スマートフォン版へ

メニューを飛ばして本文へ移動する

これまでの放送

第333回 2017年8月28日

命の花、心で生かす 生花店 店主・東信



花に取り憑(つ)かれた男

東京・青山でオーダーメードの花屋を営む東信。客の注文を受けてから花を仕入れ、一点ものの花束を作る、全国でも極めて珍しいスタイルを貫く。この男の花へのこだわりは尋常ではない。店は地下1階にあり、その空間はまるで異世界だ。灰色のコンクリートが全面を囲み、ステンレスの台の上には試験管のような花瓶が並ぶ。さながら実験室のような空間には、狙いがある。灰色にしたのは、花の色を際立たせるため。繊細な色の組み合わせを作るため、あえて花の色が際立つ背景にした。東を含めた15名のスタッフの服も黒と白に統一されている。室温は15度~20度、湿度は40%~50%。これは、東が長年の研究で見いだした花にとってベストなコンディション。さらに店内のBGMは奥多摩で収録した「鳥のさえずりと川のせせらぎ」。音が与える振動が水の濁りをなくし、結果的に花を長持ちさせるという。これも4年にわたる実証を繰り返し、花にとって良いと考えた。「あくまで花が主役である」と東は強調する。

写真まるで実験室と見まがう花屋
写真花束はフルオーダーメード


殺して、生かす

東にとって、花は命の作品。人間のエゴで切りとられたものだからこそ、その花の命を無駄にしてはならない。人の心に深く届けることで、生かさなければいけないと考える。
海外で仕事を始める友人へ送別の花を送りたいという女性客に、東は丁寧なカウンセリングを施す。女性の性格やイメージ、どんな仕事の内容か、どんなメッセージを込めたいか・・・。
「新天地での挑戦、きっと不安な思いもあるだろう。」東は、旅立つ友人の気持ちをくみ取り、明るい色の花を中心に花束を作る。晴れやかな気持ちで送り出したいと考えた。
送別会当日、花束を目の前にした友人から、思わず出発前のさまざまな思いが吐露される・・・。

写真メッセージが込められた花束
写真世界に一つ、「あなた」だけの花束を贈る


見る前に跳べ

福岡からミュージシャンを目指して上京した東。偶然見つけた花屋のアルバイト募集に応募した。人に感動を与えられる花屋の仕事にのめり込むが、すぐに現実を知る。花は余れば廃棄、古いものから売らざるを得ない。花の命を無駄にしない花屋はできないか。悩みの中、東が出した結論は、フルオーダーメードの花屋だった。客の注文を受けてから、必要な花だけを仕入れ、その人にとって唯一の花束を作る。当時まだ25歳、資金もなかった。それでも「見る前に跳べ」の信条で理想を追求し、銀座に「花のない花屋」を開いた。

写真後ろ盾もないまま、独立
写真銀座時代の、「花のない花屋」


俺は、咲いているか

東にとって、特別に重圧がかかる仕事が舞い込んできた。昨年亡くなった演出家の蜷川幸雄さんの一周忌で、舞台に花を生けてほしいという依頼だった。
「世界の蜷川」にふさわしい花は何か。東が選んだのは白いシャクヤクだった。300本のシャクヤクをあえてつぼみの状態で仕入れ、4日後の一周忌当日に合わせ、イメージ通りに咲かせると誓う。
ところが、想定外の悪天候が重なり、花がいっこうに開かない。東は、つぼみに付いた蜜を手で拭い、開花を促す。あらゆる手をつくし、花と、そして自分自身と向き合う。
そして一忌当日・・・。

写真当日に合わせ、満開にできるか
写真花と向き合い、自分自身に向き合う


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

信念を持って、仕事を取り組み続けることだと思います。いろんなものを背負い続けること、そしてまた常に走り続けていくことがプロフェッショナルだと思います。

生花店 店主 東信