ウィスキーのおいしさに目覚めたのは、スコットランドのアラン島に旅した時のことである。グラスゴーから船に乗り、島に着いた。夜パブに入ると、夏だというのに暖炉に火が燃えていて、男たちがスコッチを飲んでいた。
気候のせいか、旅情のゆえにか、口にしたオン・ザ・ロックは人生の味がした。
なぜウィスキーはブレンドして作るのか。輿水さんのお話をうかがって、初めて理解した。同じ条件で樽(たる)詰めしても、原酒の味わいは一定にならない。人知をもってしてはいまだコントロールできない複雑系のダイナミクスにより、一つひとつが違う風ぼうを見せる。その個性を絶妙に混ぜ合わせ、あり得べき味に仕上げるのがブレンダーの仕事であると。なるほど、これはきわめて論理的で、しかも未来志向的な話だと思った。
多様性が大切だと言われて久しい。森の中に分け入れば、さまざまな植物が生命力の限りを尽くし、その豊かな生態系が人間の心に安らぎを与える。モノカルチャーではなく、そのような多様性を育む自然をいかに守り、同じ多彩なる宇宙を人間社会の中に醸成するか。
いかに多様性は起源するか? ウィスキーの原酒が一定条件でもさまざまな成長を遂げるように、生命作用というものは本来拡散していく性質を持っている。人間社会も同じこと。多様な個性は強制して無理矢理につくり出すものではなく、自由放任すれば自然に生み出されてくるものである。
問題は、それらの個性の間にいかに調和をもたらすかということ。まずは豊かな個性の宇宙を広げ、その後で全体の調和を考える。人間社会が範とすべき「部分」と「全体」の関係のひな型が、輿水さんのウィスキー作りの中にあった。
印象的だったのは、ブレンダーは「言葉にならないことを一生懸命表現しようとしている」という輿水さんの一言。なるほど、だから、ブレンダーの言葉は芸術家のように響く。科学もまた、いまだ人類がつかんでいないものを概念化することに心を砕く。輿水さんの姿勢に大いなる親近感を抱いた。 |