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これまでの放送

第336回 2017年9月25日

ようこそ!地下空間へ 知られざるプロの現場SP 地下トンネル工事 現場代理人/谷口禎弘、ソムリエ/情野博之、喫茶店 店主/橋崎光男、表具師/田中一生、理容師/米倉宏、靴磨き職人/井上源太郎



ソムリエ・情野博之(52)

東京・日比谷の雑居ビルの地下にあるフランス料理店。外の光やBGMが一切ない地下空間。そこで客は料理と酒に集中する。
創業34年。政財界をはじめ、あらゆる食通や名だたる料理人たちをうならせてきたのは、料理の味だけではない。「超一流」のサービスがある。その中心となるのが、ソムリエ・情野博之(52)。業界では重鎮と称される人物だ。
およそ700種類3,000本用意されている店のワイン、そのすべての特徴を把握し、料理との相性、客の好み、しゃべり方やしぐさ、数少ない情報を元にその人にあったワインを瞬時に選び出す。軽妙しゃだつなトークで、最高のひとときを演出する。そこには、情野が考えるソムリエ像がある。

【ただ、黒子に徹する】
幸福な時間を過ごすためにやってきている客。せっかくのムードを台なしにしないよう、細心の注意を払いながらサービスに徹する情野。周到なワイン選びはもちろん、グラス1つ皿1枚のわずかな汚れも見逃さない。そういう細かいところを全部クリアしてこそ、すばらしいひとときを提供できると考えている。

「ソムリエっていう仕事は液体注いでいるだけの仕事じゃないか、というのはありますけど。ソムリエの理想は出過ぎず、引っ込みすぎずというところで、あくまで黒子であるべきですよね。お客さんに満足してもらうっていうのが僕らのプライド。それがソムリエのだいご味なのかなというところはありますよね」

写真常に笑顔をたやさない
写真ミリ単位グラスをセッティングする
写真ワインセラーには1本150万円の代物も
写真わずかな指紋やホコリも見逃さない


地下トンネル工事 現場代理人 谷口禎弘(54)

【1対200ではなく、1対1】

横浜市鶴見区。閑静な住宅街の地下で、日本の大型トンネル史上最も困難といわれる大工事が行われている。およそ200メートル四方という狭い敷地に4本のトンネルを重なるように掘る。うち2本は、日本一の急カーブといわれている。そして最後の1本は、稼働中の高速道路に影響を与えずに接続するという世界でも例のない難工事だった。
6年がかりの大工事を任されたのが、現場代理人の谷口禎弘(54)。30年にわたって地下トンネルを掘り続けてきたプロフェッショナルだ。
谷口は常時200人が働く現場のトップ。本来は、全体的な工事計画を立てるなど、オフィスから指示を出すのが主な仕事だが、谷口は1日の半分もの時間、現場を歩く。真夏の地下トンネル現場は、気温35度、湿度は90%を超える日もある過酷な環境だ。谷口は、作業員たちに話しかけながら最前線の状況を把握し、危険のシグナルを探る。驚くのは、作業員たち一人一人の名前と顔はもちろん、出身地まで把握し、コミュニケーションをとっていることだ。緊張を強いられる現場で、谷口の声かけが場を和ませる。困難な現場だからこそ、作業員一人一人と向き合い、意識を高めていくことが大事だという。

「現場に行って話をするのは、働いている方一人一人に話をかけたいと。1対200の話ではなくて、1対1の話で私の思いを伝えたい。たくさんの人に現場に来てもらって、その人が自分の能力を全部発揮するために、やってもらいたいというのが私の希望ですから、それが伝わればうれしいですね」

谷口の歩数計は、一日二万歩を数える。

【想定外は、ない】

地下30メートルの現場では、シールドマシンと呼ばれる重さ1,000トンもの巨大な掘削機が直径10メートルのトンネルを掘っている。シールドマシンは、穴を掘ると同時にセグメントと呼ばれるコンクリートピースを組みあげ、トンネル内部を構築する。谷口はある日、そのセグメントとセグメントの間に2ミリのズレがあることに気がつく。規定では3ミリまでのズレは許容範囲だが、谷口はズレの原因を究明し、除去することを決める。この作業によって工期は10日ほど遅れるが、徹底した品質と安全の追求が、日本の高速道路を守っている。

「最後に品質を確保するためには、できるだけどんな苦労があるとしても、1ミリにこだわる。まあ、それが我々のやらなければ仕事の一つですから。地上と違って、地下トンネルでは見えないところをどんどん掘って、全然予想と違うものが出てくる場合もある。そこで、「想定外だからしかたないよね」と言っておしまい、っていうわけには我々いかないので。対策、それは考える必要があると思いますね」

写真掘削中のトンネルを歩く谷口
写真作業員と話す谷口、この時間がとても大切だ
写真トンネルの継ぎ目を点検する谷口
写真シールドマシンの先端部、この先で掘削をしている。
写真この6年でおよそ1万8千キロ、地球半周近くを歩いてきた。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

自分の仕事にしっかり誇りを持って、その仕事をしっかりやるためにあらゆる力を常に、努力をやって行く、そういう努力ができる人

地下トンネル工事 現場代理人/谷口禎弘


大阪地下街

JR大阪駅を中心に梅田界わいに“迷宮”のように広がる地下街。そこは食欲をそそる「味な」街。まさに食い倒れの街の激戦区だ。

創業170年を誇るおでん屋。多くの文人から愛され、その作品にもたびたび登場してきた名店。昆布だしの効いたつゆが染み込んだおでんに舌鼓。

写真名物 瀬戸内海産(せとないかいさん)、タコの甘露煮(かんろに)
写真多くの文人から愛されたおでん


地下街のはずれにある創業44年の喫茶店。その名物はきれいに焼き目のついた、ホットケーキ。
このホットケーキを目当てに全国から客が訪れ、1年間に1万食以上の注文が入るという。

写真名物のホットケーキ
写真注文が入ってから生地をこねる店主のこだわり


飲食店が並ぶ中、150年続く表具屋を発見。どんな注文にも気さくに応じ、手ごろな価格で納得の仕上がりに。街角のプロの技を見た。

写真150年続く表具屋の五代目
写真仕上がりは一目瞭然


理容師・米倉宏(82)

東京・虎ノ門にある、海外からの要人も多く宿泊する日本最高級ホテル。その地下に、ホテル創業当時から営業を許された理容室がある。今年、創業99年。歴代首相や日本を代表する財界人、さらには数々の著名人もこの店に通っていた。料金は決して安くない。だがいつも常連客でにぎわっているのは、店主・米倉宏(82)の存在による。三代にわたって受け継がれた技術で、業界では「神様」と呼ばれる男だ。客1人に対して1時間半もの時間をかけ、丁寧に髪の毛を切っていく米倉。そこには、ある1つの思いがある。

【その一本が、品格となる】
米倉は、毛先がそろっていないことを品がないと嫌う。そのため、毛先をそろえるために、ハサミを変え、髪の毛1本1本の切る長さを変えていく。客一人一人の髪の流れ、頭の形、つむじの位置などを把握し、店に来る前よりも少しでもきれいになって帰ってもらえなければと丁寧に髪の毛を切る。
そんな思いにひかれ、客は店に通い続ける。

写真82歳、いまだ現役
写真品格は、毛先に表れる


靴磨き職人・井上源太郎(72)

理容室の向かいにもプロフェッショナルがいる。靴磨き職人・井上源太郎(72)。腕の確かさは折り紙つき。1足1足、靴の特徴に合わせて完璧に仕上げる技に、日本国内だけでなく、海外にもその名がとどろく。
「たかが相手は靴ですけど、靴磨きですけど魂の入った仕事したいね」という井上。
ところが、井上のやり方はいたってシンプル。水で湿らせた布にクリームをつけて塗っていくだけ。
磨き方もゴシゴシとこするのではなく、二本の指でなでるだけ。この道50年、井上の手にかかればどんな靴でもピカピカになる。

写真店内には高級靴がずらりと並ぶ
写真二本指でなでるように磨く熟練の技