スマートフォン版へ

メニューを飛ばして本文へ移動する

これまでの放送

第314回 2017年1月23日放送

平成の絵師、幻の色に挑む 彩色復元師・荒木かおり



色は心

その心を、写す

平等院鳳凰堂、二条城二の丸御殿、西本願寺御影道・・・。
世界に誇る日本の宝を未来につなげる京都の女性職人、荒木かおり(58)。経年劣化して色褪せた国宝や文化財の色彩をよみがえらせる日本屈指の彩色復元師だ。
彩色復元に臨む時、常に心に留めているのは「色は心 その心を、写す」という信念。
その言葉は、彩色復元の礎を築いた重鎮、父親の川面稜一さんから受け継いだものだ。
図面や資料もまず残っておらず、確かな正解などない彩色復元の世界。そのなかで稜一さんは、モチーフとなる花の詳細から当時の流行、食文化まで細かく調べ上げることを自分に課していた。
「色というものは、その時代の人の心が現れている」。稜一さんは、この言葉を荒木に残し亡くなった。描いた人の気持ち、描かれた時代の気持ちと向き合うことで真実の色に迫れると荒木は考えている。

写真最大の武器は、高精度な科学調査
写真法隆寺の壁画模写などを手がけた父・稜一さん


脳に染みこませる

筆運びや癖、色の混ざり具合まで、昔の職人たちが手がけた仕事を徹底して踏襲(とうしゅう)するために荒木には大切にしている日課がある。出勤前に行う草花のスケッチだ。
江戸時代の絵画や彫刻などに多く描かれる季節の草花たち。その定型を何度も繰り返して描いて脳に染みこませておくことで、作者独特の癖に反応することができるようになるという。
草花の形だけでなく復元する絵画と同時代に描かれていた作品には、くまなく目を通す。
時代の心に迫るためには脳内に膨大な引き出しがないと、復元の仕事は成り立たないと言う。

写真葉っぱの返り方や規則性に着目してスケッチする
写真1,000枚を超える二条城のふすま絵の模写に挑んでいる


右顧左眄(うこさべん)

“左右を見回す”

この秋、挑んだのは、国宝・清水寺の阿弥陀堂に納められた獅子の木造彫刻。作者は不明、文献など手がかりもない。さらに、調査のなかでかつて遭遇したことのない痕跡が見つかり、復元作業は困難を極めた。
調査が行き詰まった時に荒木が貫くのが右顧左眄“左右を見回す”という姿勢。
「右顧左眄というのはあんまりいい言葉ではないんですよ。右や左をちょろちょろ見ながら集中力がないっていうか。でも清水寺の修理をする時には清水寺近くの地主神社もみないといけない、その時代を感じるためにいろんな所でいろんなことを見ないといけない」。
行き詰まりかけた獅子の彫刻の調査もこの信念に基づいて周辺情報を集めた結果、美術史の常識を打ち破る新発見につながった。

写真3月末に阿弥陀堂に納められる獅子の彫刻
写真400年前の色を探す。
言わば“色のミステリーハンター”。


プロフェッショナルとは…画像をクリックすると動画を見ることができます。

最善を尽くす努力を惜しまず、困難なことが起きてもどこかからヒントを求めて、軽やかに乗り越えることを楽しんでいる人だと思います

彩色復元師 荒木かおり


放送されなかった流儀

文化財とは、日本人の情熱

この秋荒木が挑んでいたもうひとつのプロジェクトがあった。京都府八幡市にある八角堂の彩色復元だ。江戸時代に建造されたお堂全体の色彩を創建当初の姿に戻すという難題。職人総出で塗り作業が行われていた。
荒木は色の調査だけでなく、塗っていく過程にもとことん厳しい。塗り重ねた絵の具の厚み、色の濃淡の境目、決して人の目には確認できない所まで徹底的に原図通り行うように指示を出す。日本の宝の未来を背負う者として心に刻む独自の考えがある。

「私、昔の人には面倒くさいって言葉なかったんちゃうのって思うんです。人間の営みとしてどこまでやればいいか解答のない世界で、出来ることは全部やってみましょうみたいな、職人たちのなみなみならぬ情熱っていうのが伝わってくる。だから本気には本気で応えないといけない」

写真厳しい体勢で一日中作業する職人たち
写真「昔の日本人の美意識を今の人に伝えたい」