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これまでの放送

第323回 2017年5月1日放送

1アウトの意味 メジャーリーガー・田中将大



積み重ねる

日本プロ野球、レギュラーシーズン24勝無敗という前人未踏の記録を残し、海を渡った田中将大。新天地アメリカ・メジャーリーグでも3年連続二桁勝利を残し、メジャー屈指の投手として活躍を続けている。しかし、才能だけで言えば田中をりょうがするものは何人もいるだろう。では、なにが田中将大を現在のレベルまで引き上げたのか。それは、日々の積み重ねに他ならない。一見、当然のように聞こえる『積み重ね』という言葉。だが、田中ほどこの言葉が当てはまる男はいないだろう。
例えば、野球の基礎練習であるキャッチボール。肩慣らし程度に行う選手も少なくないなか、田中はひとり異彩を放つ。相手の構えたミットに寸分たがわず投げることに徹底してこだわる。足の踏みだし、腕の振り、球の握り、あらゆることに神経を行き渡らせ、1球1球動作を確認していく。地味で単調な練習のなかにも自ら課題を見つけ出し、それを克服する姿勢を貫く。圧倒的な練習の密度。田中はそれをずっと続けてきた。超一流への道のりは、地道で実直な日々の努力の積み重ねによってのみ築かれる。それが、田中将大だ。

写真ヤンキースのキャンプ地フロリダでインタビューに応える田中
写真1球1球、神経を研ぎ澄ませる


はるかなる自分を、追い求める

自分のゴールはどこにあるのか?その問いに田中はこう答える。「自分がもっと野球をうまくなりたい、いい選手になりたい、と思う気持ち。それがなくなったときが、自分が引退するときだと思います。」
田中が理想とするのは、常に質の高い球を寸分の狂いもなく狙ったところに投げられる投手だ。「そんな投手は今もいないし、これまでもいなかったと思うんです。すごい遠い、かなわないような目標ですよね。でも、僕は究極そういうふうに投げたい。それを追い求めたいんです。」はるかなる自分を追い求める。その気持ちが田中を突き動かしている。
田中は、人生の選択を迫られたとき、常に自分の成長を第一に考えてきた。中学では『考える野球』を学びたいと、自ら隣町の硬式野球チームに入団。高校進学では、甲子園に何度も出場している関西の強豪校から誘いがあったにも関わらず辞退。当時、ほとんど無名だった北海道の駒大苫小牧高校を選択した。『野球選手として、自分が成長できる場所』ただ、それだけを道標としてきた。それは、アメリカに渡った今も貫かれている。田中は名門球団であるヤンキースを移籍先に選んだ理由をこう語る。「僕のことを昔から見てくださっているファンの方は、選んだ道が田中らしくないなと思われたと思うんです。名門じゃなくて、もっと弱いチームを選ぶんじゃないかと。でも自分が今まで、そういう道を結果的に歩いてきたからこそ、これまでとは違うところに行って自分を成長させたいと思ったんです。」

写真田中の真剣に練習に取り組む姿勢は、監督やコーチからも大きな信頼を得ている


意外な弱点、最後に自分を支えるもの

田中の強みは、自分のその日の調子や、相手打者の雰囲気を察知し、瞬時に投球を修正する力にある。だが、田中は自らの強みに関して意外な考察をしている。「マウンドでさまざまなことを繊細に察知して、こうしよう、ああしようと思う部分が多過ぎて、逆にマイナスな要素がふっと入ってきた時に、駄目になってしまうことがあります。そこをいかにプラスに転換させて、良いプレーにつなげていくか。それが、まだうまく出来てない部分があるんです。それが僕の弱点にもなっている。」強みが時に仇となる恐ろしさ、常に冷静に自己分析を重ねる田中だからこそ認める自らの弱点だ。
投手はある意味で孤独な存在だ。試合で調子があがらず、悪い流れをどうしても断ち切れない。そんな最悪の日が田中にもある。不安や焦りが押し寄せる孤独なマウンドで、田中を支える唯一のもの。それは『自分を、信じきる』という気持ちだ。「結局は最後は自分。自分が自分の味方でいてあげないといけないと思うんです。自分が今までやってきたこと、積み重ねてきたものを信じてあげないと。」
ただひたすらに野球がうまくなりたいと白球を追い続けきた少年は、その後、甲子園のスターとなり、弱小球団をプロ日本一に導くエースとなった。そして今、世界で最も厳しいメジャーの、それも名門ヤンキースのエースとして巨大なプレッシャーのなかで闘い続けている。2017年、田中将大はさらなる飛躍を遂げることができるのだろうか、闘いはまだ始まったばかりだ。

写真冷静な自己分析が田中の成長の土台となっている


グラブに刻まれた言葉

田中はプロになって以来、グラブにある言葉を刻み続けてきた。それは「氣持ち」という言葉だ。それは、田中が何よりも大切にしてきたものだ。
田中は忘れられない試合として、中学時代の全国大会予選の決勝戦をあげている。1点リードされて迎えた最終回ツーアウト、一打逆転の場面。4番の打者を敬遠され、勝負の相手に選ばれたのが、当時2年生の田中だった。全てが田中にかかっていた。しかし、結果はファールフライ。プレッシャーに押しつぶされ、中途半端なスイングしかできなかった。『気持ちで負けた』その後悔が、今も田中の戒めとなっている。

写真グラブに刻む大切な言葉
写真中学時代の田中


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

チームやファン、さまざまな人たちの期待に応える。それが、一番大切だと思います。

メジャーリーガー・田中将大