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これまでの放送

第318回 2017年3月27日放送

埋もれる至宝に光を オークションスペシャリスト・山口桂



果報は、“動いて”待て

世界最大の売り上げを誇るニューヨークのオークションハウス・「クリスティーズ」。そこで、日本美術を中心に中国・韓国美術を含む東洋美術の国際統括として活躍する、山口桂(53)。世界各地を飛び回り、オークションにかける美術品を集めるスペシャリストだ。
時にがん作や粗悪品も入り乱れる美術品の世界で、本当に価値のあるものをどのように探し出すのか。その“お宝探し”は実に地道な作業の繰り返しだった。特別な用もなくなじみの美術商やコレクターを訪ね歩き、よもやま話に花を咲かせ、作品を見せてもらう。だが、そこにこそ山口のお宝発見の流儀がある。日々、人の手から手へと渡って動いている美術品が動く時の情報は、極秘の部分が多く、限られた人にしか知られていない。だからこそ自ら動いて絶えず人と会い、情報を得なければならない。山口は自らの仕事を、「情報が命」と言い切る。

写真日々、人と会い作品を見せてもらいながら情報を得る


“最高”からの引き算

日本美術史上最高額となる14億円で落札された「大日如来座像」など、これまで数多の美術品を扱ってきた山口。その最大の武器は、何と言っても「目利き」のチカラ。美術品を一見しただけで、正確な評価額を弾き出すことができる。美術品の価値を見極める「査定」は、山口たちスペシャリストの腕の見せ所となる。
その極意は、意外にもシンプルだ。山口の頭の中には、市場の相場とともに、カテゴリーごとに最高級の美術品の売買歴がそっくりそのままインプットされている。その絶対基準から、何が欠けているのか「引き算」をしていく。傷や修復の跡はないか、作品そのものの「状態」や、過去に誰が所有していたかという「来歴」、そして市場動向などをポイントに、美術品の評価額は決まっていく。

写真査定のために食い入るように作品を見る山口


千年先へ、つなぐ

山口は、世界中の日本美術コレクターから絶大な信頼を得ている。去年、訪ねたのは、ロサンゼルス在住の世界的な日本美術コレクター、ジョー・プライスさんと妻の悦子さん。江戸時代の天才絵師・伊藤若冲がまだ世に知られていなかった時代から、その美しさに魅了され収集を始めた伝説的コレクターだ。そんな夫妻から、将来の構想として、コレクションの一部をまとめて日本に戻したいと相談を受けた山口。夫妻の思いが込められた貴重なコレクションが、“在るべき場所”はどこなのか。
美術品はその時代その時代で最も大切にしてくれる人の手から手へと、百年、千年の時を超えて生きながらえてきている。そうした長い歴史を考えると、自分はほんの一時期、後世に残す一助をしているだけだと、山口は言う。自分がベストを尽くさなければ、作品は後世に残らない。自分のベストが作品のためにならないと判断した時、山口はその仕事を断ると言う。

写真伝説の日本美術コレクター、ジョー・プライス夫妻から相談を受ける山口


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

ビジネスの最大のいいチャンスというのは人づきあいとかご縁を大事にすることによっていい仕事ができると思うので人を大事にすることができてそこからいいビジネスを作れる人のことですかね

オークションスペシャリスト・山口桂


放送されなかった流儀

温新知故:新しきを温ね、故きを知る

日々、世界を飛び回ってお宝探しをする山口。しかしどんなに疲れていても、ギャラリーや美術館巡りを怠らない。しかも、古美術が専門の山口だが、現代アートを好んで見て歩く。そして可能な限り、アーティストに直接話を聞きながら、作品が作られた背景や意図を探る。山口いわく、「作品が長い歴史を経て残っていくということは、どういうことなのか、考えるんです。古美術も作られた当時は現代美術であって、そのときの新しさが失われていないからこそ、今も残っている。いかなる古美術も作った人に話を聞くことはできない。現代美術を作っている人に話を聞いて、後世に残っていく新しさとは何なのかを探るんです」。そうして山口は、物言わぬ古美術品のすばらしさに思いをはせている。

写真世界的なグラフィックデザイナー、田名網敬一氏に制作の背景を聞く
写真時には作家(インゴ・ギュンター)の制作現場を訪ねて話を聞く