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未明の東京・築地市場。全国はもとより、そして世界中から集められたまぐろがせり場に所狭しと並ぶ。藤田たち仲買人は、その中からこれはと思うまぐろを見極めて競り落とし、プロの料理人やすし職人に卸す。しかしせり場に並ぶまぐろには、味見をする見本はない。魚の外見など、ごく限られた情報から魚の良し悪しを瞬時に見極めなければならない。
魚の大きさ、脂ののり具合、産地や漁法などさまざまな判断基準があるなかで、藤田が最も大切にするのが、味だ。藤田の味への徹底したこだわりと妥協しない姿勢が、多くのすしの名店からの信頼を集めている。 |

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藤田が仲買人にとって最も大切な仕事だと考えるのは、「良い魚にはそれに見合った値をつけること」。安く買いたたけば漁師たちの実入りは減り、それが長く続けば産地は疲弊してしまう。しかし仲買人が魚の価値を見極め、適正な値をつければ産地は守られ、結果として質の良い魚が安定的に客に届けられると信じているからだ。 |

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天然の本まぐろを扱うだけに、藤田にとって自らが「うまい」と思う魚があがらないこともしばしばある。客のすし店などからまぐろの仕入れを一任されている藤田が「今日はこれしかなかった」と言えば、それでも客は買ってくれる。客が離れてしまうことを恐れ、魚の味に対して妥協して間に合わせでせり落とすことも可能だ。しかし藤田は、そうはしない。それではいずれ信頼は損なわれると考えるからだ。
「自分がいいと思ったもの以外は、お出しできない。うそをついてまで、ということはしたくない」
妥協すればすべてを失う。だからこそ、藤田は意地を張る。 |