
輿水の鼻と舌先の感覚が、極上の逸品というハーモニーを生み出す |

ウイスキーは、大麦などの穀物に水を加えて発酵させ、蒸留させることで生まれる。できたてのウイスキーは、実は無色透明な液体だ。その原酒を長いものでは30年以上、木の樽(たる)で寝かせると、琥珀(こはく)色のウイスキー原酒に変化する。長い年月の間に、樽材や気温などの違いによって、ウイスキーは味や香りを変えるのだが、このままではクセが強すぎるため、ほとんどはそのままでは飲めるモノではない。そのウイスキー原酒を、時には40種類近く組み合わせ、味わい深い極上の逸品に仕上げるのがウイスキーブレンダーだ。
輿水は、そんなウイスキーブレンダーの仕事を「味と香りの指揮者のようなもの」と表現する。そんな輿水が発する、原酒を表する不思議な表現。「かつお節」「しめった倉庫」「おせんべい」などなど。それはすべて、普通の形容詞では表しきれない香味を、何とか周りに伝えようとする輿水独自の言葉なのだ。
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輿水の姿が見えると、厨房の人の手がすぐ動く |

輿水は、常に一定な男だ。昼食はいつも天ぷらうどん。うがいも欠かさず、風邪も最近、いつひいたか、記憶がないほどだ。さらに、輿水の部下によれば、「怒ったところを見たことがない」というほど穏やかな性格。ウイスキーの香味は数字では計りきれないため、ブレンダー自らが常に一定の「ものさし」になって、判断を下さねばならないからなのだ。 |

短所をつぶすより、長所を伸ばす それがブレンドの極意 |

輿水が勤務する大手酒造メーカーでは、毎年一度、定番商品のブレンドの見直しが行われる。今年は特に、来年発売から70年を迎える商品の味を集中的に見直すことになった。ブレンドを担当した輿水の部下は、香味のバランスのとれた非常においしいウイスキーをブレンドして輿水に見せた。
輿水の第一声は「飲み応えのあるとってもおいしいウイスキーになっちゃった」。
しかしこれは、輿水の褒め言葉では決してなかった。部下のブレンドはバランスを良くするがあまり、個性のない酒になってしまっている。人の記憶に残る、愛されるウイスキーになるためには、無難よりも個性が香り立つものにしろ。
輿水の目指す世界は、単純ではないのだ。 |

かつてない試練に悩む 自分から、逃げない |

今年、輿水は25年もののシングルモルトウイスキーを作ることを会社から命じられた。25年もの、それはウイスキーの中でも最高級品のひとつ。一本10万円前後で売られることとなる。その値にふさわしい個性豊かなウイスキーにしなければならない。
しかし、素材となる原酒の多くは、輿水の期待を裏切る平凡なものばかり。個性的なものもあったが、あまりにクセが強すぎた。17年のブレンダー生活の中で、かつてない厳しい条件。輿水は悩みながらブレンドを重ねていく。
そして最後の山場。輿水は、いつも同じ言葉を自らに問う。
「本当に今、自分は納得しているか」 |