の成分である炭酸カルシウムが作られます。
この炭酸カルシウムが海底の砂と砂の間に入り込んで、接着剤のような役割を果たし、砂地を固めることができます。
実際に、私も手に取りましたが、砂がしっかりと固まっていました。
こうした性質を持つバイオセメントを使うことで、楠部さんは、設置にかかる手間も大幅に減らせると考えています。

楠部さん:従来はコンクリートなどを使った沈設があるんですけれども、どうしても海中に残ってしまうという風になりますし、我々の方法ですと、セメントの砂がまた元の砂地に戻る、船の上から目的地に落としていく作業で済みますので、全く新しい方法として取り組んでいます。

1億の微生物から選び抜かれた「4株」
楠部さんの研究室では、環境への負荷を抑えるため、セメントに使う微生物も、アマモを植える場所に「もとから住んでいる」ものを活用することを大切にしています。
しかし、この「地元の微生物を利用する」ことが、そう簡単ではありません。
海中には、1グラム当たりおよそ1億の微生物がいるとされています。
この中から、最も効率の良いものを見つけ出す必要があるんです。

楠部さん:強いものを選び抜くことで早く固めることができます。バイオセメントを作ることができる微生物はたくさん入ってるんですけれども、それでも特化した強い微生物を選び抜くという作業に非常に時間がかかります。

楠部さんの研究室では、微生物を選ぶ作業を2か月かけて行いました。
300回以上も試行錯誤し、ようやく4株の微生物を選び抜くことに成功したんです。

楠部さん:学生と一緒に喜んで、和歌山の海を守る可能性が出来たという風な確信を得ました。

今回の発見は、すでに国内の大手化学メーカーなどが注目しています。
地元の微生物を選別してブロックを作り出す点が環境保全事業に生かせるとして、
特許を取ることができないか、楠部さんのもとに相談が寄せられています

環境負荷の少ないオーダーメイド修復法
楠部さんたちが開発したバイオセメントブロック。
水槽実験では、すでにアマモを育てることに成功しています。
今後は、実際に海に沈めた状況でも再現できるかどうか、
来年春までかけて確認することにしています。
さらに楠部さんは、微生物の別の培養方法も試すことで、作業の効率化ができないか模索しています。
楠部さん「今までは1匹だけを捕まえてくることに集中してたんですけれども、能力のあるものをまとめて培養をする技術が別にありまして、2ヶ月が3日ぐらいに短縮できると考えてます。かなり手間もコストも大きく変わってくるので、東南アジアそういったところにも広く使ってもらえるような技術に仕上げていきたいと思ってます」
地元にある微生物の力を引き出して、海洋資源を守る。
世界中の海で活用できる技術に、地元の期待が膨らんでいます。

藤澤義貴アナウンサー

和歌山放送局
藤澤義貴アナウンサー

平成17年入局。
趣味・特技はカメラ、ダイビング、旅行。

番組情報
NHKジャーナル番組HP
平日 午後10時00分~11時10分 生放送
キャスター:山田康弘、菅野真美恵
ニュースデスク : 森田智之