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第316回 2017年2月20日放送

才能がなければ、愚直に進め フレンチシェフ・浜田統之



地を這(は)った先に、答えがある

東京のオフィス街にそびえ立つ高級日本旅館で、料理長を務める浜田統之(41)。世界で最も権威あるフランス料理のコンクールで、日本人初の3位という快挙を成し遂げ、熱い視線が注がれるフレンチシェフだ。
浜田の料理には、フォアグラやキャビアなど高級食材は一切並ばない。椎茸(しいたけ)や鯉(こい)といった通常フレンチでは使われない素材を用いて、極上の皿を生み出す。
浜田が独創的な料理を生み出す方法は、天才的なひらめきではない。素材に徹底的に向き合い、あらゆる素材の組み合わせや調理法を何百回も試すことで、誰もが驚く料理を作り出すのだ。
「みんなはジェット機のように飛んでいくけど、僕はほふく前進で一歩ずつ。センスも才能もないから、一歩ずつ行くしかないんですよね。目の前のものをいかにおいしく楽しく食べるかしか考えていないので、とにかくやりまくるしかない」

写真代表作「リンゴのシャルロット」。リンゴの味と食感を極限まで引き出したこの料理は、完成までに3年を費やした。
写真リンゴを繊細に調理する浜田。「たかがリンゴをされどリンゴにするためには、誰もやらないくらいまでとことん緻密にやらないと」と話す。


食材を、食材らしく、食材以上に

食材の力をシンプルに引き出すのは料理の基本だが、浜田のフレンチシェフとしてのきょうじは、その先にある。“食材を、食材らしく、食材以上に”。浜田は、ことあるごとにそう口にする。「フランス料理は、足し算。その食材に何かを加えることで、さらに生かすことができるのがフランス料理だと思う。常に進化し続けるっていうことが大事。1つの食材に対して、おいしさをどこまで追求できるかだけですね」。

写真休日は全国の産地に出向き、食材に向き合う浜田。
この冬は、長野で天然のヒラタケを手に入れた。

写真そのまま食べても十分な味わいのヒラタケを、浜田は落ち葉で蒸すことで、甘く清らかな香りを付け加えた。


雑草にも、生きる道がある

今でこそ世界的なフレンチシェフとなった浜田だが、若き日は誰からも期待されず、エリートとは真逆の“雑草”だった。24歳という遅さでフレンチの世界に飛び込み、作った料理はみな捨てられた。血のにじむような努力を重ねても「本場フランスのまねごとはできるけど、それ以上にはならない」と苦しんだ。
しかし、31歳で長野県軽井沢のホテルに着任したことが、転機となる。これまで交流のなかった生産者たちと出会い、知らない食材をたくさん知った。そして、フレンチでは見向きもされてこなかった地元食材をおいしく調理することに集中することによって、他のどこにもない斬新な料理を次々と生み出していった。
「どんな食材でも価値がないことは絶対になくて、何かしらの方法があると思う。そうすれば、価値が低いものにも価値を与えることができるかもしれない。『あ、こういう食べ方があったのか』という新しい発見にもなる。どんどんとらわれずにやっていけばいいと思うんです」

写真浜田の手にかかれば、捨てられる食材も料理としてよみがえる。これは、だしを取ったあとのアンコウの出がらしで作った「テリーヌ」。
写真前代未聞の「魚だけのフルコース」に挑んだ。
肉の代わりに選んだのは、なんと「エイ」。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

常に自分の心に正直に、素直な心で物事をとらえて、それに地道に、常に前向きにトライしていく人がプロフェッショナルだと僕は思います。

フレンチシェフ 浜田統之