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第58回 2007年7月17日放送 これまでの放送 トップへ この回のプロフェッショナルの道具へ

名門の味は、気持ちでつくる 〜ホテル総料理長・田中健一郎〜

新人・ベテラン問わず、ひとりひとりに声をかける

料理は、“人”なり

総料理長・田中には毎朝欠かさない日課がある。それはホテル内に点在する16の厨(ちゅう)房を毎朝見て回ること。地下1階から17階までつぶさに歩き回り、400人の部下、ひとりひとりに声をかける。「仕事にはもう慣れた?」「腰はもう大丈夫?」。何気ない会話から、部下たちの体調を読み取ろうとする。ここに、総料理長・田中が大切にする流儀がある。「料理は“人”なり」。作り手の気持ちが込められてこそ、料理はおいしくなる。逆に、作り手に悩みや疲れなどがあれば、客を感動させる料理にはなりえない。だからこそ、田中は部下と直接接することでその内面を読み取り、最高の状態でいられるように心を砕く。

試食は、総料理長としての感性が問われる真剣勝負

100−1=0

ホテルで出される料理全ての責任を負う田中にとって、味をみることは最も重要な仕事のひとつ。試食はレストランの客席で、客と同じ目線で行われる。「若干塩が足りない」「ザラッとした食感がない」。田中の感想はいつもストレートだ。味覚は曖昧で感覚的な世界だからこそ、田中は料理に足りない点を極めて具体的に指摘する。一点の妥協も許さない姿勢には「100―1=0」という信念が貫かれている。完璧(ぺき)を求められる名門ホテルにとって、たったひとつの妥協が客の信頼を裏切り、全てを台無しにする恐れがあるからだ。田中は味だけでなく、食べ易さも含めた100点満点を求める。その徹底した完璧(ぺき)を求め続ける姿勢こそが名門ホテルを支える。

ひとつひとつの大きさを切り揃え、基本を愚直に守る

背中で伝える

ホテルが1年で最も忙しくなる「ジューン・ブライド」の季節。週末は1日で40もの宴席が行われ、厨(ちゅう)房はまさに戦場と化す。慌ただしい空気が立ち込めるなか、田中はひとり、厨(ちゅう)房の片隅でズッキーニの千切りを始めた。本来なら総料理長の仕事ではない。しかし、田中は時間があれば自ら現場に赴き、下拵えを買って出る。そして、ひとつひとつの大きさを切り揃え、愚直なまでに基本を守り抜く。その背中から見え隠れするのは「ほんとうの仕事は地味なもの」という田中の哲学だ。 基本を間違いなくやり遂げ、その積み重ねがおいしさへとつながっていく。その想いは言葉だけでは伝えられない。トップが現場に立ち、料理に対するひたむきさを示すことで、料理に真心を込める大切さを無言のうちに説こうとする。

メニューにはない、オマール海老のスープをつくり始めた

決め味は、情熱

6月中旬、田中は信州・上高地に向かった。系列ホテルでオリジナル・フルコースによる晩餐(さん)会を開くためだ。総料理長になって5年。現場から離れがちになるなかで、どこまで1人の料理人でありつづけられるか。田中は自らに問い直す場として、上高地を特別視してきた。
現地に入り、材料を確認し始めた田中。ただひとつのことを頭に巡らせる。それは、更に客を喜ばせる工夫はできないか…ということ。そのとき目に留まった食材があった。鮮度のいい、オマール海老。これを使ってメニューにはない料理を作る。田中の決断は早かった。そばにいた若手に声をかけ、オマール海老の殻を炒め始めた。殻が赤くなるまでじっくりと炒めて味を引き出し、トマトペーストを加えて、クリームで煮込む。一日がかりで出来上がったのは濃厚なオマール海老の風味が閉じ込められたクリームスープ。自らに宿る料理人としての情熱を問い直す、熱き戦いが幕を開けた。

プロフェッショナルとは・・・

夢があったから今までやってこれたと思います。そしてまた夢があるからこれからもやっていけそうな気がする。後は誇りですね。やっぱり、それは自分の職業に対しての、そしてまた自分自身にも誇れる自分を求めていくということだと思います。 田中健一郎

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