2008年08月05日 (火)映画監督 宮崎駿さん

宮崎駿さんにプロフェッショナルでお話を伺うのは、2回目。
前回は、およそ2年前、
「ポニョ」の本格的な制作が始まる頃だった。
 
今回、お会いして最初に感じたのは、
前回と明らかにお顔が違う!ということ。
お顔が柔和になっているし、
身体全体から、なにかリラックスしたオーラが出ていた。
もちろん、わたしたちと会うのが2回目だからということも
あるかもしれないが、それだけではない。
もっと、存在の芯の部分、背骨のような部分が、
前回よりずっと柔らかくなっている印象を受けたのだ。
映画を作る前と後ではこんな変わるのか、と驚いた。
でも、考えてみたら、
わたしたちだってちょっとしたプレゼンやプロジェクトくらいでも
直前は緊張とプレッシャーでイライラしてしまい、
終わると思いっきりホッとして脱力したりするのだから、
当たり前かもしれない。
いや、宮崎さんのように、
巨額の資金をかけ、大人数のスタッフを動かし、
日本中の期待を背負って、自分の命を削るようにしてひとつ映画を作るのは
わたしたちに想像のつかないほどの、
緊張やプレッシャーやイライラもついてきて当然だ。
と同時に、自分の生命力をかけるだけの何か特別な引力が
そこにはあるのだろう。
「作り始めると、もう、映画の奴隷ですよ。
 自分が好きなようにやってるんじゃないんだよ。
 この映画はこうしなくちゃいけないという
 宿命を背負っているんですよ」
と宮崎さんは表現する。
 
「崖の上のポニョ」を見ると、そんな言葉に納得する。
「ポニョ」の映画すべてから・・・


「ポニョ」の映画すべてから、宮崎さんが全身全霊を込めたことが
“ぷんぷん匂ってくる”のだ。
宮崎さんの映画はどれも、見ると例外なく涙が溢れてくるわたし、
「ポニョ」もやはりそうだった。
でも、今回、溢れてきた涙が2種類あったことに気づいた。
ひとつは、純粋に映画の登場人物たちに共感しての涙。
そして、もうひとつは、宮崎さんの並々ならぬ
「覚悟」と「生命力」と「勇気ある実現力」が
映画から伝わってきて、心が震えたから溢れた涙だった。
手描きへの愛着とこだわりや、
描いているテーマ、
登場する子どもたちが使う言葉・・・
そのすべてから、
時代と逆行しながらも、我が道を進むぞ!という
決意のようなものを感じた。
ふつう、プレッシャーが大きくなればなるほど、
人は安泰な道を選んでしまったり、
失敗が少ない、時流におもねるほうへなびいてしまったりするものだ。
しかし、宮崎さんは違う。
自分の信じる道を、「奴隷になって」も、歩き続けられる人なのだ。
わたしは、同時代を生きる日本人として、
そこに感動した。
ご本人は、言う。
 
「要するに、周り中がみんなコンピューターになるんだったら、
 手描きが生きてくる可能性があるんですよ。
 だって、下駄の名産地で街中にあった下駄屋さんが、
 だんだんつぶれていくと、全部はつぶれないでしょう。
 1軒か2軒は残るのです。
 それが、続けることによって、
 その下駄屋さんにお客が来るようになるんですよ。
 わかるでしょう、それ?
 だから、僕らは描こうと、鉛筆で。
 鉛筆を手放さない、と」
 
こういう信念の中に、
わたしが宮崎アニメで流す涙の素があるんだ、と思った。
 
そして、インタビューで、感動した話がある。
宮崎さんが、世のこどもに対して、
どういう大人でいたいか、という話だ。
 
「よく『子どもの未来は』と言う人がいるでしょう。
 子どもの未来はつまんない大人になることなんですよ、
 決まってるじゃないですかねえ。
 どういう大人になるかとかいう問題じゃないんですよ。
 今の子どものこの期間に、
 何を見て、どういう体験ができるかがいちばん大事です。
 僕らはそういう場所を提供することはできる。
 一緒にやることはできないけど、
 時間と場所を提供することはできるはずだって。
 それしかないんです。それができるときは、
 その瞬間にやらなきゃいけないんですよ。
 それを逃すとね、もうできないんですよ。
 知り合いの子がこの映画の準備に入ったときに
 1年生でここに遊びに来てた子が、
 今、もう3年生になっているんですよ。
 1年生から3年生の時間てものすごく長いでしょう。
 僕らにとってはあっという間に終わってしまった2年間だったのに。
 で、その子がここに遊びに来たときに、
 『帰るのがイヤだ』ってグズついたんですよ。
 『僕のボロ車に乗せて駅まで送ってあげるから』と言って、
 ちょっと遠回りして送っていったんですけど、
 それでもグズグズ言っているんですよね。
 でね、走るなり、
 バーッと屋根(車の幌)を開けてあげようかと思ったんです、
 そうすれば気分が一遍に変わりますから。
 でも、雨降ってきたんですよ、バラバラと。
 1回開けるのは簡単だけど、閉めるの面倒くさいんですよね。
 それで一瞬ためらっていたら、もう駅に着いちゃったんですよ。
 それで『しまった!』と思いました。
 そういう『しまった!』を、ずーっと持ってるんですね。
 あぁ、自分がエンタティナーと言いながらね、
 あのチャンスに屋根を開けられなくて、
 『車の中、濡れるのがイヤだな』とかね、
 情けないことを考えた自分が情けないと。
 案の定ないですよ、もう。
 1年生の彼に屋根を開けてあげるチャンスは、
 あの瞬間しかなかったんですよ。
 そういうときにパッとやれる人間でなきゃだめなんです、大人が。
 そのときに濡れるとかね、
 ほんと瑣末なことにたぶんためらったためにね、
 『いや、またあるんじゃないですかチャンスは』とみんな言いますけど、
 ないんです。あとでわかるんですよね、『しまった』と(苦笑)。
 ほんとに悔しいですよね。
 パッと開けられなかった、その自分が。
 濡れたっていいじゃんというね。
 『うわっ濡れる』と大騒ぎしながら走りゃいいんですよね。
 なんでそれができなかったんだろうと」
 
そういう「瞬間」にこだわり、2年後も本気で悔やんでいる宮崎さんは
わたしの中に、またさらに素敵な大人に映った。
あぁ、わたしも、
自分が大切にするものの「下駄屋」でありたい。
そして、大事なタイミングを逃さずに、
「今」をつかんで生きられる大人になりたい。
ヘンテコでかわいい、天才で、
ちょっとトトロにも似ている宮崎さんにお会いして、
でっかいでっかい、
勇気をいただいた。

投稿者:すみきち | 投稿時間:17:31

コメント

やっぱり、自分の信念みたいなものは、本当に大事だと思います。
タイミングをつかむ。。。そうなんですよね。誰の目の前でも、それぞれのタイミングというボールが飛んでいると、最近実感します。それをつかむか。見逃すか。避けるか。さては気付かずに、自分に当たってそのまま流されるか。など。後、凝り固まった頭で考えるより、いつも柔軟な無邪気な部分が、案外大事な決断をうまくするのかな。とも思います。後、いつも、全然評論ではない、素直であり、かつ無邪気な気持ちを、そのままメッセージにして頂いている、住吉さんのファンです。

投稿日時:2008年08月05日 20:55 | morigoo

宮崎 駿 様
本当に今回で終りにしようと思うからこそ、このような取材を受けられたのだと感じました。ものづくりに携わる人間のハシクレとして自分なりに感じたメッセージを心に刻んでおきたいと思います。
まず、「心/イメージ」ありきだということ。「心/イメージ」を動かすために技術を使うのであって、技術そのものが「心/イメージ」を生むわけでは無いということ。余りにも基本事項でありながら、つい忘れてしまう原理原則だと思います。
まだ観ていないのですが、このドキュメンタリーからは「アニメーションの動きのひとつひとつに作品テーマを込めたもの」を目指されたのでは、と思いました。 有難うございました。

投稿日時:2008年08月06日 00:11 | kid a

宮崎監督の言葉や制作のスタイルは,利便性,効率性からみたらまったくの逆のようでした。でも,失っていけない大事なものは,そちら側にしかないのでしょうね。『ポニョ』の中の惣介は,大人になったら映画を作る人になって,子どもの頃の体験を作品で語っていそうです。

投稿日時:2008年08月06日 00:17 | 巣鴨ウエスト

ほんとそうですよね。誰の前にも、タイミングというボールが、目の前を通り過ぎていると、最近常に感じます。腕を伸ばしてキャッチするか?見逃すか?はたまた全然気付かないか?知らない間当たって、流されるか?

投稿日時:2008年08月06日 03:20 | morigoo

心が震える。 そしてその震えに揺り起こされる忘れたり、しまわれていた想いや感情。 思い起こされることで戻る過去。 思い出された物を糧に見据える未来。 そしてその真っ只中に生きる自分。 宮崎駿作品はただ淡々と日常に流されてる自分に、実は瞬間瞬間一生懸命生きていた自分、生きている自分、生きて行こうとしている自分に気付かせてくれる。 本当にありがとうございます。

投稿日時:2008年08月06日 09:34 | ebooo

ひさびさに泣いてしまいました
いい番組をありがとうございます

投稿日時:2008年08月06日 13:04 | プロフェッショナル欠かさず見ています

昨日の放送も楽しく拝見しました。
いつもありがとうございます。

宮崎さんの子供に対する考え方に唸りました。
私は宮崎さんの友人に対する接し方に驚きました。
「亡くなった友人がまだ集中治療室でさまよっているんじゃんはいかと思って、迎えに行ってあげた。」
「助手席のドアを開けてあげ、シートが凹むんじゃないかと思って見ていた。」
驚きました。宮崎さんが人間を愛しておられる。
トトロやキキの様な非人間が人間らしい理由を垣間見ました。

投稿日時:2008年08月06日 17:44 | 住マニア

今日ポニョを観てきました。
幼い頃ハイジを見て育った私は、最初のシーンでもうわくわくしました。やわらかいタッチの絵がとても好ましかったです。
先日の番組で初めて宮崎駿さんの幼少期を知り、そこも含めて何か感じるかしらと思って観にいきましたが、その事はまったく忘れて夢をみせていただきました。
番組での宮崎監督は、突っ込んだ質問にはぶっきらぼうになったりして、シャイな方だという印象を受けました。
でも、映画を観れば、心にうんときれいな玉を持ち、それを具現化する技術を持つ方だということが伝わります。伝わりました。
もう一度、ポニョ観にいこうかなと思ってます。

投稿日時:2008年08月09日 16:11 | こばやし

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