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これまでの放送

348回 2018年1月22日放送

挑未知の海、命と向き合う 水族園職員・河原直明

再放送情報
  • 再放送は未定です。決まり次第ホームページにてお知らせ致します。


魚の個性を、見抜く

河原直明(44)は、東京都が運営する葛西臨海水族園の職員。多くの水族館が展示用の生物を業者から購入する中で、葛西臨海水族園は「自ら採集する」専門の部署を持つ。そのリーダーが河原だ。
未知の魚を求めて、世界の海に潜る調査係。出張は年間100日を越える。あらゆる海に潜り、さまざまな生物を捕ってきた河原。だからこそ、魚を採集する難しさを誰よりも感じてきた。「闇雲に追っていても魚は絶対に捕ることができない。逃げる魚は予想できない動きをするんです」・・・河原の真骨頂は、その経験と知識から、魚の逃げ方を予測する力だ。「その魚の癖が分かってると、採集できるチャンスは増えると思います。その魚の個性を知ること。それは、実際に魚を追ったことのある人にしか分からないものなんです」。魚の種類ごとに行動を予測し、捕獲用のネットを張り、捕獲作戦を遂行する。定期的に採集に行くと言う小笠原諸島では、日本固有種「ユウゼン」の捕獲を行った。ユウゼンが逃げる際の癖を見抜き、見事にペアを捕獲した。それは河原だからこそできるプロの技だ。

写真
写真海中で魚を探す河原さん
写真日本固有種のユウゼン


“生命”への責任

河原の仕事は、「捕獲」だけではない。捕った後、水族園までの「輸送」も重要な仕事だ。魚の種類によって、入れる容器や数、海水や酸素の量も変える。船や車での移動の際は、数時間おきにチェックして、海水の入れ替えや、温度調節を行っている。「特定の生き物がかわいいからと言って、ひいきはしない。海外の珍しい生物でも、東京湾にいる生物でも、みんな平等に、1匹1匹を丁寧に扱うことを忘れないようにしています」と河原は言う。
「私には生命への責任があるので」。そう強く思うようになったのは、娘のまいさんが産まれた頃からだった。
神奈川で生まれ育った河原にとって、海は日常の中にある身近な存在だった。アメリカの大学で海洋生物学を学んだ後、水族園で働き始めた。当初は「生き物と触れ合う楽しさを伝えたい」と、ただ考えていた。働き始めて5年目、まいさんが誕生した。生まれつき心臓に重い病を抱えていた。病院へ通っているうちに、さまざまな病気を持つ子どもや親を知った。そして、生き物に対する思いに変化が生まれた。「それぞれ違う命があって、違う生き方をしている。それを見て、命に差はないんだ、生き物について一つ一つ大切にしたいと強く思うようになったんです」。多様な命の在り方を見せるという水族園の仕事。その意味をかみしめた。4年前、葛西臨海水族園ではマグロが大量死する事件も起きた。大きなショックを受けながら、それでも河原は「生命への責任」を背負い、海の生物と向き合っている。

写真輸送中、水槽の中の魚を確認する河原さん
写真葛西臨海水族園で人気の「マグロ」コーナー


できることを、一つ一つ

葛西臨海水族園には、世界中の7つの海を29の海域ごとに分けて紹介する「世界の海」というコーナーがある。その中に「オーストラリア南部」という海域がある。南極にほど近く、珍しい魚が多く生息する海域だが、数年前からサメが出没し、採集業者が捕ることをやめてしまっていた。そのため、河原は初めてオーストラリア南部の海へ採集に向かうことになった。資料でしか分からない海では、何もかもが想像とは異なっていた。潮の流れが速く、いると思っていた魚もいない・・・なかなか採集できない日が続いた。だが、そんな時、河原はいつも「自分に言い聞かせることがある。「自然相手なので、うまくいかないことは多いです。でも焦っちゃうんですけど、我慢です。焦らずに、いま自分に出来ることをやる。それしかないんです」。これまでの経験してきたことを、一つずつ思い返し、できることをやる。こうして、河原も初めて見たという「ムーンライター」という魚を捕まえることができた。幼魚の間だけ、身体に月のような模様が浮かび上がる、珍しい魚だ。未知の海で、魚を探し、知力と体力を使って採集する。捕ってきた魚が展示され、お客が水槽の前で見る瞬間が、「最も幸せを感じる」と河原は言う。そして今日もまた、海に潜る。

写真「世界の海」コーナー
写真初めて見たという「ムーンライター」


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

みんながみんな、それぞれの役割を自分で見つけて 自分でそれをやって その結果が出せるというか、結果に導く。それがプロフェッショナルなのかなって思います。

水族園職員・河原直明