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第335回 2017年9月11日

55歳 覚悟の挑戦、ノーベル賞の先へ 研究者・山中伸弥



応えるべきは、何か

夢の万能細胞・iPS細胞を作り出し、世界を驚がくさせた研究者・山中伸弥(55)。
「iPS細胞」は、皮膚などの体細胞から人の体を作り上げているあらゆる細胞に分化することができ、再生医療や新薬開発の可能性を大きく切り開いた。いま山中はiPS細胞を使って、現在の医療では治せない病気やけがの治療法開発を進めている。
2年前からは国内最大手の製薬会社と手を組んで共同研究開発をスタート。がんをはじめ、神経や筋肉の難病など、夢の医薬品誕生を目指している。まだ動物実験だが、山中の脳裏にはつねに患者の姿がある。応えるべきは、遠い将来かもしれないが、不治の病に苦しむ人々を救うこと。ゴールを見失うことなく、日々の地道な研究に打ち込む。

写真研究は、不治の病をなくしたいためにある


鎖のひとつになる

この春山中は、ひとりの研究者として、新たな研究に本格的に着手。その極秘の研究現場に、初めてカメラの密着が許された。iPS細胞に匹敵するかもしれないと取り組むのは、遺伝子「NAT1(ナットワン)」。まだ多くの謎に包まれており、その解明に挑む。山中は、さまざまな専門家の力を結集して、徹底的に多角的に、粘り強くNAT1を調べ上げていく。そこには、「鎖のひとつになる」という山中の哲学があった。生命科学はあまたの研究の積み重ね。iPS細胞を作成できたのも、それまでに多くの研究者たちがつないできた長い長い鎖があったからこそなしえたと山中は考える。ひとつひとつの鎖の輪をつなげていけば、いつか真実にたどりつく。だから、自分の目の前の鎖をしっかりと完成させる。それが、研究者としての誇りだという。

写真謎の遺伝子の正体に迫る
写真さまざまな専門家に熱心に協力を仰ぐ


予想外にこそ、食らいつく

謎の遺伝子NAT1の正体に迫る研究で、予想外の実験結果があがってきた。研究の本筋とはまったく関係のない現象。だが、山中はその分析も指示する。「僕たちの考えていることは、所詮、浅はか」だという山中。自らの仮説にしがみつくのではなく、真実の片りんの表れである実験結果に徹底的に食らいつくことでこそ、生命の神秘に近づくことができるという。

写真予想外の実験結果に、向き合う


ノーベル賞の“先”へ

iPS細胞以来、約10年ぶりに再び巡ってきた本格的な基礎研究のチャンスに、55歳にして覚悟の闘いを挑む山中。研究は混迷を極め、これまでに類を見ない難題にぶち当たっていた。
それでも長く先の見えない苦しい研究の道を走り続けるのには、大切な人々の死に誓った“約束”があった。難病で死のふちをさまよう父が見せてくれた最後の笑顔。がんと闘った友人・元ラグビー選手の平尾誠二さんの最後の姿。「今は治せない病を、将来治せるようにしたい」。山中は強い覚悟で、前に進む。
そしてまたひとり、大切な命に、山中は背中を押されようとしていた――。

写真遺品の椅子、亡き父から力をもらう
写真思いを背負って、前へ


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

自分が何もわかっていないということをわかっていること。そしてそれを乗り越えるように、ずっと努力ができること。それがプロだと思っています。

研究者・山中伸弥