2009年02月10日 (火)考古学者 杉山三郎さん

杉山さんの道具箱は、ロマンの香りがする。
大きな工具入れのような箱の中に、
発掘に欠かせないという「コテ」や、
細かな発掘のための「筆」、
垂直を測るための「重し」などがビッチリと詰まっている。
発掘品をつまむのに最適だということで、
日本の「割り箸」も入っていた。
そして、
よく見ると、すべてものに土がついている。
埃のように、うっすらと白い土が道具を覆っているのだ。
コテのひとつを、わたしは鼻の下に運んだ。
お!
おぉ・・・。
する、する、土の香り!
「テオティワカンの、太陽のピラミッド中心部の土ですよ」
杉山さんは言う。
わぁ・・・なんだかドキドキする。
だってピラミッド中心部、2000年前の土の香りなのだ!
それは、乾いたような、湿ったような、
香しいような、埃っぽいような、
とらえどころのない独特の香りだった。
杉山さんは、この香りに囲まれて仕事をしている。
 
テオティワカン遺跡は・・・

BC200年頃からAD500年頃まで
人が暮らしていたと考えられている巨大都市の中心部。
ただ、その研究の最先端の杉山さんでさえ、
テオティワカンについて、未だわからないことのほうが多い。
テオティワカン人がどんな人たちだったのか、
どこから来た人たちなのか、
どうやってあんな大きな都市作りを計画したのか、
作ったピラミッドが一体何を祀った神殿だったのか、
すべてがわからないことばかり。
その謎を少しでも解明すべく、杉山さんは、日々研究している。
 
「実は謎だらけなんですよ。
 ほんとに、このテオティワカンは、
 これだけ大きなものを相当な人を使って作って、
 10万人、15万人としたら、400年間ほど住んでいたんですが、
 それを牛耳っていたトップの人、リーダーの『顔』が見えないんです。
 王墓が未だまったく見つかっていませんし、
 宮殿というのもまだ確認されていないのです。
 ふふふ・・・やりがいがあるでしょう」
 
確かに、「わからない」と聞くと、わたしもちょっと鳥肌が立ってくる。
 
それに、謎のサイズもでっかい。
周囲800m以上の巨大なピラミッドが目の前にそびえても
さいごは前述のコテやお箸、筆、それに、自分の身体ひとつで対抗するしかない。
コツコツと、ひと掻きひと掻き、迫る。
大きな謎にも、センチ単位。
 
「1センチ先は何があるかわかりませんから」
 
杉山さんが愛しそうに語るテオティワカンの謎の話を伺ううち、
わたしはどんどん興奮してきた。わくわくしてきた。
そして、杉山さんのことをうらやましくさえ思ってしまった。
杉山さんは言う。
 
「『知りたい』というのは人間の本性じゃないでしょうか」
 
確かにそうだ。
わかってしまったら、人間がぜんぶわかってしまったら、その先にはなにがあるのだろう?
知りたいと思う対象がなくなる。
絶望しかない、というひともいる。
すると、わからないくらい大きなものを与えてくれた、宇宙と地球、時間と歴史に、
なんだか感謝が湧いてくる。

広い大地にぽつんと立つ杉山さんのイメージが浮かぶ。
たまには、そんなものさしの上に自分を置かないと、
人間本来の感情を忘れてしまうのかもしれない、と思った。
もったいない。それでは、もったいない。
答えがすぐに出なくてもいいではないか。
一生かけて、理想を追い求めたっていいではないか。
杉山さんと話していると、身体のなかの血液が波打つ感じがした。
 
道具箱の土の香りを
鼻腔の奥深くまで吸いこむ。
ロマンの香りのエッセンスが、わたしの細胞にもとどまりますように。

投稿者:すみきち | 投稿時間:19:37

コメント

和製インディージョーンズ

かくも物静かな方

ただ内に秘めた志そして 

古代浪漫への想いは測り知れない素晴らしい考古学者の方

綿密に計測し 発掘は破壊という真摯なお姿に感銘いたしました

今回はご希望の出土品は発掘 叶わずとも それは更なる
古代への純たる情熱をご自身の胸に刻まれたように放送を通し感じました

素晴らしい放送 ありがとうございます。

投稿日時:2009年02月11日 13:00 | TOKYO / HIDEKI

録画して、何回も何回も観ています。
今までの「プロフェッショナル」で一番好きな回でした。

つてもなくボランティアから始めて、テオティワカンの世界的研究者になったという経歴、まるで、杉山さんがテオティワカンに呼ばれていたかのようで、何度観ても、ぞくぞくします。
一度は諦めた発掘に再び挑めたというエピソードは、遺跡達が、どうしても杉山さんに掘って欲しくて、それも、そのことによって名をあげて欲しくて、わざと仕組んだように思えてしまうほど。
テオティワカンの謎に負けないほど、杉山さんの人生もロマンに満ちていますね。

それから、すみきちさんと茂木さんのお衣装も、メキシコチックでとっても素敵でした。
アクセサリーもメイクも、どことなくメキシコな感じでとってもお似合い。
スタイリストさんグッジョブ!です。

投稿日時:2009年02月26日 14:58 | mahoko

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