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これまでの放送

スペシャル 2017年2月27日放送

真夜中の東京スペシャル 橋りょう技術者・志賀弘明/消防署大隊長・八巻信也/若年女性支援・橘ジュン/救急専門医・城川雅光



救急専門医

準備8割、実戦2割

広尾病院は東京都の基幹災害拠点病院として、災害医療や島嶼(とうしょ)医療に力を入れている病院だ。救急で受け入れる患者は、年間およそ2万2千人にのぼる。そんな“365日24時間の病院”で、事故や病気で命の危機にひんした人たちのために走り続ける男がいる。城川雅光、38歳。東京の夜を守る「最後の砦(とりで)」だ。城川の当直の日の勤務は、日中から夜をまたいで翌日の午前まで。夜間の救急医は2~3人で全ての患者に対応する。ギリギリの攻防に、若き医師は決して冷静さを失わない。城川は丁寧な口調で、動揺する患者の不安を和らげる。
常に、命にかかわる決断を迫られる城川の仕事。命を救うという使命感。それが城川の支えとなっている。生きたいと願う人々のために、城川は夜を徹して戦い続ける。そんな城川が心に決めていることがある。
【準備8割、実戦2割】
患者の救急要請が入った瞬間から、患者が運ばれてくるまでが、城川の正念場。いかに最悪を想定して準備ができるか。起こりうることを考え、専門医の確保、輸血の準備。1分1秒が患者の命を分ける救急医療の世界。キャリア13年、人の命を救い続けてきた。支えになるのは元気を取り戻して行く患者の姿。
城川は、今日も夜を徹して戦い続ける。
「準備をして作戦を立てることで物事8割方、決まっている。残りの2割は実戦で予想外のことが起きるのでそこはまた臨機応変にやらないといけない、いざ具合が悪くなった時に想定済みであればあまり慌てずに対応ができるようになる。慌てるとやはりふだん持っている能力100%は出せない」

写真常に冷静沈着、救急専門医城川雅光さん。
写真ヘリに乗り離島での医療も行う。
写真この瞬間から患者が運ばれてくるまでが正念場。


消防署大隊長

1秒で助かる命、亡くなる命

東京の下町、葛飾区。ここにも夜を駆ける1人の男がいる。本田消防署一部大隊長、八巻信也(57)。消防一筋38年、この道のスペシャリストだ。八巻は消防隊の指揮官、80名からなる隊員たちはその号令1つで動くことになる。担当する葛飾区は、古い木造住宅がひしめく下町。年間150件もの火事が起こる都内有数の火災多発地域だ。この消防署の隊員たちに徹底されているのは、スピードだ。どんな夜中でもひとたび出場命令が下れば、彼らは1秒を争い消防車に乗り込み、1分以内に飛び出していく。
八巻は言う。「スピード、スピード、スピード。安全なんてのは当たり前。1秒たったら燃えなくてもいいものが燃えちゃってるかもしれない、1秒早けりゃ助けられたかもしれない、1秒遅くなったら死んでしまうかもしれないっていう。私は災害ってそういうことだと思ってるんですよね」
八巻はいつでも走る。大隊長という立場ながら、火災現場では煙の中に飛び込み火元を確認し、周囲を走り回り、延焼の危険を察知し、消火指示を出す。一旦、鎮火と要救助者がいないことを確認すれば、すぐさま消防車の撤退を決め、新たな火災に備えさせる。全ては「1秒のため」だ。
基本の勤務は朝8時半から翌朝8時半までの24時間。心休まる時間などない。八巻たち消防隊員は1秒でも早く災害に対応できるよう、神経を研ぎ澄まし、準備をしている。
そして1か月半にわたる密着取材で見えてきたのは、消防の仕事の多様さだ。火災はもちろんのこと、水難事故、孤独死の現場、そして電車への飛び込み事故など、私たちの生活で起きるあらゆる災害に彼らは真っ先に駆けつける。命の可能性がわずかでもある限り、救助活動を行うのも消防隊員の任務なのだ。しかし、助けられる命よりも亡くなってしまう命に立ち会うことの方が圧倒的に多い。八巻は、そんな現場の最前線に38年居続けている。そして最後、自分の信念をこんな言葉で表現していた。
「かけがえのない命というのは多分消防をやっていれば、意味がわかると思います。命は1回なくなっちゃったら、無になってしまう。取り返しのつかないもの。だから助けなくちゃいけないんでしょうね。自分たちが助けられるなら、助けなくちゃいけない」

写真火災現場に向かう途中、指揮隊車の中で先着の部隊に無線で指示する八巻大隊長。
写真火災現場で火元を確認する八巻大隊長。
写真およそ50キロのタイヤを引くトレーニング、一番きつい。


若年女性支援

“生きようとする力”を信じる

夜の繁華街。にぎわう人たちの中で、若い女性たちを見つめる、1人のプロがいる。橘ジュン(46)。10代、20代の生きづらさを抱えた女性たちを支援する、NPOの代表だ。レイプ被害、援助交際など、夜の繁華街に潜む危険から、若い女性たちを救うため、橘は週に1度のペースで、スタッフと共に「夜回り」をしている。スタッフは、橘の他にカメラマンの夫と、20代中心の女性6人。
橘は、ライターとしても活躍し、生きづらさを抱えた女性たちの声を伝えるフリーペーパーも発行している。若い女性に特化したNPOを立ち上げたのは、8年前。女性たちから届く相談の声に応えるだけでなく、自分たちも街へ出向き、声をかけて出会い、関係を築く独自の仕組みを作ってきた。
女性たちと関わるときに、橘には大切にしている信念がある。それは「“生きようとする力”を信じる」こと。「すごい状況で、生き抜いてきてる子たちじゃないですか。そんな中よくこんな時に声を上げてくれたねっていう。声を上げてくれたから、私たち出会ってるわけで。あの子たちやっぱりそういう生きる力あるよって思うから。弱いけど強いんですよ」女性たちのその力に応えるため、橘は女性たちと一緒に考えながら、常に本気で向き合っている。

写真繁華街で行う「夜回り」で、若い女性に声をかける橘ジュンさん。
写真届いた若い女性たちからのメールを真剣に読み、1人1人の状況に合わせた返信をしていく。


橋りょう技術者

どんな課題にも、解決への道はある

渋谷駅再開発に向け、深夜、街のど真ん中で大プロジェクトが進んでいる。1日20万人が行き交う巨大歩道橋を撤去しながら、新しい橋に架け替える工事だ。その現場を指揮するのが、橋りょう技術者、志賀弘明(42)。
志賀の専門は、老朽化した橋を新たに作り直す「橋りょう改築」。改築のエキスパートとして、首都高の火災事故の補修工事やシンガポールの屋上庭園など、数々の難工事で実績を上げてきた。
今回の歩道橋は築50年近く。古い橋は一部を撤去するとバランスが変わり、最悪の場合、事故が起きる可能性がある。作業は、交通規制ができる夜間のみ。車両や歩行者の通行を妨げずに作業しなければならない。難しい条件が重なる中、志賀は、今ある柱の周りを頑丈に補強する対策を考えた。だが、その工事にも問題が発生。それでも、志賀はあきらめずに解決方法を考えぬく。
橋の改築を長年手がけてきた志賀には、強い思いがある。それは、どんな難しい課題にも、必ず解決策を出すこと。橋などの巨大建造物の工事は常に危険と隣り合わせ。阪神淡路大震災をはじめ、世界各地で橋の崩落事故も起きている。どんな事態にも対処し、何があっても大丈夫な対策を立てることが技術者の使命だと志賀は考える。

写真志賀は改築のエキスパートとして、歩道橋の難工事に挑む。
写真工事直前まで橋の中をチェック、想定外の事故を減らす努力を続ける。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

<城川>今の自分に満足しないで、常に常に追求を続けることかなと思います。<八巻>何がなんでも全身全霊使って死に物ぐるいで目的達成する。「まいった」は、できない。「できません」もできない。<橘>その子たちの立場に立つというか、それがすごく大事なんじゃないかなと思ってて、だから本気で関わるというのが一番大事なんじゃないかなと思います。<志賀>ずっとある分野の中で、新しい取り組みをしたりとか、新しい価値観を作り出せる。こう切り開いていく人なのかなって。

真夜中の東京スペシャル