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東京オリンピック応援スペシャル 第331回 2017年7月31日

背負った先に、栄光がある 女子レスリング監督・栄和人



己の弱さを、熟知する

長らく“世界最強”を育ててきた栄には、レスリングというスポーツの本質を考え抜いた一つの哲学がある。それが、「相手を知ることより前に、己の弱さを知り、それを減らすことに注力すべき」、ということだ。レスリングは互いが相手のごくわずかな隙や弱点を突いて、得点を奪い合うスポーツ。そこで栄は、まず相手につけ込まれる弱点やくせをへらして、「得点を奪われない」ようにすることが、レスリングには最も肝要だと考える。
まず栄は、実戦形式のスパーリングを多く行い、各選手の弱点をあぶり出す。「真剣に闘っているときにしか、弱点は浮かび上がらない」というのが長い経験から得た信念だ。さらに、その見つかった弱点を、他の選手にも共有させ、全員が克服するまで練習する。これも、「誰かの弱点は、得てして他の人にとっても、弱点であることが多い」、という経験則に基づいている。
「自分の短所、欠点を自分で知ってて、なぜこういう風になってしまうのか、なぜここが悪いのか。それを知った上で、次の展開に持って行くのが僕のやりかたなんです。己を知って敵を知らないと、敵のことばっかり考えても自分の弱点もいっぱいあるのにさ。」

写真弱点を潰すため、何度でも指導する


強みを、捨てろ

まず「弱点を無くす」ことを最重要課題と考える栄。そのために栄は、あえてその選手の強みを封じ、使わせないということまで行う。「強み」は、それに頼るあまり、その強みを相手に防がれたとき、焦りや隙を生むことにもつながる。たとえば吉田沙保里選手。あの無敵の高速タックルを一時期封じさせ、寝技をさらに鍛え進化を促した。リオデジャネイロオリンピックで金メダルを獲得した登坂絵莉選手も、従来の守り中心のスタイルを捨てさせ、積極的に攻撃するタイプに転じさせた結果、あの決勝戦終了間際の逆転を可能にさせたのである。

写真強みを封じさせ、安住させない


すべてを背負ったとき、人は強くなる

世界最強を目指し、日々、自らの限界まで鍛錬を重ねる選手たち。その道は残酷だ。同じ釜の飯を食った仲間どうしが、いつかは世界一という1つの席を巡って争い、しのぎを削らなければならない。だが栄はあえて、自分が育てた教え子に、新たに育てた選手をぶつけ、互いをたきつけることで高みに導いてきた。選手にかかる重圧や期待。中にはケガに襲われ、泣き出す選手もいる。なかなか結果が出ずに、進退を迷い続ける選手もいる。栄は彼女たちの苦しみを知りながら、背中を押す。
そこには、自らの人生をかけて悟った、ひとつの哲学があるからだ。それが、「すべてを背負ったとき、人は強くなる」という哲学だ。
「オリンピック出て、勝った負けただけじゃなくてね、本当にそういう毎日のプレッシャー、重圧を耐えて、それを本当に背負えるふうになるっていうのは、本当、勇気の要ることだし、自分を変えていける力になるっていうことを思って、皆がんばってほしい。その責任は、僕は背負おうと思ってやってるから。この子たちのために自分の人生をささげれるぐらいの気持ち。」

写真全てを背負った時、きっと強くなる
写真背負わせ、勝たせるためなら栄は自らの全てを選手に捧げる


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

何事に対しても誠意を持って、常に貪欲に追求し、試練を乗り越えられる人だと、私は思います。

女子レスリング監督 栄和人