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本にとって、装丁は顔であると同時に、営業上の重要な意味を持つ。すなわち、書店の店頭で客の目を引き、思わず手に取らせる、広告としての役割である。編集者たちは、「鈴木の作った表紙は、なぜか目に飛び込んでくる」と口をそろえる。どの本も、客の目を引くために必死のくふうを凝らしている中で、なぜそのようなことが可能なのか。鈴木は、その極意をこう説明する。「不要な要素をそぎ落とし、徹底的に本の個性を削り出すことしかないと思う。どんな本であれ、その内容は新しいはず。ならば今までの本と何が違うのか、その個性こそがウリになるはずだと思います。」鈴木は、自分の色を出すことを嫌う。自分を殺し、本の個性に特化するからこそ、内容を凝縮した、多様なデザインが生まれるのだ。 |

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鈴木は、タイトルの文字の1画1画、その形にまでこだわりぬき、決して妥協することはない。その作業は、時に数日にも及ぶ。それはなぜか。鈴木はこう説明する。「少なくとも私がやる以上は、装丁には正解があると思うのです。」
もちろん正解は、初めから見えるわけではない。初めはぼんやりと、しかし表紙を作り上げる中で、少しずつ、より精緻(ち)な正解の形が見えてくるのだという。その形に達しない限り、鈴木の作業は延々と続く。「もうこの辺でいい、と手をゆるめることはないのか?」と問うと、鈴木は笑ってこう答えた。「料理屋が生焼けの魚は出さないでしょう?それと同じですよ。」
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鈴木は、出版業界では有名な「締め切り破り」、それも常習犯だ。仕上がりに納得しない限り、どんなに催促されても、鈴木は頑として原稿を納入しない。一介のフリーのデザイナーが、大手出版社を待たせるという不思議な構図を可能にしているのは、鈴木が胸に秘める一つの信念である。「どんなに経営が苦しくても、絶対に言いたくない言葉がある。それは、『仕事をください』という言葉。それを言ってしまったら、仕事に媚(こ)びが生まれるし、どこまでも相手に振り回されることになる。だから、人に頼まれるからやる、というスタイルは崩したくない。」人に頼まれ、期待されているからこそ、その期待を上回る仕事をしてやろうというモチベーションがわく。根っからの職人である鈴木の矜持(きょうじ)が、この流儀に現れている。 |

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鈴木とて、いつも容易にデザインの最終形を思い浮かべられるわけではない。正解の形が見えず、苦悶(くもん)するときもある。そんなとき、鈴木は、出来損ないの表紙を本に巻き、それを机に立てたまま、あえて別の仕事に没頭する。狙いは自分を無意識にすること。別の仕事に没頭し、ふとした瞬間に出来損ないの表紙が目に入る。その瞬間に何を感じるか、その感覚を探るのである。鈴木はこう説明する。「要するに、出来損ないの表紙など見たくないのです。それを何度も見て違和感を自分に植え付けることで、そこから逃れたいという欲を育てる、そんな感じです。」 |